2015-12-31

資本主義の原動力

# グローバル化の最大の障壁は、グローバル人材の不足ではなく、経営人材の不足との指摘。商社に限らず、資本主義の原動力は未来に賭ける企業家精神。
--楠木建「商社3.0なんてものはない」
https://newspicks.com/news/1323455/

ツイッターより転載。誤字等は修正。

2015-12-30

移転より廃止を

# 移転より前に、廃止を考えてはどうでしょうか。
--文化庁の京都移転有力に=「一部機能」軸に検討−政府
https://newspicks.com/news/1323174/

# 日本語がおかしいですね。まるで小規模なものは営利目的ではないみたい。
--民泊を段階的解禁へ=小規模は来年、営利は18年までに−政府
https://newspicks.com/news/1323102/

# 安定を得るためには、不安定を覚悟しなければいけないということ。
--【山崎元】安定した収入を得られる人材価値を身に付けよう
https://newspicks.com/news/1322413/

ツイッターより転載。誤字等は修正。

2015-12-29

規制とマナー

# 非喫煙者ですが、喫煙規制には反対です。喫煙は他の多くの事柄と同じく、マナーの問題です。政府が関与すべきではありません。お上に何でも決めてもらう根性は、もう捨てましょう。
--受動喫煙防止、法制化へ=罰則規定は先送り
https://newspicks.com/news/1321832/

# 過去の戦争で女性の尊厳を傷つけたことが反省すべき行為ならば、現在の戦争で女性の生命を奪うことはそれ以上に許されないはずです。日本政府がさらに一方踏み出し、中東での空爆に反対を表明することを期待します。
--日韓外相会談 慰安婦問題で合意
https://newspicks.com/news/1320456/

# 加入逃れはけしからんと雇い主に保険料を支払わせれば、コスト高のため雇われない人が増えるでしょう。法律守って幸せ守れず。
--厚生年金の加入漏れ、全国に200万人 厚労省推計
https://newspicks.com/news/1321074/

ツイッターより転載。誤字等は修正。

2015-12-28

日銀が国債を買うから大丈夫?

# 長い記事ですが、ようするに日銀がお金を刷って国債を買うから大丈夫、といういつもの話。インフレにならなければ悪いことなはい、と。しかしバブル崩壊前夜の80年代も、物価は上がらなかったのです。
--「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!
https://newspicks.com/news/1319594/

# 政治的正しさ(PC)はいらない。マナーというものがあるから。政府から強制してもらう必要もない。親というものがいるから。ミーゼス研究所のジェフ・デイスト。
--PC Is About Control, Not Etiquette
https://mises.org/library/pc-about-control-not-etiquette-0

# かつて教会は、複雑な生物は全能の神がデザインしたと信じた。今の政府は、複雑な社会は賢明な自分たちがデザインしなければならないと信じている。進化生物学者マット・リドレーの新著をジョージ・ウィルがレビュー。
--The foolish ‘theism’ of government enthusiasts
https://www.washingtonpost.com/opinions/the-foolish-theism-of-government-enthusiasts/2015/12/25/5c623b4c-aa64-11e5-bff5-905b92f5f94b_story.html

# マイナンバーは怖くない、便利だって人だけ使えばいいんじゃないですか。なんでそう思わない人まで巻き込むのでしょう。
--「マイナンバー」って何のために始まるの? 担当補佐官の楠正憲氏にメリットを聞いてみた
https://newspicks.com/news/1320417/

# 五輪やるためにカネが必要。終わった後の反動を避けるためにカネが必要。結局いつもカネが必要。
--東京五輪、実質成長率毎年0.2─0.3%押し上げ=日銀リポート
https://newspicks.com/news/1320182/

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2015-12-27

差別禁止が招くもの

# 国内に研究開発拠点があればGDPを押し上げ。ただし経済の実体には何も変化なし。GDPって、しょせんその程度のものです。
--来年のGDP、15兆円アップ?…計算方法見直しにつき
https://newspicks.com/news/1318714/

# 差別の禁止を法律で強制すれば、不当な優遇だという不満や恨みが多数者の間に強まり、目に見えない陰湿な差別がむしろ広がるでしょう。政治家はいつも近視眼的です。
--性的少数者の差別禁止で法案=民主、与党と共同提出目指す
https://newspicks.com/news/1318701/

# 財政が少し苦しくなるだけでこういう事態を招くような制度設計しかできない政府に、消費増税で財源を増やしてやったからといって、有効に使われるとは思えません。
--介護事業者の倒産 過去最多に
https://newspicks.com/news/1318968/

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2015-12-26

高橋源一郎・SEALDs『民主主義ってなんだ?』


矛盾を直視する勇気を


「民主主義ってなんだ?」。これは共著者の学生団体SEALDs(シールズ)が安全保障関連法に反対して国会前で抗議した際、ラップに乗せて繰り返したことで有名になった問いかけであり、本書の題名でもある。しかし本書には最後まで、この問いに対する答えはない。それはこの学生たちの意義ある運動の将来に、暗い影を落としかねない。

民主主義の定義は、本来シンプルである。オックスフォード英英辞典によれば、民主主義(democracy)とは "a system of government in which all the people of a country can vote to elect their representatives"(全国民が投票で代表を選ぶことのできる政体)。他の英英辞典もほとんど同じだ。政府の一形態にすぎないとあっさり述べている。

一方、日本語の辞書では少し違う。デイリーコンサイス国語辞典によると、民主主義とはまず、「主権は国民にあるという思想。デモクラシー」である。政府の形態ではなく、思想とされている。しかし、これは別にいい。問題は、その後にこう付け加えられていることである。「自由・平等を尊重する思想」

大辞林でも、「人民が権力を所有し行使するという政治原理」という説明の後に、「現代では、人間の自由や平等を尊重する立場をも示す」と記されている。

つまり、民主主義とは自由や平等という価値も含む思想とされている。しかし、それはおかしい。平等はともかく、自由と民主主義は、水と油のように相容れないものだからである。

民主主義とは、英英辞典の定義によれば、権力を行使する政府の決め方だし、国語辞典の定義(の前半)によれば、権力(主権)は国民にあるという考えである。一方、自由とは、個人の権利が権力の干渉・介入を受けないことである。言い換えれば、民主主義とは権力を正当化する制度ないし思想であるのに対し、自由とは権力そのものを排除する思想に基づく。どうみても両立は難しい。

ところがSEALDsという団体名は、Students Emergency Action for Liberal Democracy - s(自由と民主主義のための学生緊急行動)の略だという。両立しない自由と民主主義を同時に掲げてしまっている。同じく党名で自由と民主主義をうたう自民党よりも、自分たちのほうがそれらの真の意味を知っているという気概を込めたらしい。しかしもしそうなら、このような矛盾した名前は付けるべきではない。

彼らも矛盾にうすうす気づいてはいる。中心メンバーの奥田愛基は「極端なこというと、八割の国民が『人殺しOKにしましょう』とか言ってもダメなものはダメなわけですよね」と発言する。そのとおりだ。民主主義の手続きをどれだけきちんと踏もうと、「ダメなものはダメ」である。

それでは、ダメと判断する基準は何なのか。残念ながら、奥田はそれ以上踏み込まない。「まあ、できるだけ民主的で、できるだけ自由で平等な社会が良いので、できることをやるしかない」とお茶を濁してしまう。そればかりか、「〔フランス革命で恐怖政治を断行した〕ロベスピエールみたいに殺しにいっちゃうかもしれない〔略〕でもまだまだ使える可能性があるっていうか」と、民主主義の危険性を認識していながら、それを無責任に擁護する。

議論をリードする役目の高橋源一郎も「二千五百年前から最近まで、まともな思想家はたいてい民主主義を否定していた」と重要な指摘をしながら、「結局、民主主義が最強最良じゃないか」とたいした根拠も示さず話をまとめてしまう。

高橋は初めのほうで、「大切なのは、言葉を定義しておくということ」と強調し、民主主義を運動のテーマとするSEALDsのメンバーに対し「民主主義についての定義を大事にしてほしいし、ある程度準備しておく必要がある」ともっともな呼びかけをする。しかし最後まで、メンバーの口から民主主義の定義が聞かれることはない。

あとがきでメンバーたちは、民主主義の定義は難しいという意味のことを述べる。「簡単には言葉にならないもの」(牛田悦正)、「容易に言語化できるものではない」(芝田万奈)といった調子である。

民主主義を団体名に掲げていながら困ったものだという気もするが、無理もない。専門家の作った国語辞典でさえ、民主主義が自由と両立可能という、矛盾した定義をしているのだから。英英辞典の記述は明確だが、欧米でも民主主義と自由の関係は必ずしもよく理解されていない。若いメンバーたちが民主主義の定義に悩み、ためらうのは、むしろ彼らの知的誠実の表れと考えよう。

しかし、もし本気でこの社会を変えたいのであれば、民主主義の定義という宿題をいつまでも先延ばししてはいけない。社会を変えるのは結局のところ思想の力であり、思想が力を持つためには論理的に筋が通っていなければならないからだ。

民主主義とは権力の肯定である。しかし、戦争にしろ貧困にしろ、社会のさまざまな問題は、権力で解決することは決してできない。権力の干渉を受けない、多数の個人の自発的な協力だけがそれを可能にする。民主主義を定義することで自由との矛盾を直視し、後者を選ぶ勇気を持たないかぎり、社会を良い方向に変えることはできない。

民主主義の問題点にも一応触れてあるので、本の評価は、期待を込めて高めにする。

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サンタはグローバルビジネス

# サンタクロース事業は広大なソーシャルネットワークと強力なブランドを築いたグローバルビジネス。商品の配送は親たちにほとんどゼロコストでアウトソーシング。お金儲けに人一倍うるさい投資家スクルージが絶賛……という楽しいコラム。FT紙より。
--'Dear Santa' - An Activist Hedge Fund Manager Addresses St. Nick's "One Long Party"
http://www.zerohedge.com/news/2015-12-25/dear-santa-activist-hedge-fund-manager-addresses-st-nicks-one-long-party

# お金儲けに人一倍うるさい投資家スクルージとは、この人。
--自由主義通信: ディケンズ『クリスマス・キャロル』
http://libertypressjp.blogspot.jp/2015/12/blog-post_13.html

# 米金融システムを脅かす巨額の債券発行残高。2008年の80兆ドルから現在100兆ドル。これをもとにしたデリバティブは555兆ドル。
--During the Next Crisis, Central Banking Itself Will Fail
http://www.zerohedge.com/news/2015-12-24/during-next-crisis-central-banking-itself-will-fail

# 今ごろ気づいたの?「論理的には、量的緩和とはもっぱら企業およびその株主である富裕層に対する補助金であるという結論に至る」
--量的緩和は「期待外れ」に終わるのか
http://jp.reuters.com/article/column-qe-idJPKBN0U80BE20151225

# 戦後、米国人の労働時間は減り、余暇が増大。社会主義者の大統領候補サンダース氏の長時間労働批判は的外れ。資本主義は労働者を助ける。
--Good News, Bernie Sanders: Average Workweeks Are Getting Shorter
http://fee.org/anythingpeaceful/good-news-bernie-sanders-average-workweeks-are-getting-shorter/

# 持ち帰りの客の気が変わり、店内で食べても税軽減。気が変わったという客で満席になり、正直に「店内で食べます」といった客は座れない事態も。税がまねくドタバタ。
--軽減税率、ギャグみたいなトンデモないトラブル多発!
http://biz-journal.jp/2015/12/post_12997.html

# 塩、固めた茶葉、動物の革、巨石、チーズ……世界の不思議なお金たち。でも一番不思議なのは、何の裏付けもない紙切れ。
--The World's Strangest Currencies
http://www.zerohedge.com/news/2015-12-23/worlds-strangest-currencies

# 金投資へのよくある批判。「金は利息が付かない」。でもお札だって貸し出さずにタンスにしまっていたら利息は付きません。一方、金も貸し出せば利息に当たる寄託料がもらえます。
--Why 'The Regime' Hates Gold
http://www.zerohedge.com/news/2015-12-24/why-regime-hates-gold

# 「金を資産防衞の選擇肢から排除するのは愚かなことである」拙稿より。
--金保有批判の愚 - ラディカルな経済学(旧館)
http://d.hatena.ne.jp/KnightLiberty/20130420/p1

# 米ケンタッキー州のベビン新知事、最低賃金引き下げの快挙。「賃金率は政府が決めるのでなく労働市場の需要で決まるべきだ」「最低賃金は雇用創出を妨げる。とくに未熟な労働者が初心者向けの仕事を探すのに不利」
--Kentucky Lowers The Minimum Wage
http://www.economicpolicyjournal.com/2015/12/kentucky-governor-state-should-have-no.html

# 重税を嫌って日本を去る企業は許せないと怒る人たちは、社会主義が嫌で逃げる市民は許せないと怒る独裁者とあまり変わりません。
--ソフトバンク、英移転を一時検討 節税・投資にメリット
https://newspicks.com/news/1317985/

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2015-12-19

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』


資本主義は死なない


資本主義の死期が近づいている――。これが本書の根幹をなす主張である。果たして、資本主義は本当に死ぬのだろうか。

著者は、資本主義を「『周辺』つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって『中心』が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステム」(「はじめに」)と定義する。しかし、この定義はマルクス主義の影響を強く受けている。内容もあいまいでわかりにくい。

もっと一般的な定義をみてみよう。コウビルド英英辞典では、資本主義(capitalism)を次のように定義する。"Capitalism is an economic and political system in which property, business, and industry are owned by individuals and not by the state." すなわち、「財産・企業・産業が政府ではなく、個人によって所有される経済・政治制度」である。イデオロギー臭がなく、明瞭だ。これら二つの定義を念頭に、著者の主張を検証してみよう。

著者によれば、資本主義の死が近づいているのは、もはや地球上のどこにもフロンティア(開拓領域)が残されていないからである。たしかに、著者の定義のように、資本主義がフロンティアを広げることによってしか存続できないとすれば、フロンティアの消失(それが事実かどうかは別として)は、資本主義の消滅につながるだろう。

だが、より一般的な定義に従えば、フロンティアが消失したからといって、資本主義が死ぬことはない。フロンティアの有無にかかわらず、財産・企業・産業が個人によって所有(私有)されている限り、それは資本主義だからである。

著者は、資本主義の死の兆候として、主要国で金利がゼロ近くに低下している事実を挙げる。経済の仕組み上、金利は利潤率とほぼ同じだから、これは利潤を得られる投資機会がもはやなくなったことを意味するという(第一章)。

しかし、この主張はいくつかの点でおかしい。まず、利回りがどんなに低水準でも、ゼロより大きい限り、利潤は増える。名目上の伸びはわずかかもしれないが、デフレで物価が下がれば実質価値は大きくなる。つまり投資機会はなくならない。

次に、利潤が平均すればわずかなものだとしても、個々には黒字の企業と赤字の企業がある。赤字続きの企業は淘汰されるだろうが、消費者の支持を集めた企業は、これまでと変わらず高い利益成長を遂げるだろう。

そして、一番重要なことだが、そもそも昨今の低金利は、資本主義を特徴づける自由な市場取引ではなく、政府・中央銀行の人為的な金融緩和政策がもたらしたものである。著者は文中で金融緩和政策に触れているにもかかわらず、低金利をあたかも自然な経済現象のように述べるのは、理解に苦しむ。

著者はまた、1980年代半ばから米国で金融業への利益集中が進んだのは、資本主義が原因だという。しかしこれも、米国の中央銀行である連邦準備銀行がマネーをあふれさせて人為的な株式ブームを起こし、金融機関を潤したことによる。

著者は、「むきだしの資本主義」は巨大なバブルの生成と崩壊をもたらすと述べる(第五章)。しかし上述のように、バブルを起こすのは自由な取引ではない。景気対策やバラマキ政策のためにマネーを氾濫させる政府・中央銀行である。

ようするに、本書で資本主義の問題点として列挙されたさまざまな経済現象は、政府がその元凶なのである。それに気づかない著者は、対応策として「少なくともG20が連帯して、巨大企業に対抗する必要があります」などと、さらなる政府の介入を主張する。

もし著者の提案どおり、各国政府がこれまで以上に経済への介入を強め、財産・企業・産業の所有権を個人から奪い続ければ、たしかに資本主義ではなくなっていく。ただし、それは著者の主張とは違い、歴史的な必然ではなく、政府権力の意図によってそうなるのである。

しかしそれでも、資本主義は死なないと断言できる。資本主義によって生み出される富がなければ、社会は貧窮化し、政府自身も存続できないからである。旧ソ連・東欧における社会主義の崩壊はそれを証明したし、日米欧におけるケインズ流の政府介入もバブルと重税で経済を疲弊させ、同様の道筋をたどりつつある。

本書には、公共事業やリフレ政策に対する批判など正しい指摘もある。しかし、資本主義が死ぬ運命にあるという根本の主張は、誤りである。

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2015-12-13

ディケンズ『クリスマス・キャロル』


守銭奴は悪くない


クリスマスの季節が近づくと、この小説が映画化・舞台化されるなどして、よく話題になる。残念なのは、主人公の商人スクルージが社会にとって迷惑でしかない、カネの亡者として描かれていることである。たしかにスクルージはカネの亡者かもしれないが、見えない形で、社会に恩恵をもたらしている。

まず、スクルージが長年商売を続けられているということは、多くの取引相手を満足させていることを意味する。取引相手はスクルージの性格を嫌っているかもしれないが、それでも取引を続けるのは、商売相手として信頼できるからである。スクルージは取引相手を満足させることで、間接的に取引相手の顧客も満足させ、社会全体の満足向上に貢献している。

また、スクルージは稼いだカネを貯め込んでいることから、守銭奴と非難されるが、カネを貯め込む人は社会に貢献している。銀行に預け、あるいは株式や社債を買えば、カネは企業の投資に使われ、生産力を高め、社会を物質的に豊かにする。

もし金融機関を信用せず、稼いだカネをすべてタンス預金にしたらどうだろう。この場合も社会に貢献する。世間に出回るカネの量が減り、物価が安くなるからである。

今の世の中では、物価が下がること(デフレ)は悪いことで、物価安をありがたがるのは無知の証拠だという迷信が広められている。しかし実際には、物価安は個人にとっても社会全体にとっても、良いことである。

そしてスクルージは、なんといっても、争いを好まない平和的な人物である。暴力は振るわないし、他人の物を奪うこともない。頭にきて「死ねばいい」と口走ってしまうことはあっても、行動に移しはしない。死者から物を奪い手柄を誇る盗人には、怒りを燃やす正義感もある。

社会に平和的な人物が一人でも増えれば、社会はそれだけ平和になる。スクルージはその意味でも、社会に貢献している。

社会をより平和にするために、スクルージにあえて一つ注文をつければ、自分の価値観を他人に押しつけないよう気をつけてほしい。クリスマスのお祝いをいう甥に向かって、スクルージは「めでたい理由がどこにある? 年が年中、素寒貧のくせにして」と毒づく。しかしカネがなければめでたくないというのは、スクルージの価値観にすぎない。甥が反論するとおり、カネがなくても幸せという価値観もありうるし、あっていい。

しかしこれも、スクルージだけを責めるのは酷だろう。スクルージの周囲の人々も、クリスマスは祝わなくてはならない、という自分たちの価値観をスクルージに押しつけているからである。「価値観の多様化」は平等でなければならない。

おそらく作者ディケンズの意図とは裏腹に、この小説を読んでいくと、スクルージが悪い人間ではないことがわかる。訳者があとがきで「人が何と言おうと誹ろうと、スクルージは断じて悪人ではない」と書いているとおりである。

しかしそれは、ディケンズが正直で優れた作家だったあかしでもあるだろう。商人というものの姿を、不自然なウソを交えず活き活きと描いた結果、それは暴力を振るわず、略奪もせず、争いを好まない人物にしかならなかったのである。政治家ではこうはなるまい。

スクルージに対する誤解を解いたうえで、平和を祈るクリスマスにふさわしい作品として読み継がれていってほしい。

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2015-12-05

佐伯啓思『自由とは何か』



混乱と迷走の果てに


かつてリベラリズムとは字義どおり、個人の生活に対する政府の介入を拒否し、小さな政府を求める自由主義(古典的自由主義、リバタリアニズム)を意味した。ところが現在この言葉は、政府の介入と大きな政府を求める、まったく逆の考え(社会民主主義)にほとんど乗っ取られようとしている。

相反する概念に同じ言葉を用いるのは、どう考えても無理である。このことに無自覚な議論は必ず混乱し、迷走する。本書はその典型といえる。

混乱が端的に表れているのは、第五章である。著者はリベラリズムを四つのタイプ(市場中心主義、能力主義、福祉主義、是正主義)に分ける。このうち市場中心主義は、政府の介入を最も強く拒否する立場であり、古典的自由主義、リバタリアニズムを意味する。

著者はハイエクに基づき、市場中心主義の特徴とは、市場が「運という偶然性によって左右されることを認めた」ところにあると述べる。この指摘は正しい。

ところが著者はしばらく後で、リベラリズムは「個人の属性から偶然性を排除することが自由につながる」と主張すると書く。これは前に述べたことと明らかに矛盾する。一方でリベラリズムの一種である市場中心主義は偶然を認めると述べ、他方でリベラリズムは偶然を排除すると書いているのだから。

人生から偶然を排除するという考えは、生まれや育ちによる不平等を政府の介入によってなくそうとする現代流のリベラリズム(社会民主主義)には当てはまっても、古典的自由主義、リバタリアニズムには当てはまらない。それは著者自身がハイエクに基づき書いたとおりである。

しかし著者はいつの間にかハイエクの議論を忘れ、リベラリズムをひとからげにして、偶然性を排除する浅はかな考えだと批判する。そして「ある種の偶然性を引き受けることこそが自由につながる」のだと得々と述べる。しかし、繰り返しになるが、それはリベラリズムの一種である市場中心主義(古典的自由主義、リバタリアニズム)も述べていることではないか。

この章は、リベラリズムを主題とする本書の理論的な中核ともいえる。そこで明らかな矛盾に基づく議論を展開するとは、お粗末としか言いようがない。

本書は古典的自由主義、リバタリアニズムに関する知識不足も目立つ。たとえば著者は第一章で、米国がイラクに自由をもたらすという名目でイラク戦争に踏み切ったことについて、「自由を、強制されずに自らの意思で何事かをなす状態と理解しておけば、アメリカによって強制された自由とはいったい何であろうか」と批判する。そしてこれは自由のディレンマ(矛盾)だと強調する。

たしかに、自由を強制するのは矛盾である。しかしリバタリアニズムの論客として有名なロン・ポール元下院議員は、一貫してイラク戦争をはじめとする米政府の海外軍事介入を批判している。19世紀英国の政治家で自由貿易論者として名高い古典的自由主義者リチャード・コブデンも、自国の海外軍事介入に反対したことで知られる。ここでも著者は、自分の議論に都合の悪い古典的自由主義、リバタリアニズムを無視している。

さて著者によれば、自由とは何かを達成するための手段にすぎないのに、リベラリズムはそれを目的と化してしまった。これはニヒリズム(虚無主義。客観的な価値をいっさい認めず、あらゆる宗教的・道徳的・政治的権威を否定する立場)にほかならないという(第六章)。

これも古典的自由主義、リバタリアニズムに関しては誤りである。古典的自由主義、リバタリアニズムには、正当な理由なく他人の生命・身体・財産を侵害してはならないという明確な道徳基準(非侵害公理)がある。

皮肉なことに、ニヒリズムに陥っているのは著者自身である。保守主義者の著者は、明確な道徳基準を持ち合わせていないからである。

著者が道徳基準の代用品として頼るのは、「共同の善」である。しかしこの「共同の善」とやらは、人間一般に普遍的な善ではない。特定の共同体、特定の国家における「善」にすぎない。

これが明確な道徳基準になりえないことは明らかである。ある共同体・国家の内部に「共同の善」なるものがかりにあったとして、それが他の共同体・国家における「共同の善」と対立した場合、どちらが正しいかを判断する基準は存在しないからである。

そのことは著者自身こう認める。「イスラム過激派のテロリズムを本当の意味で断罪することはできない。……オウム真理教についても同じである。それが絶対的に『誤っている』と言うことは難しい」

驚くべき発言である。罪もない人々を殺傷するテロリズムを誤りといえないとは、これ以上のニヒリズムがあるだろうか。

挙句の果てに著者は、ハイデガーを引き合いに出し、「人間は死に向かって自由である。死こそが人間の自由の根本条件である」などと言い出す。ついていけない。死を根本条件とする自由とは、もはや普通の意味における自由とはいえない。

そう思っていると著者自身、「こうなると、本書の議論は通常いうところの『自由』からは大きく離れてしまっているのではなかろうか。確かにそうだ」と認める。これには思わず苦笑した。自由について学びたいと思って本書を手に取った読者は、困惑するばかりだろう。

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