2017年5月28日日曜日

戦争は道徳的行為か

政治と道徳を峻別できない政治家や言論人は、戦争は崇高で道徳的な行為であると主張する。しかし人間の行為が道徳的であるためには、それが自由意志に基づくものでなければならない。戦争が政治権力によって強制されたものである以上、それを道徳的と呼ぶことはできない。

ドイツ出身の作家レマルクは、戦争を道徳の名で飾り立てる嘘を憎んだ。今年が開戦百周年にあたる第一次世界大戦への出征経験に基づく小説『西部戦線異状なし』(秦豊吉訳、新潮文庫)で、そうした欺瞞を糾弾している。

主人公ボイメルを含む学生たちに出征を志願させたのは、カントレックという教師である。この教師は体操の時間に学生らに長々と講演を聴かせた後、クラスを引率して徴兵区司令官の下へ連れて行き、「君達もいっしょに出るだろうな」と促す。ベームという肥った学生だけは出る意志がないと躊躇するが、しまいには口説き落とされる。

「なにもこの男ばかりではない、もっと多くの男がベームと同じ考えだったろうが、誰も思いきって、自分だけ除け者になることはできなかった」とボイメルは振り返る。皮肉なことに、ベームは仲間のなかで最初に戦死する。

それでも初めは若い兵士たちも、戦争の大義を説く大人たちの言葉を信用していた。けれども「最初の激烈な砲火をくぐると、たちまち僕らはいかに誤っているかに気がついた」とボイメルは語る。「その砲火の下に、僕らの教えてもらった世界観は、見事に崩れてしまったのである」。若い兵士らは戦場に踏みとどまるが、安全地帯で戦争の正義を説く口舌の徒への不信感は拭いがたいものとなる。

たとえばある兵士がボイメルに問いかける。「おれたちはここにこうしているだろう、おれたちの国を護ろうってんで。ところがあっちじゃあ、またフランス人が、自分たちの国を護ろうってやってるんだ。一たいどっちが正しいんだ」。ボイメルが「どっちもだろう」と答えると、兵士は反問する。「だがドイツの豪え学者だの坊さんだの新聞だのの言ってるところじゃ、おれたちばかりが正しいんだっていうじゃねえか。〔略〕だがフランスの豪え学者だの牧師だの新聞なんかだって、やっぱり自分たちばっかりが正しいんだって、頑張ってるだろう。さあそこはどうしてくれる」

真の自衛であれば、人々は政府から強制されるまでもなく、戦おうとするだろう。しかし何のためだかわからない戦争にためらわず参加しようとする者はいない。政治家や言論人が戦争は道徳的な行為であると声高に叫ぶのは、そのようなときである。史上初の世界大戦から一世紀を経た今も、この欺瞞はなくなる気配がない。

(2014年7月、某ミニコミ誌に寄稿)

2017年5月27日土曜日

意図とは逆の結果

意図とは逆の結果
アフガン、イラク、シリアなどでの壮絶な軍事行動は、意図とは逆の結果をもたらしている。「テロとの戦い」の目的が欧米でテロをなくすことだったとすれば、完全な失敗とみなさなければならない。英仏独など欧州全域でテロは拡大している。
The ‘War On Terrorism’ Isn’t Working

欧州支配の機構

米国以外の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、本当は同盟国ではない。衛星国だ。米国の関与がなければNATOは成立しない。トランプ氏は大統領選中、NATOは時代遅れで、米国の安全保障に寄与していないとはっきり述べていた。それは真実だ。
'NATO, an American-made mechanism for geopolitical control of Europe'

軍事行動のコスト

トランプ米大統領は、化学兵器の使用に「何かしたい」と考え、シリアの空軍基地に巡航ミサイルを59発打ち込んだ(費用は8900万ドル)。空爆はせいぜい象徴的な意味しかなかったが、確かなことが一つ。軍事行動のコストは膨大だ。
The American Way of War Is a Budget-Breaker

わかるのは自分だけ
ある人には家を買うことが正しい選択かもしれないし、他の人には買わないことが正しいかもしれない。しかし何が最善の選択かを決めることができるのは個人だけだ。他人の思考に侵入できない限り、最善の行動を確かめることはできない。
Buying Avocado Toast Is More Prudent than Buying a House

消費者に仕える
アマゾンは「消費者主権」を完璧に体現している。これは企業が大きな利益をあげるには、消費者に最良の製品を、一番安い値段で、最善のサービスで提供しなければならないということだ。つまり消費者を市場の王様として扱うということだ。
The Secret to Amazon's Phenomenal Success

*海外記事の抜粋・要約です。

2017年5月26日金曜日

ビットコインを選んだ理由

軍事介入が壊したリビア
誰がリビアをテロリストの拠点や訓練場に変えたのか。「アラブの春」の最中、NATOによるリビアの「解放」をメディアはほめそやしたが、今や破綻国家だ。軍事介入で一番得をしたのは、リビアで勢力を増した「イスラム国」やアルカイダだ。
The Manchester-Libya Connection and the Question That Needs to Be Asked

(一部の)テロとの戦い

トランプ米大統領が戦いたいと言うイスラムのテロとは、米国の同盟国や関係者、企業を脅かすテロのことだ。サウジアラビアが国家ぐるみで支援するテロではないし、サウジがイエメンで実行するテロ作戦でもない。
Trump talks tough on extremism in Middle East - but it's guns, oil, and money that matter

ビットコインを選んだ理由
なぜ大規模サイバー攻撃を行ったハッカーは、身代金をビットコインで払うよう求めたのか。国家間での外為レートがない。第三者に取引を邪魔されない。利用や送金に上限がない。他の通貨はどれも政府に追跡され、操作され、制限されている。
Government Has Done Nothing Good for Bitcoin

競争は正々堂々と
米ジョージア州は官民癒着に対し断固とした姿勢を示し、政府の資金でタクシー会社を救済することを拒否し、ライドシェア(相乗り)企業の参入の権利を支持した。タクシー業界はサービスでなく政治力でライドシェア企業に勝とうとしていた。
Sorry Crony Cabs, You Have To Compete Just Like Everyone Else

*海外記事の抜粋・要約です。

2017年5月25日木曜日

軍事介入政策の帰結

軍事介入政策の帰結
欧米は中東で他国民を攻撃し、血生臭い混乱を起こしている。自業自得の事態(blowback)を招いてもおかしくない。欧米は自分の外交政策についてよく考えなければならない。シリア、リビア、イラク、アフガニスタンなどの争乱になぜ関わる必要があるのか。
Manchester Arena attack: ‘We caused bloody chaos, not surprising there’s blowback’

警察国家への道
マンチェスターでの自爆攻撃(Manchester attack)後、英国がしそうな反応は他の欧州諸国同様、警察権力、監視、反移民政策、中東での軍事攻撃の強化だ。軍事攻撃の対象は本来「イスラム国」(IS)のはずだが、実際はISと戦うシリアなどの軍隊を狙うだろう。
‘Likely response for Manchester attack – more aggression in Mideast, anti-immigrant policies’

ベネズエラの教訓
若者はひどく理想主義的で、社会主義の甘いささやき(siren call)にとらわれやすい。米国の不完全な市場経済と民主主義を見て、ベネズエラのような社会主義国はより良い生活を送らせてくれると思い込む。しかしそれは誤りだとベネズエラの人々は気づいた。
What Venezuela Can Teach Young Socialists

ラスベガスの仮想通貨
ビットコインの発行上限は2100万枚弱で、ラスベガスの社交クラブ「レジェンド・ルーム」は自社で発行する仮想通貨「LGD」の上限を3000枚とする。イエレン(Janet Yellen)米FRB議長やドラギECB総裁にはできない金融引き締めだ。
Hayek and Satoshi Meet in Vegas

教員免許はいらない

米アリゾナ州のデュセイ知事(Doug Ducey)は最近、伝統的な学校で教えたことのない個人でも、最低5年の実務経験があれば、公立学校で雇えるとする法律を承認した。すでに認めている数学や理科だけでなく、全科目について経験豊かな人が教師となれる。
Licensing Is Preventing the Best Teachers from Teaching

*海外記事の抜粋・要約です。

2017年5月24日水曜日

自由の戦士とテロリスト

自由の戦士とテロリスト
シリアで虐殺が起こると加害者は自由の戦士とされる。マンチェスター、パリ、ブリュッセル(Manchester or Paris or Brussels)だとテロリストだ。テロの脅威と戦うイラン、ロシア、シリアは悪者にされ、脅威を増幅するサウジ、カタール、クウェート、トルコは持ち上げられる。
Manchester Terrorist Atrocity - Enough Is Enough

よりによってあの国で

中東のテロの多くに影響を及ぼしたワッハーブ派(Wahhabi Islam)誕生の地サウジで、トランプ大統領が過激派やテロとの戦いを話すとは皮肉だ。大統領はイランがテロを支援していると非難したが、イランは「イスラム国」と戦う中東の少数の国の一つである。
'Trump talks about fighting extremism from birthplace of Wahhabism'

政治的都合

トランプ米大統領が真剣なら、演説で「イスラム国」に最も抵抗している両国に言及しただろう。イラク(government of Iraq)とシリアだ。しかし何も言わなかった。イランを最大のテロ支援国として描こうとしたが、その実例を何もあげなかった。
‘Arab NATO’ reserve force to fight terrorism is ‘myth & propaganda’

合法的というだけ
暴力をちらつかせて税金を払えという政府の職員(state agents)と、600ドルの身代金を求めるハッカーの間に道徳的な違いはない。それどころかほとんどの身代金ウイルスは、毎年の税金よりはるかに小さな額しか払わなくてよい。
Hackers Have Better Customer Service Than Governments

少子化の本当の原因
19世紀後半まで、子供は生産的なので価値があった。仕事をし、技能を身につけ、家族や事業のために働いた。子供は資産(assets)だった。しかし何かの価値を強制的に減らせば、人はそれを作らなくなる。これが〔政府が子供を「保護」するため労働を禁じた〕20世紀に子供に起こったことだ。
Birth Rates are at Historic Lows and Here's a Major Reason

*海外記事の抜粋・要約です。

2017年5月23日火曜日

イランは悪魔か?

イランは悪魔か?
イランは民主的である。ネオコンには残念だろうが、米欧の敵と言われても実際には多元主義と政治的自決を強く擁護している。その統治体制(法学者の統治)がどう思われようと、制裁とデマ情報の中で民主主義を築いてきたことは事実である。
Iran voted Rouhani again – now what? The $350-billion question for Trump

危険なイデオロギー
9/11のハイジャック犯だけでなく、「イスラム国」兵士やイラク、シリア、イエメンなどでの外国人自爆テロ犯の大半がサウジアラビア出身である。サウジのイデオロギーは、「イスラム国」やアルカイダ、他の同様の集団を作り出す。
America’s cash cow: ‘Trump does not value the Saudis, only their money’

ロシア報道の無知

聖ワシリイ大聖堂の絵でクレムリンを示す米タイム誌の誤りは、ワシントン記念塔やスミソニアン博物館のイメージでホワイトハウスを暗示するのに似ている。こうした無能、惰性、無知は米欧のロシア報道ではあまりにありふれている。
Sorry, Time, but Putin doesn’t work in a cathedral

「国体護持」が和平のカギ
北朝鮮政権はますます緊張を強めている。彼らが恐れるのは、体制変革を狙った米国主導の国際的な陰謀があるのではないかということだ。体制変革は、自分たちの存在を脅かす最悪の脅威である。
'N. Korea impasse unchanged: More military posturing, sanctions to come'

特別検察官の過去

特別検察官に任命されたミュラー氏は2001年にFBIの長官になったが、2005年にかけてFBIや司法省は、クリントン財団の資金調達に関連する数多くの法律違反とみられる行為を摘発できなかった。
Past Records Cast a Shadow on US Special Counsel's Inquiry Into Trump

*海外記事の抜粋・要約です。

2017年5月22日月曜日

学校が子供を苦しめる

学校が子供を苦しめる
ある研究者によると、注意欠如・多動性障害(ADHD)と呼ばれた子供たちの行動、気分、学習は、旧来型の通学をやめると全般に改善した。アンスクーリング(unschooling)のように子供が自分の学習をコントロールできる場合、結果は特に良好だった。
Kerry McDonald, Is School Driving Kids Literally Crazy?

インサイダー取引の効用

インサイダー取引者は、私的な情報に基づいて行動し、金融資産の将来価値(future value)を価格に反映させる。相手が自発的に受け入れる価格で資産を売買する。資産の最終価値を損ないもしないし、偽って押し上げもしない。金融市場全体を傷つけもしない。
Thomas A. Firey, Insider Trading Should Be Legal

民間人登用の限界
官庁の部門の長にビジネスマンを任命し、改革を唱えるのは無駄である。企業家の素質が本来備わるのは、人格(personality)ではなく、市場社会の枠組みに占める地位である。政府機関で働く元企業家は、もはやビジネスマンではなく、官僚である。
Ludwig von Mises, Why Businessmen Fail at Government

官民癒着は儲かる

大企業は大きな政府と癒着し、救済、補助金、保護など縁故による不労収入を得ようとする。これは労働と資本の配分を歪め、生活水準を低下させる。犯罪が社会には悪くても犯罪者には良いのと同様、官民癒着(cronyism)は経済に悪くても当事者には良い。
Daniel J. Mitchell, The ROI for Cronyism is Huge

悪い貿易赤字

政府は国内外の借金先に、国家の「十分な信頼と信用(full faith and credit)」を約束できる。これは将来の税金を担保にすることを意味する。貿易収支の赤字は〔通常は悪いことではないが〕政府の無責任な借り入れと支出によって生み出される場合がある。
Richard M. Ebeling, Trade Deficits Don’t Matter – Unless Caused by Government

*海外記事の抜粋・要約です。

2017年5月21日日曜日

政府には向かない仕事

国鉄がJRに、電電公社がNTTにそれぞれ民営化され三十年近くが経とうとしている。民営化の際には左翼勢力中心に反対意見もあったが、今では誰も国営に戻そうなどと言う者はいない。サービスが格段に向上し、収支も改善したからである。逆に言えば、鉄道、通信は政府には向かない仕事だったのである。しかし政府に向きそうにない仕事は他にもある。たとえば国防である。

藤井非三四『陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人』(集英社新書)は、戦前の陸軍、海軍が国防という任務を果たすうえでいかに欠陥を抱えた組織だったかを、多くの具体例を挙げて明らかにする。

たとえば人事。平時はもちろん、戦時になっても年功序列、学校の成績を重んじ、信賞必罰がなされない。海軍で主戦力となった空母機動部隊の司令長官には、航空に暗い南雲忠一ではなく、航空育ちで積極果敢な山口多聞を起用すべきだったと今も語られる。しかし「それはまったく無理な話だ」。なぜなら「南雲は海軍兵学校三十六期、山口は四十期、四期も若い者を後任として補職することは、制度的にあり得ないし、当時はそう発想すること自体、妄想として片付けられた」からである。

たとえば組織。陸海軍の連携がとれていなかったことは有名である。陸軍の輸送船団の護衛には海軍が当たったが、どちらの指揮官が全体の指揮権を握るかあいまいで、情報の共有も不十分だった。その結果招いた「信じられないような椿事」の一つが、バタビア沖海戦での同士討ちである。味方である海軍の魚雷誤射により陸軍の輸送船団四隻が沈没し、陸軍司令官の今村均中将が海中に投げ出され三時間漂流した。「統一指揮の下に行動すれば、情報を共有することができて、錯誤が避けられる」はずだったと藤井は指摘する。

これらの欠陥には、程度の差はあれ、外国にも共通なものが少なくない。たとえば陸軍と海軍の反目は日本に限らない。

民間企業でも、硬直した人事や官僚的な組織など政府の軍隊と似た欠陥が生じる場合はある。しかし政府の軍隊と決定的に異なるのは、そのような欠陥を克服できない企業は、満足できるサービスを提供できずに顧客から見放される点である。政府の場合、どれほど低劣なサービスでも、顧客である国民から見放される気遣いはなく、殿様商売に胡座をかいていられる。

近代国家が成立する以前のヨーロッパでは、国防のかなりの部分は傭兵や私掠船といった民間武力集団によって担われた。日本の武士も古くは傭兵的性格が濃かった。国防は政府にしかできないという考えは、かつて国鉄や電電公社の民営化に反対した左翼の主張と同じく、誤った思い込みにすぎない。

(2014年6月、某ミニコミ誌に寄稿)