2017年6月25日日曜日

ユダヤ陰謀論の無責任

イデオロギーを優先し、事実を無視した言論――。慰安婦報道の誤りで叩かれている大新聞の話ではない。元外交官が保守系出版社から最近出した本のことである。

元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫は『「反日中韓」を操るのは、じつは同盟国・アメリカだった!』(ワック)で、手垢にまみれたユダヤ陰謀論を縷々述べる。持ち出される数々の「証拠」は、これまで陰謀論者によって散々繰り返されてきたものばかりである。

たとえば、ロシア革命の指導者の多くはユダヤ人であり、革命を資金支援したのも米英のユダヤ系金融機関だったと馬渕はいう。しかしロシアのユダヤ人の多くは共産主義者ではなく、穏健な立憲君主制支持者だったし、共産主義を支持するユダヤ人も、その多数はレーニン率いるボルシェヴィキ側ではなく、対立するメンシェヴィキ側だったので、ソ連政権下では生き残れなかった。

資金については、歴史学者アントニー・サットンが1974年の著書で、モルガン、ロックフェラーといった米国のアングロサクソン系金融財閥が支援していたことを公式文書にもとづいて明らかにし、ユダヤ人陰謀説を否定している。

また馬渕は、米国の中央銀行である連邦準備銀行について、連邦政府の機関ではなく100%の民間銀行だと述べる。たしかに各地の地区連銀はその株式を地元の民間銀行が保有し、形式上は民間銀行といえる。しかしその業務は政府によって厳しく規制されているし、利益の大半は国庫に納めなければならない。地区連銀を統括する連邦準備理事会になると、完全な政府機関である。

馬渕はニューヨーク連銀の株主一覧なるものを掲げ、主要な株主は欧州の金融財閥ロスチャイルド系の銀行だと解説する。そこにはたとえば「ロスチャイルド銀行(ベルリン)」が挙げられているが、ベルリンには昔も今も、ロスチャイルドの銀行は存在しない。ドイツではフランクフルトにあったが、それも米連銀が発足する以前の1901年に廃業している。

前防大教授でもある馬渕はこうした嘘を並べ立てたあげく、ユダヤ人の目的はグローバリズムによって人類を無国籍化することであり、日本はナショナリズムによってこれに対抗せよと主張する。規制や関税に守られ、消費者を犠牲にして不当な利益を得てきた事業者やその代弁者である政治家・官僚にとってまことに都合のよいイデオロギーである。

約二十年前、オウム真理教が国家転覆を企てたのは、ユダヤ陰謀論を信じ、その脅威に対抗するためだった。無責任な陰謀論は、新聞の誤報に劣らず、害悪を及ぼすのである。

(2014年12月、某ミニコミ紙に寄稿)

2017年6月24日土曜日

欧米が生んだイスラム過激派

現在世界を破壊するイスラム過激主義は、欧米の過去の外交政策が生んだものである。「イスラム国」、アルカイダなどサラフィー主義の武装集団の台頭や多くの国における攻撃の理由を理解するには、歴史の記憶を呼び覚まさなければならない。

リベラルを含む言論人の多くによれば、現在の中東は宗教上の過激主義がはびこった西洋の暗黒時代と同じだという。彼らはアルカイダなどの台頭をイスラム教自体や中東の「遅れた」文化のせいにし、自国の卑しむべき政策を都合よく覆い隠す。

過激主義の台頭をイスラム教のせいにする欧米の言論人は、西洋の帝国は根本では善意と人道主義、進歩と文明に根ざすと信じている。欧米はこの同じ論理でイスラム過激派の攻撃に武力と偏見で反応し、かえって火に油を注いでしまっている。

2017年6月23日金曜日

軍事介入で平和は来ない

6月に公表された2017年の「グローバル平和指数」で、最悪グループ10カ国のうち9カ国には一つの共通点がある。米国が中心となって展開した、国家弱体化および体制転換作戦という暴力の標的になったことである。

シリア、イラク、アフガニスタンは米国による政権転覆の標的となり、派閥争いがわざと作り出された。石油埋蔵量がアフリカ最大の南スーダンでは「国家建設」が不首尾に終わった。軍事介入による混乱は国境を超えてスーダンにも及んでいる。

イエメンは米国に支援されたサウジアラビアの侵略で飢餓と戦争犯罪が広がった。ソマリアは軍事介入で無秩序状態が続く。リビアはアフリカ統一通貨構想が米国の逆鱗に触れ、混乱に。ウクライナはガス産業をめぐりクーデターの標的となった。


2017年6月22日木曜日

資本主義は世界を良くする

資本主義は少数を潤し、多数を貧しくするというのは、経済発展に関する最も有害な神話の一つだ。この神話はマルクスにさかのぼる。マルクスによれば、資本主義の下では競争により利潤が減るため、労働者の搾取が拡大するのは必至だという。

マルクスの予言に反し、欧米で労働者の生活水準は改善が続いた。そこでレーニンは、欧米は植民地を搾取して富を吸い上げたという説を唱えた。これに影響されたアフリカの民族主義者たちは、資本主義を拒否し、ソ連の社会主義を採用した。

経済の自由は資本主義国の労働者だけでなく、社会主義国の労働者の生活も改善した。自由はあらゆる人々に恩恵を及ぼす。自由でない人々にもその恩恵は及ぶ。サハラ以南アフリカの平均余命は55年間で40.17歳から59歳にまで延びた。

Marian L. Tupy, Don’t demonise capitalism – it’s making the world a better place (2017.3.2, capx.co)

2017年6月21日水曜日

政府がビットコインに近づく理由

数カ国の政府がビットコインに好意的になり、最高値に押し上げている。国家はビットコインやブロックチェーン技術とどんな関係を築きたいのか。一つの戦略は国家が管理する仮想通貨を作り、その利便性を利用し、現金廃止につなげることだ。

国家が仮想通貨を受け入れるようになった背後には、規制強化の意図があるだろう。実際、規制に賛成する人々はすでに、規制当局が仮想通貨の「理解」を深めるよう求めている。「この破壊的な技術には何らかの規制が必要だ」(WIRED誌)

各国中央銀行は電子通貨を利用しようとしている。日本とロシアの政府がビットコインの使用を支持するのは、市場に対する政府の降伏などではなく、新技術を支配する試みだろう。早い話、どちらの国も特に自由放任主義で名高いわけではない。

Ryan McMaken, What Do Governments Want from Bitcoin? (2017.12.5, mises.org)

2017年6月20日火曜日

私たちは上位1%だ

所得格差や「最も豊かな上位1%」、貧困に関する議論はたいてい、ある一国の中の話だけをしている。だが世界的に見れば、状況はがらりと変わる。年収3万2400ドル(約356万円)以上なら、あなたは世界で最も豊かな上位1%に入る。

さいわい世界は年々豊かになり、格差は縮小している。世界人口が急増しているにもかかわらず、貧しい人の数は減っている。豊かさが広がったおかげで幼児死亡率、非識字率、栄養不良が減少し、寿命が延びた。極貧の撲滅は視野に入った。

繁栄にはもちろん理由がある。工業化と貿易が経済成長をもたらした役割は、強調してもしすぎることはない。誰かが今度、貧困や所得格差の話をしたら、思い出してほしい。グローバルに見れば、私たちはおそらく上位1%なのだ。

Marian Tupy, Chelsea German, Putting Income Inequality in Perspective (2015.11.10, humanprogress.org)

2017年6月19日月曜日

ビットコインと金

各国のゼロ金利、マイナス金利政策現金使用規制を受け、代替投資に乗り出す投資家が増えている。金(ゴールド)とビットコインは政府による操作の圏外にあるため、不換紙幣の価値が大幅に薄まる時期には安全な避難場所の役目を果たす。

ビットコインには金にない長所と短所がある。ビットコインはいつでも誰でも身分証明書なしに口座を作れ、決済が迅速だ。金で決済できる取引はごく少ない。一方、ビットコインはインターネットや機器に依存し、規制強化のリスクも大きい。

ビットコインは「デジタル・ゴールド」と呼ばれるが、金とは資産クラスが異なる。2017年は低金利を背景にともに上昇が見込まれるが、学術研究によれば、運用資産の2〜4%をビットコインに、20%を金に割り振るよう推奨されている。

Demelza Hays, Bitcoin or Gold – Why not Invest in Both? (2017.4.14, forbes.at)

2017年6月18日日曜日

エセ市場主義の害毒

政府が民間のやり方を真似て、それが失敗すると、それ見たことかと言わんばかりに「市場原理主義が悪い」と罵る手合いが後を絶たない。とんだ言いがかりである。政府がどれだけ民間を模倣しようと、それはうわべのことだけにすぎず、市場原理とは何の関係もない。

やや旧い話だが、今年「STAP細胞」にまつわる論文捏造が発覚した折、政治評論家の森田実はこんな見方を開陳した。「米国発の市場原理主義がはびこり、競争が熾烈になったせいで、皆が皆、保身に必死なのです」(4月19日付日刊ゲンダイ電子版)

しかし論文捏造の原因は市場原理主義ではなく、それとは正反対の官僚主義の害毒である。杉晴夫『論文捏造はなぜ起きたのか?』(光文社新書)を読むと、それがよくわかる。

STAP細胞論文のデータ改竄が明らかになり、筆頭著者の小保方晴子理化学研究所(理研)研究員が一転非難を浴びたが、同研究員の研究不正を糾弾した理研の調査委員長も、過去に発表した論文のデータ改竄が判明した。

また日本分子生物学会理事長が会員に対し「実験結果の改変を行なってはならない」という趣旨の声明をわざわざ出したが、これは「現在流行の遺伝子研究に従事している同学会会員の多くが、程度の差はあっても、研究結果の改変を日常的に行なっているということを推認させるに十分であった」と生理学者の杉はいう。

研究者はなぜデータを捏造するのか。その原因は科学行政と研究費交付システムにある、と杉は指摘する。

平成15年、国立大学や理研の独立行政法人化が決まった。これに先立ち文部科学省が示した方針の一つとして、「民間的発想による経営手法の導入」が強調された。

しかしこれは見せかけにすぎない。政府は民間企業と違い、商品・サービスを利用者に強制的に押しつけるだけだから、どのような商品・サービスがどの程度必要とされているか、知ることができない。そのため政府が大学などに支給する研究費は、遺伝子研究など流行の研究分野に極端に偏ることとなった。

この結果、使い切れない研究費を着服する事件も起こったが、より深刻なことに、研究者が期限内に目立った業績をあげる必要上、データ改竄・捏造の誘惑に駆られた。それが一気に露呈したのが今回の捏造騒動だったのである。

理研は大正年間、実業家の高峰譲吉が民間研究所として設立した。自由な発想で研究を発展させるには、官立では駄目だと高峰は知っていた。しかし戦後は政府に所管され、役人の天下り先となり果てた。官僚の似非市場主義の不始末で名誉ある歴史に泥を塗られたうえ、本物の市場主義まで貶められては、地下の高峰は浮かばれまい。

(2014年11月、某ミニコミ紙に寄稿)