2022-10-31

マスク氏がツイッター買収、メディアはパニック

ジョージ・ワシントン大学法学教授、ジョナサン・ターリー
(2022年10月29日)

10月27日の夜、私はイーロン・マスク氏がツイッター社買収にあたり直面する課題についてコラムを書き、新しいことに全力で取り組む手順を提案した。以前のコラムで述べた明らかなステップの一つは、史上最大の検閲システムの一つを作り上げた主要人物であるパラグ・アグラワル最高経営責任者(CEO)、ネッド・セガル最高財務責任者(CFO)、ビジャヤ・ガッデ最高法務責任者(CLO)を解雇することだった。マスク氏は就任後数分でこれを実行し、アグラワル氏らの解任は世界における言論の自由という大義において異例の前進となった。

予想どおり昨日の朝、メディア関係者は、ツイッターが長年にわたる偏向した強引な検閲の後、言論の自由の保護を回復するかもしれないと考え、大パニックに陥った。物議を醸したワシントン・ポスト紙のコラムニスト、テイラー・ロレンツ氏は「今夜、このサイト(ツイッター)で地獄の門が開かれたようだ」と嘆いた。そのとおり、他人が自分の意見を表明するためツイッターを利用できるようになることは、多くのメディア関係者にとって地獄のようなものなのだ。

アグラワル氏とガッデ氏は、ツイッター社の検閲文化を体現しており、言論の自由や多様な意見に関する伝統的な考え方に臆することなく反対する人物だった。

アグラワル氏は就任してまもなく、「より健全な公共の会話につながると信じるものを反映した」コンテンツ規制を行うと宣言していた。

アグラワル氏は、同社が「言論の自由について考えることにあまり重点を置かないようにする」と述べた。「インターネットでは言論は簡単だ。ほとんどの人が発言できる。我々の役割として特に強調されるのは、誰の声を聞くことができるかということだ」

私はかねて、インターネットは言論の自由にとって印刷機の発明以来の大発展だと考える「インターネット原論者」だと自認してきた。しかし、議会から大学まで、言論の自由の価値が急速に損なわれているのは、憂慮すべき事態だ。

ジョー・バイデン大統領を筆頭に、民主党の指導者やメディア関係者は、気候変動、公正な選挙、公衆衛生、性自認などの諸問題について、反対意見を抑えるため、企業検閲のほか国家検閲さえ要求してきた。たとえば、ワシントン・ポスト紙のマックス・ブート氏は「民主主義が生き残るには、コンテンツの節度を高めることが必要で、低くする必要はない」と宣言した。

その同じ人物の多くが今や、気候変動、選挙規制、性自認などさまざまなテーマについて他人が反対意見を述べることができるかもしれないと考え、憤慨しているのだ。

ジャーナリストのモリー・ジョンファスト氏は、「誰か新しいツイッターを作ってくれないか、それともこれはとても愚かな質問か」と尋ねた。つまりこのジャーナリストは、他人が日常的に黙らされるようなソーシャルメディアのプラットフォームを作り直したいと思っているのだ。答えは簡単。フェイスブック、それに事実上他のすべてのソーシャルメディア・プラットフォームである。

マスク氏恐怖症の人々が騒ぎ出したのは、たった一つのソーシャルメディア企業が、言論の自由の保護を強化するという見通しによって引き起こされた。たった一社だ。しかし人々が代替手段を持てば、政治的・社会的言論を統制する努力は水の泡になると彼らは知っている。これらの企業が検閲を売り物にできるのは、言論の自由の競争相手をほとんど封じ込めてきたからにほかならない。今、代替手段ができるかもしれない。

一つのソーシャルメディアサイトで勃発した言論の自由に対するパニックは、ジャーナリズムや法学の教授たちにも共有されている。ニューヨーク市立大学のジャーナリズム教授、ジェフ・ジャービス氏は「太陽が暗い」「これは緊急事態だ! ツイッターは邪悪なシス卿(映画『スターウォーズ』の悪役)に乗っ取られることになる」と書いた。ジャービス氏は以前、マスク氏による買収の可能性が高いというニュースの後、「今日のツイッターは、ワイマール・ドイツの黄昏時にベルリンのナイトクラブで過ごす最後の夜のように感じる」と書いた。

ジャービス氏だけではない。

ジャーナリズムの学校では、アドボカシー(特定の主義の唱道)ジャーナリズムの台頭と客観性の否定について議論されてきた。作家、編集者、コメンテーター、学者らは検閲や言論統制を求める声の高まりを受け入れており、バイデン氏やそのおもだった顧問らも同様だ。この動きには、ジャーナリズムにおける客観性という概念そのものを否定し、あからさまな唱道ジャーナリズムを支持する学者も含まれる。

コロンビア大学ジャーナリズム学部長でニューヨーカー執筆者のスティーブ・コル氏は、合衆国憲法修正第一条による言論の自由の権利が、偽情報を守る「武器」にされていると批判している。スタンフォード大学のジャーナリズム教授であるテッド・グラッサー氏は学生新聞とのインタビューで、ジャーナリズムは「社会正義の感覚を身につけるために客観性という概念から自らを解放する必要がある」と主張している。グラッサー氏はジャーナリズムが客観性に基づいているという考えを否定し、「ジャーナリストは活動家」とみなすという。なぜなら「最良の状態におけるジャーナリズムとは、そして最良の状態における歴史とは、すべて道徳に関するものだからだ」という。したがって「ジャーナリストは社会正義を公然と、かつ率直に主張しなければならず、客観性の制約の下でそれを行うのは難しい」。

同様に、ハーバード大学の法学教授ジャック・ゴールドスミス氏とアリゾナ大学の法学教授アンドリュー・キーン・ウッズ氏はアトランティック誌に発表した論文で、「ネットワークの自由対管理に関する過去20年間の大議論において、中国はほぼ正しく、米国はほぼ間違っていた」と述べ、中国式のインターネット検閲を呼びかけている。

マスク氏が、ツイッターに言論の自由の保護を回復するという公約を忠実に守ることができるかどうか、見極めなければならない。そのために私は、同社を言論の自由の砦(サイト)に早急に作り変えることができる「憲法修正第一条オプション」(政府に適用される言論の自由の侵害禁止を、企業が自主的に適用する)を提案した。マスク氏がどのような方法で同社を再建するかはともかく、はっきりしているのは、大手ソーシャルメディアサイトで言論の自由が守られる可能性が出てきたことである。言論の自由に反対する人々のパニックは、ソーシャルメディアにおける多様な意見と議論を深めるため、一つの扉が今開かれたという希望を何百万人に与えるのに十分なものである。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : 'The Gates of Hell Opened': A Media Panic Ensues As Musk Takes Over Twitter and Fires Chief Censors [LINK]

戦争屋の圧力に屈した民主党左派

ジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン
(2022年10月26日)

米議会進歩派議員連盟は、バイデン大統領に宛てた、きわめておとなしく歯切れの悪い書簡を撤回した。ウクライナ紛争を終わらせるために、ちょっとした外交活動を検討するよう丁重に求めたものだ。公認の帝国主義路線からわずかに外れたため公の場で怒りが殺到し、撤回されたのである。

アレクサンドリア・オカシオコルテス、イルハン・オマル、アヤンナ・プレスリー、ラシダ・タリーブ、ジャマール・ボウマン、ロー・カンナら下院の左派議員が署名した元の手紙を実際読んでみると、言葉は並んでいるものの、どんな声明よりも無害で無節操であることがすぐにわかる。冒頭でバイデンのウクライナ介入政策を絶賛し、ロシア政府を終始あからさまに非難し、提案内容はすこぶる控えめだ。「米国がウクライナに提供してきた軍事・経済支援と前向きな外交支援を組み合わせ、停戦の現実的枠組みを模索する努力を倍加する」という。明確に支持されているのは、そのような外交があらゆる段階でウクライナにとって納得のいくものであることだ。

この役立たずな代物は、バイデンに「ウクライナ戦争の戦略を劇的に変える」よう求めていると、ワシントン・ポスト紙によって奇怪にも喧伝された。本文のどこにも、「劇的」と解釈されるようなものはないにもかかわらずだ。手紙はナンシー・ペロシ下院議長ら両党の戦争屋から反感を買った。米国左翼の法王バーニー・サンダースは個人的に手紙を非難した。ネット荒らしや戦争屋は、公式の場でこの手紙を掲載したすべてのソーシャルメディアの通知に群がり、「宥和」や「チェンバレン」(ヒトラーに妥協し宥和外交を行ったと批判された英首相)という言葉を考えもなしに一斉に叫んだのである。

進歩派議連のプラミラ・ジャヤパル会長は、手紙の撤回に関する声明の中で、和平をあおる書簡の公表という問題行為の責任を認めると同時に、公表をスタッフのせいにした。

「この手紙は数カ月前に起草されたが、残念ながら審査なしでスタッフによって発表された。議連の会長として、この責任を負う」とジャヤパル氏は述べた。

「あらゆる戦争を終わらせるのは外交であり、この戦争もウクライナの勝利の後に終わるだろう」と声明にはあり、米当局がこの戦争でウクライナが完全に勝利する見込みはないとひそかに考えているという主流の報道を無視した。「昨日送られた書簡は、その基本原則を再確認するものではあるが、ウクライナによる国家主権の正当な防衛を支援することに対する共和党の反対と混同されてしまっている。この時期に混乱を招くものであり、書簡を撤回する」

アメリカ帝国を批判する人々は、撤回が卑屈なものだとただちに強調した。

「左派にとって、米国が挑発し、長引かせ、その過程で武器メーカーに何十億ドルも手渡した悲惨な代理戦争に賛成票を投じるより哀れなことはない。外交を求める生ぬるい呼びかけを撤回し、それをスタッフのせいにすることで、彼らはなんとかその場をしのいだ」とアーロン・マテ(ジャーナリスト)はツイートした。

「間違いなくワシントンの非常識なタカ派の雰囲気を物語っている。核兵器による破滅にエスカレートする危険のある紛争で、まったく合理的で責任ある必要な外交の呼びかけを撤回するよう、進歩派議員連盟に圧力をかけたのだから」とラニア・カレック(同)はツイートしている。

「体制に挑戦するという公約に基づいて議員に選ばれたのに、超党派のワシントンの権力者からの怒りにおびえ、表明して24時間もしないうちに、ほんの温和な反対意見をおとなしく撤回するとは」とグレン・グリーンウォルド(同)のツイート。

もう少し外交的にという弱々しい主張を進歩派議連が撤回したのは、どんな圧力が決め手になったのか、その圧力のどれだけが、中央政界の沼に住む大きな政治的怪物によって舞台裏でもたらされたのかはわからない、結局それはどうでもいい。この教訓から得られる重要なことは、繰り返すが、民主党左派は寡頭政治と帝国の仕組みに反対するうえで無価値に等しいということだ。

実際彼らの行動を見れば、党の他の集団と意味のある違いがある派閥であるかのように「民主党左派」と表現するのは、正確でない。医療や債務免除に関し時折発する空疎な声明は別として、彼らは米国人の生活をより良くする左派の課題を解決するために何もしていないし、米国の戦争機構の拡大を防ぐために何もしていないのも間違いない。

民主党左派とは、善良な億万長者や米国の正義の戦争と同じく、神話である。「スクワッド(分隊)」(民主党左派の小派閥)は、民主党政権のソーシャルメディアに精通した支部に過ぎない。米国には戦争屋の寡頭政治政党が二つあり、その詐欺に等しい政治機構に心を支配させ続けるように、大規模なナラティブ(物語)操作を行い、米国人を操作し、おだて、強要している。

同時期にルーマニアの国防相が、ウクライナの平和を達成するには和平交渉が必要だと発言して辞任に追い込まれた。これらは私たちの現在と未来について、多くを明らかにしているにすぎない。この社会で最も轟々たる非難を浴びるのは、核超大国間の対立を外交で緩和するよう試みようという主張だ。「オバートンの窓」(多くの人に尊重すべきのものとして受け入れられる政治的な考えの範囲)が、すでに戦争狂の方向に引きずられてしまっているため、平和が割り込む余地はないのである。

(次を全訳)
Worthless House Progressives Retract Mild Peace Advocacy Under Pressure From Warmongers [LINK]

2022-10-30

富裕層は入れ替わる

ケイトー研究所アナリスト、チェルシー・フォレット
(2016年1月8日)

トップに立つのは思ったよりたやすいかもしれないが、トップに立った後、それを保つのは大変だ。

コーネル大学の研究によると、米国人の50%以上が、現役時代に少なくとも1年間は所得上位10%に入る。また11%以上が少なくとも1年間、所得上位1%(年収33万2000ドル以上)に数えられる。

なぜ、このようなことが可能なのだろうか。単純に、これら集団内では入れ替わる率がきわめて高いからだ。

どのくらい高いのか。「トップ1%」に入った米国人の約94%は、その地位を1年間しか享受できない。そして約99%が10年以内にその地位を失う。

ここで、上位1%よりもはるかに高級なクラブである、米国の所得上位400人について考えてみよう。1992年から2013年の間に、上位400人のうち、その地位を1年以上保てなかったのは72%。10年以上保てなかったのは97%以上だ。

ヒューマンプログレスの諮問委員会メンバーであるマーク・ペリーは、このテーマに関する最近のブログ記事で、次のようにうまく表現している。

所得五分位の最上位または最下位、所得上位または下位のX%(あるいは納税者上位400人)などに関する解説を耳にするたびに、当たり前の前提とされるのは、それらは静的で閉鎖的な会員制クラブであり、動的な入れ替わりはほとんどないというものだ。しかし経済の現実はまったく異なる。人々は職歴や人生を通じて、所得五分位や百分位のグループを上下に移動する。

経済的な流動性を、年収ではなく、築いた財産でみてみるとどうだろうか(年収のほうが変動しやすい)。

フォーブス400は、その年の収入に関係なく、推定純資産の合計で最も裕福な米国人をリストアップしたものである。1982年から2014年の間に、フォーブス400のリスト記載者とその相続人の71%以上が400位以内の地位を失っている。

だから次に米国の富裕層について議論するときは、財産か所得かを問わず、入れ替わりが非常に激しいことを忘れないようにしよう。

(次より抄訳)
High Turnover Among America's Rich - HumanProgress [LINK]

冷戦詐欺を終わらせよう

自由の未来財団(FFF)創設者・代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年4月1日)

冷戦はそもそも行われるべきでなかった。冷戦は米国史上最大の過ちの一つであり、米国民の権利と自由を破壊し、多くの死と苦しみをもたらした。

冷戦はまた、米国の政府構造を根底から変え、連邦政府を建国時の小さな政府の共和国から安全保障国家に転換させた。安全保障国家は、当局者が暗殺、誘拐、拷問、無期限拘留、クーデター、独裁国家との同盟など全能の闇の力を行使する全体主義体制の一形態である。

やがて国防総省(ペンタゴン)、中央情報局(CIA)、国家安全保障局(NSA)といった国家安全保障機構は、事実上、連邦政府の別部門となり、最も強力な部門となった。今日、連邦政府を実際に動かしているのはこの部門であり、他の三部門(立法・行政・司法)は支配しているように見せかけながらも、実際には国防総省、CIA、NSAの圧倒的な権力と支配に従属している。

冷戦は国家安全保障機構だけでなく、増大し続ける「防衛」請負業者の軍隊を肥え太らせ、国民を食い物にする、金のなる木のようなものになった。

冷戦の結果、米国はアジアで二度の地上戦に巻き込まれ、韓国とベトナムで10万人以上の米兵が無駄に犠牲になった。

また冷戦は1962年のキューバ危機で、米ソを全面核戦争の寸前まで追い込んだが、この危機は米国の国家安全保障体制が引き起こした部分が大きい。

おそらく最も重要なことは、冷戦が米国民の良心を萎縮させ、道徳価値をゆがめ、曲解させたことである。この現象は、残念ながら今日まで続いている。

なぜ米国は冷戦に踏み切ったのだろうか。ケネディが平和演説で指摘したように、結局のところ米ソは第二次世界大戦でナチス・ドイツを倒すために手を組んだ。なぜ、戦争が終わった後も協力し合うことができなかったのか。なぜ米国は第二次世界大戦が終わった途端に、戦時中のパートナーかつ同盟国と冷戦状態に入る必要があったのだろうか。

ナチスドイツはロシアに侵攻し、全土制覇の寸前まで追い詰めた。その過程で、ロシア全土に甚大な死と破壊をもたらした。戦争が終わるまでに、ロシアは2000万人以上の人々を失った。また工業力も含め、国全体が壊滅的な打撃を受けた。

ソ連軍はナチス軍をドイツに押し戻すために、やむをえず東欧諸国に侵攻し、占領した。ドイツが降伏するまでに、ソ連は東欧諸国とドイツの東半分を占領していた。

戦争が終わった後も、ソ連は自国の国境に戻ることを拒否し、東欧と東ドイツの占領・支配を続けることにこだわった。ソ連の行動は法的には正当化できないが、現実的には理解できるものだった。ソ連はドイツに再び侵略されることを望んでいなかった。そのための緩衝材として東欧に目をつけたのだ。またドイツの分割は、ドイツの侵略に対するさらなる保険になると考えていた。

米国はこのソ連の決断を冷戦の正当化に利用した。ソ連の東欧・東ドイツに対する強硬な行動は、共産主義者が西欧や米国を含む世界の征服に執念を燃やしていることを証明するものだ、と。だからソ連の攻撃から西欧を守るために、NATOをつくったというわけだ。

しかし、その根拠はまったくのでたらめだった。ソ連が西欧に対して新たな世界大戦を始める合理的な可能性はまったくなかったし、とくにそれは、ほぼ間違いなく米国との戦争を意味するものだった。第二次世界大戦の終結時、ソ連は壊滅的な打撃を受け、米国はまだその産業力を保っていた。しかも米国は核兵器を持っており、人口密集地に対して核兵器を使用する意思も示していた。

米国内には、米国の政府体制を安全保障国家に転換させようとする人々がいた。そのためには米国民を死ぬほど怖がらせる必要があった。「神なき共産主義」とソ連がその役目を果たした。赤軍が自分たちを捕まえに来るのだと米国人に思い込ませたのだ。連邦政府を国家安全保障に転換しなければ、赤軍は米国の征服に成功するだろうというのである。やがて共産主義者が連邦政府と米国の公立学校を牛耳るようになるだろうというわけだ。


日本軍の真珠湾攻撃以前、ほとんどが参戦に反対していた第二次世界大戦によって大規模な死と破壊に襲われ、いまだに衝撃を受けていた米国人は、受け身になって米当局者の判断に委ねた。ケネディ上院議員(後の大統領)をはじめ、ほとんどの人が冷戦の戦士、反共産主義者の十字軍になった。

米国では、共産主義を信奉する人々を徹底的に追い詰めた。殺しはしないが、破壊するためにあらゆる手を尽くした。マッカーシーの公聴会では、過去に共産主義とのつながりがあった米国人を洗い出し、解雇し、破滅させるためにあらゆる手を尽くした。さらに連邦捜査局(FBI)とCIAは、米国共産党や、米政府の対キューバ政策、とくにキューバ国民を死と貧困の標的とする残忍な経済封鎖に反対する全国組織「公正キューバ委員会」などへの潜入と破壊に全力を尽くしたのである。

その過程で米国人のほとんどは、自由の基本原則を忘れてしまった。自由な社会では、人々は、他人がどんなに危険で有害だと考えても、どんな政治経済思想でも信じ、それを主張する当然の、神から与えられた権利がある。自由な社会では、そのような権利の行使を妨害するのではなく、保護することが政府の役割である。

米国の共産主義者たちは、その自覚はなかったかもしれないが、じつは幸運な人たちであった。国防総省とCIAは、外国の共産主義者に対して全然異なる対応をとったからだ。連邦政府が安全保障国家に転換したことで、軍とCIAの幹部は、共産主義を信じたり主張したりする外国人を実際に殺害する権限を振るうようになった。そこで登場したのが暗殺の権限である。CIAと国防総省は、外国の共産主義者を暗殺する権力を振るうようになった。

(次より抄訳)
Let’s End the Cold War Racket – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2022-10-29

チャンスの国、アメリカ

研究者、リプトン・マシューズ
(2022年10月26日)

危険を冒してまで入国しようとする移民の波ほど、米国への需要を物語るものはない。読者は毎日、米国の崩壊が迫っているという暗い話を聞かされている。しかし、このような警鐘を鳴らす風潮には、米国人の複雑な体験が隠されている。米国は世界各国から市民を集めることに長けている。それは、個人の成果を支援するために資源や制度を動員する優れた能力を持っているからだ。

移民が米国に魅力を感じるのは、米国では権力者であっても不正をすれば訴追されるという認識と現実があるからである。市民は制度の公平性を信じることで、その成功を実力によるものとし、目標達成のために努力する傾向がある。米国の市民文化は権力の中枢における汚職や非効率に容赦がなく、健全な市民文化は良い統治をもたらす。

しかし、多くの国では汚職が社会規範として浸透しており、不祥事を起こした役人が処罰されることはほとんどない。ジャマイカの例では、汚職疑惑は「九日間の不思議」に例えられる。数日間わめいた後、人々はそのような事件を忘れてしまうのが普通だからだ。移民たちは、米国はより公平な社会であるため、移住することで人生のチャンスが増えると強く感じている。

しかし社会によっては、縁故採用や顧客主義が、有能な個人を犠牲にして家族や友人を優遇し、社会的な地位上昇の機会を阻害し続けている。このような勢力が中南米などの社会に与える打撃を評価する人は、ほとんどいない。有能な人材が報われないことで、生産性の高い従業員の意欲を失わせ、最も有能な人材が重要な役割を果たせなくなるため、ビジネスを行うコストを増加させる。

フアン・フェリペ・リアーノは最近の論文で、コロンビアを「官僚縁故主義」 の典型例として紹介している。それによると、コロンビアの公務員の38%は親戚が行政機関におり、18%は家族ぐるみで公務員とつながっており、11%は同じ機関に所属する家族と一緒に働いている。コネのある人は給料も高く、高官とコネがあると、適性が見過ごされる恐れがある。

こうした雇用方針が公共財の提供に破滅をもたらすのは明らかだろう。官僚は公的資源を管理する責任があるが、そのために選ばれた人が不適格であれば、公共財の供給は劣悪なものとなる。移民は母国でそうした不都合な方針が慣行となっていることを承知しているので、公職を維持するのに高い水準を求められる米国に移住するきっかけになる。

また、移民は米国企業が業績と能力を重視していることも知っている。汚職というと公共部門の問題というイメージがあるが、民間部門の活力も同様に低下させる。ジャマイカで働くことを拒否した人々が、米国に移住して二、三の仕事を見つけ、並外れた成果を上げることは、見る者を長年困惑させてきた。

ケネス・カーターは1997年に出版した『なぜ労働者は働かないのか』でこの謎を解き明かしている。

カーターはジャマイカの従業員を調査し、ジャマイカで昇進につながるのは、同僚のゴシップを上司に聞かせること、上司のエゴを満たすことだという考えが広まっていることを発見した。カーターの調査によると、管理職は生産性を阻害する有害な環境を作り出していた。報酬と生産性が相関しないため、従業員にとっては、自己改善の機会が限られていることを考えると、優秀であることよりも生産性を抑えることの方が安上がりだったのである。

米国には、自分の努力が評価される環境を求めて人が集まってくる。移民は、自国できちんとした報酬を得られるのであれば、米国への移住をためらうだろう。さらに、米国は知能指数で1位を獲得しており、才能を開花させるのに世界で最も適した場所である。ベンチャーキャピタルの大手はほとんど米国にあり、現在でも最先端の大学がいくつかある。

さらに驚くべきことに、米国は再分配においてトップであり、「米国は国民所得のうち下位50%に最も多く再分配している国として際立っている」という調査結果がある。米国はもはや機会の国ではないという不満があるにもかかわらず、経済分析では、「過去に比べて現在、機会の平等が高まっているが、それは機会がそれほど平等でなかったことがおもな理由である」との見解が示されている。

メディアは米国批判に明け暮れているが、じつは米国は今でも多くの面で立派な国である。移民はアメリカンドリームとその永続を信じるからこそ、危険に遭遇しながらも果敢にその地を目指すのである。

(次を全訳)
To Many, America Still Is a Place of Opportunity (Unless Progressives Destroy That, Too) | Mises Wire [LINK]

米国防総省が招いた核の危機

自由の未来財団(FFF)創設者・代表、ジェイコブ・ホーンバーガー
(2022年10月27日)

十分承知しているが、ウクライナに関しては、ロシアの侵攻だけに焦点を合わせ、米国防総省(ペンタゴン)がこの危機を作り出した事実に触れてはいけないことになっている。世界を破滅させかねないロシアとの核戦争に危険なほど近づいた、この危機である。

それでも、この危機における国防総省の役割は、何度も何度も強調されなければならない。ちょうどキューバ・ミサイル危機を引き起こした国防総省の役割もまた、何度も何度も強調されなければならないように。

そう、私が強調しているのは、ロシアとの核戦争寸前まで近づいた、これら二つの危機を引き起こした国防総省の役割である。

冷戦時代の終わり、北大西洋条約機構(NATO)が存在し続ける理由はまったくなくなっていた。ソ連(ロシア)の攻撃から欧州を守るというNATOの使命は果たされた。冷戦は終わったはずだった。

ただ問題は、国防総省と中央情報局(CIA)にとっては、冷戦が終わっていなかったということだ。もし連中に思い通りのことができたなら、冷戦騒ぎは永遠に続いたことだろう。結局のところ、連邦政府機構の中で予算と権力を拡大させ続けるために、冷戦以上の理由があるだろうか。

だからNATOを存続させたのだ。中東に介入してテロとの戦いに発展させる一方で、NATOを利用してロシアを刺激し、冷戦の再来を狙ったのである。冷戦時代の恐竜を解体する代わりに、ワルシャワ条約機構の旧メンバーを吸収するためにNATOを利用した。それによって国防総省とCIAは、ロシアの猛烈な反対にもかかわらず、核ミサイルと軍事力をロシアの国境に容赦なく近づけることができるようになった。

しまいに国防総省とCIAは、ウクライナをNATOに吸収すると脅した。ロシアがおよそ25年前から、そうなったらウクライナに侵攻して阻止すると宣言していることを知りながらである。連中の計画は成功した。ロシアがウクライナに侵攻すると、国防総省とCIAの忠実な手下どもは、侵攻だけに注目し、侵攻を誘発したNATOの陰謀には目を向けなかった。

キューバ・ミサイル危機の時も同じだった。ソ連がキューバに核ミサイルを設置したのは、CIAと国防総省によるキューバへの再度の侵攻を抑止するためだった。忘れてならないのは、CIAはすでにピッグス湾事件でキューバに侵攻し、惨敗していたことだ。その後、国防総省はケネディ大統領に全面的な軍事侵攻を行うよう絶えず働きかけていた。国防総省の偽旗作戦は「ノースウッズ作戦」(テロリストに見せかけた攻撃を米国内で起こし、米国民の対キューバ感情を悪化させる作戦)として知られているが、ケネディ大統領はこれを即座に拒否し、その功績を不朽のものにした。

国防総省とCIAがキューバを侵略する法的な正当性はあったのだろうか。何もない。キューバに共産主義政権があることは、決して侵略を正当化するものではなかった(さらに言えば、キューバのフィデル・カストロ議長に対する度重なる暗殺未遂も正当化できない)。キューバが米国を攻撃したことはなかったし、攻撃すると脅したことさえなかったことを忘れてはならない。共産主義キューバと米国との長い関係においては、つねに米政府が侵略者であった。キューバで政権交代を起こす手段として、冷戦時代の古い経済封鎖をやめず、キューバ国民を死と貧困の標的にし続けていることも含めてである。

キューバとソ連が十分承知していたように、CIAと国防総省はカストロ政権をそれ以前のような別の親米独裁政権に取って代えるため、再びキューバを侵略しようと固く決意していた。だからこそ、核ミサイルをキューバに設置したのだ。米国の再度の不法侵攻を阻止するために。

米国の国家安全保障体制の忠実な侍者たちは、なぜこれらすべてを理解できないのか。なぜなら、彼らにとって国防総省、CIA、国家安全保障局(NSA)は三位一体の神だからだ。誰が神を疑ったり批判したりするだろう。

しかし、もし米国民が国を正しい道、つまり自由、平和、繁栄、世界の人々との調和への道に戻そうとするなら、この偽りの神に疑問を呈するだけでなく、この神とその邪悪な組織を歴史のゴミ箱に投げ入れ、小さな政府の共和国というアメリカ建国時の政治制度を取り戻さなければならない。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : The Pentagon Brought on Both Nuclear Crises [LINK]

2022-10-28

音楽の豊かさ

経済学者、ゲイル・プーリー
(2022年9月9日) 

1877年、トーマス・エジソンが蓄音機レコードの原型を開発した。最初の再生可能なレコードは、2枚の錫箔の間に紙を挟んでプレスしたものだった。

1949年3月15日、RCAビクターが45回転のレコードを初めて発売した。このレコードは、人気の78回転レコードより小さく、曲数も少なく、色も違っていた。ローリング・ストーン誌によると、「50年代のティーンエイジャーは、持ち運びができ、値段も安いこのレコードを好んだ。当時のある広告によると、レコードの値段は1枚65セントだった。ロックの初期大ヒット曲のひとつ、ビル・ヘイリーとコメッツの『ロック・アラウンド・ザ・クロック』は、1955年に300万枚のシングルを売り上げた」。

1955年の未熟練労働者の時給は97セント程度だった。時間でみた1曲の値段は40分の労働にあたる。

アップルは2003年4月28日、iTunes Storeを立ち上げ、曲を99セントで販売した。このとき、未熟練労働者の賃金は時給9.25ドルにまで上昇していた。1曲の時間価格は84%下がり、6.42分の労働時間となった。2003年のリスナーは、1955年の1曲の値段で6曲を手に入れた。

アップルミュージックは2015年6月30日に発売された。現在、学生は月額5.99ドルで9000万曲を聴くことができる。未熟練労働者の時給は14.53ドル程度なので、時間価格は25分程度の労働時間である。ユーザーはストリーミングだけでなく、アルバムや楽曲をデバイスにダウンロードしてオフラインで再生することもできる。一般的な楽曲が3〜4分だとすると、1カ月で1万2342曲再生することができる。1曲あたりの時間価格は、約8分の1秒の作業時間だ。

1955年に私たちの祖父母が1曲買うお金を稼ぐのに要した時間に対して、現在の私たちは1万9750曲を手に入れることができる。1955年以来、個人の音楽の豊かさは年率約15.9%で、4.5年ごとに2倍に増えている。

私たちが今日享受しているあらゆる製品は、人間が発見し、自由な市場で他の人々と共有する、何十億、何百億もの小さな知識の集大成だ。歌を作り、それを世界と共有する。私たちは自分自身を高め、互いの人生をより良いものにすることができる。

私たちはまだ問題を抱えているだろうか。もちろんだ。つねに課題に直面することだろう。しかし、私たちがこの二百年間に成し遂げたことを見てほしい。これは人々が自由に互いの問題を解決し合うとき、何が起こるかを示している。

(次を全訳)
Musical Abundance - HumanProgress [LINK]

朝鮮戦争の真相

シカゴ大学歴史学教授、ブルース・カミングス
(BBCヒストリー・マガジンによるインタビュー、2020年6月25日)

1950年に始まった朝鮮戦争は、厳密にはまだ終わっていない。米国は北朝鮮を空から攻撃し、近代的な建物をほとんど残さず、数え切れないほどの民間人を殺害した。ブルース・カミングス教授によれば、この戦争が残した血の負債が、その後の北朝鮮の行動を理解するうえできわめて重要である。

——朝鮮戦争の起源は。

戦争の始まりは1930年代にまでさかのぼる。北朝鮮の建国者である金日成は、日本軍に対してゲリラ闘争を開始した。日本軍は1931年9月に中国東北三省に侵攻し、1932年3月1日に満州国という傀儡国家を建国した。その翌月、1932年4月に始まった戦闘が、北朝鮮の軍隊の始まりである。

金日成とその仲間は、冬にはマイナス40度にまで冷え込む、人を寄せ付けない土地でその後10年間戦い続けた。この戦いには様々なゲリラ集団が参加し、金日成の集団は中国共産党に指揮されていたとする情報もある。実は、ゲリラのほとんどは朝鮮人であり、いわゆる中国共産党も朝鮮人が多数派であった。朝鮮人指揮官は自分たちのやりたいようにやり、中国の序列には属さない。これらゲリラは日本軍を苦しめ、勝ち目のない戦争に引きずり込んだ。

1939年、数万人の日本軍を巻き込んだ戦闘で事態は収拾に向かった。1941年になると、ゲリラは著しく消耗し、中露国境付近のハバロフスク近郊の訓練所に引き揚げ、真珠湾攻撃で米国が対日参戦するという避けがたい結末を待つことになった。

この歴史の意義は二つある。一つは、1945年に生き残った約200人のゲリラが平壌に帰還し、国家を支配するエリート集団となったことから、北朝鮮の建国神話を構成していることである。この集団は現在も権力を握っているが、75年間の排他的支配を経てかなり大きくなっている。

もう一つ、1930年代のきわめて重要な事実は、日本軍が朝鮮人将校を雇ってゲリラを追撃したことだ。例えば、金日成の追跡を任された日本軍の大佐、金錫源である。1949年の夏から秋にかけて、金錫源は38度線の司令官を務め、大将になった。このように、1930年代に正反対の道を選んだ朝鮮人同士の争いが、内戦の可能性を高めていた。

また、1945年8月の日本統治崩壊後、一般の朝鮮人が自発的に政治委員会を立ち上げて地方行政を行うようになったことも、朝鮮戦争勃発の要因の一つである。北を占領していたソ連軍はこれらの委員会を支援し、これらの政治団体はやがて北朝鮮の政権の基礎となり、現在に至っている。1945年9月8日、米軍が到着し、3年間の軍事政権を樹立した。米国は、韓国のある地域では委員会と協力したが、他の地域では委員会を弾圧しようとし、指導者を牢屋に閉じ込めた。このため、1946年秋に大規模な反乱が起こった。反乱後の調査により、憎むべき日本の植民地警察の朝鮮人隊員を、米国が韓国全土で使っていたことが判明した。

1948年までにほとんどの委員会が地下に潜ったが、委員会は済州島で統治を継続した。1948年4月3日、朝鮮半島の分断計画に反対して島で起きた蜂起は、その後2年間にわたり、国家警察、軍隊、北朝鮮から追放された右翼青年団のメンバーによって、島民の10%、約3万人が徹底的に殺戮されることとなった。鎮圧部隊は、日本軍に所属していた朝鮮人将校の指揮下にあった。

この紛争は、韓国の独裁政権下で数十年間埋もれていたが、近年、来るべき内戦を予見させる一種の試金石とみなされるようになった。北朝鮮の指導者、そしてそれを支持する南の人々が、この虐殺を許すとは考えられなかった。

——その後どうなったか。

1949年の夏から秋にかけての国境沿いの戦いは、来るべき戦争の直接のきっかけとなるものであった。1945年8月、米国の作戦立案者は、米ソそれぞれの領域を示す適切な線として38度線を選択した。同盟国にもソ連にも、そして一人の朝鮮人にも、誰にも相談しなかったのだ。米国は設立まもない韓国軍を指揮統制し、それは1949年6月30日まで続いた。500人の軍事顧問団を残し、最後の米軍が撤退するまでである。

国境沿いの戦闘は、その1カ月前の1949年5月に始まっていた。米軍司令官によると、この戦いは南側が起こしたもので、1949年の国境戦の半分以上は南側が起こしたという。1949年8月初旬、戦争が起こりそうになったが、米ソ両国の大使が介入し、暴走を抑えた。1949年12月、南部の国境を越えた最後の攻撃があり、その後半年間、平行線は静まった。

1949年当時、北側はまだ戦う準備ができていなかった。というのも、北側の数万人の優秀な軍隊は、中国の内戦で共産党側の兵士としてまだ戦っていたからである。しかし、その後数カ月で彼らは北朝鮮に戻り、1950年6月、金日成の侵攻軍の先鋒となった。米国大使の言葉を借りれば、「幸いなことに、戦争は明白だった」のである。

——朝鮮戦争はどのように始まったのか。

朝鮮戦争の始まりは簡単に説明できる。1950年7月から8月にかけて、北朝鮮軍が半島をなだれ込んできた。米国のトルーマン大統領が大量の軍隊を送り込んだにもかかわらずである。最終的に、米海兵隊第一旅団が南東部の戦線を確保することができ、これが釜山境界線として知られるようになった。その結果、ダグラス・マッカーサー元帥の指揮の下、仁川港への大規模な上陸が可能になった。

米国の指導者たちは2週間以内に、「巻き返し」作戦で北朝鮮に侵攻することを決定した。米軍は中国との国境にある鴨緑江まで行ったが、中国軍と北朝鮮軍による大規模な作戦で後退させられた。1951年1月1日には、ソウルは再び中国と北朝鮮の軍隊に占領された。しかし、5月までにソウルは奪還され、現在の非武装地帯(DMZ)に沿って戦闘はほぼ安定化した。その後2年間、塹壕戦と休戦交渉が続き、1953年7月27日に休戦協定が結ばれた。

戦争中、米国は北朝鮮を空から攻撃し、近代的な建物をほとんど残さず、数え切れないほどの民間人を殺害した。ウィンストン・チャーチルですら苦言を呈したほど大量のナパームを投下し、それ以後の北朝鮮の行動を理解するうえで欠かせない血の負債を残した。

——死者や犠牲者の数は。

米軍は3万3686人が戦死し、英国とオーストラリアもそれぞれ1000人以上、339人の兵士が亡くなり、大きな犠牲を払った。しかし、朝鮮人と中国人の犠牲者ははるかに多い。中国人は100万人弱、韓国人はほぼ同数、北朝鮮人はおそらく200万人が犠牲になった。

——朝鮮戦争の意義は何だったのか。

この戦争が韓国人にとってどのような意味を持つものであったかを語るのは難しい。何も解決しなかったし、民族の分裂は痛ましくも永続することになった。韓国は米国と、北朝鮮は中国と、戦争に伴う外国との同盟関係が重要だったのかもしれない。

米国は世界のあらゆる場所で共産主義を封じ込める使命を負ったため、国防費は4倍に膨れ上がり、国内では安全保障国家が何百もの海外常設軍事基地を管理し、米国史上初めて平時から大規模な常備軍が存在するようになった。また、アレン・ダレス長官(弟ジョン・フォスター・ダレスはアイゼンハワー政権の国務長官)の下で、巨大な資金力を持ち、大きな図体の中央情報局(CIA)が権力の中枢となった。

また、朝鮮戦争は日米両国の経済を大きく発展させ、戦争物資の調達により「日本のマーシャル・プラン」と呼ばれることもあった。もし戦争が他の場所で起こっていたら、このようなことはなかっただろう。しかし戦争は朝鮮半島で起こり、米国人の精神に大きな影響を及ぼした。

(次より抄訳)
The Korean War Explained | HistoryExtra [LINK]

プロパガンダと恐怖戦術

ジャーナリスト、カート・ニモ
(2022年10月24日)

ニュースを無批判に読めば、プーチン(露大統領)がウクライナを核攻撃するつもりだと考える人は多いだろう。もちろん、プーチンはウクライナで核兵器を使うとは言っていない。自国が存亡の危機に直面した場合のみで、間違いなく米政府の方針と同じである。

企業の戦争プロパガンダメディアによって流された嘘とヒステリーは、欧米の何百万人もの人々を怯えさせる結果となった。恐怖のキャンペーンは、ニューヨークに対して核攻撃が行われることをほのめかすまでに至った。ニューヨーク市危機管理局は、核攻撃に対して何をすべきかをニューヨーカーに指示する、まったくおかしな公共広告を公開し、その一翼を担った。屋内に入れ、屋内にとどまれ、メディアの情報をチェックせよ、とビデオは指示する。

核爆発の際に「その場に身を隠す」ことは、無価値にも等しいという事実が語られていない。このビデオは、核兵器が一発、ニューヨークを標的にすることを想定している。くだらない恐怖煽りはこれだけではない。ロシアはその存在が脅かされた場合、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」(SS-18「サタン」の後継)を使うだろう。この新ミサイルは6000マイルを移動することができ、16個の独立した標的核弾頭を搭載する。フランスと同じ面積を破壊する能力がある。

言うまでもなく、マンハッタンからクイーンズ、そしてそれ以外の地域に「避難」している人たちは、その場で死んでしまうだろう。控えめに見積もっても、400万人が死亡し、さらに500万人が負傷するだろう。この核兵器が2発、米国の東海岸を狙った場合、1000万人以上が死亡することになる。

世間を騒がせているインチキな主張は、フォーリン・ポリシー誌(洗脳プログラム「モッキンバード作戦」の制作会社グラハム・ホールディングスが所有)が言うように、プーチンが「世界を吹き飛ばす」だろうというものである。(攻撃の責任を敵になすりつける)偽旗作戦の結果でない限り、そのようなことは起こらないだろう。

偽旗の可能性は明白であるように思われる。「ロシアの(ショイグ)国防相は10月23日、ウクライナが放射性物質を含む『挑発』を準備していると主張した。ロシアが南部でウクライナの前進を食い止めようと苦闘し、緊張が高まるなか、この厳しい主張をウクライナとイギリスの当局者は強く否定した」と同日、フリープレス・ジャーナルは報じている。

ロシア国防省によると、ショイグ氏は「『汚い爆弾』に関わるウクライナの挑発行為の可能性」について懸念を表明した。核爆発のような壊滅的な威力はないものの、広範囲を放射能汚染にさらす恐れがある。

政治的な駆け引きのために嘘をついたり説明を省略したりすることは、最近始まったことではない。米国で最も尊敬されている大統領の一人であるジョン・F・ケネディは、いわゆるキューバ・ミサイル危機の際、メディアに対して誠実な態度を示さなかった。ブログサイト「デイリー・ビースト」(ニューズウィーク誌と同じ親会社)にグレッグ・ミッチェルが寄稿している。

ケネディはキューバのソ連ミサイルへの対応で広く賞賛を浴びたが、その過程で、ホワイトハウスが危機の発生中にいかにマスコミを操作し、あるいは嘘をついたかについてマスコミの間に広く憤慨を呼び起こした。ホワイトハウスのピエール・サリンジャー報道官から、危機の間は自己検閲をし、報道を差し控えるための12項目の正式な「ガイドライン」を受け入れるよう繰り返し要請され、記者たちはしぶしぶ従ったのであった。 たしかに、危機が去れば、政権は少し行き過ぎたと認めるかもしれない(大統領の健康状態や旅行に関する嘘さえも)。少なくとも、危機が生んだ秘密保持の要求をすぐやめるかもしれない。

国防総省の広報担当アーサー・シルベスターは、キューバ危機の間、「(自分の擁護した)情報統制が第二次世界大戦当時よりも厳しかったと認め、猛烈な批判を招いた」という。「そしてシルベスターは、政府の報道『管理』を良く言う際、バイアスのかかった言葉を使った(あやうく口を滑らせかけたが、ケネディ自身、「ニュース管理」という言葉を使い、その習慣を好んだ)」。

「すべての記者は主義信条を問わず、今や政府の宣伝マンかと悲鳴を上げた」

今日、企業メディアの部屋では、国家が作り出したフェイクニュースに対して「悲鳴」は上がっていない。

大多数の「ジャーナリスト」は、自分のキャリアや生活が突然行き詰まらないように、国家が垂れ流す嘘や誤報を文句も言わずにただ書き連ねるだけである。

国家とその所有者によって無知とみなされた米国民(たしかに多くはそうだが)には、安全保障国家を批判や憤りから守るため、大小の嘘を絶えず食わせなければならない。

ケネディはメディアを嫌い、キューバのミサイル危機とされる事態に関して、ソ連がカリブ海の島から全ミサイルを撤去したかどうか中央情報局(CIA)に確認させようとした。

その裏で、ケネディは報道陣をいら立たせ続けていた。撤去したとされるミサイルの一部をソ連が隠しているという、キューバ難民の主張が報道された。ホワイトハウスで国家安全保障の補佐官たちと会議をしたケネディは、それがマスコミに出れば、米国民は「本当だと思うに違いない」し、そうなればソ連との緊張が再び高まり、「もしかしたら戦争になるかもしれない」とまで不満を口にした。そのようなマスコミ報道は、ケネディ政権を「無能か嘘つき」と思わせるものだ。ケネディはマコーンCIA長官に、ミサイルの撤去を確認し、報道を否定するよう頼んだ。

ケネディは、メディアが米国民に伝える内容を管理する「新しい仕組み」を求めていた。「しかし側近らは、ホワイトハウスが報道は間違いだと反論し、否定し始めるのは得策ではないと主張した」。ケネディは結局、メディアに対し報道記事の裏付けとなる証拠を国に提出させるという要求を撤回した。

デイリー・ビースト(ニューズウィーク)は安全保障国家(1950年代、CIAのモッキンバード作戦=メディア操作作戦=で始まった)に取り込まれた大小の嘘つきプロパガンダメディアの構成分子だから、当然ながら、上記の引用記事は当時のトランプ大統領への厳しい批判で終わっている。

ケネディは要求を撤回した。かりに当時、ケネディが自分のツイッターを持っていたとしても、現在のホワイトハウスの住人と違って、報道機関を「米国民の敵だ」とか、「報道機関が書きたいことを書けるのは正直言ってうんざりだ」と告発したとは想像もつかないだろう。

もはや企業メディアと国家の間に敵対関係はない。ここ数年続いている現在の取り組みは、あらゆる手段を使ってオルタナティブ(代替)メディアを根絶やしにすることだ。情報空間は消毒され、国家の行動に有利な嘘や誤報を広めるために安全な場所にされなければならない。それがどんなに狂気じみ、殺意に満ちていてもだ。

上記の公共広告は、プロパガンダと恐怖戦術の典型例である。どんなに不合理で現実と食い違っていても、国家とそのメディアによって採用される。プーチンがニューヨークと東海岸の大部分を核攻撃するという印象しか残さない。恐怖は便利な道具だ。国民に感情的で不合理な反応をもたらし、海外での違法で不道徳な戦争や、国内での警察国家の行動拡大に向けた合意を形成できる。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Fake News, Fake Putin Nuclear Threat [LINK]

2022-10-27

政治にまみれた「正義」

ロン・ポール研究所常務理事、ダニエル・マカダムズ
(2022年10月24日)

(ソ連の独裁者)スターリンの一の子分は「どんな人物かわかれば、ぴったりの罪をつくってやる」と有名な言葉を残している。その意味は、ソ連の司法は法の支配ではなく、政治だったということだ。まず誰が政治上の理由で罰せられるかを決め、しかる後に、その人物が問われる犯罪を国が用意する。

この政治にまみれた「正義」の暗黒時代が戻ってきた。最近、トランプ陣営の元顧問スティーブ・バノン氏が、連邦議会占拠事件の経緯を調べる下院特別委員会(1月6日委員会)への出頭拒否をめぐり議会侮辱罪で懲役4月の実刑判決を受けたのだ。

米議会からの召喚状を無視したバノン氏の処罰が、どうして政治裁判なのか。なぜならバノン氏以前にも、エリック・ホルダー氏(元司法長官)、ジャネット・リノ氏(同)、ロイス・ラーナー氏(元内国歳入庁部長)といった民主党の名士を含む多くの人々が議会侮辱罪で起訴されたが、実刑判決を受けることはなかったからだ。

バノン氏の判決は、米国民に政治的なメッセージを伝える。トランプ氏を支持すれば犯罪者であり、スティーブ・バノンの隣の独房に入ることになるかもしれないということだ。

これが危険だということを理解するのに、トランプ氏を支持する必要はない。誰もが政治裁判を恐れているはずだ。これは両刃の剣であり、共和党が議会を占拠した場合、この前例に従わないという保証はない。

政敵を刑務所送りにするなど、先進国とは思えない。反アメリカ的だ。しかし、現に米国で起きている。

1月6日委員会の目的は、不法侵入してペロシ下院議長の神聖な机に足を乗せたという「罪」に対する正義を求めることではなく、ドナルド・トランプを二度と大統領選に出馬させないようにすることにある。そのために何百人もの人々が犯罪でもないのに不当に逮捕され、ひどい状態で拘束されている。大事の前の小事といういうわけだ。

議会侮辱罪といえば、そもそも本当の侮辱は、1月6日委員会の存在だ。この委員会は最初から党派的な裁判ショーであり、たった二人の「共和党」メンバーは共和党員によって選ばれたのではなく、ペロシ下院議長によって選ばれたのである。委員会の目的は、議事堂に乱入した少数の乱暴なデモ参加者が、どういうわけか(フランス革命の)バスティーユ襲撃に相当するという嘘の物語をテコ入れすることにある。

米政権は他分野でも物語の操作に関与している。先週メディアは、テスラとスペースXを率いるイーロン・マスク氏が、ツイッター買収をめぐり一転二転していること、ロシアとウクライナの和平案(ロシアへの核攻撃は含まない)を提案していることについて、「国家安全保障審査」を受けることになったと報じた。

マスク氏はまた、自分が責任者になったあかつきには、ツイッターを自由な言論の場に戻すと繰り返し誓ったことで、キャンセルカルチャー(排斥主義)左翼から非難を浴びている。元ニューヨーク・タイムズ記者のアレックス・ベレンソン氏をはじめ、多くのケースで見られるように、ツイッターはバイデン政権と密接に連携し、新型コロナやウクライナ、その他多くの事柄について、「通説」にあえて挑戦するあらゆる利用者を黙らせ、利用を禁止してきた。

司法と正義が政治に絡むと、自由は消え去ってしまう。これがバイデン政権に始まったことだと思うほどうぶではないが、癌のように広がっているのは間違いなさそうだ。自由の共和国アメリカを滅ぼさないためには、政治にまみれた正義を否定しなければならない。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Political ‘Justice’ in America [LINK]

朝鮮戦争を始めたのは誰か?

ジャーナリスト、ジャスティン・レイモンド
(2013年7月29日)

朝鮮戦争の「終結」から60年目の今年、オバマ大統領は海外軍事介入が失敗した典型例を歴史のごみ箱から救い出そうとした。大統領は、朝鮮戦争の退役軍人らを前にして、こう宣言した。

「あの戦争は引き分けではなかった。韓国は勝利したのだ。今や五千万人の韓国人が自由と活気に満ちた民主主義の中で生活し、…北朝鮮における抑圧や貧困とは対照的だ。それは勝利であり、あなた方の遺産である」

これはおとぎ話だ。勝利でもなければ、引き分けでもない。米国民は休戦のずっと前から戦争に幻滅しており、トルーマン(米大統領)は国内で、日々不人気になっている紛争を終わらせるよう、かなりの圧力を受けていた。「民主主義」に関する馬鹿話に至っては、米国が何のために戦っていたにせよ、戦争が始まった1950年から戦争が停止した1953年まで、民主主義は米国の大義名分とは言いがたいものだった。

米国は、みずから教育・支援した韓国の独裁者、李承晩のために戦っていた。李承晩がその力を示したのは、左派の政敵に対する大規模な虐殺である。22年間、李承晩の言葉は法律であり、何千人もの政敵が殺され、何万人もの人々が投獄され、亡命させられた。朝鮮半島では自由主義が優位になったが、それは米政府の活動と今も続く軍事駐留にもかかわらず、そうなったのである。朝鮮半島の人々がついに李承晩に反抗し、1960年のいわゆる四月革命で追放された際、李承晩は群衆が青瓦台(大統領官邸)に押し寄せるなか、米中央情報局(CIA)のヘリコプターで安全な場所に運ばれた。

朝鮮戦争にまつわる神話は、オバマ大統領の演説に象徴されている。この演説は、実際の歴史をほとんど無視した、高揚した表現の寄せ集めだ。歴史が挟み込まれたとしても、非常に焦点がぼやかされる。「韓国は私たちに思い起こさせる」という文句が流行歌のリフレインのように繰り返されるが、匿名のスピーチライターが書いたこの大統領演説には、朝鮮戦争の起源を思い起こさせるものはどこにもない。なぜ、このようなことになったのか。

ネオコン(新保守主義)と冷戦リベラルによる定番の解説によれば、北朝鮮がソ連、中国と結託し、1950年6月25日に侵略戦争を始め、北朝鮮軍が係争中の国境を越えて押し寄せたという。この省略された歴史で省かれているのは、北朝鮮軍がその行動によって、李承晩自身の北侵計画に先回りしたという事実である。立教大学教授で歴史学者のマーク・カプリオ氏が次のように指摘する。

「1949年2月8日、韓国大統領(李承晩)はソウルでジョン・ムチオ(駐韓)大使、ケネス・ローヤル陸軍長官と会談した。ここで韓国大統領は、北と戦争を始める正当な理由として、次のようなことを挙げた。韓国軍は、最近日本軍や中国国民党と戦った15万〜20万人の韓国人を集めれば、簡単に10万人増やすことができる。また、韓国軍の士気は北朝鮮軍より高い。戦争になれば敵から大量の離反が予想される。最後に、国連が韓国を承認したことで、韓国が半島全体を支配することが正当化された(憲法に規定されている)。つまり、『待っていても何も得られない』というのが李承晩の結論だった。」

李承晩が攻撃を開始しなかった唯一の理由は、必要な武器・援助の提供に米国が乗り気でなかったことだ。戦争が起これば、それは米国の意向に基づくことになるし、米国の指導者は、戦争がすぐにでも起こると考える十分な理由があった。米政府の政策は、李承晩が南部を支配するのに十分な武器を供給し続けることであった。CIA長官ヒレンコッター提督が議会で行った秘密証言によって米国の戦争責任が証明されるという、ハワード・バフェット米下院議員の主張には証拠がある。

共和党の反介入主義者でネブラスカ出身のバフェットは、その重要証言の機密解除を死ぬまで要求したが、残念ながら無駄だった。しかし、次のようなことがわかっている。米政府は6月25日の大規模な戦闘開始のかなり前、主要閣僚宛の情報報告を通じ、北朝鮮の侵略が間近に迫っていることについて十分警告を受けていた。しかし米政府は外交面でもその他の面でも、北朝鮮を抑止する行動をとらなかった。

共産圏では、金日成(北朝鮮最高指導者)が「三日で勝利する」と言ったことに(ソ連の)スターリンが半信半疑で、朝鮮問題で意見が割れていた。ソ連の方針は「軍事援助はするが、介入はしない」であった。一方、中国の毛沢東は支援を申し出たが、これは米国が参戦し、北朝鮮に進攻するまで実現しなかった。

スターリンもトルーマン米大統領も、この紛争が勃発することをとくに望んでいなかったが、二人とも紛争は避けられないと考えていたかもしれない。その場合、敵が最初に発砲したと見せかけることができれば、プロパガンダ上、都合が良かった。

実際に誰が撃ったのかについては、シカゴ大学歴史学部のブルース・カミングス教授が『朝鮮戦争の起源』『朝鮮戦争論』の両書で決定的な答えを出している。朝鮮戦争が始まったのは米国の半島南部占領下であり、1950年の北朝鮮の攻撃よりずっと前に、米国の支援を借りて一連の攻撃を開始したのは李承晩だった。1945〜48年にかけて、米軍は李承晩に協力して何万人といわれる犠牲者を出した。反乱に対する鎮圧作戦は光州と済州島で多数の犠牲者を出し、6万人もの人々が米国の支援を受けた李承晩軍に殺害されたのである。

2022-10-26

米政策が招いた北朝鮮ミサイル実験

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2022年2月15日)

ここ数週間、北朝鮮は弾道ミサイルの能力向上を生々しく示している。1月には、1カ月で7回の発射実験を行い、新記録を樹立した。金正恩政権はその締めくくりとして旧正月に、米国領グアムに到達可能な中距離ミサイルの発射実験を行った。この「火星12」の発射は、米国内の目標に到達する能力を持つとみられる3発のミサイルを実験した2017年以来、北朝鮮として最長距離の発射となった。1月の他の少なくとも1回の発射では、低空飛行できわめて機動性の高い、極超音速ミサイルが使用された。

この新たな実験は米政府関係者を驚かせたようだが、バイデン政権が金正恩政権との関係正常化につながる新たな目立った取り組みを行わなかったことに対する、北朝鮮の反応は予想できた。1月下旬に韓国(文在寅政権)の(鄭義溶)外相が、朝鮮戦争の公式な終結を宣言する宣言文の草案に米韓が合意したと報告したことが、唯一の柔軟さの兆しだった。しかしそれも北朝鮮との交渉次第であり、その重要なステップは依然として不透明なままである。

現在の米朝関係の行き詰まりは、非常に歯がゆい。ホワイトハウスはトランプ大統領の任期中盤に柔軟な政策を示した後、手を引き、他の問題で有意義な交渉を行う前に核兵器計画の放棄に向けた措置を取るよう北朝鮮に要求するという、米政府の長年の外交戦略を再開した。バイデン氏の外交チームも同じ手法をとっている。

しかし、北朝鮮の核開発を「完全で検証可能・不可逆的」に終わらせるという米政府の要求は、20年以上もの間、不発に終わっている。北朝鮮の弾道ミサイル発射計画が年々大規模化し、高度化していることに関する同様の要求も、無益であることが証明されている。それどころか、米政府と「国際社会」がこれまで以上に厳しい経済制裁を要求しているにもかかわらず、北朝鮮は核兵器とミサイル発射システムをさらに製造し続けている。米国防情報局の2021年の報告書によれば、北朝鮮はすでに「核兵器の備蓄を保持している。外部の専門家は、北朝鮮が20~60個の核弾頭を製造するのに十分な量の核分裂性物質を生産していると見積もっている」。2021年のランド研究所の調査では、今の傾向からすると、その数は2027年までに151~242個に達すると結論づけている。さらに、北朝鮮はそれら核兵器を発射する多数の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)を自由に使用できるようになる。

ただし、北朝鮮が2017年9月以降、核兵器実験を実施していないことは、トランプ政権が首脳会談を含む米朝の直接対話に意欲を示した時期と重なるので、注意が必要である。また、北朝鮮は短距離ミサイルの実験さえも自主的にモラトリアム(一時停止)を採用した。短距離ミサイルの発射が再開されたのは、米政府との関係打開の見通しが立たなくなったことが明らかになったからである。核実験のモラトリアムもICBM発射のモラトリアムも当面は有効だが、この自制がいつまで続くかはますます不透明になってきた。

トランプ氏がかつて約束した北朝鮮とのオープンな関係は、同氏自身の外交チーム内での妨害と、議会民主党とその盟友である既成ニュースメディアによる冷笑するような党派的批判との犠牲になった。前者のおもな原因は、トランプ大統領が見当違いにも超タカ派のジョン・ボルトンを国家安全保障担当の大統領補佐官に任命したことである。後者では、トランプ氏は金正恩総書記の友人であり代弁者だと、民主党が絶えず中傷した。これらの要因が相まって、実のある交渉の可能性を命取りにも妨げている。その交渉が米朝の正常な関係につながり、世界でもとりわけ危険な発火点に緊張緩和をもたらすかもしれないのに。

ジョー・バイデン氏がホワイトハウスに入る前から、新しい外交政策チームが北朝鮮問題について斬新な考えを示す気配はほとんどなかった。北朝鮮を孤立させようとする無益なゾンビ政策への肩入れは、2022年1月のミサイル発射実験後、バイデン政権が新たな制裁を課したことで確かになった。米政府が軌道修正しなければ、北朝鮮がICBMと核兵器の両方の実験を再開するのは時間の問題である。

その結果を回避する唯一の方法は、トランプ氏が一時選んだ路線を再開し、北朝鮮との正常な関係を確立するハイレベルな交渉を追求することだ。それが意味するのは、制裁を解除し、北朝鮮と正式な外交関係を結び、朝鮮戦争を正式に終わらせる条約に調印する、その意志を持つことである。また、北朝鮮を核以前の時代に戻すという奇想天外な要求を放棄することも意味する。好むと好まざるとにかかわらず、北朝鮮は世界の核兵器保有国の一員であり、今後もそうあり続けるだろうし、高性能なミサイル発射システムを急速に完成させつつある。そのような能力を持つ国とは、少なくとも米国は対話することが不可欠である。北朝鮮を孤立させ、威圧しようとする戦略は、長い間、無益な活動であった。今やそれはきわめて危険なものとなっている。

(次を全訳)
North Korea's Missile Tests a Response to a Zombie US Policy - Antiwar.com Original [LINK]

2022-10-25

奴隷制は経済発展を妨げた

研究者、リプトン・マシューズ
(2022年10月18日)

「資本主義の新しい歴史(NHC)」は、不正確な点が多いにもかかわらず、広く称賛され続けている。批判的な論評によって信奉者たちの主張は打ち砕かれたが、多くの人々は、米国の経済発展の原動力として奴隷制と綿花の役割を誇張する、誤った思い込みに固執している。いくつかの産業は奴隷制を助長することに加担したが、その成功は決して奴隷による生産に依存していたわけではない。

むしろ、奴隷制は商業の発展を阻害するものだった。奴隷制に依存することで、物理的インフラや不動産開発への投資意欲が減退したのである。例えば、1830年代の運河ブームのピーク時には、北部の州では南部の州の5倍の距離の運河が建設された。奴隷は担保として徴収することができ、大きな富の源泉であったため、奴隷制は物理的資本形成を圧迫したのである。

さらに経済史家のギャビン・ライトは、奴隷は動産であるため、所有者は遠距離間でも借金をすることができ、自由州の慣習である地元の信用関係を構築する機会が制限されたと指摘している。奴隷制は、地域の信用ネットワークの形成を阻害し、南部の金融と起業の発展を妨げたのである。

さらに重要なことに、農園主が南部以外から労働力を確保できなかったことで、経済の活性化につながる新たな人的資本の吸収が妨げられた。労働力の自由な割り当てを認めていた北部の州とは異なり、南部は奴隷労働に依存していたため、移民を敬遠していたのである。また、農園主が高度な教育を受けた労働力を必要としないことから、南部は教育への投資が不足した。

農園主は自由白人を労働力として雇用することを好まなかったため、公教育への財政支出は決して優先されなかった。1860年当時、南部では学齢期の白人人口のわずか35%が就学していただけで、他の地域では72%だった(学期は70%長かった)のと対照的である。北部の州は、非エリートが活躍できるような包括制度を育て、より自由な環境を育んでいた。奴隷保有州は奴隷制がもたらす不平等により、経済成長を促す社会的・技術的な改善が遅れた。

「資本主義の新しい歴史」の主張とは逆に、奴隷制は経済的なハンデを示す場合が多い。ミシガン大学の研究者によると、米国の奴隷制地域は地価が低く、土地の集約利用も少なかった。奴隷制は開発に悪質な影響を及ぼし、奴隷制地域では、奴隷制に関わる土地価値の減少が、奴隷の富そのものの価値よりも大きかった。

奴隷制を産業発展の原動力とする以外に、「資本主義の新しい歴史」のもう一つの怪しげな戦術は、米国の発展における綿花の役割を誇張することである。南北戦争以前の綿花生産は国内総生産(GDP)の5%程度であり、主要な輸出品であったとはいえ、輸出がGDPの7%を超えることはなかった。米国には大きな国内市場があったため、十分な内需と域内貿易を生み出し、発展を促すことができたのである。

また驚くべきことに、綿花は米経済史で重要な位置を占めるが、米国にとって最も重要な作物ではなかった。米国の主要農産物はトウモロコシであり、1839年と1849年における南部の主要作物もトウモロコシだった。たしかに奴隷は綿花の生産に役立っていたが、綿花は奴隷がいなくとも育ったのである。南部で奴隷制が廃止された後、労働者階級の白人は南北戦争後に綿花畑を手に入れ、たやすく綿花生産に移行することができた。

また綿花は、米国内の産業中心地を結ぶ重要な結節点でもなかった。「資本主義の新しい歴史」は、綿花貿易の富が西部の農産物や北東部の製造品の需要を刺激したという経済学者ダグラス・ノースの主張を復活させたが、この主張には研究によって反論がなされている。南部は食料自給率が高く、北部の輸出品にとって重要な市場ではなかった。

さらに、トレバー・バーナードやジョルジオ・リエロは、米国の綿花が英国の産業革命の支点になったという主張を、やはり激しく論破している。「資本主義の新しい歴史」を唱えたスベン・ベッカート(ハーバード大学教授)にとって、奴隷制と綿花は切っても切り離せないものだ。しかし、米国の綿花は英国の産業主義の原動力にはならなかった。1793年にジョージア州で導入されたイーライ・ホイットニーの綿繰り機は有名だが、米南部が綿花の主要産地になったのは1810年代で、その地位はわずか一世代ほどしか保たれなかった。

加えて、奴隷制の比較研究によって、奴隷制が工業化と結びついており、暴力の行使によって綿花生産量が増加したという「資本主義の新しい歴史」の主張が誤りであることが証明されている。ヌノ・パルマらの2020年の論文によると、「奴隷制は経済成長や発展を促すどころか、ブラジルの工業化を妨げていた。また、農業生産性における奴隷制の役割について検討すると、米国と同様、暴力の行使では綿花大農園の生産性上昇を説明できない」という。

米国と同様、ブラジルでも奴隷制が工業化を阻害した。生産性の向上は、生物学的なイノベーションの結果であり、拷問で奴隷を脅して働かせたからではない。「資本主義の新しい歴史」は、政治活動としてはかなり成功しているものの、歴史として教えてはいけない。本当はプロパガンダなのだから。

(次を全訳)
Slavery Did Not Promote Capitalism: The New Economic History of Capitalism Is Simply Wrong | Mises Wire [LINK]

2022-10-24

中央銀行デジタル通貨は自由に反する

ケイトー研究所、ノーバート・ミシェル
(2022年7月18日)

元国際通貨基金(IMF)職員のエスワール・プラサド氏は最近のインタビューで、新著『お金の未来——デジタル革命が通貨と金融をどう変えるか』について語った。当然ながら、中央銀行デジタル通貨(CBDC)が話題になった。

現在、コーネル大学の貿易政策・経済学教授であるプラサド氏は、CBDCが金融政策に与える影響について、率直な評価を下した。

CBDCは金融政策に新たな機会をもたらすと認識すべきです。もし私たちが皆、現金の代わりに CBDC の口座を持っていたら、理論上は CBDC の口座の残高を減らすだけでマイナス金利を実施することができるかもしれません。ヘリコプターでの資金投下を行うことも非常に容易になります。もしすべての人がCBDC口座を持っていれば、簡単に口座の残高を増やすことができます。

プラサド氏の「ヘリコプターマネー」はインタビュー記事のタイトルにもなっているが、CBDCのヘリコプターマネーの裏側に注目しなければならない。マイナス金利を実施するために、CBDCの口座残高を減らすという点だ。

言い換えれば、中央銀行は金融政策を行うために、人々の口座からお金を取り上げるのである。

もちろん、単なる脅しでこと足りる可能性もある。例えば、米連邦準備理事会(FRB)の考えでは需要が不足しており、人々はもっと消費すべきだという場合、お金を取り上げるという単なる脅しで、人々はお金を使うようになるかもしれない。しかし、それは本当の自由社会ではない。

根本的に、この金融政策の「すばらしい新世界」は、政府が「あなたのお金は、本当はあなたのお金ではない」と言っているに等しい。財産権は、「公共の利益」と「国民経済の管理」の必要とやらに従属させられている。

プラサド氏は、この根本的な問題をあまり議論していない。その代わりに、中央銀行のヘリコプター散布が中央銀行の独立性にどう影響するかに焦点を当てている。彼はこう警告している。

リスクはあります。なぜならヘリコプターマネーは一面において実質上、財政政策であり、もし中央銀行が財政政策の実施に関して政府の代理人とみなされ始めたら、中央銀行の独立性にリスクが生じ、最後はあまり良くないことになるかもしれません。

もちろん、中央銀行の独立性のリスクやヘリコプターマネーが財政政策であることについては、プラサド氏の言うとおりだ。しかし、中央銀行はすでに政府財政の代理人だ。例えば、FRBは米国債の市場を支えており、現在、国民が持つ連邦債残高の約27%を保有している(2020年5月の21%から上昇)。

財政政策と金融政策の融合は、CBDCやヘリコプターマネーに関係なく、懸念されることである。すべての中央銀行に固有の構造問題である。

しかし、この問題の本質を議論する経済学者はほとんどおらず、CBDCに関連してこの問題に取り組む中央銀行家はさらに少ない。決済システムの問題に対して、CBDCよりも民間による解決策を支持する中央銀行家は、もっとまれである。

CBDCの真実は、政府がその特権的地位を守り、人々のお金に対して、より強い支配力を行使しようとするものだ。

しかし、お金そのものは公共財ではない。お金の生産が政府によって日々侵食されているからといって、公共財になるわけではない。CBDCなるものが存在すること自体、民間市場で起こった決済の革新に負うところが大きい。

CBDCの真の危険は、もしお金が純粋に電子化され、政府によって直接提供されるなら、政府が人々に対してなしうる統制の程度に限界がなくなることだ。CBDCによって、すべての人の口座の入出金を連邦政府が完全に統制できるようになる。

政府の統制がここまでくると、経済的・政治的自由とは相容れない。

政府は民間のイノベーションと競争を支援することで、金融市場の利用を促し、金融サービスのイノベーションを確かにするべきだ。政府の独占と規制を減らし、個人向けCBDCの発行を見送るべきである。

(次より抄訳)
Central Bank Digital Currencies and Freedom Are Incompatible | Cato Institute [LINK]

2022-10-23

サッチャーの伝説

歴史家、ブルース・バートレット
(2011年7月5日)

米国の共和党は、英国のマーガレット・サッチャー元首相を尊敬してきた。1979年のサッチャーの当選は、共和党にとって大きな喜びであり、自分たちの考えが上向きであることの証左であり、1980年に世界的な保守化の流れの中でロナルド・レーガンが米大統領に選ばれることへの確信を高めた。

サッチャー氏は、1990年に首相・保守党党首の座を追われて以来、米国の右派の間でその名声は高まる一方である。特に今がそうだ。

サッチャー氏は英国政治史に燦然と輝く人物であり、賞賛に値するが、その政権時代に関する保守派の伝説は、事実と食い違っている。伝説では、サッチャー氏はレーガン以上に盛んに減税と福祉国家の縮小を推進したとされている。しかし、それは事実ではない。

この表が示すように、英国の国内総生産(GDP)に占める税金の割合は、サッチャー氏の最初の7年間にむしろ急増し、その後数年間は減少している。しかし、最後の7年間は、就任当時よりもかなり高くなっている。歳出も最初の7年間は増加し、その後は減少した。

サッチャー氏の税制を知る者にとっては、この数字は驚くべきものではない。就任早々、個人所得税の最高税率を83%から60%に引き下げたが、基本税率は33%から30%にしか下がらなかった。そして1980年には25%の軽減税率が廃止され、30%が最低税率となった。

さらに重要なことに、サッチャー氏は1979年の減税の代償として、付加価値税を8%から15%にほぼ倍増させた。サッチャー氏がとんでもない間違いを犯していると考えた者の中に、米経済学者アーサー・ラッファーがいた。1979年8月20日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿したラッファーは、「片方の手で取り、もう片方の手で与える」とサッチャー氏を叱責している。

「サッチャー予算は、経済的影響の少ないところで税率を下げ、経済活動に直接影響を及ぼすところで税率を上げている」とラッファーは訴えた。

米作家ジョージ・ギルダーは、ベストセラー『富と貧困』の英国版(1982年)の序文で、減税も歳出削減もできなかったとしてサッチャー氏を強く批判している。「サッチャー政策の正味の効果は、事実上すべての納税者に対する大幅な増税であった」

サッチャー氏は、第二次世界大戦後に国有化された多くの産業や企業を民営化し、労働者階級の大部分が住んでいた英国の公営住宅の多くを売却したが、英国の福祉国家の規模を縮小することはほとんどしなかった。

とりわけサッチャー氏は、他の保守党員と同様、すべての英国人に国民健康保険を提供する国民医療制度(NHS)を強く支持した。

英財政研究所が英国の長期の歳出傾向を調べたところ、サッチャー氏は、戦後増加を続けてきた歳出をほぼ横ばいにした。これには多くの政治的努力を必要とした。保守党が議会を支配し、英国の首相は米国の大統領よりも憲法上の制約がはるかに少ないにもかかわらずである。しかしサッチャー時代の終わりに、福祉国家はまだ無傷だった。

フィナンシャル・タイムズ紙のコラムニスト、マーティン・ウルフ氏はこう語った。「すべての偉大な政治家と同様、サッチャーはイデオローグ(理論家)ではなくプラグマティスト(実践者)であり、戦う相手を慎重に選んだ。福祉国家を正面から攻撃すれば、党が選挙で不利になるとわかっていた」

ウルフ氏によれば、サッチャー氏は減税よりも財政安定と赤字削減をはるかに重視しており、(政府の)債務不履行が「賢明だという考えは、彼女にとっては非常識だっただろう」という。

サッチャー氏はレーガンと同じく、国を保守的な方向に進めた。しかしサッチャー氏の財政における功績は、今日の共和党員の多くが考えているよりもはるかに控えめなものだった。

サッチャー氏から学ぶべきことは、強力なリーダーが議会を完全に支配していても、政府の規模を縮小することは非常に困難であり、そのためには何年もの苦闘が必要で、結局はあまり縮小しない、ということだろう。

(次より抄訳)
Bruce Bartlett: The Legend of Margaret Thatcher - The New York Times [LINK]

2022-10-22

レーガンの美化

経済史家、クリス・カルトン
(2018年9月15日)

保守派の間で、ロナルド・レーガン(元米大統領)は神格化されている。多くのリバタリアン(自由主義者)の間でさえ、レーガンは最も偉大な大統領の一人だとみなされている。

レーガンがロマンチックに語られる理由は、理解しがたい。しかしロナルド・レーガンは、保守とリバタリアンの問題に関する気の利いた言い回しでは最高なものがあり、おそらくそれが魅力の理由なのだろう。しかし大統領としてのレーガンの政策を見ると、保守派、そしてとくにリバタリアンが反対するものをすべて代弁しているように思える。言葉と政策を比べてみよう。

レーガンはある一般教書演説で、連邦政府の財政赤字を激しく非難した。そこで述べた警句が、「カネを使って金持ちにはなれない」というものだ。この言葉は、保守派やリバタリアンの間でよく引用されるフレーズの一つである。

民主党は偽善的にも、レーガン政権下で行われた大規模な歳出増を指摘するのが大好きだ。しかし、たとえそれが間違った理由からであったとしても、民主党のその観察は正しい。レーガンはカネを使って米国人を金持ちにしようとはしていなかったかもしれないが、たしかに支出はしていた。

1982〜1989年度(レーガンが予算に署名したとみられる年度)に、連邦政府の支出は60%以上増加し、1兆1790億ドルから1兆9040億ドルになった。

その言い訳としてよく言われるのが、冷戦の軍拡競争である。かりにこれを連邦赤字急増のもっともな理由として受け入れても(一方で前任大統領たちの同じ行為を非難するのは偽善だが)、軍事費の増加は全体の増加の一部を占めるにすぎない。

教育への支出は、教育省の廃止というレーガンの果たせなかった選挙公約にもかかわらず、68%も増えた。医療費は71%増だ。レーガンは政府補助金やその他無数の種類の国内支出も増やした。

ここでよくある言い訳は、軍事費大幅増の「必要性」を受け入れた(国防総省という財政のブラックホールに対し予算削減を提案しようものなら、共和党は選挙に負けるという破壊的な前例を作った)後に、それと引き換えに国内支出で妥協を強いたのは民主党の支配する議会だ、というものだ。

たとえそれがいくばくかは真実だとしても(たしかにそうだろうが)、それは保守の原則に多くの妥協を許し、レーガンの連邦赤字に関する偽善を広めることに言い訳をしているだけだ。その言い訳は、レーガン派がよく口にする、レーガンの軍事支出はソ連を崩壊させる戦略であって、社会主義の支出論理(政府機関、この場合は軍隊に金をつぎ込む)をそっくり真似たのだという称賛に触れもしない。それはほとんどジョージ・W・ブッシュ(元米大統領)の仰天するような発言、「自由市場の制度を守るために自由市場の主義を捨てた」の前触れにしか見えない。

しかし、レーガンは政府支出に関してどんな欠点があったにせよ、減税でそれを補ったはずだ、という反論がある。

この主張は、保守派によってさらに神話化されているようだ。保守派はレーガン時代の支出については言い訳をするが、レーガンの税制についてはまったくの誤りを信じがちである。

レーガンは就任1年目の(1981年)8月、経済回復税法に署名している。これはレーガンの遺産の中で、実際に支持できるものである。所得税の適正税率は0%だというロン・ポール(元米連邦下院議員)の意見には賛成だが、経済学者ミルトン・フリードマンの言葉を借りれば、いついかなる理由であれ減税を支持したい。この法案はそれを実現した。

保守派が忘れがちなのは、レーガンの他の税制法案である。その翌年、レーガンは「税制公平・財政責任法(TEFRA)」に署名した。この法律により、多くの税金が引き上げられ、またある種の控除も廃止された。ここで留意すべきは、保守派は「民主党支配の議会」のような言い訳はできないということである。この法案の増税は、上院がまだ共和党に支配されていたときに上院の修正で追加された。この事実は、レーガンが10年後に全米不動産協会で語った「1兆ドルの負債があるのは課税が足りないからではない。支出が多すぎるからだ」という別の有名な警句に真っ向から対立する。

まだ共和党が優勢だった1982年、レーガンはトラック業界とガソリンへの増税も行い、それはむしろ32万人の雇用を生む経済刺激策だと言った。この種の税と支出の政策は、ケインズ(介入主義を唱える経済学者)の作戦帳からそのまま出てきたものだが、保守派は偉大なオーストリア学派の経済学者を読んだレーガンの言葉を思い出したいのだ。「いつもむさぼるように読んでいるよ。——ミーゼスやハイエク、バスティアの経済論を読んだ」。読んだかもしれない。ミーゼス研究所には、『ヒューマン・アクション』(ミーゼスの主著)を送ってくれたマルギット・フォン・ミーゼス(ミーゼスの妻)宛のレーガン大統領の感謝状もある。だがレーガンがそれらの本を読んだとしても、無視したと思われる。

同様に、翌年の給与税(日本の社会保険料)引き上げも、レーガンに強制されたものではない。むしろレーガンが要求したのである。1984年の赤字削減法も可決したが、これも増税によって赤字を減らそうという矛盾した試みであった。

1981年の減税と並んで、保守派はレーガンの1986年の税制改革法案を高く評価しがちだ。よく称賛される法律で、個人所得の最高限界税率を50%から28%に引き下げた。しかしこの法案は減税というより、納税義務の再編成であった。個人所得税の引き下げに加え、多額の税額控除を廃止し(これ自体が事実上の増税)、退職金に関する制限を強化した。また代替ミニマム税(AMT。節税対策で導入された制度)の基準を拡大し、税負担の傘を広げて多くの中産階級の納税者に影響を与えた。

保守主義、そしてとくにリバタリアニズムが、多額の支出と課税に反対する思想だと主張する限り、レーガンはありえない英雄のように思われる。いわゆる「レーガン共和党」がこれらの問題について口にする言い訳は、根拠に乏しく誤った情報でしかない。レーガンはその言葉と行動を比較すると、他の政治家と何ら変わりはなく、明らかな偽善者に見える。

(次より抄訳)
Romanticizing Reagan | Mises Wire [LINK]

2022-10-21

古典的自由主義と帝国主義は水と油

ケイトー研究所シニアアナリスト、マリアン・テューピー
(2017年12月16日)

2017年8月はインド亜大陸が分割され、ヒンズー教徒主体のインドとイスラム教徒主体のパキスタンが誕生し、(インド・パキスタン戦争の)虐殺が始まってから70年の節目の年である。英国はこの記念すべき年に、多くの知的自責の念に駆られた。かつて植民地保有国だった頃には、これら古い植民地を手放すまいとしたにしても、である。

一般にリバタリアン(自由主義者)は、西洋の価値観を他国の人々に押し付けることには賛成しない。たとえ政治的・経済的自由が望ましく有益だとたまたま信じていても、である。昔からそうだった。アダム・スミスは熱心な反帝国主義者で、帝国は「金の無駄遣い」だと考えていたし、リチャード・コブデンは自由貿易と外交政策における不干渉主義を両立させるべきだと考えていた。

ニーアル・ファーガソンは2004年に出版した『大英帝国の歴史』でコブデンの言葉を引用し、「わが国の商業に関する限り、武力や暴力によって海外を維持することも、大きく傷つけることもできない」と述べている。「わが国の市場を訪れる外国の顧客は、英国の外交官の権力や影響力を恐れてここに連れて来られたわけでもなく、わが国の艦隊や軍隊に捕らえられたわけでもなく、わが国に対する愛情によって引き付けられたわけでもない...欧州の商人が、世界の他の国と同様に、英国の港に船を出し、英国の労働生産物を積み込むのは、もっぱら自己利益の要請によるものである」

なぜ、この一見古く見える歴史を蒸し返すのか。帝国主義を批判するのは、古典的自由主義者やリバタリアンだけではないからだ。共産主義者とその仲間は、ソビエトが東欧と中央アジアに築いた広大な帝国領域を無視する一方で、反帝国主義のバトンを受け取り、それを非常に効果的に使って、自由な市場経済を支持する者をネオ帝国主義者として叩くのである。実際、経済発展に関する文献の中で最大かつ最も悪質な神話の一つは、資本主義が植民地などで多数の人々を搾取する一方で、植民地保有国などで少数の人々だけを利するというものだ。

この神話の起源は、カール・マルクスにさかのぼる。マルクスは、資本主義のもとでは、競争が利益を押し下げ、その結果、労働者の搾取を強化する必要があると考えた。このドイツの経済学者の間違った理論(一人当たりの世界平均所得は過去200年間に10倍になった)は、ウラジーミル・レーニンが1916年に出版したパンフレット『帝国主義』の中で更新された。

レーニンの時代には、西側先進国の労働者は、マルクスが『資本論』(1867年)を書いたときよりも明らかに裕福になっていたので、更新が必要だったのである。ソビエト連邦の最初の独裁者レーニンは、新しい命題を考案した。搾取された植民地から富が西側諸国に流入したため、西側諸国の労働者の生活水準はマルクスの主張とは逆に向上し続けたという。レーニンの主張は第三世界の指導者たちに大きな影響を与え、彼らは資本主義を否定し、代わりにある種の社会主義を受け入れた。今日でも発展途上国の大部分は、西側諸国の大部分に比べて経済的な自由度が低いままである。

植民地主義とそれに対する発展途上国の反応は多くの不幸をもたらしたが、西洋はその帝国主義の過去から無傷では済んでいない。英国の作家ダグラス・マレーはその新著『西洋の自死』で、植民地時代の罪悪感がいかに西洋の自信を失わせ、西洋人をグローバルな富の分配の道徳(=正義)に対して不安な気持ちにさせるかを説いている。

しかし、経済学者ディアドラ・マクロスキーが『ブルジョアの品格』で示すように、「植民地の富の蓄積」によっては、数学的に言えば、1800年代初頭から西洋の生活水準が16倍になったことを説明できるわけがない。同様に、ノーベル経済学賞受賞者のアンガス・ディートンやメリーランド大学哲学教授のダン・モラーも、西洋の繁栄は西洋の帝国拡大より先に起こったことを示した(つまり、西洋帝国主義は西洋の繁栄の原因というよりは、西洋における財産増大の結果だった)。

全体として、帝国主義は悪い考えであり、そんなものはいらない。とはいえ、帝国主義は西欧の繁栄の根源も程度も説明しないし、説明できない。

(次を全訳)
Classical Liberalism Is Incompatible with Imperialism - HumanProgress [LINK]

インフレ税で人々を貧しくする政府

アナリスト、アンドレ・マルケス
(2022年8月15日)

供給ショック(財・サービスの供給を変化させ、その価格を変化させるような突発的な出来事)は経済の一部の価格を上昇させるが、財やサービスの価格全体を上昇させるわけではない。ある財の供給ショック(価格が上がる)があっても、通貨供給量が変わらなければ、経済における様々な財やサービスの需要と供給の新しい均衡が生まれる(通貨供給量は同じで、個人は予算配分を変えなければならないので、需要が少なくなる財の価格は下がる)。

これらの財の供給ショックが終われば、供給が増え、価格が下がる(再び需給均衡が変化する)。国のすべての(あるいはほとんどすべての)価格を同時に上昇させることができるのは、流通するお金が増えた場合だけである。お金の価値が下がり、財やサービスの支払いに必要な通貨単位が増えるからだ。

インフレーション(訳注・通貨供給量の増大。インフレの本来の意味)とそれに伴う物価の上昇は、偽装された税である。米政府は支出を増やし、財政赤字を増やした。そこで国債を増発し、そのほとんどがマネタリーベース(M0)の増加を通じ、連邦準備理事会(FRB)に買い取られた。そして政府は新しく作られたお金を使い、国に流通するお金の量(M1、M2)を増やした。これは物価を上昇させる傾向がある。

なお、政府は支出を増やす際、同じ規模の増税をしなかった。それでも政府支出増加のコストは、国民が支払う(政府が与えるものはどれも無料ではない。所得が低く、税金で最も苦しむ貧困層であってもだ)。税金によってではなく、通貨量の増大のために起こった物価上昇によってである。

また、政府の借り入れはそれ自体ではインフレを招かないことも覚えておこう。国債がすべて市場(投資家や金融機関)に吸収されるなら、中央銀行による新たなお金の創出はないからだ。

しかしこの場合でも、政府が借金をすると、生産的な投資(経済の生産性を上げ、物価を下げることができる)に使われるはずの資源を流用してしまうので、経済はダメージを受ける。さらに、政府が負債を抱えることは、利子コストを意味する。その利子(負債が大きくなるほど増加する傾向がある)を支払うために、政府はしばしば増税やさらなる借金をする。金利コストは、政府が経済から収奪する資源を増やすことになる。

物価上昇はすべての人、特に(資産の少ない)貧しい人々や中流階級を苦しめる。物価上昇のせいで、個人は予算削減を余儀なくされ、商品やサービスの購入量が減る。生活水準は下がる。せいぜい、以前より貯金を減らして予算を減らさないのが精一杯だ。

また物価上昇により、貧困層や下流中産階級は、より大きな影響を受ける。なぜなら、(所得に予算削減をしないだけの余裕がある)富裕層や上流中産階級が貯蓄や投資を減らすことになるからだ(もちろん彼ら自身はこの変化をほとんど感じていないが、国全体でみれば貯蓄や投資が大きく削減される)。経済への投資が減れば、生産性は上がらず(あるいは下がり)、中長期では物価が上昇しがちになる。

しかし富裕層や上流中産階級であっても、インフレーションによる物価上昇の影響を強く受けることがある。たとえば、小売業を想像してみよう。物価が上昇すれば、個人(とくに大多数を占める貧困層や中流以下の層)は特定の商品を買わなくなる(何しろ、そうしない余裕があるほど所得が高くないのだ)。

したがって、もし値上げをしても、インフレによって生産者や小売業者のコストが上がることも考慮すると、企業の利益は減少する(あるいは赤字になる)。数カ月前、米ディスカウントストア大手ターゲットが減益になったのもこのためである。大規模小売企業のオーナーや商品を生産する企業は利益が減り(あるいは損失が生じ)、これら企業の株式を購入する投資家や金融機関も損失を被る(株式の価値が下がり、企業は配当を減らすか無配にする傾向にあるため)。

したがって、政府が引き起こしたインフレによって、誰もが損をすることになる。しかし、最も被害を受けるのは貧困層と中流以下の人々である。

政府はいつも、貧しい人々や中流階級を助けると主張する。しかし政府のコスト(税金、負債、規制、インフレ)のほとんどを負担しているのは、まさにこの人たちなのである。結局のところ、中流階級以上の富裕層は、弁護士や会計士、税理士を頼り、税金を少なくするために資産を配分することができる(すべて合法的に)。

富裕層が節税するのは良いことだ(そうでなければ、経済への投資はさらに減り、物価はさらに上昇することになる)。金を大量に購入したり、インフレの程度の小さい通貨で値付けされた資産に投資したり、その他の資産防衛策に頼ったりすることもあるだろう。

最貧困層は実際には、政府にお金を払っている。貧しい人々や中流以下の人々が豊かになれないのは、ほとんどの場合、まさに政府のせいなのだ。貧困を永続させるのは政府である。貧困層を助けるふりをして、自分の存在を正当化している。結局のところ、政府によって生み出された通貨のインフレーションがなければ、経済の生産性が上がるにつれて物価は下がる傾向にあるから、生活水準は上がるだろう。

(次より抄訳)
Inflation Makes People Poorer (And It's the Government's Fault) | Mises Wire [LINK]

2022-10-20

ウクライナ・台湾に軍事支援をやめよ

リバタリアン研究所、パトリック・マクファーレン
(2022年10月13日)

米国民に関係することだが、ロシアの侵攻に対するウクライナの反応は、一言にまとめられる。「ゼレンスキーの要求」だ。

今日まで、米政府のエリートと政治家は喜んで公費を投じ、その過程で私腹を肥やしてきた。

この記事の執筆時点で、米国の対ウクライナ支援は約675億ドルに達する。ロシアの2021年の軍事予算全体よりも大きい。国務省によると、この支援には152億ドルの直接軍事援助が含まれている。現在では編集されているCBSの現場活動家へのインタビューによれば、この戦争支援の60~70%は前線に届かないが、それでも行われている。

米国の納税者は、ウクライナ軍に多くを支援しているだけでなく、ウクライナ政府も支援しているのだ。(新型コロナが流行した)2020年に「不要不急」とみなされた労働者階級の米国人、つまり自分の職場が閉鎖され、破綻させられるのを経験した人々は、いまや国内とウクライナの両方に社会保険料を払わされているようなものだ。

米国の納税者の払う税金はすでにロシアの2021年軍事予算に匹敵するが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はさらに要求するばかりだ。10月4日の電話会談で、バイデン米大統領はゼレンスキー大統領に対する新たな6億2500万ドルの支援について確認した。その内容は、特に高機動ロケット砲システム(HIMARS)4基、155ミリ榴弾砲16基、155ミリ砲弾7万5000発、精密誘導155ミリ砲弾500発、105ミリ榴弾砲16基、120ミリ迫撃砲3万発、耐地雷・伏撃防護車両(MRAP)マックス・プロ200台の追加である。

この新たな恩恵にもかかわらず、同じ電話の中でゼレンスキー氏はバイデン氏に対し、ロシアの飛行機を撃墜する防空システムをウクライナに提供するよう促した。当然ながら、米政府のエリートは兵器システムを提供し、ゼレンスキー氏の要求に従って出荷を早めた。

新型コロナに対する米政府の対応と同様、ウクライナに対する無制限の支援は広く支持されており、こうなるのも当然だ。にもかかわらず共和党員の中には、横暴な支出に果敢に反対する者がいる。注目すべき反対派はランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)、ジョシュ・ホーリー上院議員(ミシシッピ州)、トーマス・マッシー下院議員(ケンタッキー州)、マージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州)、マット・ゲッツ下院議員(フロリダ州)である。

テイラー・グリーン、ゲッツ、ホーリー各議員のような共和党員は、果てしない戦争、国内社会の衰退、国際的評判の失墜など、帝国がもたらす代償を理解している。米露の戦争は、米国人がこれまで経験したことのないようなものになることを理解している。ロシアとの戦争への非難を「弱いジョー・バイデン」への批判でごまかしているものの、この紛争を誘発し、「最後のウクライナ人まで」紛争を長引かせようとしているのは西側諸国だと理解している。この紛争は、たとえ代理戦争であったとしても、戦争で疲弊した労働者階級の米国人は望まないし、代償を払えないと知っている。

したがって彼ら共和党議員は、ウクライナ紛争を利用して米国民から搾取している同じ政府エリートが、台湾の蔡英文総統を次のゼレンスキーとして育てていることに気づかなければならない。

米国の台湾への軍事援助は、伝統的に武器売却という形で行われてきたが、それも間もなく変わるかもしれない。ボブ・メネンデス(民主党)、リンゼー・グラム両上院議員(共和党)は、米中関係を根本から見直す台湾政策法案を提出した。

簡単にいえば、台湾政策法案とは台湾に65億ドルの軍事支援を行い、「主要な非北大西洋条約機構(NATO)同盟国」としての利益を与え、台湾政府への武器売却を迅速化し、中国の侵略があった場合には制裁を義務付けるというものである。台湾向けに最大20億ドルの融資も許可する。

9月14日、同法案は上院外交委員会を通過した。同法案の支持者は現在、同法案を単独で成立させるのではなく、817億ドルの2023年国防権限法(NDAA)に「大部分」を組み入れることを求めている。

さいわい10月10日には、対中制裁を適用し、台湾を「主要な非NATO同盟国」とする外交的文言が、NDAA版の台湾政策法から削除されたことが明らかになった。しかしこの新たなNDAA版台湾政策法案は、当初提案された65億ドルの直接軍事援助をほぼ倍増させ、総額100億ドルにする。

修正NDAAの最終採決は、11月の中間選挙後に行われる予定だ。

台湾政策法を提出したメネンデス、グラム両上院議員はともに、ウクライナとゼレンスキー大統領の熱烈な支持者である。

(テイラー・グリーン、ゲッツ、ホーリーら)上記の共和党議員は正しく、ウクライナ支援に反対した。同じ理由で、台湾の蔡英文総統を、支援を当然と考え、恩知らずなゼレンスキー氏のような、米国の「給付」対象に加えることに反対すべきである。ランド・ポール議員のように、あらゆる形の台湾政策法案に反対すべきだ。

(次より抄訳)
Nothing But Welfare Queens: American Aid to Zelensky and Tsai Ing-wen | The Libertarian Institute [LINK]

史上最悪の経済予測とその教訓

経済学者、ウォルター・ブロック
(2022年10月14日)

経済学者は、自分にユーモアのセンスがあると示すために、経済事象の将来の成り行きを予測する。もしそれが正確にできれば、経済学者は皆、大金持ちになっているはずだ。しかし実際にはなっていない。快適ではあるが、すばらしく金持ちではない(陰鬱な科学=経済学=を楽しんではいる)。

なぜ未来を予測できないのか。なぜなら世界は複雑であり、何百万ものことが同時に起こっているからだ。例えば、もし他に何も変化がなく、政府が通貨供給量を増やせば、必ず物価が上昇することはわかっている。しかし、それが経済における唯一の変化だという「他のすべてが一定」の仮定は、実際には起こらない。人々は万一の場合に備えて買い控えをするかもしれない。そうであれば、同じ量の商品・サービスの購入に向かうお金が増えることで物価上昇を誘発する傾向は、いくらか緩和されるだろう。

どの程度緩和されるか。それは買い控えがどの程度進むかによるが、その点について、未来を見通す水晶玉はない。米連邦準備理事会(FRB)や中央銀行が通貨の流通量を増やすかどうかもわからない。インフレが今後どうなるかは、FRB当局者の出方しだいだが、それについてもまったくわからない。おそらく彼ら自身も知らないのだろう。さいわい経済法則は存在するが、未来を見せてはくれない。

別の例を考えてみよう。経済法則によれば、最低賃金の水準が上がれば、他に何も変化がない限り、低技能労働者の失業率は上昇する。しかし、物事は永遠に変化し続ける。最低賃金が上昇するにつれて、非熟練労働者の生産性を向上させる技術革新が起こる可能性は十分にある。その場合、その力が十分強力で、法律で義務付けられた最低賃金水準の上昇が緩やかであれば、最低賃金の上昇によって失業する労働者は一人もいないかもしれない。

ここで私は、オーストリア学派経済学の見解を述べていることを告白しておかなければならない。主流の経済学者は同意しないだろう。ノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマン(オーストリア学派ではない)によれば、「仮説の妥当性を検証する唯一の方法は、予測と経験の比較である」という。つまり、ある主張が真実であれば、それは正確な予測につながるはずだというのである。

しかし経済学の歴史は、誤った予測の歴史である。

ポール・クルーグマンもノーベル経済学賞受賞者である。クルーグマンの1998年の予測は「インターネットの成長は急激に鈍化するだろう」というものだった。おやおや。

これだけではない。

アーヴィング・フィッシャーは株式市場の好況を予測した。しかしフィッシャーの過ちは、1929年の大暴落の直前にそれを実行したことだった。

1968年、『人口が爆発する!』の著者ポール・エーリックが、今後数年間に大量の飢餓が発生すると予測した。しかし、肥満の方がはるかに大きな問題であることがわかった。

1987年、ラビ・バトラはその著書で1990年の世界恐慌を予言した。しかし、そうはならなかった。

オーストリア学派が経済予測を断固拒否するのは、人間の力が限られているためだと思う。経済の現実を説明し、そのかなりの部分を理解することはできるが、「他のすべてが一定」でない限り、少なくとも経済学者の立場では予測することはできない。

知的な謙虚さには大きな価値がある。

私は、いつの日か主流の経済学者がこの点に関し、自分たちのやり方の誤りを理解するようになると予測しているのだろうか。そうなればいい。しかしオーストリア学派経済学者として、予測はやめておこう。

(次を全訳)
What the Worst Economic Predictions in History Can Teach Us about Economics - Foundation for Economic Education [LINK]

2022-10-19

トラス英首相はイングランド銀行の犠牲

エコノミスト兼ファンドマネジャー、ダニエル・ラカール
(2022年10月18日)

奇妙な時代に生まれたものだ。世界経済問題の解決策として大規模な赤字財政支出と通貨供給を猛烈に擁護したのと同じ人々が、今度は英国の債券・通貨市場の混乱を赤字拡大予算のせいにしているのだから。

英国市場混乱の原因をすぐさまリズ・トラス英首相の予算のせいにした専門家と呼ばれる人々の中に、2週間前から円の暴落が続き、日銀が介入を余儀なくされていることついて、何も言わない人がいることに驚く。

なぜ多くの人がトラス首相の「ミニ予算」が価格変動の原因だと考えたのだろうか。ユーロ、円、ノルウェークローネ、ほとんどの新興国通貨が今年に入ってから米ドルに対し、英ポンドと同等かそれ以上の下落に見舞われているのにである。債券市場はどうだろうか。今年は世界中の債券にとって1931年以来最悪の年であり、先進国や新興国の国債・社債の価格暴落は、英国と驚くほど似ている。

財政赤字は問題ではなく、主権国家は好きなようにお金を使い、通貨を印刷できる(「拡張政策」と呼ばれる)と言うのと同じ経済学者が、支出を増やし、減税する英国のケインズ主義予算は経済を破壊する可能性があると言う。しかしこの経済学者は、日本が減税もせず、支出と借金という見当違いの財政政策を維持したまま、大規模な円買い介入をしなければならなかったことを忘れている。

英国の年金基金が国債を売っているのは、英国や他国の予算が信用できないからではない。中央銀行が債券を絶えず買い戻すことで価格を上昇させることができると信じ、人為的な金融緩和で生じた債券バブルに一心不乱に飛び込み、買い入れたマイナス金利の国債を売っているのだ。

英国の年金基金の積立不足は、ミニ予算による問題でもなく、英国だけの問題でもない。非常識な通貨供給によってごまかされた、2019〜20年から存在する巨大な問題だ。米国の州年金基金の世界的な未積立債務は、リーズン財団によると2021年にすでに7830億ドルで、2022年には1兆3000億ドルに増加した。公的年金の積立率は2021年で85%に過ぎず、2022年には75%を割り込んでいる。

マイナス金利と通貨大量供給の時代に何が起こったのか。年金基金は債務連動型運用(LDI)戦略を用いていた。ほとんどのLDI戦略は、インフレと金利のリスクをヘッジするためにデリバティブ(金融派生商品)を使用していた。インフレが始まり、金利が上昇するとどうなるのだろうか。「金利が上昇するにつれ、LDIポートフォリオで保有されていたデリバティブの想定元本が減少した。その結果、追加担保差し入れ義務が拡大した。金利上昇のスピードは、一部の年金が担保請求に応じるために運用資産を清算しなければならないことを意味する」と、投資協会の9月最新リポートと「年金と投資」紙のブライアン・クローチェ氏は述べている。

LDI戦略の総資産は、2021年までの10年間でほぼ4倍の1.6兆ポンド(1.8兆ドル)に膨れ上がっている。英年金規制当局(TPR)とロイター通信によると、英国の確定給付型年金のほぼ3分の2がLDIファンドを利用している。トラス首相やクワシ・クワーテング前財務相にこの狂気の責任はない。イングランド銀行のマイナス実質金利政策と大量の流動性注入が原因だ。クワーテング氏とトラス氏が非難されるべきは、主流のケインズ派経済学者ほぼすべてが擁護する財政支出と金融緩和によるバブルの宴が、いつまでも続くと信じたことだ。

この数年、英国や先進国の政府は、お金が安くて豊富だったため、財政の不均衡に注意を払わなかった。赤字は急拡大し、支出は抑制されず、問題はイングランド銀行のように、国債の正味発行額の100%以上を購入した中央銀行のバランスシートの中に隠されていた。何年にもわたってお金を印刷し、債務を過去最高水準まで増やした後、止まらない高インフレが発生した。今、中央銀行は金利を引き上げ、通貨供給量の増加を抑える必要がある。ちょうど債券ファンドがマイナスの名目・実質利回りで有害な債券を積み上げているときだ…。そして金利引き上げは、追加担保のコストが上昇し、損失が耐えがたいものになることを意味する。

英国の年金基金は、追加担保の増大に伴い、保有する流動資産を処分する必要がある。何年にもわたる通貨の大量発行とマネタイゼーション(財政赤字の穴埋め)の後にインフレが到来し、世界中の投資ファンド、特にユーロ圏、英国、日本では、名目および実質の巨額損失で運用資産が崩壊するのを目の当たりにしている。追加担保が発生すると、多くの基金が最も流動性の高い資産、英国では英国債、他の国ではそれぞれの国債を売却しなければならなくなる。

トラス氏やクワーテング氏は、過去数年の狂気やリシ・スナク元財務相による超ケインズ主義的な予算に責任はない。トラス氏やクワーテング氏が非難されるべきは、ケインズ主義の狂った赤字政策という薬をもう一回服用しても害はないと信じていたことだ。

クワーテング氏の更迭は、現代貨幣理論(MMT)の信奉者らによって、問題はばかげた減税であって、長年にわたる通貨増発や赤字拡大ではないと正当化するために、犠牲にされたにすぎない。

英国や日本で起こったことは、ユーロ圏でもすぐに起こりそうだ。ユーロ圏では、数年にわたる金融緩和と無謀な刺激策で、120億ユーロ以上のマイナス金利の債券が積み上がっている。

トラス首相には、20年にわたる狂った金融政策と無責任な財政政策の責任はない。彼女が非難されるべきは、不必要な経費を削ることなく、支出を増やす予算である。

皮肉なことに、とんでもない赤字や借金を擁護する人々は、それが政府の規模を拡大することで生じるのであれば、問題ないと感じる。悪いのは減税というわけだ。

ミニ予算に関する政治分析には驚かされる。英議会では誰も支出を削減する必要を感じていないようだが、それらの経費は積み重なり、年単位になる。つまり、景気変動に変化があると、税収が変動するため財政不均衡が大きくなり、それに伴って通貨の増刷が必要になる。増税すれば、景気不景気にかかわらず、毎年決まって歳入が増えるという前提は、官僚でなければ正当化できないだろう。

(次を全訳)
The Bank of England Made Liz Truss a Scapegoat | Mises Wire [LINK]

経済を破壊し、ノーベル賞をもらう

元米連邦下院議員、ロン・ポール
(2022年10月17日)

バーナンキ元米連邦準備理事会(FRB)議長は、銀行の破綻に政府がどう対応すべきかについての著作で、2022年ノーベル経済学賞を受賞した。銀行が破綻した際の政府の対応策に関する助言でバーナンキ氏を称えるのは、放火犯に火災安全賞を与えるようなものだ。

バーナンキ氏が議長になったのは、前任のアラン・グリーンスパン氏がハイテクバブル崩壊と9・11テロをきっかけに作り上げた、住宅バブルが破裂したときだった。住宅市場が崩壊すると、バーナンキ氏は議会やブッシュ政権と協力し、大手銀行やウォール街の企業を救済した。

メルトダウン(バブル崩壊)後の数年間、バーナンキ氏率いるFRBは、経済を「刺激」しようとした。大規模な資金創出、ゼロに近い金利、国債など金融資産の購入で市場に流動性を注入する「量的緩和」によってである。

メルトダウン後のFRBの政策は、せいぜい低調な成長をもたらしただけで、次の不況への土台を築くことになった。次の暴落が間近に迫っていることを示す兆候は2019年9月に現れた。FRBは銀行同士がオーバーナイト(翌日物)融資を行う際に利用するレポ市場に一日数十億ドルを投入し始め、その市場の金利がFRBの目標金利を上回らないようにしたのである。その結果、FRBは金利をゼロにし、量的緩和を大幅に拡大させる口実を得た。

FRBの行動は、米経済を苦しめる物価上昇の主犯格である。FRBは金利を上げることで物価上昇に対応しているが、金利は自由市場の場合よりもはるかに低いままである。この比較的小さな利上げでさえ、脆弱な経済を不況に追い込むのに役立ったという事実は、負債に基づく経済体系の不安定さを示している。

バーナンキ氏と議会はメルトダウンへの対応として、メルトダウンに続く不況を進行させるべきだった。FRB が通貨供給量を増やし、金利を引き下げたときに生じる市場の歪みに経済が適応するには、この方法しかない。

この「何もせず、ただ立っている」というやり方が米国民に長期の経済的苦痛を与えるのではないかと心配する人は、1920年の経済恐慌を考えてみるとよいだろう。この恐慌では、FRBは経済を「刺激」しようとすることを控え、議会は実際に支出を削減した。その結果、不況はすぐに収束した。悲しいかな、1920年の教訓は、主流の経済史家にはほとんど無視されている。

金融サービス委員会の公聴会で私の質問に対し、当時のバーナンキFRB議長は、金(きん)を貨幣とは考えていないと認めた。もちろん、金や貴金属が貨幣であるのは、個人が通貨を選択する自由があったときに、それを選択してきたからである。その理由の一つは、貴金属が安定した計算単位に適しているからだ。これに対し、政府の支配者たちは不換紙幣を好んできた。中央銀行によってその価値がつねに操作されるため、誠実な計算単位として機能することは決してないからだ。これは、権力欲の強い政治家の意向で行われることが多い。

不換紙幣制度の下では、物やサービスの真の価値を知ることができない。だから繁栄をもたらす健全な経済をつくるには、FRBを監査し、廃止しなければならない。

(次より抄訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Destroy the Economy, Win a Nobel Prize [LINK]

2022-10-18

ネオコンと「目覚めた」左翼が結託し、第3次世界大戦へ

ベンチャーキャピタリスト、デビッド・サックス
(2022年10月4日)

起業家イーロン・マスクが和平を提案し、ツイッターでまたぞろ炎上した。10月17日、マスクはウクライナの戦争を終わらせる和平交渉を提案したが、ウクライナに関するあらゆる言説を取り締まろうと結成されたツイッターの群衆から、親プーチン(露大統領)の操り人形と非難を浴びた。

この話で重要なのは、ツイッターの集団が、米国の対ウクライナ政策を形成するために、国内の政治問題に関する議論を封じるのと同じ、不寛容なキャンセル(排斥)戦術を使っていることだ。そのやり口は、反対意見を悪魔化し、反対者を中傷し、平和への道や紛争緩和さえもイデオロギー上容認できないとして閉め出すことである。

ウクライナの味方につくツイッター暴徒がユニークなのは、かつて互いに宿敵だった二つの勢力、左派のウォーク(社会正義に目覚めた者)と右派のネオコン(新保守主義者)を結びつけている点だ。この両勢力は忌まわしいイデオロギー的、人格的特徴を共有しており、政治運動に対する「切捨御免」のやり口も似ていることがわかった。これは新手の政治的結婚である。


ネオコンがトランプ(前大統領)をめぐって共和党から離脱し、国内政策に関する保守的な意見をすべて捨てて以来、左派は介入主義の外交政策に新たな愛着を抱くようになった。それが「民主主義」に貢献し、「独裁」に反対する限りは、である。独裁という言葉は日増しに融通無碍になって、今やウォークもネオコンも、プーチンばかりかハンガリーのビクトル・オルバン、イタリアのジョルジア・メロニ、米国のドナルド・トランプといった民主的に選ばれた指導者を定義するのに使っている。

オバマ(元大統領)がネオコンの外交政策と決別すると約束したから投票したにもかかわらず、左派は今やネオコンとともに、ウクライナにおけるオバマの節度ある外交政策に反対している。

この変化は迷走しているようだが、純粋な戦術レベルでは一定の意味がある。ネオコンはツイッターができる前から、排斥の手法を発明していた。相手の主張が不誠実で、考慮する価値がないと傲慢に断じ、自分の大義に疑問を呈する者に異端者、裏切り者とレッテルを貼る。

(ネオコンのコラムニスト)デビッド・フラムは、イラク戦争に反対する少数の右派の識者を「愛国心なき保守主義者」と決めつけ、ネオコンの排斥戦術の基準を打ち立てた。今や、北大西洋条約機構(NATO)の拡大が現在のウクライナ危機の一因となった可能性を示唆する者、ロシアに課せられた制裁が機能しておらず、裏目に出た欧州はまもなく寒さで震え上がるだろうと指摘する者、米国は核武装したロシアとの世界大戦の回避を優先しなければならないとする者は、プーチンの手先として非難される。

このように議論を歪めることで、妄想や矛盾した考えがまかり通る。こうして、プーチンは目的達成のために無差別殺人を行う狂人だが、核兵器の使用については何らかの形で間違いなくハッタリである、という議論が成り立つ。戦争に負けているからこそのハッタリのはずだが、プーチンをウクライナで止めなければ、欧州の他の地域まで征服してしまうだろう、という。プーチンはリベラルな改革派を皆殺しにするか投獄し、強硬な極右と結託しているので、政権は崩壊しなければならない。しかし、政権が崩壊すれば、なぜかリベラルな改革派に取って代わられるのだ。

これはナンセンスであり、まともに議論すれば、この考え方の中にある妄想をいくつか暴くことができるだろう。しかし、そのような議論をすることは許されない。

このウォーク・ネオコン同盟に議論の条件設定を許している限り、ウクライナ紛争を拡大させ、さらに危険な激化へと導く一方通行の展開を見続けることになる。

米国が少なくとも交渉に参加しない限り、この紛争の平和的解決はありえない。米国はその努力を導かなければならない。ところが実際は、ウクライナの最大限の要求に応じ、プーチンが西側に対し批判を口にすると、ロシアへの制裁を強化している。ドイツのような重要な国が万が一、交渉のテーブルに就こうと考える場合に備え、誰かがノルドストリーム・パイプラインを爆破した。

地域紛争が第一次世界大戦に発展したのは、すべての当事者が目一杯の要求をし、他者がハッタリをかけていると思い込んだからである。メディア、ソーシャルメディア、外交政策のエリートが結集し、代替案に関する議論を排除しようとウォーク流の排斥戦術を用いれば、同じ轍を踏む恐れがある。今、私たちは紛争激化の道を進んでおり、その先にあるのは第三次世界大戦である。

(次より抄訳)
The Neocons and the Woke Left Are Joining Hands and Leading Us to Woke War III | Opinion [LINK]

ノーベル経済学賞を廃止せよ

経済教育財団(FEE)ライティングフェロー、ピーター・ヤコブセン
(2022年10月11日)

1974年、オーストリアの経済学者ハイエクが「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」(通称「ノーベル経済学賞」)を受賞した。

ハイエクの受賞とそれに続く受賞スピーチは、多くの点で注目されたが、最も重要な洞察は、スピーチの冒頭にあったかもしれない。

「もし私がノーベル経済学賞を創設するかどうか相談されたなら、断固として反対するよう勧めたはずだ」とハイエクは言った。

ハイエクはこの賞に反対する理由を二つ挙げている。第一に、この賞が「科学的流行の揺らぎ」を助長することに懸念を示した。もっとも、ハイエク自身の考えがいかに流行っていないかを考えれば、この問題はさほど深刻ではないはずだとジョークを交えて述べている。

ハイエクの反対理由は、主に二つ目の理由によるものだった。

「ノーベル賞は、経済学において人が持つべきでない権威を個人に与えるものだ」とハイエクは述べている。

私は大学院で経済学を専攻していたとき、ジョージ・メイソン大学の経済学と哲学の教授であるピーター・ベトケ博士のもとで学ぶ機会に恵まれた。ベトケの教師としての価値は、無限に続くと思われる格言のリストにある。私のお気に入りは、「経済学者は黒板を見る時間を減らし、窓の外を眺める時間を増やすべきだ」というものだ。

言い換えれば、経済学者は文明と行動の研究者である。人は経済法則や事実が自分の住む世界でどのように観察されうるかに関心がある。

一方、形式的な経済学の多くは、黒板に書かれた抽象的で論理的整合性のある方程式の集合であり、エレガントではあるが、普通の人々が直面する知識や誘因の問題を無視している。

このような知識や誘因の問題、現実の人々、現実の制度を除外すると、黒板に書いた方程式を現実の世界に誤って適用してしまいがちになる。

例えば、黒板の方程式は、金融市場の暴落を防ぐには、預金者や投資家の信頼を高めるために、銀行に資金を注入する必要があると示したとしよう。いくつかの方程式を使って最適な救済額を計算すれば、金融危機は回避される。

経済を黒板の上にきれいにまとめられると信じる専門家は、現実の経済をいじくり回し、黒板に書かれたことと一致させたくなるのだ。

しかし、現実の世界はそうではない。窓の外を見れば、金融機関が救済を期待することで、よりリスクの高い行動を取るように仕向けられていることがわかる。金融機関の中には、救済を口実に、競争を排除するような規制を求めるところもあるかもしれない。

黒板の外には、複雑な問題が山積している。

ベトケ博士は二人の共著者との論文で、「高僧の地位を拒否し、卑しい哲学者の地位を受け入れて初めて、経済学者は傲慢による破滅から経済学を救うチャンスを手にする」と述べている。

経済学者が本領を発揮するのは、窓の外を眺め、文明を研究するときである。これは複雑な方程式や政府の政策に関わる地位よりも、華やかさに欠けるかもしれない。しかし、地位を得ても魂を失ったら、この職業に何の利益をもたらすのだろうか。

ハイエクが気づいていたように、ノーベル賞の華やかさは、経済学者が高僧であるという考えを強めかねない。それなら最善の道は、ノーベル経済学賞を廃止し、代わりに経済学者が皆、外に存在する現実の世界を見ることのできる、窓のあるオフィスに入るようにすることだ。

(次より抄訳)
Abolish the Economics Nobel Prize - Foundation for Economic Education [LINK]

2022-10-17

核の脅しをやめさせ、恒久平和を築くには

反戦団体「コードピンク」共同設立者、メディア・ベンジャミン
アメリカ進歩民主同盟、マーシー・ウィノグラッド
(2022年10月14日)

バイデン大統領が民主党の献金者に率直に語ったところによれば、核兵器による「ハルマゲドン(終末戦争)」のリスクは、ソ連がフロリダから90マイル離れたキューバに核ミサイルを設置した1962年のキューバ危機以来、最も高くなっている。ロシアのプーチン大統領がウクライナで短距離核兵器を使用すると暗に脅したことについて、バイデン大統領は、このような「直接の脅威」が発せられたのはキューバ危機以来のことだと付け加えた。

そんなことはない。

米国には核による脅しの歴史がある。

朝鮮戦争中のI950年、トルーマン大統領は、北朝鮮にいる中国軍に対する核兵器の発射を「前向きに検討中」だと述べた。

1953年、アイゼンハワー大統領(後に軍産複合体を非難)は、中国が朝鮮戦争の休戦交渉を拒否した場合、核兵器の発射を命令すると脅した。

ベトナム戦争中の1969年、ニクソン大統領は北ベトナムに降伏を迫ろうと、B52核爆撃機の厳戒態勢を密かに命じた。ニクソンは「狂人理論」を信奉していた。核兵器を使うほど狂っていると敵に思わせれば、敵は屈服するという理論だ。しかしこの理論は効果がなく、推定200万人のベトナム人が死亡し、6万人近い米兵が遺体袋に入れられた後、1973年に米軍はベトナムから逃げ出した。

2007年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イランが核開発を追求するならば、「あらゆる選択肢を検討する」と述べている。

2017年、ドナルド・トランプ大統領は、北朝鮮のミサイル実験をきっかけに、同国に「炎と怒り...世界がかつて見たことのないようなもの」を浴びせると威嚇した。

2020年、米国は通常兵器と核兵器を搭載できるB-52機を黒海とバルト海に配備し、ロシアの軍事基地と港湾への攻撃を模擬した飛行を行っている。

不愉快な事実だが、核兵器が存在する限り、私たちはその発射を命令できる少数の人物の人質なのだ。

キューバ危機の記念日に出すべき答えは、核兵器を増やすことではなく、ブッシュやトランプが放棄した軍備管理条約に立ち返り、核兵器禁止条約に署名して地球上から核兵器を廃絶することである。

核兵器による脅迫の舞台は、ずっと以前に設定されていた。第二次世界大戦末期の1945年、トルーマン大統領は広島とその三日後の長崎に原爆を投下し、炎の爆発と死の灰の雨の中で推定20万人の人々に放射線を照射し、絶滅させた。

核兵器による脅しの舞台が整ったのは2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を破棄したときだ。この条約では、飛来するミサイルを破壊するために米露が配備できるミサイルシステムの数に上限を定めた。米露が認識していたように、防衛的なミサイルシステムは、それに打ち勝つ新兵器の開発によって軍拡競争を激化させる可能性がある。もし防衛の効果が確かなら、報復を恐れず先制攻撃に出る気にさせるかもしれない。

核による恐喝の舞台が整ったのは2019年、ドナルド・トランプ前大統領が米露の中距離核戦力(INF)全廃条約を破ったときだ。これ以前に、両超大国は約3000基の短距離・中距離ミサイルを破壊していた。

つい最近も、米議会は核不拡散条約(NPT)の下での公約に反して、1兆ドル規模の核「近代化」プログラムへの資金提供の継続を決議した。この数十年にわたる核再軍備の一環として、米国は中西部の即時発射態勢にある400基のミニットマン大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、600基の新しい核ミサイルに置き換える予定である。地下のサイロに深く埋められるこれらの新しいミサイルは、米国が日本に落としたものの20倍以上の威力を持つ核弾頭を搭載する。

明確な脅しから暗黙の脅しまで、米国は長年にわたって核の恐喝に頼ってきた。

ジョン・F・ケネディ大統領は、キューバ・ミサイル危機を武器ではなく外交で解決した。ソ連がキューバからミサイルを撤去する代わりに、米国はトルコに設置された核兵器を撤去すると申し出たのである。

バイデン大統領は、ポーランドとルーマニアから対弾道ミサイルを撤去することを申し出ることで、ケネディの志を継ぐことができるだろう。ウクライナの中立支持を申し出ることもできる。これらは現状打開の選択肢だ。

キューバ・ミサイル危機の記念日に出すべき答えは、ウクライナにさらに武器を送りつけて核戦争の危険を冒すのではなく、即時停戦を支持し、外交による解決を追求することで、核戦争の瀬戸際から人々を連れ戻すことである。

(次より抄訳)
Opinion | What Must Be Done to End Nuclear Extortion and Build Lasting Peace | Medea Benjamin [LINK]

スマートフォンの奇跡

ケイトー研究所シニアアナリスト、マリアン・テューピー
(2018年10月19日)

スマートフォンは中毒性があり、誰でも旧来の携帯電話に切り替えていいし、携帯なしで済ませてもいい。とはいえ、スマホが私たちの生活にもたらした良い変化を思い出してみよう。

1987年のオリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』では、俳優マイケル・ダグラス演じる大富豪の投資家ゴードン・ゲッコーが、ビーチを歩きながら朝日を眺め、モトローラ社のダイナタック8000X携帯電話で話している。「これが見られたらな」と、ニューヨークにいる若い弟子のバド・フォックスに言う。「光が昇ってくるぞ。こんな瞬間の海の美しさをとらえた絵は見たことがない」。1983年に発売されたダイナタックは、世界初の携帯電話機だった。重さ2ポンド、充電に10時間、通話時間30分。1984年当時、この携帯電話の価格は3995ドルだった。2018年の米ドル換算で1万277ドルだ。

1990年の時点では、携帯電話は非常に高価で、米国人の2%しか買うことができなかった。2017年には米国内だけで2億2500万台になった。世界の利用者数は2016年の21億人から2019年には約25億人に増加すると予測されている。時とともに、携帯電話はより小さく、より安価になった。また、よりパワフルで便利なものになった。今日、南アフリカにいるナイジェリア人の炭鉱労働者は、スマホアプリを使ってラゴスにいる母親にお金を送ることができる。コンゴの漁師は、悪天候の接近を知らせてもらえる。マサイ族の牛飼いは、ナイロビで牛乳の値段を知ることができる。数千年かけて蓄積された人類の知識が、スマホを通じて簡単に、瞬時に利用できる。

脱物質化(国内総生産=GDP=あたりの財・エネルギーの消費量が減少する過程)について考えてみよう。スマホは、これまで電話、カメラ、ラジオ、テレビ、目覚まし時計、新聞、写真アルバム、ボイスレコーダー、地図、コンパスなど、無数の異なる機器が必要だった機能を統合している。スマホが登場したからといって、他のデバイスがすべてなくなるわけではない。しかし、それらを使うことは少なくなってきている。

エネルギーや物資の節約につながる可能性は計り知れない。ある調査によると、スマホは物質の使用を300分の1に減らすことができる。電力は100分の1に、待機電力は30分の1に削減できる。また、天然資源の採掘や加工、製造、輸送、製品配送など、建築物の建設に関連するすべての過程で消費されるエネルギーを示す内包エネルギー使用量も、20分の1に減らすことができるという。

つまり脱物質化とは、世界人口の増加と資源の確保との間に生じる矛盾を懸念する人々にとって、歓迎すべきニュースなのだ。将来の資源の確保については意見が分かれるところだが、脱物質化によって、物質的な快適さを享受しながら、同時に地球の良き管理者にもなれるのだ。特に貧しい国の人々にとっては、環境問題が深刻化する中で、物質的な豊かさを体験する機会を得ることが重要である。

スマホは人類に多くの恩恵をもたらしてくれた。賢く使うか、不用意に使うかは、人間次第である。もちろん、それはすべての技術に共通することだ。

(次より抄訳)
The Miracle that Is the Smartphone - HumanProgress [LINK]

2022-10-16

自由貿易に挑むアフリカ

「アフリカの貿易と繁栄のためのイニシアチブ」ディレクター、アレクサンダー・ハモンド
(2021年4月5日)

2021年1月1日、待望のアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が発効した。この協定がアフリカ大陸にもたらす経済的利益もさることながら、自由貿易と自由化に対するアフリカの新たな支持は、数十年にわたってアフリカ政治を苦しめてきた社会主義イデオロギーに対する明確な拒否反応である。

現在、アフリカ連合(AU)加盟55カ国のうち、地域経済の強豪であるナイジェリア、南アフリカ、エジプト(合わせて大陸経済の3分の1を占める)を含む36カ国が自由貿易地域を批准している。さらに18カ国が貿易協定に署名して支持を表明しており、間もなく正式加盟する見込みである。「アフリカの隠者王国」と呼ばれるエリトリアが唯一支持を渋るほど、アフリカの自由貿易への意欲は強い。

エリトリアはいずれ考え直すかもしれない。向こう5年から10年の間に、アフリカ自由貿易圏は加盟国間で取引される商品の関税の90%を廃止することを保証する。13年以内には、全関税の97%が撤廃されるだろう。世界銀行の予測では、2035年までにこの膨大な自由化の努力によってアフリカの国内総生産が4500億ドル増加し、熟練労働者と非熟練労働者の賃金が10%上昇し、1日1.90ドル未満で暮らす極貧から3000万人以上が脱却する。同じ試算によれば、2035年までに、1日1.90ドルから5.50ドルで暮らす中程度の貧困から6800万人以上の人々を抜け出させる。世銀は、「初期の貧困率が最も高い国」が「最大の改善」を示すことになるとしている。

アフリカ自由貿易圏がもたらすと思われる経済的利益はみごとである。このような急速な成長は、結局のところ、大陸の大部分を貧困に陥れてきた経済ナショナリズムとたもとを分かった結果である。

アフリカと社会主義との混乱した関係は、1950年代後半から1960年代初頭にかけて、多数の新たな独立国家が資本主義モデルを拒否したことに始まる。新しい指導者の多くは、資本主義と植民地主義を同義語とみなしていた。1963年、タンザニアの初代大統領ニエレレは、「植民地主義がアフリカにもたらした資本主義の考え方を否定するのであれば、それに付随する資本主義の手法も否定しなければならない」と述べている。

1957年、ガーナはアフリカで初めて独立を果たした。その指導者エンクルマは、自称「マルクス社会主義者」であり、「社会主義的変革のみがガーナ経済の植民地的構造を根絶する」と提言した。やがてエンクルマは、他のアフリカ諸国も独立によって、「国家による経済の完全所有」を追求するよう促した。

多くのアフリカの指導者がガーナの例にならった。ギニアのセク・トゥーレは、「アフリカの服を着たマルクス主義」を追求し、政府が承認しないすべての商業活動を禁止した。タンザニアでは新憲法で「社会主義国家」と定め、「富の蓄積を防ぐ」と誓った。セネガルの初代大統領サンゴールは、独立後のセネガルは「マルクスとエンゲルスによって導かれる」と述べた。

アフリカの知識人たちが社会主義に熱中した結果、アフリカ大陸の経済の多くが中央計画によって混乱させられてしまった。何十年もの間、価格や賃金の統制、私有財産の収用、非効率的な国有企業といった、経済を衰弱させる政策がいたるところで行われてきた。

アフリカ自由貿易圏が調印された2018年当時、アフリカ連合(AU)の議長国だったルワンダのカガメ大統領は、自らを熱心な自由貿易主義者で、自由貿易国シンガポールの初代首相リー・クアンユーの思想的弟子であると述べている。同様に、同連合の現議長である南アフリカのラマポーザ大統領は、自由貿易が「アフリカの経済的潜在力を解き放つ」と宣言している。

アフリカ諸国が自由貿易を受け入れ始めれば、今後数年で、数億人とは言わないまでも、数千万人のアフリカ人が貧困から抜け出すと期待できるだろう。

(次より抄訳)
Africa Tries Free Trade - HumanProgress [LINK]

バイデン政権の狂った国家安全保障戦略

ジャーナリスト、ジョーダン・シャクテル
(2022年10月13日)

米バイデン政権は10月12日に同政権として初めて、「国家安全保障戦略」文書を発表したが、それは以前のあらゆる同文書から急激に錯乱したものとなっている。国家安全保障戦略はかつて、国家に対する実際の脅威のリストをまとめる真面目な文書として理解されていた。今やまるで、超政治的な左翼陰謀論者が資金調達するためのメールのようだ。

脅威の評価とされる項目のほとんどは、国家安全保障とはまったく関係がない。一方、国家安全保障に関連する項目には、優先順位が付けられ、政治的に扱われる案件がある。

オバマ政権でさえ、今回のバイデン政権ほどには、政治案件を盛んに書き入れはしなかった。

簡単な単語検索で、ホワイトハウスの優先順位を知ることができる。

ロシアが首位である。想像できる限り最もヒステリックな言い方で、71回も言及されている。チーム・バイデンによれば、プーチンは戦争犯罪者であり、その軍隊はウォロディミル・ゼレンスキー(ウクライナ大統領)に大虐殺を見せつける以外のいかなる理由もなくウクライナに進駐したのである。ウクライナといえば、文書にはウクライナについて33回書かれている。

一方、中国は14回しか言及されておらず、中国共産党は友好的な競争相手、まるでチェスの相手方の単なるプレーヤーのように例えられている。

プーチン以外では、この政権の「国家安全保障」のナンバーワンは「気候変動」であり、文書で63回言及されている。信頼できるエネルギー資源から遠ざかる、エネルギー「移行」の重要性についても、11回言及されている。

さて、左翼新自由主義政権による脅威の評価は、「多様性」(diversity、16回言及)、「公平」(equity、14回)、「包摂」(inclusion、24回)、すなわち意識高い系の人々が言うところの「DEI」を抜きにしては成り立たないだろう。

文書では、米国は「気候変動、国際保健、食糧安全保障などの問題において、米国人だけでなく、世界中の人々の生活を向上させるために有意義な進歩を遂げている」と結論づける。

国家安全保障戦略は、1986年のゴールドウォーター・ニコルズ法の成立に伴い、レーガン政権以来、行政府が定期的に作成している。この文書は、政権の国家安全保障上の主要な優先事項と、ホワイトハウスがそれらにどのように対処するつもりかを議会と国民に知らせることを目的としている。

今回の国家安全保障戦略で明らかになったように、今のホワイトハウスの最優先事項とは、何でもかんでもロシアのせいにすること、気候変動デマを広めること、米軍の肥大した官僚機構と予算を通じ、世界中で(ゆがんだ反差別主義の)覚醒計画を進めることにある。

(次より抄訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : The Biden Admin reveals its new National Security Strategy: climate change, diversity, equity and inclusion [LINK]

2022-10-15

経済の自由が女性を強くする

ケイトー研究所アナリスト、チェルシー・フォレット
(2017年10月10日)

フェミスト作家ラフィア・ザカリアは、ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、女性の地位向上に対する国際援助業界の間違った、恩着せがましい態度に注意を喚起している。

ザカリアは、欧米の開発専門家とその組織が抱える問題を雄弁に語っている。とくに、ヒーローである人道主義者が世界の最貧困層の女性に施しを与えるという物語に沿った、トップダウンのやり方は、ひどく恩着せがましいものだという。「非西洋の女性は、救助を待つ無言で受け身の主体へと還元される」とザカリアは書いている。

途上国開発の専門家は、貧困の緩和にはほとんど無力である。貧しい女性に鶏を与えるような、自己満足でしかない計画は、長期の経済的利益にはつながらない。

ニューヨーク大学のウィリアム・イースタリーは、開発に対するトップダウンの「技術官僚」的な取り組みが、しばしば貧しい国の開発専門家や独裁者を豊かにするためだけに役立つことを、詳しく記録している。

実際、援助によって貧困から抜け出した国は一つもなく、場合によっては国際開発の妨げにさえなっている。ハイチは1万を超える援助NGO(非政府組織)を抱える国として有名だが、慈善の洪水は逆に地元の産業を傷つけ、貧困を悪化させる、依存の連鎖を招いた。

貧困はとくに女性を弱くする。経済学の研究によると、貧困が減少するにつれて男女間の不平等は縮小し、開発によって女性の状態は男性よりも改善されることが示唆されている。つまり、女性の社会的な地位向上は経済的な能力向上と密接に関係しており、繁栄の恩恵を最も多く得る立場にあるのは女性なのだ。

女性の経済的影響力が高まることで、社会変革に向けたロビー活動が可能になり、そこから政治的・法的な変革が生まれる。経済学者ミルトン・フリードマンは「経済的自由は...…政治的自由の達成に向けた不可欠な手段」だと述べている。女性が配偶者の許可なしに有給で働くことが法律上許されていない国もある。法の下における男女平等は、国の経済が自由になるにつれて改善される。

経済発展は達成可能である。この一世代のうちに極度の貧困が半減し、とくにアジアでは心強い進展があったことを、圧倒的な量のデータが示している。

経済的進歩は、援助ではなく、民間企業によってもたらされた。中国とインドの経済成長は、一人当たりの援助がはるかに少ないにもかかわらず、サハラ以南のアフリカを大きく上回っている。その経済成長は、経済の自由化政策と一致している。貧しい国の人々は、救助を待っている受け身の犠牲者ではない。主体性を持ち、自由があればどこでも貧困から脱却している。

とくに女性にとってはそうだ。バングラデシュでは貧困が劇的に減少し、女性の生活にも前向きな変化が見られた。政府やNGOが十年かかっても実現できなかった、女性労働力の創造には、市場の力と、輸出志向の衣料品産業の出現が必要だった。

工業化によって女性の教育水準が上がり、児童婚の割合も減った。パルダ(女性の隔離)という社会的規範を和らげ、女性に対する裁判制度の対応力を向上させた。「女性にとって、衣料品はとても良いものです」と、ある工場労働者は語った。彼女は自分の稼ぎのおかげで、身体を虐待する夫から逃れることができた。「 今、私は自分には権利があり、生きていけると実感しています」と彼女は続けた。貧困からの脱出と平等な権利の達成は、しばしば相伴う。

「女性の地位向上という概念は、開発業界の救世主になろうとする人々の手から急いで救い出す必要がある」とザカリアは寄稿を締めくくっている。その点には同意できる。

政治的自由が不可欠であることにも同意するが、経済的自由の重要性を無視してはならない。発展途上国の苦悩する女性たちは、経済の自由さえ与えられれば、自分たちを救い出すことができる。

(次より抄訳)
With Economic Freedom Comes Female Empowerment - HumanProgress [LINK]

米国を核戦争の瀬戸際に追いやるゼレンスキー

アメリカン・コンサーバティブ
(2022年10月7日)

ウォロディミル・ゼレンスキー(ウクライナ大統領)がなぜこのようなことをするのか、私は理解している。彼の国はロシアに対して命がけで戦っている。米国と欧州を引き込み、ウクライナの防衛に最大限の力を発揮させることが彼の最善の利益なのだ。

しかし、それは我々の最善の利益にはならない。とりわけ、ハルマゲドン(終末戦争)に向かって突進しているかもしれないときには。

(ネオコンのコラムニスト)デビッド・ブルックスによれば、ウクライナが戦争で善戦している背景には、自由主義とナショナリズムの思想があるという。

もちろんゼレンスキーは、すべてのウクライナ人と同じように、ナショナリズムのために戦っている。しかし、自由主義のために戦っているというのは、本当だろうか。

ゼレンスキーは11の政党を禁止した。これが自由主義だろうか。

戦争勃発の前年の2021年、ゼレンスキーは親ロシアのメディアを禁止した。これが自由主義だろうか。

ゼレンスキーはロシア語の学校教育を制限する法律を可決した。ウクライナへの帰属意識を強化するためだ。ゼレンスキーは他の言語での教育も制限している。ウクライナ西部に住むハンガリー人は、子供を自分たちの言語で教育するには限られた権利しかないといわれる。これが自由主義だろうか。

ゼレンスキーは、ウクライナのネオナチ「アゾフ大隊」や、第二次世界大戦時のウクライナの民族主義者でファシスト、反ユダヤ主義者でナチスの協力者だったステパン・バンデラの崇拝者と和解し、勢力を拡大している。これは今の状況では理解できる。ドイツ軍がフランスに侵攻した時、王党派と共産主義者はナチスの侵略者を追い出すために共通の大義名分を得た。(英元首相)チャーチルは「もしヒトラーが地獄に攻め込んだら、私は議会で少なくとも悪魔のことを悪くは言わないだろう」と述べた。国家の存亡をかけた戦争では、そのようなことをせざるをえない。とはいえ、ゼレンスキーやウクライナ人が自由主義のために戦っていると言うには慎重であるべきではないだろうか。バンデラやアゾフ大隊の支持者に関してもそうだろう。

やはり開戦前の2021年、パンドラ文書の公開によって、ゼレンスキーは汚職撲滅を掲げて選挙戦を展開したにもかかわらず、じつは自分の取り巻きと同様、海外の銀行口座に財産を隠し持っていたことが明らかになった。旧ソ連圏で生活すると、政治はどこもかしこも腐敗していることがよくわかる。残念なことだが、それがこの地域の現実なのだ。ゼレンスキーも他の人と変わらない。それでも彼を自由主義者として祭り上げるのか。

ゼレンスキーは、同性婚の合法化を検討すると述べている。欧米の支持者が同性婚の権利を認めようとする大きな動きに呼応してのことだ。西側のリベラル派をなだめるためのプロパガンダであることはほぼ間違いない。2013年の世論調査では、ウクライナ人の79%が同性婚に反対していた。この数字は、過去十年間でそれほど低下していないはずだ。ゼレンスキーが内心どう思っていようと、同性婚がすぐに実現することはないだろう。ウクライナ人は欧米のリベラル派ではないのだから。

ウクライナの粘り強さは、ナショナリズムがいかに強力であるかを示している。自由主義は関係ない。南東部マリウポリを守るアゾフ大隊は、信じられないほどの勇気をもって戦った。彼らはファシストでもある。どちらも事実だ。

ゼレンスキーは自分の国を愛している。それは称賛に値することだ。しかし国を愛する私たち米国人は、そのウクライナの愛国者に、核戦争の瀬戸際まで連れて行かれてはならない。

(次より抄訳)
Zelensky Taking US To The Nuclear Brink - The American Conservative [LINK]

オカシオコルテス議員に罵声、「核戦争を始めるために投票」

RT
(2022年10月14日)

米民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス(AOC)下院議員が講演する集会に抗議者が乱入し、同議員がロシアと対立するウクライナへの軍事支援を支持することで、米国をロシアや中国との核戦争に追い込んでいると非難した。

オカシオコルテスが罵声を浴びたのは、10月12日にニューヨーク市ブロンクス区で有権者と交流するために行われた、質疑応答の最中。

聴衆の男性がニューヨーク出身の極左下院議員であるオカシオコルテスの話をさえぎり、核戦争が起きれば、あなたが話していることはどれも問題にならないと叫んだ。

「あなたはロシアや中国との核戦争を始めるために投票している。なぜ米国市民の命をもてあそぶのか? なぜ我々の命をもてあそぶのか?」。男性はこう叫んだ。

抗議した男性はまた、オカシオコルテスが「進歩的な社会主義者」を自称しながら、戦闘を激化させるだけのウクライナに対する米国の死の支援策に一貫して賛成票を投じるのはどうしたことかと疑問を呈した。「あなたは臆病者だ!」と男性は宣告した。

これは別の男性に支持された。その男性によれば、自分は左翼でオカシオコルテスの元ファンだが、議会での行動で彼女に幻滅したという。「信じていたのに、あなたは自分が戦おうとした相手と同じになってしまった。それがあなたの正体だ。あなたは体制側だ」と二人目の男性は主張した。

この男性は、今週初めに民主党を辞めた別の著名な女性政治家トゥルシー・ギャバードの後を追うようオカシオコルテスに促し、民主党は「戦争屋のエリート集団に完全に牛耳られ」ていると述べた。

「あなたは何もしていない! トゥルシー・ギャバードは根性を見せたが、あなたは臆病をさらした」。男性はオカシオコルテスに言った。

「あなたが今立ち上がって、民主党を糾弾しないかぎり、みんなが核戦争に巻き込まれたらあなたのせいだ。そうするのか? イエスかノーか?」。男性は叫んだ。

オカシオコルテスはその質問に答えたが、ソーシャルメディアにアップロードされた集会の映像では、その言葉ははっきりしなかった。

(次より抄訳)
Alexandria Ocasio-Cortez heckled for ‘voting to start nuclear war’ — RT World News [LINK]

タッカー・カールソン、支援要求のゼレンスキーに「消えろ!」

RT
(2022年10月14日)

ウクライナの「クリスマスに欲しい物リスト」と呼ばれる米国からの追加支援要求は、議会で拒否されるべきだ。保守系人気テレビ司会者のタッカー・カールソンは、ゼレンスキー大統領が自国政府の存続のため新たに数百億ドルの要求をしたことに対し、怒りをぶつけながらそう述べた。



フォックスニュースの10月13日の番組で、この人気コメンテーターはウクライナ大統領を「欧州で最も腐敗した国のセレブ御用達の独裁者」だと切り捨てた。

「何だと? Tシャツを着た高慢な外国人が『重要な経済ニーズ』のために金を要求しているのか? こっちにも重要な経済ニーズがあるんだよ。お前は誰だ、荒らしか? 消えろ!」。カールソンはこう応え、ウクライナの大統領が米国の国庫に請求権を持つかどうか、米国の指導者に問いかけた。

12日にゼレンスキーは、ロシアの空爆による被害から国を再建し、赤字の政府を存続させる必要があるとして、国際通貨基金(IMF)と世界銀行に550億ドルの支援を要請した。米政府は以前、ウクライナ政府の借り入れを促すため、債務保証を延長している。

フォックスニュースのこのコーナーは、米議会の左派議員団、とくにニューヨーク州の民主党代表アレクサンドリア・オカシオコルテス(AOC)を批判することに重点を置いていた。カールソンは、下院の民主党議員全員が、ウクライナに武器を送るため数十億ドルを支出するよう繰り返し投票したと指摘し、スクワッド(小隊)と呼ばれる左派議員団の信用を疑わせたと主張した。

オカシオコルテスら自称進歩派は、紛争に資金を提供するのでなく、「米議会がかかっている催眠の魔法を解き」、ゼレンスキーの「クリスマスリスト」に署名するのを阻止するために働くべきだったとカールソンは指摘。オカシオコルテスは自称するような人物ではなく、むしろ「隠れネオコンの工作員」だとも付け加えた。

(次より抄訳)
Tucker Carlson tells Zelensky to ‘go away’ after aid demands — RT World News [LINK]

キューバ危機、真の教訓

ジャーナリスト、 スティーブン・キンザー
(2022年10月12日)

人類が最後に核兵器による自滅に瀕してから六十年になる。1962年、キューバ危機として歴史に知られたその遭遇をかろうじて生き延びた。それ以来、核の黙示録が今日ほど近づいたことはない。

キューバ危機最大の教訓は、核の危機を打開するうえで、現存する唯一の指針を与えてくれる。

米国の政治家や戦略思想家は一世代にわたり、その教訓を誤解していた。それを責めるのは酷かもしれない。政府が何年も真実を隠蔽してきたからだ。米国人は、ミサイル危機がある教訓を与えたと聞かされていた。しかし後になって、それはまったく逆のことを教えていることがわかった。

ミサイル危機は1962年10月に世界の注目を集めた。ケネディ米大統領は、ソ連の核ミサイルをキューバで発見したと発表し、「ワシントンを攻撃することができる」と述べた。ケネディはソ連の指導者フルシチョフに撤去を要求した。これが人類史上最も重要な、遠距離交渉のきっかけとなった。

ケネディの軍事顧問は全員、キューバへの大規模な爆撃を命令するよう促した。カーティス・ルメイ将軍は「この作戦はかなり単純で、数分で完了できるだろう」と断言した。「何の問題もない 」

ケネディは違った。キューバを制圧するには爆撃だけでなく、本格的な侵攻が必要であり、ソ連が壊滅的な力でそれに応じるかもしれないと懸念していた。1962年10月22日の国民への演説は、微妙なバランスを保っていた。ソ連がキューバからミサイルを撤去するよう繰り返し要求する一方で、米国は「忍耐と抑制」をもって行動し、「早計に、不必要に核戦争の危険を冒し、勝利の果実でさえ口の中で灰になる」事態を避けなければならないと述べた。

フルシチョフも配下の将軍たちから同等の圧力を受けていた。ケネディが何を言おうと、何をしようと、ソ連のミサイルはキューバから動かさないと主張するように求められた。

10月16日にケネディがミサイル施設の航空写真を見せられたことから始まった十三日間の緊迫の間、ケネディとフルシチョフは十通の手紙を交わした。両者とも妥協の必要性を強調した。「大統領、我々もあなた方も、戦争という結び目のあるロープの端を今引っ張るべきではありません。なぜなら、双方が引っ張れば引っ張るほど、結び目はきつくなるからです」とフルシチョフは書いている。ケネディは「問題の迅速な解決を求めるという、あなたの意思表示を歓迎する」と返信した。

双方が妥協に前向きだったため、取引は成立した。しかし、その一部しか発表されなかった。公式には、ソ連はミサイルの撤去と引き換えに、米国がキューバを侵略しないと約束したにすぎない。米国は完全な勝利と見まがうほどの歓喜に包まれた。いじめっ子は強大な力の脅威に直面すると引き下がると、世界に示したと信じていた。国務長官ディーン・ラスクは、結果を要約して「にらみ合っていたら、相手が目をぱちくりしたのさ」と述べ、この誤った教訓を広めようとしたのである。

慎重に隠された真実は、十年以上にわたって明らかにされることはなかった。ケネディはフルシチョフと密約を交わしていたのである。ソ連がキューバからミサイルを撤去する代わりに、トルコから米国の核ミサイルを撤去すると約束したのだ。つまり、危機はラスクが提案したような武力による脅しではなく、正反対の外交による妥協で終結したのである。これこそ、ウクライナで再び核危機が発生した際、米露両政府が耳を傾けなければならない緊急のメッセージである。

ケネディとフルシチョフは、核戦争に発展しかねない危機から脱する、互いに面目を保つ方法を提示した。それは巧みな解決策だったが、カギは秘密を守ることだった。ケネディは、ミサイル交換を行ったことを公にするわけにはいかないと主張した。フルシチョフは、それを秘密にしておくことに同意した。しかし、今日のようにメディアが入り乱れる時代では、そんなことは不可能だろう。

それでもバイデン大統領は、キューバ危機の教訓の根本を理解しているのが明らかである。すなわち、核のチキンゲームでは威張ったり脅したりではなく、話し合いと取引をすべきだということだ。「私たちは、プーチンの出口を見つけようとしている」と今月、バイデンはつぶやいた。「プーチンはどこに出口を見出すだろう」

運が良ければ、米露首脳は、フルシチョフが六十年前、ケネディに宛てた手紙で述べた原則に従って行動するだろう。「人は情熱に身を任せてはいけない。それを抑制することが必要だ」

(次より抄訳)
The most important lesson of the Cuban Missile Crisis - The Boston Globe [LINK]

2022-10-14

偽りの金本位制

経済学者、ジョセフ・サレルノ
(2021年5月28日)

歴史上、貨幣の自由を体現したのが金本位制である。金本位制が最も栄えた時代は、偶然にも19世紀である。古典的自由主義が君臨し、かつてないほどの物質的進歩と国家間の平和的関係の世紀であった。しかし金本位制に代表される貨幣の自由は、古典的自由主義時代の他の多くの自由とともに、第一次世界大戦によって悲惨な結末を迎えることになった。

金本位制下の政府や商業銀行は、長期では通貨供給量に対して大きな影響力を持たなかった。19世紀に起こった大規模なインフレは、戦時中に起こったものだけである。戦争にかかる膨大な費用を国民に隠すために、増税ではなく、紙幣を印刷することでその費用を賄ったのである。

第一次世界大戦が勃発すると、数週間のうちに、すべての交戦国が金本位制から離脱した。言うまでもなく、戦争が終わる頃には、これらの国々の不換紙幣は、程度の差こそあれ、インフレに見舞われていた。特に、1923年に頂点に達したドイツのハイパーインフレは最悪であった。1920年代には、自国通貨を正常化し、国民の信頼を回復するために、各国とも金本位制を復活させる。

しかし1920年代の金本位制は、古典的な金本位制とは根本的に違っていた。例えば英中央銀行のイングランド銀行は、ポンドを高価でかさばる金塊と交換するだけだった。金塊は主に国際貿易の支払いに使われた。

米ドルは建前上、正真正銘の金貨と交換可能だったが、銀行はもはや金貨ではなく、米連邦準備銀行(中央銀行)が発行する銀行券(紙幣)で準備金を保有していた。すべての金準備は、法律により連邦準備銀行の手に集中され、銀行は小切手の現金化、当座預金や普通預金の引き出しの支払いに連邦準備銀行券を使うことが奨励された。このため1920 年代に金貨はほとんど一般に流通せず、各国民は中央銀行の借用書(紙幣)をドル、フラン、ポンドなどの究極の実体として見るようになった。

19世紀には金本位制が非常にうまく機能していたことを、多少不本意ではあるが、多くの人が認めている。しかし同時に、金本位制は1920年代から1930年代にかけて突然崩壊し、この崩壊が世界恐慌を引き起こしたと主張される。通貨の自由は、1930年代の悲劇的な出来事のせいで永久に信用されない。金本位制は、その前の時代の利点がどうであれ、現代経済の厳しさとストレスに耐えられないことが証明された、古風で時代遅れの通貨制度とみなされている。

1914年の古典的自由主義時代の終焉によって、政府の中央銀行から、本物の金本位制の「黄金の手錠」が外された。もしこの「黄金の手錠」が1920年代にまだあったなら、中央銀行はそもそも通貨供給を膨らませないように厳しく制約され、世界恐慌に至る景気変動は起こらなかっただろう。

そもそも金本位制は、中央銀行がない方がはるかによく機能する。なぜなら、中央銀行は政治の産物で、本質的にインフレ傾向であり、小口預金商業銀行のインフレ傾向を抑制するよりも、むしろ促進しがちだからだ。

金本位制に対する批判は、一から十まで勘違いである。本物の金本位制は1920年代には破綻しなかった。なぜなら1914年以降、政府の政策によってすでに破壊されていたからである。

1920年代に世界恐慌の種をまいた通貨制度は、中央銀行によって操作され、インフレを引き起こす、偽りの金本位制であった。

米国の通貨供給量は、適切に定義すれば、1921 年から1928 年にかけて年率 7%で増加し、古典的金本位制の下ではなかった通貨膨張率を示した。1920年代には連邦準備銀行が、一部のマネタリストが描くような通貨供給量の減少要因として機能するどころか、管理下にある銀行準備金を年率18%も増加させた。

(次より抄訳)
How Governments Killed the Gold Standard | Mises Institute [LINK]

アレックス・ジョーンズと危険な名誉毀損罪

ミーゼス研究所編集主任、ライアン・マクメイケン
(2022年10月13日)

名誉毀損法の不条理がまた明らかになった。ラジオ番組の司会者アレックス・ジョーンズは9億6500万ドル(約1416億円)の支払いを命じられた。2012年、米コネチカット州ニュータウンで起きたサンディーフック小学校銃撃事件について、ジョーンズの主張を好ましく思わない人々に対してである。

この銃撃事件の後、ジョーンズは繰り返し、事件は演出されたもので、両親とされる人たちは「クライシスアクター」だと思うと述べた(その後、銃撃は本当だったと思うと述べている)。ジョーンズの聴取者には、銃撃は起こらなかったというジョーンズの主張に同意する人もおり、このことが、殺害された子供たちの親の何人かに嫌がらせをするという聴取者の決断につながったとされる。

実質上、ジョーンズが有罪になったのは、犠牲者の両親に対し無慈悲で無礼なことを言うよう、他の人々をそそのかしたとされたからだ。この嫌がらせには、犠牲者の墓への冒涜も含まれるとされる。

ジョーンズが数億ドルの支払いを命じられたのは、他人(ジョーンズの命令で行動したわけではない)が、自分で犯罪を犯したとされるからだ。だとすれば、この事件でジョーンズが「被害者」とされる人々に実際どのような損害を与えたのか、理解しがたい。もちろん、親に嫌がらせをしたのであれば、それは実際に嫌がらせをした人が責任を負うべき罪だ。本当の罪人は、嫌がらせ行為を行った人たちである。ところがジョーンズは、陪審員と原告が不快に思うようなことを言っただけで、有罪になってしまったようだ。

自由な社会では、私人が、他の人々が自由に無視できるようなことを言っても、法律で罰せられることはない。しかし言論の自由を尊重しない社会では、言葉を発しただけで何億ドルもの罰金を科すことができるらしい(特定の人物に向けた実際の暴力の脅しは危険だが、ここでの議論はそのことではないし、ジョーンズに対する非難とも別だ)。

ジョーンズが、知りもしない第三者の行為のために何らかの形で有罪になるという考えは、そもそも名誉毀損法のねじれた論理から導かれるものだ。名誉毀損は法律問題として罰しなければならないという考えは、人には自由意志がなく、自分の行動には責任がないという考えに基づく。

たとえば、見ず知らずの人が、あなたの隣人は小児性愛者だと言ったとしても、私にはその告発を頭から信じる理由はない。しかし、これは名誉毀損の論理が想定していることだ。もしAさんがBさんについて嫌なことを言ったら、人々はその告発を拒否したり無視したりする自由はないと仮定することになっている。むしろ、人々は言われたことをすべて信じるロボットだと仮定しなければならないのである。 アレックス・ジョーンズが唱える理論を誰もが信じなければならない理由はない。

Aさんの告発を無視する自由がある以上、CさんがAさんの意見を理由にBさんに何らかの危害を加えた場合、Aさんに責任があると考えるのはとりわけ不合理だ。

現実には、人には選択肢があり、他人の言う嫌なことをいちいち信じる必要はない。誰かが誰かについてひどいことを言ったからといって、人々が何か特定のやり方で行動するよう強制されるわけでもない。

人は自分の行動に責任があるという考えは、アレックス・ジョーンズに対する裁判ではまったく通用しなかったようだ。ジョーンズに対する判決は、嫌われる意見を言う一般人を絶えず脅かすことになる。

政府の公式見解に反対する人は誰でも、人種差別主義者、国内テロリスト、あるいはそれ以上のレッテルを貼られる時代にあって、これはじつに危険な展開である。政府は批判者を黙らせるために名誉毀損法を使ってきたし、金持ちも同じように名誉毀損訴訟の脅しを長い間使ってきた。

ジョーンズの事件が注目されているのは、ジョーンズに相当な額の法的防御を行う手段があるからでもある。しかし、それほど経済的余裕のない、嫌われる意見を言う人々は、もっと不利になり、もっと簡単に、もっと早く脅されて沈黙してしまうだろう。

(リバタリアンの経済学者・法哲学者)マレー・ロスバードは名誉毀損法に反対し、権力者が無力な者を黙らせる手段であることを次のように認識していた。

(名誉毀損訴訟を認める)現在のシステムは貧乏な人々を別の意味でも差別している。つまり、多額の金のかかる名誉毀損訴訟を起こされる恐れから、彼らは裕福な人々に関する、真実だが名誉毀損的な知識を配布する可能性が低いからである。

すべての答えは、人々が自分で結論を出し、自分の行動に責任を持つことがはっきりと期待される、完全な言論の自由である。ロスバードが指摘するように、言論の自由が制限されない社会では「誰もが虚偽の作り話が合法的だと知っているから、読んだり聴いたりする公衆の側にはるかに大きな懐疑心があり、現在よりはるかに多くの証明を求め、中傷的な話を信じる度合いもずっと少なくなるだろう」。

(次を全訳)
The Alex Jones Verdict Shows the Danger of Defamation Laws | Mises Institute [LINK]

(参考文献)
ロスバード(森村進他訳)『自由の倫理学』勁草書房

知識人と社会主義

経済学者、フリードリヒ・ハイエク
(1949年)

すべての民主主義国、とりわけ米国では、知識人が政治に及ぼす影響はごくわずかだという強い信念に支配されている。たしかに、知識人がその時々の問題に関して独特の意見を意思決定に及ぼす力、大衆と意見が異なる問題について投票行動を左右する度合いについては、そうだろう。しかし、より長い目で見れば、民主主義諸国で、知識人が今日ほど大きな影響力を行使したことはない。この力は世論を形成することによって行使される。

最近の歴史に照らすと、他人の思想を受け売りする専門家たちのこの決定的な力が、いまなお一般に認識されていないのは、いささか不思議なことである。過去百年間の西側世界における政治の動向が、最も明確な証拠となる。いつ、どこであれ、社会主義が初めから労働者階級の運動であったことはない。社会主義は決して、労働者階級の利益が必然的に要求する、明白な悪に対する明白な救済策ではない。社会主義は理論家の構築物であり、長い間、知識人だけが精通していたある種の傾向をもった抽象的観念をもとに生まれたものである。そして知識人による長期にわたる説得の結果、労働者階級は社会主義を自らの綱領として採用するようになったのである。

社会主義に向かった国はどこでも、社会主義が政治に決定的な影響を及ぼすようになるよりもかなり前に、社会主義の理想が活動的な知識人たちの思考を支配した時期があった。ドイツではこの段階は十九世紀末に訪れ、英国とフランスでは第一次世界大戦のころだった。一見したところ、米国は第二次世界大戦後、この段階に達したように見える。計画的指令経済体制の考えが、かつてドイツや英国の知識人の間でもてはやされたように、米国の知識人の間でも強く支持されている。経験上、いったんこの段階に到達すれば、現在、知識人に支持されている考えがその後に政治を支配する力となるのは時間の問題である。

科学者や学者の評判でさえも知識人階級によって作られ、実際の業績の真価とはほとんど関係のない事柄について知識人が抱く見解にどれほど左右されているか、門外漢の人々はおそらく気づいていないだろう。そしてここで議論している問題にとってとくに重要なのは、どの学者も、知識人が「進歩的」と見なす政治的見解をもっているという理由だけで、偉大な科学者として不当に大衆の評価を得た人物の例を、自分の専門分野から挙げることができるということだ。これに対し、保守的な学者に政治的な理由で科学者として不当に高い偽りの評価が与えられた例を、私はこれまで一度も見たことがない。

知識人が科学者の評判をつくりだすことがとくに重要となるのは、専門家の研究結果が他の専門家に利用されることによって決まるのではなく、大衆の政治判断によって決まるような研究分野である。社会主義や保護主義といった学説の発展に対し経済学者がとってきた態度ほど、それをよく示すものはない。

社会主義(あるいは保護主義)に好意的な経済学者が、同業者から認められていた時代はおそらくなかっただろう。これほど高い割合で社会主義(あるいは保護主義)に反対している研究者集団は他にないとさえ言えるだろう。近年、社会主義的な社会改革への関心から経済学を職業に選んだ人が少なくないことを考えれば、この点はいっそう興味深い。ところが、知識人が取り上げ広めるのは、専門家の間で主流となっている見解ではなく、少数派の見解、それもその専門家としての地位がやや疑わしい人々の見解なのである。

(次より抄訳)
Why Intellectuals Fall for Socialism | Mises Wire [LINK]

(参考)
『社会主義と戦争』(ハイエク全集 第2期)尾近裕幸訳、春秋社