2022-10-25

奴隷制は経済発展を妨げた

研究者、リプトン・マシューズ
(2022年10月18日)

「資本主義の新しい歴史(NHC)」は、不正確な点が多いにもかかわらず、広く称賛され続けている。批判的な論評によって信奉者たちの主張は打ち砕かれたが、多くの人々は、米国の経済発展の原動力として奴隷制と綿花の役割を誇張する、誤った思い込みに固執している。いくつかの産業は奴隷制を助長することに加担したが、その成功は決して奴隷による生産に依存していたわけではない。

むしろ、奴隷制は商業の発展を阻害するものだった。奴隷制に依存することで、物理的インフラや不動産開発への投資意欲が減退したのである。例えば、1830年代の運河ブームのピーク時には、北部の州では南部の州の5倍の距離の運河が建設された。奴隷は担保として徴収することができ、大きな富の源泉であったため、奴隷制は物理的資本形成を圧迫したのである。

さらに経済史家のギャビン・ライトは、奴隷は動産であるため、所有者は遠距離間でも借金をすることができ、自由州の慣習である地元の信用関係を構築する機会が制限されたと指摘している。奴隷制は、地域の信用ネットワークの形成を阻害し、南部の金融と起業の発展を妨げたのである。

さらに重要なことに、農園主が南部以外から労働力を確保できなかったことで、経済の活性化につながる新たな人的資本の吸収が妨げられた。労働力の自由な割り当てを認めていた北部の州とは異なり、南部は奴隷労働に依存していたため、移民を敬遠していたのである。また、農園主が高度な教育を受けた労働力を必要としないことから、南部は教育への投資が不足した。

農園主は自由白人を労働力として雇用することを好まなかったため、公教育への財政支出は決して優先されなかった。1860年当時、南部では学齢期の白人人口のわずか35%が就学していただけで、他の地域では72%だった(学期は70%長かった)のと対照的である。北部の州は、非エリートが活躍できるような包括制度を育て、より自由な環境を育んでいた。奴隷保有州は奴隷制がもたらす不平等により、経済成長を促す社会的・技術的な改善が遅れた。

「資本主義の新しい歴史」の主張とは逆に、奴隷制は経済的なハンデを示す場合が多い。ミシガン大学の研究者によると、米国の奴隷制地域は地価が低く、土地の集約利用も少なかった。奴隷制は開発に悪質な影響を及ぼし、奴隷制地域では、奴隷制に関わる土地価値の減少が、奴隷の富そのものの価値よりも大きかった。

奴隷制を産業発展の原動力とする以外に、「資本主義の新しい歴史」のもう一つの怪しげな戦術は、米国の発展における綿花の役割を誇張することである。南北戦争以前の綿花生産は国内総生産(GDP)の5%程度であり、主要な輸出品であったとはいえ、輸出がGDPの7%を超えることはなかった。米国には大きな国内市場があったため、十分な内需と域内貿易を生み出し、発展を促すことができたのである。

また驚くべきことに、綿花は米経済史で重要な位置を占めるが、米国にとって最も重要な作物ではなかった。米国の主要農産物はトウモロコシであり、1839年と1849年における南部の主要作物もトウモロコシだった。たしかに奴隷は綿花の生産に役立っていたが、綿花は奴隷がいなくとも育ったのである。南部で奴隷制が廃止された後、労働者階級の白人は南北戦争後に綿花畑を手に入れ、たやすく綿花生産に移行することができた。

また綿花は、米国内の産業中心地を結ぶ重要な結節点でもなかった。「資本主義の新しい歴史」は、綿花貿易の富が西部の農産物や北東部の製造品の需要を刺激したという経済学者ダグラス・ノースの主張を復活させたが、この主張には研究によって反論がなされている。南部は食料自給率が高く、北部の輸出品にとって重要な市場ではなかった。

さらに、トレバー・バーナードやジョルジオ・リエロは、米国の綿花が英国の産業革命の支点になったという主張を、やはり激しく論破している。「資本主義の新しい歴史」を唱えたスベン・ベッカート(ハーバード大学教授)にとって、奴隷制と綿花は切っても切り離せないものだ。しかし、米国の綿花は英国の産業主義の原動力にはならなかった。1793年にジョージア州で導入されたイーライ・ホイットニーの綿繰り機は有名だが、米南部が綿花の主要産地になったのは1810年代で、その地位はわずか一世代ほどしか保たれなかった。

加えて、奴隷制の比較研究によって、奴隷制が工業化と結びついており、暴力の行使によって綿花生産量が増加したという「資本主義の新しい歴史」の主張が誤りであることが証明されている。ヌノ・パルマらの2020年の論文によると、「奴隷制は経済成長や発展を促すどころか、ブラジルの工業化を妨げていた。また、農業生産性における奴隷制の役割について検討すると、米国と同様、暴力の行使では綿花大農園の生産性上昇を説明できない」という。

米国と同様、ブラジルでも奴隷制が工業化を阻害した。生産性の向上は、生物学的なイノベーションの結果であり、拷問で奴隷を脅して働かせたからではない。「資本主義の新しい歴史」は、政治活動としてはかなり成功しているものの、歴史として教えてはいけない。本当はプロパガンダなのだから。

(次を全訳)
Slavery Did Not Promote Capitalism: The New Economic History of Capitalism Is Simply Wrong | Mises Wire [LINK]

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