2024-03-25

民主主義を語る資格のないメディア

ウクライナへの軍事行動が始まって初のロシア大統領選挙で、現職のプーチン氏が通算5回目の当選を果たした。投票率は74%で前回2018年を上回り、プーチン氏の得票率は8割強で過去最高の圧勝だ。これに対し日本の主要紙は一斉に、選挙結果は強権により演出されたものにすぎないと主張し、ウクライナへの「侵略」は正当化されないと強調した。みっともない。自らの行いを顧みずにロシアを非民主主義国と見下し、侵略国家と一方的に非難する、日本を含む西側のその傲慢で偽善に満ちた態度こそが、ロシア国民の反発と愛国心を強め、プーチン大統領を圧勝に導いたのだ。
産経新聞は「ウクライナ侵略に反対し、「反政権」「反戦」を訴えた立候補者が事前に排除されるなど、民主的な選挙の片鱗もみられない」と批判した。いつもウクライナの徹底抗戦を主張しておきながら、反戦派の排除を問題視するとはご都合主義もいいところだ。立候補を認められなかったのはリベラル派の元下院議員ナデジディン氏や平和主義を掲げた元ジャーナリスト、ドゥンツォワ氏らだが、いずれも提出書類に無効な署名が多すぎるなどの不備が原因とされる。

ナデジディン氏は戦争終結や徴兵制廃止を訴えていたといい、選挙で争えなかったのは残念だ。しかし基準を満たさないのに立候補を認めれば、それこそ「民主的な選挙」に反する。それらしい根拠もないのに、不当に排除されたかのように言い立てるのは、たちの悪い印象操作だ。それほど支持者の多くない反戦派らの不出馬がプーチン氏の記録的な圧勝を可能にしたとは、言いすぎだろう。気に入らない選挙結果なら認めないとは、民主主義にふさわしい態度ではない。

読売新聞は「立候補や投票の自由が保証されてこそ、選挙は民主主義の制度でありうる」と強調し、プーチン政権について「議会や司法も、政権の影響下にあり、チェック機能は期待できない」と批判する。ロシアは完璧な民主主義国ではないかもしれない。だがその一方で、ロシア非難の先頭に立つ米国では、返り咲きを狙い予備選に出馬中のトランプ前大統領が多くの刑事訴追の標的となり、事実上、立候補の自由を妨げられている。泡沫候補への妨害どころではない。

また日本では、国政選挙での「一票の格差」が法の下の平等に反するとして選挙の無効を求める訴訟が繰り返し提起されているにもかかわらず、裁判所は「違憲状態」というだけで選挙の無効は認めないし、いわれた国会もほとんど是正しない。その結果、昔からの選挙区で強固な地盤をもつ世襲議員が多く当選し、内閣に顔を並べる。とてもロシアの選挙を見下す資格はない。

なにより、ロシアと同じく戦時下のウクライナは、戒厳令を5月中旬まで延長することを理由に、本来であれば3月に行う大統領選をまだ実施していない。国民から投票の自由を奪っているのは、ロシアではなく、ウクライナのゼレンスキー政権のように見える。なおウクライナは他にも、野党系メディアを閉鎖したりジャーナリストを拷問して死に追いやったりと、立派とは言いにくい振る舞いが目に余る。

各紙とも2022年2月に始まったロシアの軍事行動を「侵略」と非難するが、これも悪質な印象操作だ。現在の戦争は、ウクライナに肩入れする日本の国際政治学者でさえ認めるとおり、10年前にウクライナ東・南部で勃発した紛争の延長戦上にあり、その紛争中、民族主義的なウクライナ政府は女性や子供を含むロシア系住民を迫害し、殺傷した。歴史上、ロシアに属してきたこの土地の住民たちを保護することが、ロシアが開戦に踏み切った一つの理由だ。戦争が最善の手段だったかどうかという問題はあるものの、1999年のコソボ紛争で、西側の北大西洋条約機構(NATO)はアルバニア系住民の保護を理由にセルビアを空爆したのに、今回ロシアだけを非難するのは筋が通らない。

毎日新聞は「ロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ東・南部の4州でも投票が強行された」と書く。西側メディアが繰り返す、この「一方的に併合を宣言」という主張は事実をゆがめる。クリミア半島や東・南部4州は、かつて住民投票でいずれも約90%が賛成し、ロシアに編入した経緯がある。このときも西側は今回の露大統領選同様、投票結果は認められないと騒いだが、激しい抗日運動を招いた日本による1910年の韓国併合(住民投票の結果ではない)と異なり、編入地域の住民がロシアの支配に憤激しているという情報はないし、ソーシャルメディアで流れる映像はむしろ喜んでいるようだ。

産経は、クリミアなどでの大統領選投票について、林芳正官房長官の「(クリミアなどの)併合はウクライナの主権と領土一体性を侵害する明らかな国際法違反だ。これらの地域での大統領選実施も決して認められない」という言葉を引用し、ロシアを非難する。だが「明らかな国際法違反」と言い切れるほど単純な話ではない。

近年、国際法上の「救済的分離」という理論が議論されている。特定の集団が自国政府によってアパルトヘイト(人種隔離)やジェノサイド(民族大量虐殺)のような継続的で重大な人権侵害にさらされている場合などに、救済として分離を認めるべきだとされる。自国政府から長年迫害・殺傷されてきたウクライナのロシア系住民は、まさにこのケースに当てはまる(米軍基地問題に苦しむ沖縄もこの理論により日本から独立できるかもしれない)。

さらに踏み込んで、個人の権利を重視する自由主義者(リバタリアン)の立場からは、アパルトヘイトやジェノサイドといった特別の事情がなくても、住民が投票で分離の意思を表明しさえすれば、それを「領土一体性」という国家の論理を理由に妨げてはならない。

経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは「ある特定の領土の住民が、それが一つの村であれ、全地区であれ、隣接する一連の地区であれ、自由に実施される住民投票によって、その時点で所属している国家との一体化をもはや望まず、独立国家を形成するか、他の国家に帰属することを望むと表明したときはいつでも、その意思は尊重され、遵守されなければならない」と述べ、こう付け加える。「これこそが、革命や内戦、国際戦争を防ぐための、実現可能で効果的な唯一の方法なのである」

同じく自由主義の経済学者ハンス・ヘルマン・ホッペはウクライナ戦争について論じ、「平和をもたらす方法として、地域の分離独立を主張する声を真剣に検討すべきだ」と指摘する。「これはウクライナの領土を縮小することであり、当然ゼレンスキー一味は反対するだろう。しかし、住民が守りたがらない領土をなぜ守るのか。戦争に巻き込まれないことを望む地域に、なぜ戦争を持ち込むのか」

ウクライナのロシア系住民は、すでに住民投票によってウクライナからの分離とロシアへの帰属の意思を示している。ところが日本など西側メディアは、住民の意思を無視し、認めない。気に入らない大統領選の結果を認めないのと同じだ。民主主義を語る資格はない。平和な手段による分離を認めない結果、悲惨な戦争が起こっても、ロシアの即時撤退という非現実的な要求を繰り返すばかりで、和平の提案をしようともしない。

日本のメディアは、ロシアに説教を垂れる資格があるほど民主主義についてよく理解していると思うのなら、今すぐクリミアと東・南部4州のロシア帰属を支持し、それを前提とした現実的な和平案を提示すべきだ。

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