2024-03-20

オスプレイがなくならない理由

米軍が14日、輸送機オスプレイの日本国内での飛行を再開した。昨年11月に鹿児島県沖で墜落し8人が死亡した事故を受け、全世界で飛行を約3カ月停止していた。停止措置の解除が表明されて1週間足らずで、詳しい原因を伏せたまま早くも飛行を再開したことに対し、左派メディアを中心に批判の声が上がった。しかし、安全上の問題が指摘されるオスプレイが日本からなくならない一因は、左派を含めメディアが外敵の脅威を煽り立て、在日米軍の治外法権的な存在を正当化してきたことにある。
オスプレイは世界各地で事故が多発し、「空飛ぶ棺桶」の異名を持つ。今回の墜落事故では、米軍にさまざまな特権を与える日米地位協定の問題点があらためてクローズアップされた。同協定に関する合意議事録は「日本の当局は、合衆国軍隊の財産について、捜索、差し押さえまたは検証を行う権利を行使しない」と定め、日本の捜査権を制限する。墜落事故が日本の領海・領空で起きても、日本が包括的な調査を行うことはできない。

今回の事故でも、海上保安庁は回収した機体の一部を米側に引き渡し、鹿児島県屋久島町も地元漁師らが集めた残骸を引き渡した。最大の物証である機体の残骸を手放すことで、日本側による原因究明は事実上、不可能となった。海保は米軍に調査への協力を要請したと発表したが、米軍が同意したかどうかは明らかではない。松野博一官房長官(当時)は昨年11月30日、地位協定の見直しに否定的な考えを示した。

米リバタリアン系サイトのアンチウォー・ドット・コムで、ジャーナリストのタケウチ・レイホ氏は「日本は米軍の飛行を止めることも、墜落の原因を究明することも、十分な情報を得ることもできない。そのうえ、政府は日米地位協定を見直すつもりはなく、地方自治体や住民の反対を無視している」と批判。「米国はいまだに日本を占領しているのだ」と鋭く指摘した

米ボーイング社が製造するオスプレイは、機体の不具合や事故の多発などで米国外からの調達数が伸びなかったことなどが影響し、2026年予定で生産ラインを閉鎖する。米国防総省は当初、米国外から400~600機の受注を見込んでいたが、実際には日本が17機購入したのみで、他国は次々と導入を見送った。昨年12月には、オスプレイに使う複合材の製造過程で、必要な基準を満たさない不正があったと司法省がボーイング社を訴え、同社が810万ドルを支払う内容で9月に和解していたことが明らかになった。

これだけ問題を抱えるオスプレイが米国以外では日本にだけ存在し続ける一因は、メディアの報道姿勢にある。

朝日新聞は今回の飛行再開について、3月15日の社説で「政府は本来、住民の不安を代弁し、米側に厳しく安全確認を求めるべき立場だ。それが一体になって再開を急いだ。国民の安全を軽視したと言われても仕方ない」と批判した。この主張そのものは正しい。

けれども、そもそも日本政府がオスプレイの米軍による配備を認め、自衛隊でも購入している背景には、「日本の安全保障に資するために必要」(木原稔防衛相)という「大義名分」がある。そしてメディアは日頃、政府のその言い分を後押ししている。

たとえば、朝日はほぼ同時期の3月10日の社説で、全国人民代表大会が開会中の中国について、「周辺国を軍事的に圧迫する存在となって久しい」「核戦力も着々と増強しており、もはや自国防衛に必要な水準を超えつつある」と述べ、「平和をうたう外交方針との乖離をどう説明するつもりなのか」と指弾する。

中国が核戦力を含む軍備を増強しているのは事実だ。軍拡は世界の平和を脅かす。とくに核兵器は大量無差別殺傷兵器であり、リバタリアン思想家のマレー・ロスバードが説くように、その使用はもちろん、存在そのものが非難されなければならない。

しかし軍事費の対国内総生産(GDP)比をみれば、中国は約1.6%にとどまるのに対し、中国を敵視する米国は約3.5%と2倍強に達する。保有する核弾頭の数は中国の410発に対し、米国は5244発とケタ違いだ。しかも米国は近年台湾と軍事協力を強化し、最近は陸軍特殊部隊(グリーンベレー)が中国本土に近い台湾の離島、金門島に常駐を始めるなど、中国に対しきわめて挑発的な態度をとっている。また日本自身、2024年度の防衛予算案は23年度当初比16.5%増で過去最大の金額となった。伸び率は中国(7.2%増)の2倍以上に達する。

このような状況で、中国だけを一方的に非難し、脅威を煽る朝日や他メディアの姿勢は非常に問題がある。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)報道も似たようなものだ。国民はこうした偏った報道に接し、在日米軍の存在やその特権、日本の軍拡を支持する世論がつくられていく。

つまり、問題を抱えるオスプレイが日本に配備され、人々の安全を脅かす責任の一端は、政府のお先棒を担いで外敵の脅威を煽る報道姿勢にある。メディアにその自覚はあるのだろうか。

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