2023-04-23

【コラム】お笑いG7

木村 貴

「国際社会」の代表気取り

長野県軽井沢町で3日間にわたり開かれた先進7カ国(G7)外相会合は4月18日、ウクライナに対し「侵略戦争」を行うロシア軍の即時撤退を求めることや、中国の力や威圧による「一方的な現状変更の試み」に強く反対することなどを盛り込んだ共同声明を発表し、閉幕した。林芳正外相は議長として記者会見し、G7が「核兵器のない世界」へのコミットメント(関与)を確認したと表明。5月に広島市で開くG7首脳会議(広島サミット)の議論に反映させる。
1970年代半ばに始まったG7(現在のメンバーはフランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、欧州連合=EU)といえば、かつては国際社会をリードする先進国の要人が一堂に会し世界の政治経済問題について議論するという、内実はともかく、華やかなイメージがあった。しかし今や、見る影もない。

新興諸国の経済発展で相対的な地位が低下したにもかかわらず、いつまでも「国際社会」の代表気取りで、あれこれ偉そうに説教する。世界のあちこちで内政干渉や経済制裁、軍事介入を続ける。これでは嫌われても仕方がないし、実際嫌われている。しかし当人たちはそれに気づかず、自分の日ごろの行いを棚に上げ、偉そうな説教や要求を性懲りもなく繰り返す。もはや哀れを通り越して滑稽ですらある。

今回日本が議長国となり、信州サーモンのにぎりずしだの高級日本酒「獺祭」だのを(税金で)ふるまいつつ開いた外相会合は、その「お笑いG7」ぶりが、さらに遺憾なく発揮された。道徳的な高みに立って、どうみても筋の通らない主張や要求を恥ずかしげもなく掲げる。軽井沢に詰めかけた国内大手メディアはそれに一言もツッコミを入れず、すばらしいメッセージだとほめそやす。新聞・テレビしか見ない人は無邪気に信じてしまうのかもしれないが、さすがにインターネットを利用する個人の間では、この茶番にあきれる声が目立つ。

共同声明の主な柱に沿って、G7のトンデモぶりをみてみよう。

ウクライナによる虐殺を無視

まず、ロシアに対してウクライナから即時かつ無条件で軍撤退を求めた。戦争が政治の延長だとすれば、そこには妥協が必要である。「即時かつ無条件」の撤退などという一方的な要求は、「ウクライナは絶対善、ロシアは絶対悪」という物語の上にしか成り立たない。この単純な図式が嘘であることは、これまで何度か書いてきたので、今回は繰り返さない。その代わり、他の人の声を紹介しよう。

ヤフーニュースに掲載された、FNNプライムオンラインの記事(G7外相「ロシアは即時撤退を」 軽井沢で共同声明)に付いたコメントである。「ウクライナがドンバスに対して行っていた8年間のジェノサイドはスルーです」。これはウクライナ紛争の経緯に詳しい人なら知っているとおり、2014年の民族派クーデター以降、西側から武器の支援を受けたウクライナ軍によって、東部ドンバス地方に住むロシア系市民の虐殺が続いたことを指す。つまりウクライナ政府の手は血に染まっており、絶対善ではありえないのに、その事実に目をつぶり、ロシアだけに一方的な譲歩を迫るG7側の偽善を、コメントの投稿者は指弾しているのだ。

同じ記事にこんなコメントもあった。「G7は、世界のために提案しているのか?自分達7ヵ国の為だけのものか?これから米国が他国に侵攻することはあり得るが、その時はどう対応するのか?今、余り綺麗事を述べていると困ることにならないか?自分たちが武器供与しているから、各国の経済は困窮し、自国民の生活を圧迫している」。これからどころか、すでに米国はアフガニスタンやイラク、リビアなどに国際法を無視して侵攻しているのだが、当時他のG7諸国は一部を除き、米国を支持した。それにもかかわらず、今回のウクライナ戦争については平気で「侵略戦争を許すな」と「綺麗事」を述べ、官民癒着の兵器メーカーに武器を供与させていかがわしい商売に精を出している。コメント投稿者が「?」を連発する気持ちもわかる。過去の行いをまったく気にしないG7の政治家の面の皮の厚さは、一般人の想像を絶するものがある。

中台対立を煽る

次は中国だ。共同声明は「我々は、中国に対し、国際社会の責任ある一員として行動するよう改めて求める」と表明する。いきなり上から目線である。先ほど触れた、G7自身の過去の無責任な行状に照らせば、羞恥心のある人間ならとても口に出せない言葉だ。そして「力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」としたうえで、台湾というデリケートな問題に踏み込む。「一つの中国政策」というG7メンバーの基本的立場に変更はないとしつつ、「台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和的解決を促す」と述べた。
これに中国側は「台湾問題は中国の内政であり、いかなる外部の干渉も許さない」(中国外務省の汪文斌副報道局長)と猛反発した。当たり前である。G7自身が認めるように中国と台湾が「一つの中国」であるのなら、中国と台湾がいかにもめていようと、それは国内問題であり、他国があれこれ口を出すべきではない。かりに台湾の人々が、ウクライナのドンバス地方のロシア系市民のように、分離独立を強く望むならともかく、そんな話は聞かない。

ところがG7側は中台の問題に口を出すだけでなく、近隣で軍事演習を行ったり、米軍が台湾に200人の訓練兵を駐留させたり、米下院議長が訪台したり米国で台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会ったりと、明らかに中国を敵視し、台湾をけしかけて対立と分断を煽っている。これでよく「台湾海峡の平和と安定」などと言えたものだ。

共同声明はまた、「新疆ウイグル及びチベットにおけるものを含む、報告された中国の人権侵害に関し、懸念を引き続き表明」した。これらの「人権侵害」がどの程度真実かは疑問も呈されているが、かりに真実だとしても、これまた国内問題であり、他国政府がとやかく口を挟むべきではない。最近は国際人権法を盾にして、G7などの「自由民主主義国」様が他国の国内問題に干渉するのは当然のような風潮になっているが、逆の立場になったらどうか、想像してみればいい。中国が米国では難民や移民に対する人権侵害がはびこっていると非難するだけでなく、経済制裁を発動したら、米政府はおとなしく改善に乗り出すだろうか。考えるまでもない。

さらに共同声明は中国に対し、大手製薬会社の日本人男性が拘束されていることなどを念頭に、領事関係に関するウィーン条約に従って行動するよう求めた。中国側は「法律にのっとって対処する」としているのだから、その言葉が嘘だという確たる根拠でもない限り、尊重して待つべきだろう。日ごろ挑発を繰り返しながら、こういうときだけ友好的な対応を求めるのは、虫がよすぎる。

北朝鮮をさらに怒らせる

北朝鮮に対しては「前例のない数の不法な弾道ミサイル発射」を強く非難するとともに、国連安全保障理事会の決議に沿った完全な非核化に向けて「揺るぎないコミットメント」を改めて表明した。

これに対する北朝鮮の反応は予想どおりだ。崔善姫(チェ・ソンヒ)外相は朝鮮中央通信を通じて発表した談話で、「荒唐無稽で不法無道な内政干渉行為」と強く反発。「ごくわずかの国による閉ざされた利益集団にすぎないG7は決して国際社会を代弁しない。米国の覇権的地位保障に服従する政治的な道具にすぎない」と指摘した。北朝鮮の核保有国としての地位は「最終的かつ不可逆的」で、「絶対に誰の認定も承認も求めない」とした。

もし共同声明の目的が北朝鮮を怒らせることだとしたら、みごとに成功したといえるだろう。しかしG7の政治家以外は誰でも知っていることだが、平和を実現したいときに、ただでさえ険悪な仲の相手をさらに怒らせるのは、賢明とはいえない。「ごくわずかの国による閉ざされた利益集団にすぎないG7」と本当のことまで言われてしまった。

北朝鮮が「前例のない数」のミサイル発射を繰り返すのは、同国自身が国連に呼びかけたとおり、米国が朝鮮半島周辺で行う軍事演習に反発しているためだ。もちろん米国側にいわせれば、演習は北朝鮮の核武装を諦めさせるためだという理屈がある。しかしそもそも、保有する核弾頭数が北朝鮮(推定20発)とは比較にならないほど多い米国(同5428発)が、核兵器は世界にとってのリスクだと言う資格があるのか、疑問に感じざるをえない。大量の核弾頭を保有すればするほど、事故や手違い、無許可による使用の可能性を増やすことになるから、それだけ世界に及ぼすリスクは大きい。しかも過去において核爆弾を生きた一般市民に向かって使用したことのある国は、独裁国家の北朝鮮ではなく、立派な民主主義国家の米国だけなのである。

「核兵器を使っても悔い改めない」

そこで最後に、日本のマスコミが報じなかった興味深い話題に触れておこう。

ブリンケン米国務長官は外相会合の閉幕を受けて記者会見し、5月に広島でG7サミットが開かれることについて「長崎と共に(核兵器による)前例のない破壊を最も強く思い出させる」と話した。しかし、その核爆弾を米国自身が投下したことには触れなかった。
ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)はこの発言に対し、通信アプリ「テレグラム」でコメントした。「この犯罪を犯した自国について言及しなかった」と指摘し、「あの嘘つき野郎ども。核兵器を使っても悔い改めない」と非難した。さらにこう付け加えた。「これらすべては日本で起きていることだ。核爆弾で何十万人も死んだ国だ。米国によって殺された同胞の墓に唾を吐きかけるような指導者のいる国だ」

高級日本酒で良い気分になった外相たちの酔いがいっぺんに冷めるような発言だが、このように核心を衝く指摘が、当のG7の政治家からはもちろん、日本のメディアからも一切ない。新聞・テレビがつまらなくなるはずだ。

この調子では、せっかく広島で開くサミットでも、核兵器やその使用に関する突っ込んだ議論は期待できそうにない。それどころか、朝日新聞の4月20日の記事によれば、広島平和記念資料館(原爆資料館)の展示をG7首脳にどこまで見せるかで、調整に難儀しているという。米国への忖度からだ。「議長国として各国を招く立場。相手の嫌がることはできない」(官邸幹部)という。

どうだろう、この卑屈な態度は。「核兵器のない世界」という麗々しく掲げた理想とのギャップにあきれるが、もはや笑いは込み上げてこない。広島・長崎で殺された人々の霊が、自分たちに「唾を吐きかけるような」日本政府の言動を見て、笑うはずはないからだ。

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