2022-11-07

終わりなき戦争

コラムニスト、フィリップ・ジラルディ
(2022年11月1日)

プロイセンのカール・フォン・クラウゼヴィッツ少将は、ナポレオン戦争での自らの体験をもとに、政治現象としての戦争を考察したことで有名である。1832 年の著書『戦争論』では、戦争と平和についてよく引用される簡潔な要約を示し、政治・ 軍事戦略という観点から、「戦争は他の手段による政治の継続にすぎない」と書いている。言い換えれば、戦争は、他のすべてが失敗したときに国家の政治目標を達成するために政治家に提供される道具である。

クラウゼヴィッツの戦争に関する考え方の極度の非道徳性を否定する一方で、歴史上、一部の国家が戦争を利用し、領土の拡大と外国資源の収奪を図ってきたことを認めることができる。古くはローマ共和国で、選挙で選ばれた指導者が執政軍の長を兼ねており、執政軍は毎年春になると帝国を拡大するために出兵することになっていた。最近では、英国が数世紀にわたってほぼ絶えまなく植民地戦争を行い、史上最大の帝国を築き上げたことが知られている。

米国を支配するネオコン(新保守主義者)の特徴は、自らが帝国の責任とそれに密接に結びついた戦争権力を受け継いだと考えていることだ。しかし米国を戦争によって作られ、力を得た国家に変貌させるうえで、別の側面を避けてきた。第一に、他国と交戦した後に何が起こるかは予測不可能である。米国の戦争は、朝鮮半島に始まり、ベトナム、アフガニスタン、イラク、そしてラテンアメリカ、アフリカ、アジアでの小規模な作戦に至るまで、死や破壊や負債に見合う好ましいものがほとんどなく、被害を受けた人々に悲しみだけをもたらしてきた。また、武力行使を急ぐあまり、米国民に目に見える利益をもたらすという連邦政府の存在意義が忘れられている。9・11テロ以降、いやそれ以前から、そのような利益はまったくなかった。ウクライナをめぐるロシアとの代理戦争となったものに対する米国の強硬姿勢は、さらなる痛み(おそらく悲惨なほどの)をもたらし、本物の利益は何もないだろう。

もし戦争をすることがワシントンの民主・共和両党の主たる役目になっていることを疑うのなら、この数週間に掲載されたいくつかの記事を検討すればよいだろう。第一は、共和党側からのもので、おそらく明るい展開が含まれている。共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務は二週間前、来月の下院選挙で共和党が過半数を獲得すれば、ウクライナに「白紙の小切手」を書き続けるとは限らないと警告した。ウクライナの腐敗した政権に向けた際限のない財政支援に対し、共和党が懐疑的になっていることの表れだろう。マッカーシー議員は「国民は不況にあえぎ、ウクライナに白紙の小切手を書くことはないだろうと思う。そんなことはしない。...白紙の小切手はタダではない」

ウクライナに対する米国の無批判な支援は、戦闘が始まって以来、ホワイトハウスや メディアによって仕組まれたものであり、共和党員、とくにドナルド・トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」に賛同する一部の人々は、国内で記録的なインフレが起こっているときに、海外で多額の連邦支出を行う必要があるのかと異議を唱えるようになってきた。2月にロシアが侵攻を開始して以来、米議会はウクライナに対する数百億ドルの緊急安全保障・人道支援を承認し、バイデン政権はさらに数十億ドル相当の武器や軍備を軍の在庫から出荷している。その資金と武器の行き先は、ほとんど、あるいはまったく監視されていない。

しかし残念ながら、共和党はウクライナとロシアに対する取り組みで統一されているとは言いがたい。リズ・チェイニー下院議員(タカ派で知られたディック・チェイニー元副大統領の娘)は、「蛙の子は蛙」のことわざどおり、トランプ氏を吊るし上げる作業の合間を縫って、彼女のいう「共和党のプーチン派」を非難した。チェイニー議員はこう言った。「共和党はレーガン(元大統領)の党であり、冷戦に勝利した党だ。そして今、私が思うに、共和党のプーチン派は本当に大きくなっている」

チェイニー議員は、この問題に関してフォックス・ニュースが「プロパガンダを行っている」と批判し、とくにフォックスの司会者タッカー・カールソン氏を「あのネットワークで最大のプーチンのプロパガンダを行っている」と呼んだ。「この戦いでフォックスは誰の味方なのか、よく考えないといけない。ウクライナに残忍な侵略を行うプーチン(露大統領)の味方に米国がなると考える共和党の一派がいるというのは、どういうことなのか」

チェイニー議員は、そもそも米英がロシアとの外交よりも軍事力による威嚇を好んだために戦争に発展したという問題には、とくに触れなかった。なぜ米国は、米国民にとって真の国益とはいえない外交政策の問題で、核戦争の恐れの瀬戸際でビクビクせざるをえないと感じているのだろうか。チェイニー議員がどこで発言したかといえば、アリゾナ州のマケイン研究所だ。そう、それは(タカ派で知られた)故ジョン・マケイン元上院議員の遺産であり、マケイン氏は戦争であれば何でも熱心に支持した、もう一人の共和党員である。

ジョー・バイデン大統領もナンシー・ペロシ下院議長も、それがどんな意味であれ、「勝利」が得られるまで米国はウクライナから離れないと認めている。一方、他の政権幹部は、この戦闘の実際の目的はロシアの弱体化とプーチン大統領の排除だとほのめかしている。ホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は、マッカーシー議員の発言について聞かれると、党の方針をあっさりと口にした。同報道官は「ロシアの戦争犯罪と残虐行為に対するウクライナの自衛を支援する」ために超党派で活動している議会指導者に感謝し、こう付け加えた。「政府は議会と協力し、これら取り組みに関する議論を注視し続け、必要な限りウクライナを支援するつもりだ。毎日戦っている勇敢なウクライナ人に、彼らの自由と民主主義のために戦うという約束を守るつもりだ」

チェイニー議員のコメントよりももっと奇妙なのは、民主党の進歩派30人が作成した、ウクライナでの戦闘を終わらせる交渉に米国の支援を促す手紙の話だろう。この書簡は6月に作成されたが、先週まで公表されず、翌日には圧力ですぐに撤回された。議会進歩派議員連盟を率いるプラミラ・ジャヤパル氏は、マッカーシー議員がウクライナへの予算削減を警告した際の「発言と混同された」ために撤回された、と述べた。ジャヤパル氏はこの書簡を「注意散漫」と呼んだが、同氏が本当に言いたかったのは、無意味に拡大しているのが明らかな紛争における戦争と平和を含め、いかなる問題でも共和党と大義をともにする気はない、ということだ。

無知なジャヤパル氏はまた、自分のグループが出したメッセージをわざわざ否定し、政権のウクライナ政策に対し民主党議員から反対はなかったと強調した。民主党は「ウクライナの人々への軍事、戦略、経済支援のすべての施策を強力かつ全会一致で支持し、賛成票を投じてきた」という。ホワイトハウスのメッセージを倍加し、ウクライナの戦争は、「ウクライナの勝利」の後にのみ、外交によって終了すると断言した。

ようするに、ワシントンでウクライナについて良識を語る者は、政党内の勢力と、現場で起きている事実をすべて誤って伝える従順な国内メディアとの協力によって、締め出されるのである。バイデン大統領が最近、世界は核の「ハルマゲドン(終末戦争)」の最も高いリスクに直面していると警告したにもかかわらず、米政権は紛争を終わらせるためにロシアとの外交を模索する気配がなく、もちろんそれをプーチンのせいにしている。これは悲劇をもたらす。これらのことを考えると、私見によれば、自国民を守ると同時に、全世界を巻き込む恐れのある核の大惨事を避ける合理的な措置を取ることができない、あるいは取る気がない政府は、根本からして悪であり、すべての正統性を失っている。退陣する前に、その事実を認識すべきである。

(次を全訳)
The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : War Without End [LINK]

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