ミーゼス研究所編集主任、ライアン・マクメイケン
(2022年11月10日)
米中間選挙の投票はまだ終わっていないが、ひとつだけはっきりしていることは、この選挙の後、米国の中央政府にはほとんど変化がないだろうということだ。
DC policymakers are committed to the same old disastrous policies. Real change will come in the states, through the inevitable cultural divides, and national divorce. | @ryanmcmakenhttps://t.co/vJUg7vToJp
— Mises Institute (@mises) November 10, 2022
下院は共和党が支配することになりそうだが、下院で共和党が享受する過半数はわずかなものになるだろう。このため、バイデン政権が推し進める最悪の法案に対して拒否権を行使することができるが、共和党はたんに法案をつぶすのではなく、民主党政権と妥協して「協力」するよう望んでいることは、これまでの歴史がよく物語っている。
米上院に関しては、ネバダ州とアリゾナ州の結果を待っているところだ。ジョージア州は決選投票に向かう。しかし、上院は再び五分五分に近い状態になることは明らかだ。もし共和党がなんとか過半数を確保すれば、最悪の法案や大統領任命の人物を阻止することができるだろう。しかし、政策の方向性が根底から変わることはないだろう。
結局のところ、連邦政府の政策の多くは行政府によって決定されており、議会で党の指導者が多少変わったところで、環境保護庁(EPA)、内国歳入庁(IRS)、連邦捜査局(FBI)といった国の行政機関の方針が変わることはほとんどない。これら行政機関は無数の米国人の日常生活に対し絶大な権力を持っているが、保守派と呼ばれるかなりの多数派でさえ、この権力を抑制する気概は見られない。確かに、現在下院に向かっている共和党の少数派は、ほとんど何もしないだろう。
地球温暖化、通貨発行、外交政策、ほとんど変化なし
これらのことを総合すると、連邦レベルの政策にはほとんど変化がないことが予想される。たとえば、化石燃料の害については、今後もよく耳にすることになるだろう。政権は石油やガスの掘削を減らすよう圧力をかけ続けるだろうし、石炭に対する戦争も続くだろう。「地球温暖化と戦う」ための新たな指令が出され続けるだろう。当然、生活コストを押し上げることになる。
外交政策については、議会で「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」派が圧倒的な勝利を収めない限り、何も変わらないことは明らかである。しかしそれは実現しなかった。だから、現在と同じような対外介入主義が続くと予想される。米政府はウクライナにすでに送った650億ドルをさらに増やし、最近ウクライナ国境付近に米軍を配備したように、この地域への関与を継続的に強めていくだろう。さらに悪いことに、米国は核戦争に翻弄され続けるだろう。政権の新しい国家防衛戦略文書が、国防総省に核兵器使用の自由裁量権を与えているからだ。米国は、現在シリアで地域占領を行っている約900人の米軍をすぐに撤収させることはないだろう。
当然、社会保障支出に関しても、変化はゼロと予想される。ドナルド・トランプ〔前大統領〕の下で、共和党は新たな大規模な支出増に署名し、2020年以前にも兆単位の赤字を承認する方向に向かっていた。もちろん、新型コロナではさらに支出は爆発的に増え、疑問を表明した共和党員はほんのひと握りだった(このわずかな反対にも、トランプ氏は当然ながら癇癪を起こした)。今後二年間、連邦議会で見られる唯一の意見の相違は、次の巨額の年間赤字を具体的にどのように積み上げるかということだろう。
実際、もし経済が現在のように悪化し続ける(今週にはハイテク産業で何千人もの解雇があり、不動産価格も下落している)のであれば、連邦政府ではさまざまな新しい「刺激策」を求める、超党派の新たな合意が生まれるだろう。民主・共和どちらの党も緊縮財政の党と見られたくはないだろう。
大きな変化は州レベルで
連邦政府は相変わらず悲惨な政策を続けるだろうが、本当の変化は州レベルで起こる。今回の選挙で共和党は州レベルでとくに良い結果を出せず、少なくともミシガン、ニューハンプシャー、ペンシルバニアの三州で議会の主導権を失った。一方、フロリダ州では上下両院で、ノースカロライナ、ウィスコンシン、アイオワ各州では上院で共和党が超過半数を占めた。さらに、ネバダ州の州議会は共和党に傾きつつある。共和党は依然として州議会の過半数を支配しており、2022年以前の最近の選挙サイクルでも共和党が支配する州の数を増やしている。
このことは、ワシントン特別区、ニューヨーク州、カリフォルニア州と、フロリダ州、テキサス州、オハイオ州との間で今後も乖離が続くことを意味していると思われる。中絶、学校、移民、銃、エネルギー政策などの問題で、この両陣営の違いは大きくなる一方だろう。新型コロナのおかげで、州レベルの政策の重要性と、共和党が強い「赤い州」と民主党が強い「青い州」の間に実際に存在する非常に異なった法的環境が理解できた。このことは忘れられておらず、多くの州の政策立案者は、自分たちが連邦政府の権力に対する最後の防衛手段だと考えるようになっていくだろう。ある共和党の運動員は政治サイト「ポリティコ」の記事でこう述べている。「連邦レベルでは最小限の利益しか得られないので、昨夜各州で獲得した共和党の力は、ジョー・バイデン〔大統領〕の悲惨な政策を阻止するために、より一層重要なものとなるだろう」
CNNテレビのロナルド・ブラウンシュタイン氏は、連邦政府の政治動向から自らを切り離そうとする赤い州の努力を明らかに否定しているものの、「赤い州は国家の中に国家を築く」と題するコラムで、こう指摘した。
共和党が任命した裁判官に支えられた赤い州は、民主党がホワイトハウスを押さえ、上下両院を名目上支配する中でも、国策の主導権を握るために多方面にわたる攻勢に出ている。中絶からLGBTQ(性的少数者)の権利、教室での検閲に至るまで、赤い州は社会政策を自国内で大きく右傾化させ、同時に連邦政府や米国の最大都市圏が異なる方針を打ち出す能力を妨げるような動きをしている。
十年前には想像もできなかったほど、この幅広い攻勢は、国家の中に国家を作ろうとする活動の様相を呈してきた。米国の他の地域とは異なるルールや政策で運営される国家だ。これまでのどの時代よりも、そうした試みが活発である。
ブラウンシュタイン氏は、これを左派お気に入りの利益団体に対する邪悪な陰謀と決めつけているが、その規模を誇張していることは間違いない。しかし同氏の言うとおり、赤い州の政府は連邦政府の政策を妨害する力がある。連邦政府が何か新しい譲歩を要求すれば、州政府はそれに従うだけだった時代は終わった。その一例が、国境警備をめぐる最近のバイデン政権とアリゾナ州政府の対立である。アリゾナ州政府は国境沿いに輸送用コンテナを置き、その場しのぎの壁を作っていた。バイデン政権はコンテナの撤去を要求したが、州に拒否された。
国家間の「離婚」は避けられない
連邦政府の政策に従うことを拒否する州政府は、さらに増えると予想される。もちろん、民主党が支配する州政府は長年、移民のための「聖域都市」の創設や娯楽用大麻の合法化(後者は州レベルの抵抗のおかげで事実上主流にはなっていない)などの政策によって、連邦政府の政策を実行してきた。
しかし、州政府には連邦政府の政策立案者に反撃する力があるのも事実である。州は連邦政府の教育政策に干渉することができる。州は連邦銃刀法の執行を拒否することができる。州は独自の中絶政策を作ることができる。州は言われたことを拒否することができる。
新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)やマスク着用の義務化が州間の違いを明確にしたように、時が経てば、州間の文化的・法的な違いがさらに大きくなっていくだろう。その違いが明らかになればなるほど、住民は自分の政治的な好き嫌いに合った場所に引っ越すようにさえなるだろう。たとえば、米国の左翼が、左翼の飛び地であるテキサス州オースティンを離れつつあるとさえ言われるようになった。オースティンはテキサス州の真ん中にあり、同州はある人々にとって、あまりにも「赤く」(共和党寄りに)なりすぎたことが判明したからだ。もちろん、このようなケースが実際にどれくらいあるのか推測するのは難しいが、政治的な理由による引っ越しは、以前よりはるかに意味があるように思われる。
今後このような文化格差が拡大し、事実上の政治的分裂が起こることは必至だろう。〔アメリカ合衆国の国章に書かれた〕「エ・プルリブス・ウヌム(多州から成る統一国家)」は、政治スローガン以上のものではなかった。日に日に説得力を失いつつある。「国家間の離婚」は、やがて現実になるだろう。
中央政府は短期ではほとんど変化しないので、政策の変更は、州政府が自らを(フロリダ州のように)国家エリートに反対する立場か、(カリフォルニア州のように)賛成する立場かをはっきりさせる状況で行われることが増えるだろう。ここからが本当の意味での政治行動になる。
(次を全訳)
The Election Won't Change Much in DC. The Real Battle Is Now in the States. | Mises Wire [LINK]
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