歴史家、ライナー・ツィテルマン
(2022年4月11日)
ドイツの政治学者ユルゲン・ファルターは、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党、NSDAP)本部党員証の目録二部から、大規模で広範囲にわたるサンプルを分析した。ファルターが示すように、ナチ党におけるブルーカラー労働者の割合はつねに、これまで歴史研究者が想定してきたよりもはるかに高いものだった。ナチ党への投票者と同様に、党員のおよそ40%は労働者階級であった。
ナチ党はなぜ国家社会主義ドイツ労働者党と名乗り、アドルフ・ヒトラーにとって労働者を味方につけることがなぜそれほど重要だったのか。ヒトラーは社会ダーウィン主義者であった。ヒトラーの世界観できわめて重要な概念は、一方では「強さ」と「勇気」であり、他方では「弱さ」と「臆病」であった。
Despite the Left's denials that Hitler was a socialist, a careful reading of his writings and speeches tells a different story. His sympathies lay with the workers, not the bourgeoisie. | Rainer Zitelmannhttps://t.co/5NkR9k6hn0
— Mises Institute (@mises) April 11, 2022
拙著『ヒトラーの国家社会主義』では、ヒトラーの著書二冊、演説、エッセイ、とりわけ側近に対する発言(総統府でのいわゆる独白、あるいは「テーブルトーク」など)など、何千もの発言を分析した。これら発言のすべてにおいて、ヒトラーは「ブルジョアジー」を弱さ、臆病、退廃と結びつけている。労働者階級を強さ、力、勇気と結びつけているのとは対照的だ。ヒトラー自身の言葉から、ブルジョアジーという階級は絶望的であり、未来は労働者階級に属すると信じていたことは明らかである。
1942年3月1日、ヒトラーは側近に対する独白でこう述べている。「もしこれほどまでに健康な生活をあちこちで見なければ、完全な人間嫌いにならざるをえまい。もし上層の一万人の人間しか見ていなかったら、自分もそうなっていただろう。そうならなかったのは、健康な大衆と付き合ってきたおかげだ」。1942年4月8日、ヒトラーは再び次のように振り返っている。
私が政治活動の初期に打ち立てたモットーによれば、重要なのはブルジョワジー(資本家)の獲得ではない。労働者階級をわが思想に熱狂させることだ。ブルジョワジーは法と秩序しか望まず、政治的立場には臆病である。したがって、闘争期の初期数年間はすべて、労働者をナチ党に獲得するよう計画された。
そのためにヒトラーは以下のような手段を用いた。マルクス主義政党と同じように、絶叫するような赤の政治ポスターを配布し、トラックで宣伝活動を繰り広げた。トラックは真っ赤なポスターで覆い、赤い旗を立て、スローガンを歌うコーラス隊を乗せていた。運動の支持者は全員、ノーネクタイ、ノーカラーで集会に参加させ、手作業で働く人々の信頼を得るよう気を配った。さらにヒトラーは、
本当に熱狂しているわけでもないのにナチ党に参加しようとするブルジョワ分子を怖がらせようと、集会ではプロパガンダを絶叫させたり、粗暴な服装をさせたりして、最初から運動の仲間に臆病者がいないようにした。
ヒトラーはある点では米国を称賛していた。とくに伝統的な階級の壁が、欧州ほど大きな役割を果たしていなかったからである。「最近数十年間に重要な発明という富が、特に北アメリカで非常に増加したが、これは北アメリカではけっきょく最下層のものでも本質的に才能があれば高等教育をうける可能性が、ヨーロッパの場合よりも、多かったということによっている」と、ヒトラーは『わが闘争』で書いている。
国家社会主義は、労働者に昇進の機会を与え、伝統的な階級の壁を取り払わなければならないと、ヒトラーは繰り返し明言した。
「このブルジョア階級の世界ではなにがより勝れたものであるのか、ひどい精神遅滞者なのか、柔弱なのか、臆病なのか、あるいはとことんまで堕落した根性なのか、ほんとうに判らないのである。かれらは実際運命によって没落が定められている階級であるが、ただ残念なことは全民族がかれらによって地獄にいっしょにひっぱり込まれることである」と、ヒトラーは『わが闘争』で書く。その数段落先ではこう書いている。「当時わたしは心の底から次のことを自覚していた。つまり、ドイツのブルジョアジーは自分達の使命を終ろうとしており、もうその先かれらの天職としての課題はなにもなかったことをである」
(次を全訳)
No, Hitler Was Not a Closet Capitalist | Mises Wire [LINK]
(参考文献)
ヒトラー(平野一郎・将積茂訳)『わが闘争』角川文庫
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