現在、金融機関を除いた全産業が保有する現預金は過去最高の191兆円にのぼります。そこで安倍晋三首相は経済界に3%の賃上げを要請し、政府も税制改正などで後押しする構えです。
企業が現預金を抱える理由はいくつかあるでしょう。しかし少なくともその一つは、こうした政府自身の姿勢にあります。そして政府はそれに気づいていません。
日経電子版の記事によれば、企業の「賃上げ倒産」が目立ち始めています。深刻な人手不足の中、人材確保のために賃上げしても業績が伸びず、経営が傾く一因となっています。
人手不足が労働市場の自然な需給に基づくものなら、対応できない企業が淘汰されてもやむをえません。しかし実際には、東京五輪や防災、老朽インフラ対策などを名目とした公共事業の増加や、不動産価格を押し上げる日銀の金融緩和により、特定の産業の求人が膨らんでいます。他産業の人手不足はそのしわ寄せを食っています。
一方で政府は最低賃金の引き上げ、労働時間の短縮、非正規と正社員の格差是正など労働コストの増大につながるさまざまな政策を推進しています。一見、労働者のためになりそうな政策ですが、企業が競争力を失い、最悪の場合「賃上げ倒産」してしまっては元も子もありません。
政府が企業の負担を増すような政策を次々と繰り出し、そのせいで下手をすれば倒産しかねないような状況で、積極的な経営をやれと言われても、土台無理な話でしょう。内閣支持率がまた下がったりすれば、人気テコ入れのため新たにどんな政策が飛び出すかわかったものではありません。
こんなとき経営者としてはできるだけ慎重に構え、リスクに備えて現預金を蓄えておくに限ります。経済への勝手気ままな介入を当然と考える、資本主義国とは思えない政府自身の行動が、企業の警戒心を呼び起こし、現預金を抱え込ませているのです。(2017/11/27)
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