この文章は、故ジャスティン・ライモンド氏の外交政策に関する考え方、特に彼が提唱した「リバタリアン・リアリズム」の理論を概説しています。ライモンド氏は、パット・ブキャナン氏が「我々の国を忌まわしい戦争から遠ざけるという大義に不可欠」と評した人物で、Antiwar.com の共同創設者であり、非介入主義的な右派(オールド・ライト)の擁護者でした。
1. リバタリアン・リアリズムの核心
ライモンド氏の理論は、「国際関係におけるロマンスの排除」を特徴とし、従来の外交政策理論(伝統的リアリズム、リベラリズム、マルクス主義)とは一線を画します。
伝統的リアリズムの否定: 国家が「国益」という凝集した単一の利益を持つという考え方を否定します。国家は、他の勢力とのバランスを取るために動く「客観的な外力」によって強制されるわけではないと主張します。
方法論的個人主義: 外交政策の行動を理解するために、オーストリア学派や公共選択論の経済学者と同じく、方法論的個人主義を採用します。つまり、国家の行動は、その国家を構成する個人(政治家、官僚、ロビー団体)の利益によって突き動かされていると見なします。
2. 外交政策を推進する要因
ライモンド氏によれば、外交政策を動かす主たる要因は、政治家や官僚が権力を維持したいという個人的な欲望です。
権力維持の動機: すべての政治家は、再選や権力の維持を望んでいます。
無関心な一般大衆の隙: 外交政策は一般大衆にとって理解されにくく、優先順位が低いため、組織化された利益団体(エスニック・ロビー、軍事請負業者、内部官僚組織)の影響を受けやすい領域です。
特定の利益団体: これらの利益団体は、金銭的、あるいはイデオロギー的(例:ネオコンのソ連に対する「聖戦」の願望)な動機に基づき、自己の利益となるように外交政策を誘導します。
3. 「誰の利益か?」という問い
リバタリアン・リアリストは、政策立案者が「アメリカ国民の利益のため」だと主張するとき、必ず「誰の利益か?」と問う必要があります。
具体的な事例:
ナンシー・ペロシ氏の台湾訪問(2022年): 選挙区の台湾系住民へのアピールという動機。
対キューバ政策: フロリダ州のキューバ系亡命者コミュニティの動機。
対ベネズエラ政策: マルコ・ルビオ上院議員(当時の国務長官)やキューバ亡命者の動機。
4. リバタリアン・リアリストの役割
ライモンド氏が提示するリバタリアン・リアリストの役割は、「外交政策の誰が誰であるか(who’s who)」を特定することです。
具体的な証拠の要求: 曖昧な陰謀論ではなく、「特定の個人、特定の政策結果、および得られた利益の間の因果関係を確立する、具体的な、すなわち証拠を引用することが必要」です。
歴史的教訓: 1920年代から30年代にかけて、第一次世界大戦で利益を得たのがデュポン社、JPモルガン社などの武器製造業者や金融業者、そしてイギリス政府であったように、戦争や介入から誰が利益を得るのかを厳密に調査することが不可欠です。
結論
ライモンド氏の理論は、アメリカだけでなく世界中の国際関係を理解するのに役立つ因果的・現実主義的な分析を提供します。それは、すべての国家が、何よりも権力を望む政治家によって操縦されているという視点であり、提示された外交政策が本当に平均的なアメリカ国民の利益になるのかを批判的に分析するためのツールを提供します。
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