オスカー・グラウ氏による「マレー・ロスバードの遺産を守るために(In Defense of Murray Rothbard’s Legacy)」は、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領を「ロスバード主義者」として称賛する動きに対し、ミレイはロスバードの理念を裏切る「右翼日和見主義者」であり「ネオコン」であると激しく批判する論考です。
以下に、その主な内容を要約します。
1. ロスバードの原則と「パレオ・リバタリアニズム」
著者(グラウ氏)は、マレー・ロスバードの思想は生涯一貫しており、状況に応じて戦略を変えることはあっても、「反国家・私有財産・徹底した地方分権」という核となる原則は揺るがなかったと強調します。1990年代の「パレオ・リバタリアニズム」も、その原則を当時の状況に適応させたものに過ぎません。
2. ミレイとロスバードの決定的相違
フィリップ・バグースらのリバタリアン学者は、ミレイを「ロスバード的な右翼ポピュリズムの体現者」と評価していますが、グラウ氏はロスバードが掲げた「右翼ポピュリズムの8項目」に照らし合わせ、ミレイがいかにそれらから逸脱しているかを論じています。
| 項目 | ロスバードの主張 | ミレイの実際 |
| 福祉 (Welfare) | 福祉国家の完全な解体。 | 福祉受給者を「犠牲者」と呼び、受給制度を維持。バウチャー制による教育・医療の国家資金維持。 |
| 特権の廃止 | 人種・グループへの特権廃止。 | 「ホロコーストの矮小化」を理由に訴訟を起こし、特定のグループを特権化している。 |
| 中央銀行 (Fed) | 中央銀行の廃止、銀行家への攻撃。 | 公的債務を「名誉」として返済を約束し、銀行家の利益を守る。中央銀行の廃止は不透明なまま。 |
| 外交 (America First) | 徹底した反戦・非介入主義。 | 熱狂的なシオニズム、米・NATO・イスラエルへの支持。アルゼンチンを「軍事大国」にしようとする。 |
| 家族の価値 | 伝統的な家族・一夫一妻制の重視。 | 結婚を「忌まわしい」と呼び、子供(人間)ではなく「4本足の子供(犬)」を愛でる価値観。 |
3. 「右翼日和見主義」への批判
グラウ氏は、ミレイをロスバードが警告した「右翼日和見主義(Right-wing opportunism)」の典型だと断じます。
漸進主義の罠: ロスバードは「自由への段階的な改革」という名目で原理原則を先延ばしにすることを拒絶しましたが、ミレイは「3段階の改革案」という名の下に国家主義的な政策を正当化しています。
ネオコンの偽装: ミレイの本質は「アナルコ・キャピタリスト(無政府資本主義者)」を装ったネオコンであり、国家権力を利用して特定の利益団体(特にシオニストや米軍事産業)に奉仕していると批判しています。
4. ミーゼス研究所内部の「裏切り」
著者は、ミーゼス研究所の主要メンバー(フィリップ・バグス、ウエルタ・デ・ソト、ダニエル・ラカジェら)がミレイに「学術的なお墨付き」を与えていることを強く非難しています。
彼らはミレイを宣伝することで個人的な利益(本の翻訳、身内の雇用、勲章の授与など)を得ていると指摘。
かつてシオニズムを理由に追放されたウォルター・ブロックよりも、ミレイという「偽物」を広めている彼らの方がロスバードの遺産を傷つけていると主張しています。
結論
この論文は、ミレイ現象を「リバタリアニズムというラベルを貼った国家主義的な詐欺」と定義し、ミーゼス研究所はロスバードの純粋な思想を守るために、ミレイを擁護する学者たちを排除すべきであるという過激な提言で締めくくられています。
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