この著作は、ミーゼスの主著『ヒューマン・アクション(人間の行為)』の一部としても知られ、市場経済における「利益」と「損失」が果たす不可欠な役割を解き明かしたものです。
1. 起業家的利潤の源泉は「不確実性」
ミーゼスによれば、利潤(利益)は、単に資本を投下したことへの報酬でも、単なる技術的なスキルの対価でもありません。
不確実性への挑戦: 将来の市場(消費者の需要)がどうなるかは誰にも確実には分かりません。起業家は、その「不確実な未来」を予測し、リスクを取って資源を投入します。
予測の的中: 起業家の予測が他の人々よりも正確で、消費者が望むものを効率的に提供できたときに初めて、売上から費用(労働、土地、資本のコスト)を差し引いた「残差」として利潤が生まれます。
2. 利潤と損失の「社会的な役割」
利益と損失は、単に個人の富を増減させるだけではなく、社会全体の資源を最適に配置するための「信号(シグナル)」として機能します。
| 要素 | 社会的な機能 |
| 利潤(利益) | 消費者の満足度を高めた証拠。その起業家により多くの資源(資本)を任せるべきだという市場のサイン。 |
| 損失 | 消費者が望まないものに資源を浪費した証拠。その起業家から資源を取り上げ、他へ回すべきだという市場の警告。 |
「市場の投票」: ミーゼスは、消費者が毎日行う購買行動を「投票」に例えています。消費者は買うか買わないかを通じて、誰を富ませ、誰を市場から去らせるかを決めています。
3. 他の収入との明確な区別
ミーゼスは、古典派経済学が混同しがちだった「起業家的利潤」を他の項目から厳密に区別しました。
利子(Interest): 資本を貸し出すことや、時間の経過に伴う対価(現在価値と将来価値の差)。
賃金(Wages): 起業家自身の労働に対する対価。
起業家的利潤(Profit): これらすべてを支払った後に残る、不確実性を的中させたことによる純粋なプラス分。
4. 利潤に対する誤解の論破
ミーゼスは、利潤に対する一般的な批判を以下のように否定します。
「利潤は搾取である」という説: 利益は他人の犠牲の上に成り立つものではなく、消費者に提供した価値の証明です。利益が出るということは、投入した資源の価値(コスト)よりも、生み出した製品の価値(価格)の方が高いと消費者が認めたことを意味します。
「利潤は不当に高い」という説: 自由な市場では、高い利益が出る分野にはすぐに競合が現れます。利益は常に「不均衡」を解消する方向に働き、最終的には消費者がより安く、より良いものを手に入れられるように作用します。
5. 結論:利潤のない社会は停滞する
もし政府が介入して利潤を没収したり損失を補填したりすれば、市場の「信号」は壊れてしまいます。
誰が有能で、どの資源をどこに使うべきかという判断基準が失われ、経済は混乱し、人々の欲求は満たされなくなります。
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