本稿は、歴史解釈を思想的立場によって判断する傾向を批判し、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの『理論と歴史』に基づいて、客観的な歴史研究の方法を示すものである。著者は、歴史の真実はマルクス主義かリバタリアンかといった思想によって左右されるものではなく、論理的分析と証拠に基づいて検証されるべきだと強調する。ミーゼスは、学者の動機や偏見を暴くことは理論の誤りを証明することにはならず、真偽は思考の筋道の妥当性によって判断されると述べた。また、人間の行動は個人の主観的価値判断によって動かされるため、歴史は個人の選択を理解する学問であり、集団や時代精神から演繹するのは誤りであると指摘する。さらに、歴史家自身の価値判断を事実記述と混同してはならないと説き、イデオロギー的断罪や「マルクス主義史観対白人至上史観」といった「歴史戦争」を超えるには、論理と証拠に基づく批判的思考こそが必要だと結論づけている。
Lessons From Mises on Resolving the History Wars | Mises Institute [LINK]
本稿は、リバタリアン経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスを「ヒトラーの人種思想を支持した」とする進歩派論者トム・ハートマンやクイン・スロボディアンらの主張を、文脈の歪曲に基づく中傷として批判するものである。著者は、彼らがミーゼスやマレー・ロスバードの引用を意図的に切り取り、実際には否定している人種理論や帝国主義的発想を賛同的に見せかけていると指摘する。ミーゼスは著書『社会主義』で「人種科学者」ゴビノーの説を「根拠なき空想」と退け、経済学は人種とは無関係の普遍的科学であると明確に述べた。さらにハートマンが「白人による文明」との一節を差別的と批判した点についても、文脈上は「西欧文明の発展が健全な経済学に依拠してきた」という主張であり、人種的優越を意味するものではないと論じる。ミーゼスは経済原理を普遍的人間行動の法則として位置づけ、人種や文化によって異なるとする多元論(ポリロギズム)を否定していた。著者は、進歩派が「資本主義者=人種主義者」という図式で議論を封じる手法を「カフカ・トラップ」と呼び、ミーゼスの思想はむしろ自由と理性を基礎にした反権威・反差別の立場であったと結論づける。
Ludwig von Mises Did not Promote Hitler’s Racial Ideas | Mises Institute [LINK]
本稿はルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの思想的孤独と、彼が生み出した学問「プラクシオロジー(人間行為学)」の意義を讃える哲学的エッセイである。ミーゼスは、統計や実証主義に支配された時代にあって「人は行為する存在である」と宣言し、行為=選択=自由という自明の真理を学問として体系化した。彼にとって経済学は数量分析ではなく、人間の意志と理性の営みを理解する普遍的科学であった。ウィーンでの孤立と亡命後の沈黙の中でも、彼は論理と自由への信念を貫き、『ヒューマン・アクション』を完成させた。これは単なる経済書ではなく、人間の尊厳への信仰告白でもある。後にイスラエル・カーズナー、マレー・ロスバード、ハンス=ヘルマン・ホッペらがその火を継ぎ、発見、倫理、自由の理論へと発展させた。今日もなお政府や知識人は数式と統制の幻想に囚われているが、プラクシオロジーは「自由は国家の恩恵ではなく人間存在の条件である」と静かに告げる。ミーゼスの声は、理性と行動を重んじる者の中で今も響き続けている。
Mises and the Praxeological Message: Solitude, Reason, and Liberty | Mises Institute [LINK]
1881年9月29日に生まれたルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは、オーストリア学派経済学を体系化し、その中心原理として「プラクシオロジー(人間行為学)」を確立した。彼は経済学を統計や実験ではなく、目的を持つ人間の行為に基づく論理的科学と位置づけた。『貨幣及び流通手段の理論』(1912年)では限界効用理論を貨幣に適用し、信用拡大が景気循環を生むと説いた。さらに『社会主義』(1922年)では、私有財産のない社会では価格が存在せず、経済計算が不可能になると論じ、社会主義の根本的不可能性を示した。『自由主義』(1927年)では自由の基礎を私有財産に求め、「自由の綱領を一語で表せば財産である」と述べた。『ヒューマン・アクション』(1949年)はその思想の集大成であり、経済現象を個人の選択から導く社会理論として文明の擁護を試みた。弟子のハイエク、ロスバード、カーズナーらがその理論を継承し、1982年に設立されたミーゼス研究所がその遺産を受け継いでいる。ミーゼスの学問は、自由と理性に基づく社会秩序こそが文明を支えるという信念を今も照らし続けている。
Ludwig von Mises at 144: Praxeology and the Cornerstone of Austrian Economics | Mises Institute [LINK]
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