行動経済学者が明らかにする人間行動の偏り(バイアス)は、衝撃的とはいわないまでも、それなりに興味深いと思います。問題は、彼らがそれを「不合理」と呼ぶことにあります。
米デューク大学の行動経済学者、ダン・アリエリー教授のベストセラー『予想どおりに不合理』を見てみましょう。タイトルどおり、アリエリー教授は、人間の不合理さを示すというエピソードを次々にこれでもかと紹介します。
実験で高級チョコの値段を15セント、大衆向けチョコを1セントに設定すると、お客の73%が高級チョコ、27%が大衆チョコを買いました。ところが、それぞれ1セント値下げして高級チョコを14セント、大衆チョコを無料にしたところ、無料チョコに人々が殺到し、69%が選んだといいます。
従来の経済理論によれば、どちらのチョコも1セントずつ安くなっただけなのだから、お客の行動に大きな変化はないはずなのに、無料になったとたん需要が急増するのは「奇妙」だとアリエリー教授は驚いてみせます。
そんなに奇妙でしょうか。アリエリー教授は経済学の基本を忘れています。商品の価値を決めるのは人の主観です。無料が人の主観にとって特別な意味を持つのであれば、欲しがる人が急増しても不思議はありません。
現にアリエリー教授自身、無料が人の心をそそる理由をこう述べます。「人間が失うことを本質的に恐れるからではないかと思う。〔略〕無料!のものを選べば、目に見えて何かを失う心配はない」
つまり、ちゃんと理由があるのです。理由がある行動を不合理と呼ぶのは間違いです。
なおアリエリー教授は、人間は不合理なので売買や取引によって個人の幸せを最大にすることはできないと述べ、政府がもっと大きな役割を果たす考えに賛同します。
あれれ、政府を動かすのは人間なのに、政府の不合理な行動は心配しなくていいのでしょうか。同教授はナイーブにも「願わくば分別のある思慮深い政府」と条件を付けますが、不合理な人間でも思慮深くなれるのでしょうか。もしそうなら、市場でも人は思慮深くなれるはずです。(2017/10/12)
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