政治の本質をよく知っていた昔の思想家は、政治家には立派な人物がいるなどという甘い見方をしませんでしたし、信頼もしませんでした。その一人、英哲学者ジョン・スチュアート・ミルは著書『自由論』でこう書いています。
「社会の弱者たちが無数のハゲタカの餌食になるのを防ぐには、並はずれて獰猛な一羽のハゲタカが、ほかのハゲタカたちを抑えつけてくれるとありがたい。しかし、このハゲタカの王様もやはりハゲタカであり、弱者の群れを餌食にしようとすることに変わりはない。その鋭いくちばしや爪にたいして、民衆はたえず防御の構えをとりつづけねばならない」(斉藤悦則訳)
ミルはまず、社会の弱者を餌食にする無数のハゲタカがいるといいます。これは犯罪者のことです。犯罪者を抑えつける仕事は、並はずれて獰猛な一羽のハゲタカにやらせればいい。このハゲタカの王は、権力を持つ政府です。
ミルが偉いのは、ハゲタカの王もまたハゲタカであり、「弱者の群れを餌食にしようとすることに変わりはない」ことを忘れないところです。ハゲタカの王は人格が立派だとか、一国のリーダーにふさわしいとかいう幻想を抱きません。
ハゲタカ呼ばわりとは失礼極まると、政治家の皆さんはさぞ腹を立てることでしょう。しかし彼らが権力という「鋭いくちばしや爪」を持つ以上、ミルの叡智に従うのが賢明です。獰猛なハゲタカを信頼はできないし、立派な人格も期待できません。(2017/10/17)
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