2018-10-06

内部留保課税の逆効果

小池百合子東京都知事が代表を務める希望の党の政策原案に、大企業の内部留保への課税検討が盛り込まれ、話題となっています。「内部留保を雇用創出や設備投資に回すことを促し、税収増と経済成長の両立を目指す」とのことですが、思惑どおりにいくのでしょうか。

内部留保とは誤解されやすい言葉です。企業が社内に貯め込んだ現預金と勘違いしやすいのですが、多くの会計専門家が指摘するように、それは誤りです。

企業のバランスシート(貸借対照表)で内部留保にあたるのは、右側の純資産の部にある「利益剰余金」です。利益剰余金とは、過去または当期の利益のうち、配当していない部分をいいます。

一方、現預金はバランスシートの左側の資産の部にある「現金及び預金」です。バランスシートは右全体(負債・純資産)と左全体(資産)では同額となり釣り合いますが、個別の項目は基本的に無関係です。内部留保(利益剰余金)が多いからといって、現預金をたくさん抱えているとは限りません。

たとえば東レの利益剰余金は今年6月末時点(連結決算ベース)で7048億円ありますが、現預金は1337億円しかありません。原材料の買い付けや研究開発、土地・建物の購入など他のさまざまな用途にも充てているからです。

逆に、内部留保が少ない会社でも、借金をすれば現預金を増やすことができます。このように内部留保と現預金の多い少ないは無関係ですから、内部留保に課税をしても、企業が現預金を設備投資や雇用に回すきっかけにはなりません。

それでは内部留保ではなく、現預金そのものに課税をすればどうでしょうか。

慶応大ビジネス・スクールの太田康広教授がYahoo!ニュースで述べるように、投資機会がふんだんにある企業やリスクの高いビジネスをしている企業ほど、現預金を多く持とうとします。投資チャンスを逃さなかったり事業に失敗した場合に備えたりするためでしょう。

そうだとすると、課税によって現預金が持ちにくくなれば、企業はリスクを取ることに慎重になり、投資に消極的になるでしょう。設備投資や雇用を増やし、経済成長を牽引するどころか、逆効果です。

内部留保課税に限った話ではありませんが、税で経済が元気になることなどないのです。(2017/10/06

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