2023-12-29

2023年に何が起こったか、2024年に何が起こるか

作家・投資家、ダグ・ケイシー
(2023年12月28日)

インターナショナル・マン 年の瀬も押し迫った今、一歩引いて大局を見つめ、2023年を俯瞰することで、次に何が起こるかをよりよく理解しましょう。
2023年は金融、経済、政治、文化、地政学的に大きな動きがありました。

文化面では、2023年は「社会正義に目覚めた(ウオーク)狂気」に対する風潮が変わり始めた年かもしれません。

米資産運用会社ブラックロックのフィンク最高経営責任者(CEO)はESG(環境・社会・企業統治)という言葉を使うのをやめました。「目覚めた」映画は映画館で大爆死を続けています。ビール「バドライト」、ディスカウントストア大手のターゲットディズニーは、わざと顧客層を遠ざけることの痛みを感じ続けています。

2023年の文化の動きについてどうお考えですか。

ダグ・ケイシー 大きな風潮に対する反動はつねにある。それは注目に値するものの、「覚醒運動」の悪質さを考えると、反動は微々たるものだ。現状維持のために戦う後衛はつねに存在する。それはすばらしいことだ。というのも、目覚めた連中は、文化全体をひっくり返そうとしているからだ。革命期のフランスでジャコバン派(恐怖政治を繰り広げた党派)が文化を覆したように、ロシアでボリシェビキ(ロシア共産党の前身)が文化を覆したように、中国で紅衛兵(文化大革命時に毛沢東の指導で作られた青少年組織)が文化を覆したように、カンボジアでポル・ポト(社会主義独裁者)が文化を覆したように。

目覚めた連中は危険をはらむ。というのも、連中の考え方は西洋のどこにでもあるからだ。

言論の自由、思想の自由、自由市場、伝統、小さな政府に激しく反対しているという点では、今述べた(ジャコバン派らの)運動と似ている。しかし連中はジェンダーと人種をも武器にしている。凶暴で、ユーモアがなく、清教徒的だ。自分たちを未来の波だと考えているが、マルクス、レーニン、スターリン、ヒトラーの概念を再包装しただけだ。

私の考えでは、目覚めた連中は人間性を憎み、自分自身を憎んでいる。彼らは不誠実で、傲慢で、特権階級だ。多様性重視で雇われたハーバード大学、ペンシルベニア大学、マサチューセッツ工科大学の学長たちのスキャンダルを見てほしい。連中はまったく恥さらしだ。理事会がこのような愚か者を任命したという事実が、腐敗の深さを物語っている。

目覚めた連中には心理的・精神的な異常が根付いている。

連中が支配しているのは、学界、金融、エンターテインメント、メディアだけではない。国家機構をも支配している。つまり、法律をほぼ味方につけているのだ。

おそらくESGは、新手の吸血イカであるブラックロックによって重視されなくなってきているのだろうが、それは連中が信念を重んじるよりも、お金を失うことを恐れているからに他ならない。より悪質なDEI(多様性、公平性、包括性)は、依然として文化の大きなトレンドだ。

それはどこで終わるのだろうか。

覚醒主義は一過性の流行ではない。文化的に保守的な考えを持つ人々と、西洋文明を破壊し、我々が知っている社会のあり方をひっくり返そうとする人々との間の暴力的な対立で終わる可能性が高い。

インターナショナル・マン 2023年は地政学的に大きな動きがあった年でした。

ウクライナでの戦争が北大西洋条約機構(NATO)にとってうまくいっていないことは、主要メディアでさえ明らかになりました。

イスラム組織ハマスの攻撃とイスラエルのパレスチナ自治区ガザ侵攻もありました。

アゼルバイジャンはアルメニアを破り、長年の係争地域を取り戻しました。

サウジアラビアはシリアをアラブ連盟に復帰させ、イエメン戦争を終結させ、イランとの国交を回復させ、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国に加盟し、中国との経済関係を拡大しました。

これらは2023年の地政学的な出来事のほんの一部です。

地政学的状況と今後の方向性についてどう思われますか。

ダグ・ケイシー あらゆる分野において、世界に対する米国の覇権主義の終焉は明白になりつつある。世界は米政府にいじめられ、支配されていることに腹を立てている。

世界は、米政府が破産し、印刷されたお金だけで生活していることに気づいている。軍備は肥大化し、米国が負担できる以上の費用がかかっている。

肥大化する一方で解体されつつあり、新しい兵士や水兵を採用することもできない。その理由は簡単だ。人々は至るところで無意味な戦争があおられるのを目の当たりにしている。伝統的に軍に入隊するタイプの人々は、軍にはびこる目覚めたミーム(流行)に嫌悪感を抱いている。つねに軍隊を支えてきた白人男性は、盛んに差別されることに愕然としている。

米国の覇権は、財政的にも経済的にも軍事的にも終わりつつある。

バイデン(大統領)とハリス(副大統領)というまったく無能で無力な愚か者が政府の名目上のトップであることを見れば、それは明らかだ。言うまでもなく、閣僚は劣化し、心を病んだ者ばかりだ。もちろん、もう誰も米国を尊敬していない。

過去100年にわたる米国の覇権は消えつつある。古い秩序が変わるにつれ、動揺が生じるだろう。米国は、他の勢力によって埋められる空白を残すだろう。

実際、米政府は今日の世界にとって最大の脅威だ。秩序を提供していない。どこでも他人の仕事に首を突っ込むことで、混乱を助長している。世界中にある800以上の基地は挑発行為だ。徘徊している空母群は、今日の技術では格好のカモだ。米国は世界のリスクの主な源であり、安全の源ではない。

米国の軍事費は、実際には5大「防衛」企業への助成にすぎず、これら企業は前の戦争か、その前の戦争を戦うのにしか適さない兵器を製造している。例えば、空母を守るミサイル・フリゲート艦や駆逐艦は、1発200万ドルの垂直発射対空ミサイルを100発搭載しているかもしれない。各ミサイルは1万ドルのドローンの撃墜に成功するかもしれない。しかし、敵が一度に200機のドローンを発射したらどうなるだろうか。空母はともかく、20億ドルの駆逐艦を失う可能性がある。

米政府は、世界中の国や人々から嫌われているだけでなく、軽んじられていることに気づいている。米政府はますます、張り子の虎とみなされている。つまり、(童話に登場する見かけ倒しの)オズの魔法使いだ。怖がられなくなれば、ゲームオーバーだ。

2023-12-28

メディアの表現、パレスチナの苦しみを矮小化

ミドルイースト・アイ
(2023年12月25日)

世界的な出来事を報道する場合、言葉の使い方や用語の選択は重要な意味を持つ。言葉には、意見を動かしたり変えたり、イメージを暗示したりほのめかしたりする力があり、時には起きていることの程度を軽く見せることもある。
イスラエルとパレスチナの関係に関しては特にそうであり、活動家や人権運動家は、言葉の選択や受動態の使用について、報道機関にたびたび苦言を呈している。

10月7日にパレスチナ自治区ガザで新たに戦闘が始まって以来、さまざまな報道機関、解説者、記者が報道で使用する用語に、注目が集まっている。

米在住の言語学者でジャーナリストのアブドゥルカダー・アサド氏は、イスラエルのガザ攻撃に関する現在の報道について、言語は意味や意見を歪めるために操作することができるという。

「言語は戦場の外では最も強力な道具であり、西側メディアはそれを知っていて、イスラエルに有利になるようにうまく使っている」とアサド氏はミドルイースト・アイに語った。

同氏によれば、語彙の選択は、ニュースやその他のメディア報道の読者や視聴者に心理的、感情的な影響を与え、その人たちの意見に影響を与える可能性があるという。

「西側メディアがイスラエル占領軍によるガザへの戦争について報道する際、見出しや冒頭の段落を『フレーミング』するのは、意図的に意見を揺さぶり、ガザとその住民全体が『武装勢力』であるという認識を定着させるためだ。こうして砲撃と殺害が正当化される」という。

ガザに対する戦争は、10月7日にハマス主導でイスラエルが攻撃され、約1200人が死亡した後に始まった。

これに対し、イスラエル軍はそれ以来、攻撃で2万人以上のパレスチナ人を殺害してきた。その過程で、住居の建物、礼拝所、学校は空爆によって破壊され、イスラエルは10月9日以来、包囲された飛び地であるガザへの燃料、水、食料、電気の供給をすべて遮断している。

アサド氏によれば、英語学でいうところの「フレーミング」とは、意思決定に影響を与えるために特定の情報を提示する方法を指す。

例えば、12月20日付のウォールストリート・ジャーナル紙の記事だ。「ハマス、イスラエルとの戦争終結に向けた計画を開始」という見出しである。この見出しはその後編集された。

「この見出しは、ハマスがイスラエルに対して『戦争』を始めたという概念を伝えるために、ウォールストリート・ジャーナル紙によって強力にフレーミングされている」とアサド氏はいう。

同氏はまた、この見出しは「言葉の偏見」の一例だともいう。

「これはハマスがイスラエルとの戦争を始め、それを終わらせるつもりだと読者に信じ込ませるためのものだ」

これはイスラエルを戦争の受動的な犠牲者として見せ、現在2カ月以上続いている不当な反撃を伝えていないため、問題があるという。

パレスチナ人の人間性を奪う


主流メディアの報道のもう一つの問題は、受動態の使い方だと言語学者らはいう。

エジプトを拠点とする作家で言語学者のララ・ギブソン氏は、受動態はしばしばパレスチナ人の犠牲者の人間性を奪うという。

「西側の報道機関では、パレスチナ人が受動態で描写され、被害者の自主性を奪うことで人間性を奪っているのを何度も目にしてきた。同時に、イスラエルは一般的に能動態で記述され、西側の読者にイスラエルの言い分を支持し、その行動を正当化することができると思わせる」。ギブソン氏はミドルイースト・アイに語った。

アサド氏も同意見で、パレスチナの苦しみを軽視するだけでなく、イスラエルの犯罪を軽視することにもなりかねないという。

西側メディアは意図して「婉曲表現」を使い、イスラエルの戦争犯罪行為を表す厳しい言葉の真実を覆い隠している。

「西側メディアが受動態を使う際、情報を完全なものにするために必要な『誰が』『誰に』『何を』したという原則をわざと無視する」

「メディアは受動態を使って真実から逃れ、イスラエルの戦争犯罪を疑わしく見せている」

アサド氏はロイター通信の一例を挙げ、10月13日に同通信のフォトジャーナリスト、イッサム・アブダラ氏が殺害された事件を報じた際、「イスラエル軍を無罪放免にした」という。

ロイターの見出しはこうだ。「ロイターの映像カメラマン、イッサム・アブダラ氏がレバノン南部で勤務中に殺害された」

「こうすれば、読者は誰がイッサムさんを殺したのかわからないし、もちろん、イスラエル軍がジャーナリストを殺したという事実を隠蔽するのに最も適している。この見出しを見た読者は、ジャーナリストが殺されたという事実を『記憶』するが、それをやった犯人を記憶することはない」とアサド氏はいう。

あいまいな言葉 


今回の報道では、イスラエル軍とハマスが同列であることをほのめかしたり、あいまいな表現を使って責任をなすりつけるような言葉遣いが問題視されている。

「ガザに対する壊滅的な攻撃については、いくつかの大手メディアが意図してあいまいな表現を使っているが、それとは対照的に、10月7日のイスラエルに対する攻撃については、信じられないほどはっきりとした描写で、暗にイスラエルの大義を支持している」とギブソン氏はいう。

「『戦争』といった用語は、イスラエルによる大量虐殺ではなく、対等な争いをほのめかしている」と同氏はいう。

オックスフォード・ランゲージズによる戦争の定義は、「異なる国または国内の異なる集団間の武力紛争状態」である。 

米ニュースサイト、アクシオスの今年初めの報道によれば、イスラエルは年間200億ドルを超える軍事予算があり、米国の最新鋭の軍備を利用できる。イスラエルはまた、領土周辺の空と海の大部分を支配している。

イスラエルは「ハマス排除」のためにガザにいると主張している。しかし、兵士たちは無誘導爆弾、無人爆撃機による空爆、ブルドーザーなどを使って民間人を標的にしている。

一方、ハマスの武装組織であるカッサム旅団は、ロケット弾、狙撃手、自家製爆薬を使ったゲリラ戦法に頼っている。

したがって、「戦争」という言葉を使うと、カッサム旅団もイスラエルも同じような力を持ち、ガザは包囲された飛び地ではなく国であることを意味し、起きている暴力の本質をあいまいにしてしまう、とギブソン氏は主張する。

「『ハマスの武装勢力』という言葉は、イスラエルがパレスチナ市民の虐殺を正当化するために自由に使っていることから、イスラエルによってさらに武器化されている」と同氏はいう。

また、一部の報道機関は「ガザの武装勢力」という言葉を使うことにしているが、これは包囲された飛び地の住民と攻撃を行っている人々を混同させ、そこにいる市民と否定的な関連付けをする危険性がある。

アサド氏は、これは婉曲表現になりうると考えている。

「これは不快な話題を和らげる言葉や表現だ。比喩的な言葉を使うことで、ある状況に正面から向き合うことなく、言及するのだ」と同氏は言う。

広く使われている例としては、「殺される」の代わりに「死ぬ」という言葉を使うことだという。これは12月19日の英BBCの見出しにあった。

不正確な用語


今回の報道では、不正確な用語や言い回しが使われていると指摘する声もある。

そのひとつが、死傷者に関するさまざまな報告を引用する際に、パレスチナ保健省を「ハマス保健省」と呼んでいることだ。

この呼称は正確ではない。ハマス組織は同省の文書作成には関与していないし、パレスチナ保健省はカイラ保健相を含め、占領下のヨルダン川西岸の都市ラマラを拠点に報告書を監督する、他の当局者と緊密に連携しているからだ。

ハマスによるものということで、バイデン米大統領を含む一部の人々は、同省が発表する数字の妥当性や信頼性を疑問視している。

アメリカ・イスラム関係評議会は、バイデン大統領がこの数字は信用できないと発言したことを受け、「衝撃的で非人間的な発言」に対して謝罪するよう求めた。

パレスチナ保健省は、公表文書に関し信頼できることが証明されている。イスラエルがアルアハリ・アラブ病院を爆撃した後、殺害された人々のフルネームと詳細を記載した、殺害された人の数が疑問視された。

文書に記載された情報は、各人の識別情報を含む内訳を示していた。

報告書には、7028人の名前と性別、年齢、ID番号が記載されていた。

多くの専門家は、パレスチナ保健省が提供した数字は、その入手方法、情報源、過去の発表の正確さから、信頼できると考えている。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのイスラエル・パレスチナ担当ディレクター、オマール・シャキール氏はワシントン・ポスト紙に対し、同省の数字は「一般的に信頼できることが証明されている」と語った。
 
「特定の攻撃に関する数字を独自に検証したことがあるが、大きな食い違いがあったことはない」と同氏はつけ加えた。

War on Gaza: How language used by media outlets downplays Palestinian suffering | Middle East Eye [LINK]

2023-12-27

北朝鮮非核化という空想

ケイトー研究所主任研究員、ダグ・バンドウ
(2023年12月19日)

世論調査では、2024年の米大統領選でドナルド・トランプ氏がジョー・バイデン氏を上回っており、ワシントンの政策立案者たちは、再びトランプ政権が誕生する可能性を考えている。
米国の外交政策に劇的な変化が起こるのは間違いない。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国、DPRK)に対するワシントンの取り組みもそのひとつだ。

政治専門サイト、ポリティコは報じた。「ドナルド・トランプ氏は、北朝鮮に核兵器を保持させ、新たな爆弾の製造を止めるための経済動機を提供する計画を検討している。トランプ氏の考えに詳しい3人の人物が明らかにした」

これは、北が核兵器を放棄するという数十年にわたる国際的な主張を覆すもので、一般にCVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)と呼ばれている。これまでは、この政策に疑問を投げかけると、朝鮮半島ウォッチャーたちの間で激しい慟哭と歯ぎしり、衣服の引き裂きが起こっていた。

従来の常識では、北朝鮮の核兵器が増え続けているにもかかわらず、米国は最後まで、あるいは必要であればその先まで、断固として立ち向かわなければならない。見積もりは大きく異なるものの、北朝鮮は少なくとも45~55発、おそらくその2倍の核兵器を製造できるだけの核分裂性物質を保有している。

さらに、北朝鮮は核兵器を増やし続けている。物議を醸したある研究では、北朝鮮は今後数年間で242発もの核兵器を保有する可能性があると警告している。これはイスラエル、パキスタン、インド、英国をしのぐ規模である。

北朝鮮が非核化するとは、事実上誰も信じていない。現存する核兵器を廃絶したのは、わずか6発の核兵器を保有した(もう1発は建設中だった)南アフリカだけである。北朝鮮の武装解除には、金王朝を倒すか崩壊させる必要がある。北朝鮮に関しては、空想が政策になったように見える。

しかしトランプ氏は北朝鮮に関して、これまでの常識を覆す用意があるようだ。またしてもである。トランプ大統領は2017年に戦争を予告した後、金正恩総書記との首脳会談に転じたが、この切り替えはワシントンで広く非難された。交渉人としてのトランプ氏への不信感が広がり、同氏が成功してCVID以外のものに合意することが最も恐れられた。2019年のハノイ・サミットが合意に至らずに決裂した後、金氏は、完全な非核化への確約なしにトランプ氏が経済制裁の緩和には応じないと判断したようだ。そして金氏は米国(と韓国)との対話を打ち切った。

バイデン米大統領はCVIDを主張し続け、北朝鮮に対し再び核実験を行わないよう指図している。金総書記は、時には懇願に近い接触提案をしたにもかかわらず、対話を拒否している。むしろ金氏は、弾道ミサイルの発射実験、人工衛星の打ち上げ、潜水艦発射兵器や戦術兵器の開発、核兵器の先制使用の威嚇など、北朝鮮の核戦力を拡大している。

これらの努力は、今やロシアによって支援されているのかもしれない、ロシアはウクライナ戦争のために砲弾やおそらくそれ以上のものを供給するため、北に依存している。

未来は楽観できない。昨年、最高人民会議が北の核保有を法制化した後、金正恩氏は「核兵器が地球上に存在し、帝国主義と米国とその追随勢力による反北朝鮮工作が続く限り、我々の核戦力強化への道は決して終わらない」と宣言した。

この方針は「不可逆的」だと金氏は付け加えた。核抑止力を強化するのは、米政府との会談に備えるためだろう。おそらく、制裁緩和と核の制限を交換することを提案しているのだろう。

政策立案者たちは、ほぼ一様にこの方針を拒否している。軍備管理では米政府が望む非核化は実現しないからだ。しかし、それでも北朝鮮が核兵器の保有量を増やし続け、パキスタンに代わって世界的な「核兵器保有国」になるよりは、はるかにましだろう。しかし、評論家たちにとってはそんなことは問題ではない。

北朝鮮は核兵器を持つことはできないと主張する者もいる。もちろん持つべきではないが、歴代の米大統領はその点を繰り返し、北朝鮮を紛れもない核保有国として放置してきた。

もう一つの主張は、CVIDを廃棄すれば核不拡散体制が損なわれるというものだ。しかし核不拡散の真の課題は、北朝鮮が核兵器を保有していることであり、その現実を米国が認めていることではない。

もう一つの主張は、韓国と日本が北の非核化に対する米国の取り組みを疑うだろうというものである。しかし北朝鮮が非核化の目標を拒否すれば、米国の態度はほとんど問題にならない。同盟の協力にやみくもな独断専行は必要ない。

一部のアナリストが最も恐れるのは、北の核保有を認めることで、韓国で自前の核抑止力に対する支持が高まることである。繰り返すが、北朝鮮が核兵器を保有していないように装っても、核兵器が消えるわけではない。米政府の無様なCVID政策は、北からの核の脅威と米国の軍事対応の意志を心配する韓国人を慰めることはないだろう。

実際、米国の軍事対応の意志は、今日のダチョウ政策(安全保障上の危機を直視しようとしないこと)にとって最大の問題である。北朝鮮が核兵器とその運搬手段を拡大していることは誰もが知っている。韓国民は、もし戦争になった場合、米国が米本土と場合によっては何百万人もの米国人の命を危険にさらしてでも韓国を守ろうとしている限り、CVIDが重大な目的だという見せかけを受け入れるかもしれない。

しかし残念なことに、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の訪米から生まれた「ワシントン宣言」は、魔法のような思考だった。両政府はこう発表した。「韓国は米国の拡大抑止の取り組みを全面的に信頼し、米国の核抑止力への永続的な依存の重要性、必要性、利益を認識する」

すばらしい言い回しであり、両大統領の仲の良さを考えれば驚くにはあたらない。しかし北朝鮮の軍備が高度化すればするほど、この政策は信用できなくなる。

北朝鮮は米国に先制攻撃を仕掛けるつもりはない。実際、米国が韓国に安全保障を保証し、軍隊を駐留させなければ、北朝鮮はベルギーや、率直にいってインドやオーストラリアよりも米国に注意を払うことはないだろう。しかし米国は北を攻撃する用意があり、戦争になればほぼ間違いなく金王朝を転覆させようとするだろう。

したがって北朝鮮は、戦術兵器と戦略兵器をミックスし、戦略兵器を潜水艦ミサイルと陸上ミサイルに分散させ、陸上ミサイルには複数の弾頭を搭載するという、拡大抑止力を望んでいるのだ。では、米国より韓国を優先するような無謀で非合理的な米大統領がいるだろうか。自国を十分に守ることができる韓国を守ることは、何百万人もの米国人の命を危険にさらすに値しない。

要するに、北朝鮮が米本土を脅かすという信憑性が高まれば、いくら大統領のカラオケを披露しても、拡大抑止力に対する信頼を維持することはできないだろう。少なくとも北朝鮮の核の脅威を和らげる最善の方法は、CVID政策を放棄し、代わりに軍備管理を推進し、制裁の緩和と引き換えに、北朝鮮の核計画に意味のある検証可能な制限を設けることだろう。そして、早急にそうすることである。

少なくとも、現実的な目標を設定することで、成功する可能性は高まるだろう。そして、外交が北を抑制すれば、米国は将来の交渉でCVIDを復活させることができるだろう。おそらく北朝鮮の政策、指導者、体制はいずれ変わるだろう。

トランプ氏の外交政策上の間違いは数多くあったが、北の核問題に関しては、ほとんどの外交政策アナリストに比べれば先見の明があった。それは誰もが望むような形ではなく、ありのままの北朝鮮に対処する意志があると報じられたことでもわかる。北朝鮮は核保有国である。今こそその現実に立ち向かうときだ。

Why Trump is right about North Korea | Responsible Statecraft [LINK]

【訳者コメント】北朝鮮が弾道ミサイルを発射するたびに、日米韓は「強く非難」し、「挑発行為」をやめ、「(非核化に向けた)前提条件をつけない対話」に応じるよう求める。しかしバンドウ氏が指摘するように、そもそも北朝鮮がミサイル発射実験を繰り返すのは、米国やその「追随勢力」である日韓が北朝鮮の一方的な核放棄という非現実的な要求にこだわり、近隣での軍事演習という「挑発行為」や経済制裁をやめようとしないからだ。トランプ氏が大統領に返り咲くことで北朝鮮との緊張緩和が進むのであれば、期待したい。

2023-12-26

第一次世界大戦のクリスマス休戦

作家、ウィル・グリッグ
(2017年12月25日)

1914年8月、欧州の大国は嬉々として戦争に身を投じた。巨大な野望を抱く新興国ドイツは、ロシアが動員される前にフランスを迅速に牽制し、二正面戦争の見通しを回避しようと、ベルギーを横断した。何千人もの若いドイツ人が、6週間の紛争を予期し、楽観的な歌詞を歌いながら部隊列車に乗り込んだ。「パリへ小旅行。シャンゼリゼ通りでまた会おう」
フランスは1870年にアルザスとロレーヌをドイツに奪われた復讐に燃えていた。ドイツの勢力が拡大するのを警戒していた英政府は、「フン族に教訓を与える」ために何十万人もの若者を動員した。英歴史家サイモン・リーズ氏によれば、大陸全域で「何百万人もの軍人、予備役、志願兵が……戦旗に熱狂的に駆け寄った。……その雰囲気は、争いというよりむしろ休暇のようであった」。

各陣営とも、クリスマスまでには勝利すると期待していた。しかし12月に入ると、フランスとベルギーを何百マイルも縦断する塹壕が立ち並ぶ西部戦線は拮抗状態に陥った。戦線のある地点では、両軍の距離は1メートルも離れていなかった。粗末な堡塁は、白っぽい灰色の泥土に大きな溝を掘っただけのものだった。冬の装備も整っていない兵士たちは、人間が快適に過ごすには冷たすぎるが、凍るには暖かすぎる汽水の中をのろのろと歩いた。

ノーマンズランド(中間地帯)に指定された未開拓地には、戦争のひどい残滓が散乱していた。使用済みの弾薬と、弾薬が使われた人々の生気のない死体である。有刺鉄線のフェンスには、多くの戦死した兵士の亡骸がグロテスクに編み込まれていた。村や家は廃墟と化していた。廃墟と化した教会が軍事基地として使われていた。

損害が増え、膠着状態が固まるにつれ、双方の戦争熱は冷め始めた。西部戦線に投入された兵士の多くは、最初の血に飢えた熱狂には屈しなかった。フランス軍、ベルギー軍、英国軍とともに戦ったのは、インドから来たヒンズー教徒やシーク教徒、ヒマラヤのネパール王国から来たグルカ兵だった。

これら植民地徴兵兵は、祖国から輸送され、冬のベルギーのキャベツ畑を切り開いた塹壕に配備された。スコットランド高地出身者も戦線におり、12月の厳しい寒さに負けず、誇らしげにキルトを着用していた。

ドイツ軍は、好色なユンカー貴族を代表するプロイセンのエリート将校が率いていた。ドイツ軍にはバイエルン人、ザクセン人、ウェストファーレン人、ヘッセン人の予備兵がおり、その中には英国に住んでいた、あるいは英国で生まれ、完璧な英語を話す者も少なからずいた。散り散りになっていたドイツの諸邦を統合しようとした(ドイツ帝国宰相)ビスマルクの努力にもかかわらず、多くのドイツ軍兵士は、彼らにとって抽象的なドイツ国家よりも、自分たちの地域社会に愛着を持ち続けていた。

戦友たち


凍てつくような雨に打たれ、腐敗した仲間の遺体に囲まれながら、両軍の兵士たちは寒々とした腐敗した下水道に身を投じ、厳しい軍規を守っていた。12月7日、ローマ教皇ベネディクト15世はクリスマスの停戦を呼びかけた。この提案は、両陣営の政治・軍事の指導者たちから熱狂的な支持をほとんど得られなかった。しかし、疲弊しきっていた前線部隊は違った。

12月4日付の英国第2軍団司令官からの通達は、戦線に蔓延していた「生かされて生きる人生論」を非難していた。敵対する部隊の間にあからさまな友好関係はほとんど見られなかったが、それと同様に、優位に立つ可能性のある相手に圧力をかける主体性もほとんど見られなかった。食事の時間には双方とも発砲せず、ノーマンズランドでは友好的な会話が頻繁に交わされた。エジンバラ・スコッツマン紙に掲載された手紙の中で、英王立工兵隊のアンドリュー・トッドは、自分がいた戦線沿いの兵士たちが「ある場所では60ヤードしか離れていなかったが……非常に『親密』になっていた」と伝えた。

兵士たちは相手に鉛を投げつけるのではなく、時には新聞(石で重くしたもの)や配給缶を戦線を横切って投げつけた。侮辱の砲撃もときどき起こったが、それは「ロンドンのタクシー同士が軽い衝突事故を起こした後よりも、概して敵意は小さかった」とクイーンズ・ウエストミンスター連隊のレスリー・ウォーキントンは報告している。

12月に入ると、前線部隊の戦闘意欲は衰えた。クリスマスが近づくにつれ、敵陣を越えて親善の仕草が散見されるようになった。クリスマスの約1週間前、アルマンティエール近郊のドイツ軍は、「素晴らしい」チョコレートケーキを戦線を越えて英国側に差し出した。そのおいしい平和の捧げものには、驚くべき招待状が添えられていた。

今夜は大尉の誕生日なので、コンサートを開こうと思う。ただし、7時30分から8時30分までの間に敵対行為を停止することに同意するよう、客人として約束してくれることを条件とする。……我々が7時30分ちょうどに塹壕の端でキャンドルとフットライトに火を灯すのを見たら、安心して塹壕の上に頭を出してくれていい。我々も同様にし、コンサートを始める。

コンサートは時間通りに進行し、目撃者の証言によれば、ほおひげを生やしたドイツ軍兵士たちが「クリスティ・ミンストレルズ(米国の大衆芸能団)のように」歌ったという。一曲ごとに英軍から熱狂的な拍手が起こり、ドイツ兵は「一緒に歌おう」と英国軍を誘った。ある英国兵は大胆にも、「ドイツ語を歌うくらいなら死んだほうがましだ」と叫んだ。この軽口に対して、ドイツ軍からは気さくな返事が即座に返ってきた。「そんなことをしたら、おれたちが死んでしまう」。コンサートは「ラインの守り」の熱唱で幕を閉じ、クリスマス前の短い休息が終わったことを告げる、暗くなりかけた空をわざと狙った数発の銃声で締めくくられた。

戦線の他の場所では、倒れた兵士を収容し、適切な治療を施したり埋葬したりするための準備が進められていた。

第2クイーンズ・ウエストミンスター連隊のジェフリー・ハイネキー中尉は、母親に宛てた手紙の中で、12月19日に起こったそのような出来事の一つを紹介している。「何人かのドイツ兵が外に出てきて手を挙げ、負傷者を収容し始めたので、僕たちもすぐに塹壕から出て負傷者を収容し始めました。ドイツ兵が手招きしたので、多くの者がドイツ兵のところに行って話をしました。そのうちの何人かと話しましたが、非常に立派な人たちでした。……言葉では言い表せないほど皮肉なことでした。前夜、僕たちは凄まじい戦いを繰り広げていましたが、その翌朝、僕たちは彼らのタバコを吸い、彼らは僕たちのタバコを吸っていました」

2023-12-25

「ロシアの欧州征服計画」の嘘

シカゴ大学教授、ジョン・ミアシャイマー
(2023年12月18日)

2022年2月24日にウクライナで戦争が始まった直後、ロシアとウクライナが戦争を終わらせるための真剣な交渉に参加していたことを示す説得力のある証拠が増えつつある。この交渉は、トルコのエルドアン大統領とイスラエルのベネット前首相によって進められ、和解の条件について詳細かつ率直な話し合いが行われた。
誰が見ても、2022年3月から4月にかけて行われたこの交渉は、実際に進展していたのだが、英国と米国がウクライナのゼレンスキー大統領に交渉を放棄するよう指示し、同大統領はそれを実行した。

これらの出来事に関する報道は、それ以来、ウクライナが死と破壊を被り、戦争に負けそうになっていることを考えれば、バイデン米大統領とジョンソン英首相がこれらの交渉に終止符を打ったことがいかに愚かで無責任であったかに焦点を当てている。

しかし、ウクライナ戦争の原因に関するこの話の特に重要な側面は、ほとんど注目されていない。西側諸国では、プーチン露大統領はウクライナを征服し、大ロシアの一部にするためにウクライナに侵攻したというのが従来の通説だ。その後、プーチン氏は東欧の他の国々を征服するだろうという。西側諸国ではあまり支持されていないが、プーチン氏の侵攻の動機は主に、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、ロシア国境の西側の防波堤になるという脅威にあったという反論がある。プーチン氏をはじめとするロシアのエリートたちにとって、ウクライナがNATOに加盟することは存亡の危機だったのだ。

2022年3月から4月にかけての交渉は、主に二つの理由から、戦争の原因に関する従来の常識が間違っており、反論が正しいことを明らかにしている。第一に、この交渉は、ウクライナがNATOの一員にならず中立国になるというロシアの要求を満たすことに直接焦点が当てられていた。交渉に携わった誰もが、ウクライナとNATOの関係がロシアの核心的関心事であることを理解していた。第二に、もしプーチンがウクライナ全土の征服に執念を燃やしていたなら、このような交渉には応じなかっただろう。交渉の本質は、ロシアがウクライナ全土を征服する可能性と矛盾していたからだ。プーチン氏がこのような交渉に参加し、自らの野心を隠すために中立性を強調したという見方もできる。しかし、この主張を裏付ける証拠はない。言うまでもなく、1)ロシアの小さな侵攻軍にウクライナ全土を征服・占領する能力はなかったし、2)大規模な攻勢を遅らせても意味がなかった。ウクライナに防衛を強化する時間を与えることになるからだ。

要するに、プーチン氏はウクライナに限定的な攻撃を仕掛けたのだ。その目的は、ゼレンスキー大統領に、ウクライナの西側諸国との協調政策とNATO加盟を断念させることだった。英国と西側諸国が交渉に介入しなければ、プーチン氏はこの限定的な目的を達成し、戦争終結に合意していたと考える十分な理由がある。

また、ロシアがウクライナのドネツク、ルガンスク、ケルソン、ザポリージャの4州を併合したのは、交渉が終了した2022年9月のことだった。 もし協定が成立していれば、ウクライナはほぼ間違いなく、現在よりもはるかに大きな領土を支配していただろう。

ウクライナの場合、西側のエリートたちと西側の主要メディアの愚かさと不誠実さのレベルの高さには驚かされるばかりである。

The Myth That Putin Was Bent on Conquering Ukraine and Creating a Greater Russia - Antiwar.com [LINK]

【訳者コメント】ツイッターのユーザー名にウクライナの国旗を誇らしげにあしらった、ウクライナ応援団。彼らは「ウクライナは侵略されたかわいそうな善、ロシアは侵略で欧州征服をたくらむ悪」という政府やメディアのプロパガンダを信じ込み、ウクライナはロシアに屈せず、戦場で打倒せよと騒ぎ立てた。しかしミアシャイマー教授が指摘するように、ウクライナは本当は早くロシアと妥協し、戦争をやめたかったのだ。その努力は米英に妨害されて挫折し、それから現在に至るまで膨大な数のウクライナ人が命を落とし続けている。和平拒絶の世論形成に加担したウクライナ応援団は、どう責任を取るつもりなのか。

2023-12-24

米政府、TikTokに検閲圧力

ロン・ポール研究所 上級研究員、アダム・ディック
(2023年12月3日)

5年前、テクノロジー企業はオルタナティブ(代替的)な声を取り締まることに本腰を入れていた。その取り締まりはその後も続いている。さらに、米政府の諜報員がどのように裏で取り締まりを推進してきたかを裏付ける証拠も次第に明らかになってきた。
こうした背景を考えると、米政府の政治家や官僚、そのメディア関係者が、〔動画共有アプリ〕「TikTok(ティックトック)」は中国政府のプロパガンダを流しているから禁止する必要があると騒いでいることに疑いの目を向けるのは賢明なことだ。まるで狐に鶏小屋を見張らせるようなものだ。米国は、米国人を検閲から守るために、検閲に固執するのをやめているのだろうか。TikTokを禁止するというこの話について、もっとありうる説明は、この脅しによって、TikTokを米国の宣伝活動にさらに引き込もうとする努力の一部だということ、つまり米政府は、同社のソーシャルメディア・プラットフォームの利用者を保護するためではなく、自身の利益を促進しようとしているということではないのか。

これは〔ジャーナリスト〕グレン・グリーンウォルド氏の見解であり、彼のニュース番組「システム・アップデート」のエピソードで巧みに紹介された。グリーンウォルド氏はこの状況を要約して、次のようにコメントした。

フェイスブックやグーグル、イーロン・マスク氏以前のツイッターなど、大手テクノロジー・プラットフォームは、ご存じのとおり、政府から検閲対象について常に命令を受け、それを実行してきた。彼らがイーロン・マスク氏に執着し、〔動画サイト〕「ランブル」などの命令に従わないサイトを憎む理由は、米国人がプラットフォーム上で、自分たちが止められない意見を伝えることができるという考えに耐えられないからだ。

そしてこれが、TikTokを禁止するという脅しの正体なのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領とウクライナ戦争に関する批判的な動画や、〔国際テロ組織アルカイダの〕オサマ・ビン・ラディンに関する動画が検閲されるように、米政府が検閲の決定を指揮できるようにしようとしている。米政府がそうすることを望み、グーグルやフェイスブックに簡単に検閲させることができるからだ。TikTokの場合は少し難しい。TikTokは次第に従わざるをえなくなっている。TikTokは政治検閲を気にせず、利益を重視する。資本家なのだ。米政府に投稿監視をコントロールさせることを気にしていない。非常に有利な米市場へのアクセスを保つための条件であれば、喜んでそれを行う。

システム・アップデートのエピソードでTikTokに関するグリーンウォルド氏の議論はこちらから。

動画の中で、グリーンウォルド氏はさらに、TikTokがその行動に対する米政府のコントロールにすでにほとんど屈服していると論じている。しかし、米政府はまだ満足していない。

Glenn Greenwald Explains how Threats to Ban TikTok are Part of the Effort to Expand US Censorship through Tech Companies - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【訳者コメント】「中国には言論の自由がない」とよく批判される。それは事実だが、「自由の国」を自認する米国でソーシャルメディアへの圧力を通じ、言論が弾圧されている事実はあまり話題にならず、批判もされない。政府が無関係を装うだけ、陰湿であり悪質だ。

イスラエル・パレスチナ和平の枠組み

コロンビア大学教授、ジェフリー・サックス
(2023年11月30日)

今急務なのは、パレスチナ自治区ガザの人質を解放し、イスラエルとパレスチナの流血を止め、イスラエルとパレスチナの人々のために永続的な安全保障を確立し、パレスチナの人々が望む主権国家を実現し、東地中海・中東(EMME)地域に真の持続可能な発展の流れを確立することだ。これはパレスチナを国連加盟国として即座に迎え入れることで、動き出すことができる。
パレスチナはすでに主権国家として広く認められており、米国や欧州連合(EU)の大半は承認していない(スウェーデンは2014年に承認し、スペインは最近承認の可能性を示唆した)ものの、国連加盟193カ国のうち139カ国が承認している(2023年6月現在)。しかし、パレスチナの外交や運命を左右する国際問題への参加にとって極めて重要なのは、まだ国連に加盟していないことである。2011年9月23日、パレスチナ自治政府は、1967年以前の国境線に基づく二国家解決を求める数十年にわたる国連安全保障理事会決議に基づき、国連加盟を申請した。この書簡は、安保理の新加盟国承認委員会に正式に送られた。

パレスチナのアッバス大統領は、申請書の中で次のように述べている。

「パレスチナ人民の自決権と独立、そしてイスラエルとパレスチナの紛争に対する二国家による解決というビジョンは、国連総会で決議された数多くの決議で確固たるものとなっている。特に、総会決議181(II)(1947年)、同3236(XXIX)(1974年)、同2649(XXV)(1970年)、同2672(XXV)(1970年)、同65/16(2010年)、同65/202(2010年)、国連安全保理決議242(1967年)、同338(1973年)、同1397(2002年)、2004年7月9日の国際司法裁判所勧告的意見(被占領パレスチナ地域における壁建設の法的帰結に関する)である。さらに、国際社会の大多数は、1967年6月4日の国境線に基づき、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家を二国間承認することにより、国家への帰属を含む、民族としての不可侵の権利を支持しており、そのような承認の数は日を追うごとに増え続けている」

国連安全保理に提出された後、米国は加盟国委員会の舞台裏で、委員会、安保理自体、国連総会全体において圧倒的な支持があったにもかかわらず、この申請を阻止するために動いた。安保理は米国の反対によりパレスチナの加盟申請について採決すら行わず、パレスチナは当時、オブザーバー(投票権を持たない)の地位で決着した。安保理は十数年後の今、パレスチナの申請を承認すべきだが、今回は、米国が表向きにはずっと主張してきたが、実際には支持しなかったこと、つまりパレスチナの完全な国家資格と国連加盟を公的に認めるべきだ。

ネタニヤフ・イスラエル首相の戦争は、明らかに公正な平和の追求ではない。同首相とその内閣は、二国家解決策を明確に否定し、ガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人を制圧することを目的とし、占領下のパレスチナにおけるイスラエル入植地の拡大と、東エルサレムに対するイスラエルの恒久的な主権を提案している。その政策は、アパルトヘイト(人種隔離)と民族浄化に等しい。まさにこうした不公正のために、正当な政治解決策が確立されない限り、戦争は(親イラン民兵組織)ヒズボラやイランなども巻き込んだ地域戦争へと激化する可能性が高い。

(イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まった)10月7日以前、ネタニヤフ首相はパレスチナ国家の必要性にも言及することなく、アラブ諸国との関係を「正常化」しようとしたが、このひねくれたやり方は失敗する運命にあった。真の永続的な和平は、パレスチナの人々の政治的権利とともにしか達成できない。

エジプトの偉大な指導者サダト大統領やイスラエルの勇敢なラビン首相(ともに暗殺)など、平和のための真の指導者たちは繰り返し殉教してきた。また、イスラエル人とパレスチナ人の和平を求めて、名も知れない無数のパレスチナ人とイスラエル人が、しばしば自分たちの集団内の過激派によるテロの犠牲となり、命を落としている。

このような深刻な障害があるにもかかわらず、国連を通じた和平には明確な道筋がある。というのも、アラブ・イスラム諸国は以前から、パレスチナ自治政府の求める二国家解決策に基づくイスラエルとの和平を求めてきたからだ。11月11日にリヤドで開催された臨時アラブ・イスラム合同首脳会議において、アラブ・イスラム諸国の指導者たちは、二国家解決を支持する次のような宣言を行った。

「できるだけ早く、国際法、正当な国際決議、平和のための土地の原則に基づいて、信頼できる和平プロセスを開始すべきである。これは特定の時間枠内で、国際的な保証を伴う二国家解決策の実施に基づくべきであり、東エルサレム、占領下のシリア領ゴラン、シェバア農場、カフルヒルズ、ショバ、レバノンの町アル・マリ近郊を含むパレスチナ領土のイスラエルによる占領の終結につながる」(アラビア語原文の英訳)

重要なのは、アラブとイスラムの指導者たちが、すでに21年前に確認した2002年のアラブ和平イニシアチブに特別な注意を喚起したことである。

「中東における公正かつ包括的な和平は、アラブ諸国の戦略的選択肢であり、国際的な合法性に従って達成されるべきであり、イスラエル政府側にも同等の決意が必要である。…(そして)さらにイスラエルに対し、(特に)1967年6月4日以来ヨルダン川西岸とガザ地区で占領されているパレスチナ領土に、東エルサレムを首都とし、主権を有する独立したパレスチナ国家を樹立することを受け入れることを確認するよう求める」

アラブ諸国はすでに2002年に、このような結果がアラブ諸国とイスラエルの和平につながると明言している。具体的には、アラブ諸国は「アラブ・イスラエル紛争が終結したとみなし、イスラエルと和平協定を結び、この地域のすべての国家に安全保障を提供する」と述べている。残念なことに、ネタニヤフ首相は2009年以降のほとんどの期間、政権を握っており、できる限りのことをしてアラブ和平構想を無視し、イスラエル国民の目に触れないようにしてきた。

すべての常任理事国(P5)を含む国連安保理は、パレスチナをただちに国連に加盟させ、パレスチナが歓迎する平和維持要員を含め、二国家解決策の実施に向けた運営・財政支援を提供するよう約束すべきである。特に安保理決議は、国連と近隣諸国がイスラエルと国連の新加盟国パレスチナの双方を支援し、相互の安全保障を確立すること、そして民兵部隊の非武装化を約束すべきである。

安保理決議には、以下の点を盛り込むことが有益であろう。

  • パレスチナを194番目の国連加盟国としてただちに樹立。国境は1967年6月4日時点とし、首都を東エルサレムに置き、イスラム聖地を管理
  • すべての人質の即時解放、すべての当事者による恒久的な停戦、国連の監視下で人道援助を運搬
  • パレスチナに平和維持軍を派遣。大部分はアラブ諸国が占め、安保理の委任を受けて活動
  • 和平の一環として、平和維持軍によるハマスとその他の民兵の即時武装解除と動員解除
  • パレスチナ国家の国連加盟に伴い、イスラエルとすべてのアラブ連盟諸国との間に外交関係を樹立
  • 国連平和開発基金の新設。私が最近安保理で提唱したように、その目的はパレスチナ、イスラエル、シリア、レバノン、ヨルダン、エジプト、その他近隣諸国を含む東地中海地域における長期的で持続可能な開発計画の資金調達などの支援である

もちろん、相互に合意した国境線の調整など、交渉すべきことは多く残るだろうが、こうした交渉は平和のうちに、主権を有する2つの国連加盟国の間で、安保理、国連総会、そしてきわめて重要なこととして、国連憲章と世界人権宣言の支持のもとに行われることになる。

A Framework for Peace in Israel and Palestine - Antiwar.com [LINK]

【訳者コメント】サックス教授はリバタリアン(自由放任主義者)ではなく、リベラル(左派)の経済学者だ。その思想の一端は、記事終盤の提言の一つとして、国連平和開発基金の新設、つまり税金による経済支援を挙げたことに現れている。しかし、そんなささいなことを理由に同教授にケチをつけようとは思わない。戦争は個人の身体・財産に対する最大の脅威であり、その戦争を止める方策を、米政府や主力メディアに抗して訴えるサックス教授の勇気ある姿勢は、生半可なリバタリアンよりもはるかに立派である。

2023-12-23

米国防長官、非介入主義者を非難

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年12月5日)

オースティン米国防長官は週末、米国民に向けて、米国の外交政策の何が本当に間違っているのかを説明した。その結論を意外に思う人もいるかもしれない。
世界における米国の地位が損なわれているのは、9・11テロとは無関係のアフガニスタン政府と20年間も戦ったからではない。イラクの大量破壊兵器に関するネオコン(新保守主義者)の嘘が、またしても失敗した「民主化」作戦で数え切れないほどの民間人の死を招いたからでもない。過去約2年間、米政府がウクライナを通じてロシアとの代理戦争を戦うために、米国民から1500億ドル以上を巻き上げてきたからでもない。

軍産複合体や、議会、シンクタンク、メディアを通じて広がる、その巨大なロビー活動の力のせいでもない。

オースティン長官は、カリフォルニア州シミバレーで開催されたレーガン国防フォーラムで、米国の世界軍事帝国に対する真の危機をついに説明した。

それは私たちである。

オースティン長官によれば、世界を不安定にしているのは「米国の責任からの後退」を主張する非介入主義者たちであり、ネオコンによる終わりのない戦争ではないという。

オースティン長官は、米国は世界の警察官という軍事覇権の役割を果たし続けなければならないと述べた。なぜなら「暴君やテロリストが、大規模な侵略や大量殺戮から逃れられると信じれば、世界はより危険になるだけだからだ」。

理性と論理に照らしたらどうだろう。オースティン氏と介入主義エリートたちは、30年にわたる外交政策の失敗を事実検証し、「非介入主義者が主導権を握っていたら、もっとひどいことになっていただろう」と結論づけた。

これがネオコンの最大の問題点の一つである。彼らは自らを省みることができない。米政府が彼らの助言に従って別の大惨事を引き起こすたびに、いつも誰かのせいにする。今回の場合、オースティン氏が語っているように、米国の外交政策の失敗の責任は、「やるな」と言った人々にある。

シリアの世俗指導者アサド大統領を打倒するために〔国際テロ組織〕アルカイダを支援するというオバマ大統領(当時)の決断を、「やるな」と言った人々が担当していたらどうなっていただろうか。ネオコンがリビアを破壊するために「人権」を口実にでっち上げたとき、「やるな」と言った人々が責任者だったらどうだろう。オバマ氏のネオコンが、ウクライナの民主的に選ばれた政府を転覆させるのはすばらしいアイデアだと考えたとき、「やるな」と言った人々が責任者だったらどうだろう。

もし米政府が関与しなければ、暴君やテロリストが権力を得ていただろうか。いや、米政府がこれらの危機に介入したからこそ、暴君やテロリストが優勢になったのだ。

オースティン長官がさらに説明したように、米国の問題の一部は民主主義そのものにある。「我々の競争相手は絶え間ない決議の下で活動する必要はない」と同長官は訴えた。国民がその代表者を通じて戦争支出を管理することは、同長官にとって何という重荷であることか。

議会では、保守派の間で「米国第一」の外交政策が台頭しており、オースティン長官とその一派を激怒させている。同長官は、ウクライナとイスラエルでの戦争にさらに数十億ドルを今すぐ使いたいと考えている!

経済問題はどうか。それも私たちの責任だ。「跳ね橋を引き上げようとする〔軍事支出を止めようとする〕」人々は、数十年の繁栄をもたらした安全保障を台無しにする、とオースティン長官は言う。繁栄? 彼は国の借金を見たことがあるのか? インフレは? ドルの破壊は?

ここには明るい兆しもある。オースティン長官とネオコンが私たち非介入主義者を攻撃するということは、私たちが地歩を固めつつあるということだ。彼らは私たちを気にかけている。これは、私たちが本当に声を上げるチャンスなのだ!

Lloyd Austin: Non-Interventionists Are the Real Enemy - Antiwar.com [LINK]

【訳者コメント】他国の紛争に手出しをしない不介入主義は、リバタリアンの外交政策の基本だ。それに対し、米国の外交政策を牛耳るネオコンは、世界のあちこちで軍事介入を繰り返し、それが原因で自国の安全保障が揺らいでいる。あげくの果てに、介入を批判してきた不介入主義者のせいにするとは、リバタリアンのロン・ポール氏でなくても、あまりの厚顔無恥にあきれるばかりだ。日本はいつまで米国に追随し続けるのだろうか。

ウクライナ戦争、米情報機関の嘘

元米中央情報局(CIA)アナリスト、ラリー・ジョンソン
(2023年12月16日)

バイデン米政権はウクライナ戦争に関する米情報機関の評価の機密扱いを解除し、ウクライナのためにもっと金を出すよう議会を説得する同政権の総攻撃の一環として、すぐにメディアと共有した。政治サイトのポリティコとCNNテレビが報じた情報は、米国が現実からかけ離れ、政治家たちが聞きたいことを伝えるために猛烈に空回りしていることを示すものであり、気がかりである。これらは政治が情報よりも優先される典型例である。
ポリティコの記事「ホワイトハウスがウクライナへの資金拠出を求める中、米国は情報機密を公開」は、(戦況が)膠着状態に陥るようロシアが期待しているという馬鹿げた説に焦点を当て、同国がひどい損失を被っていると主張している。

米国の評価によれば、ロシアはウクライナとの戦争の膠着状態に助けられ、同国に対する西側の支持を失わせ、戦争に勝ちやすくなったと考えている。国家安全保障会議のワトソン報道官は声明で、「ロシアは損失にもかかわらず、攻勢を強めようとしている」と述べた。「ウクライナが戦線を維持し、自国の領土を回復できるよう、我が国がウクライナへの支援を維持することは、今までになく重要だ」

さらに米国の情報機関によれば、西側が支援するウクライナの作戦は一定の成功を収めている。ワトソン氏によれば、10月以来、ウクライナ東部のアウディフカ・ノボパブリフカ間で、1万3000人以上のロシア軍兵士が死傷し、220台以上の戦闘車両が破壊されたという。さらに、ロシア軍はウクライナ東部のアウディフカ、ライマン、クピャンスク周辺を含む標的を攻撃し続けていると付け加えた。

情報機関は、ウクライナで何が起きているのか正確には把握していない。この評価では、ロシアが「西側が支援する作戦」のために甚大な損失を被っているという主張を押し出している。これは、ウクライナにはまだ希望があるというメッセージを伝えるためのものだ。しかし、適切な「情報評価」であれば、3つの基本的な点を指摘すべきだった。

1.10月以降、ロシア側の死傷者が増加しているのは、ロシアが接触線に沿って全面攻勢に転じた結果であること、ロシアはウクライナ軍を長期にわたって維持してきた陣地から押し出すことで著しい進歩を遂げていること。アウディフカが最も顕著な例だ。

2.膠着状態ではない。ウクライナの損害はロシアの損害に比べて少なくとも5倍であり、ロシアはウクライナと違って兵力、戦車、大砲、弾薬の十分な備蓄がある。

3.ロシアの国防産業は戦時体制で操業しており、大量の戦車、装甲兵員輸送車、無人機、飛行機、大砲、弾薬を生産している。米国と北大西洋条約機構(NATO)を合わせても、ロシアが生産しているもののほんの一部にすぎない。

ロシアの1万3000人の死傷者についてはどうだろうか。10月以降、同国が3000人の戦死者と1万人の戦傷者を出していることは考えられるが、これらの損失はソーシャルメディアには反映されず、ロシアの軍事力の低下を示すものでもない。ウクライナは違う。ゼレンスキー大統領でさえ、米上院議員に対し、40歳の男性を徴兵すると語った。つまり、ウクライナの損失があまりに大きいため、戦闘の厳しさに耐えられないほど年老いた男たちを徴兵せざるをえなくなっているのだ。

CNNの報道はさらに不誠実だ。情報機関は嘘をついている。(米国がベトナム戦争介入の口実とした)トンキン湾事件のような嘘だ。ケイティ・ボー・リリス記者が書いた記事を見てみよう。米情報機関の評価によれば、ロシアはウクライナ戦争開始前に保有していた兵力の87%を失ったという。同記者はこう書いている。

ロシアは、ウクライナ侵攻前に保有していた地上部隊の総数の87%、侵攻前に保有していた戦車の3分の2を失ったと、機密解除され議会に提供された米情報機関の評価に詳しい情報筋がCNNに語った。

それでもなお、人員と装備の大きな損失にもかかわらず、ロシアのプーチン大統領は、戦争が来年初めの2周年に近づくにつれ、前進する決意を固めている。米政府高官は、ウクライナは依然として非常に脆弱であると警告している。期待されていたウクライナの反攻は秋まで停滞し、米政府高官は、ウクライナが今後数カ月の間に大きな戦果を上げる可能性は低いとみている。

ロイターは、この評価に含まれる内容をより正確に伝えている。

機密解除された米情報機関報告書によれば、紛争開始時にロシアが擁していた人員の90%近くにあたる31万5000人が死傷したという。報告書に詳しい情報筋が火曜日(12月12日)に語った。

同情報筋によれば、報告書はまた、ロシアがウクライナ軍に人員と装甲車を奪われたことで、ロシアの軍事近代化は18年遅れたと評価しているという。

もしこれが本当なら、ロシアのソーシャルメディアは兵士を埋葬する墓や悲嘆にくれる家族の写真で炎上しているはずだが、少なくともウクライナのソーシャルメディアに登場するような量は存在しない。新しく埋葬された兵士であふれ返っているウクライナの墓地のビデオや写真は何百とある。以下はそのうちの2例だ。他にもたくさんある。

ロシアが40歳や50歳の老人を路上から引きずり出して軍隊に強制的に軍隊に参加させているのではないこともわかっている。それはウクライナだ。対照的にロシアは、2023年の最初の11カ月間に毎月4万人以上の兵士を入隊させている。

メドベージェフ前ロシア大統領(安全保障会議副議長)は金曜日(12月1日)、2023年1月1日から12月1日までに45万2000人以上が契約により軍に採用されたと発表した。

米軍でさえ、このような採用数にはかなわない。米国の情報アナリストは、ロシアが現在220万人にまで軍備を増強しているのは、必要であれば米国やNATOと戦う用意があるからだと議員に伝えなかったのだろうか。

残念ながら、ロシアと全面戦争の方向に進んでいるというニュースがある。ニューヨーク・タイムズ紙の戦争取材班、ジュリアン・バーンズ、エリック・シュミット、デビッド・サンガー、トーマス・ギボンズ・ネフ各記者は、米国がウクライナで指揮を執るために米国の三つ星将軍を派遣することで、ウクライナの軍事計画をより掌握しつつあると報じている。以下はNYタイムズの記事「米国とウクライナは反攻に失敗後、新たな戦略を模索」からの抜粋である。

米国はウクライナに提供する対面の軍事助言を強化し、三つ星の将軍を同国に派遣し、かなりの時間を現地で過ごさせている。米軍とウクライナ軍の将校は、来月ドイツのウィースバーデンで開催される予定の一連の軍事演習で、新戦略の詳細を詰めたいと語っている。…

米国防総省はまた、ドイツの基地からウクライナの支援を指揮するアントニオ・アグト中将を派遣し、キエフ(キーウ)に長期滞在させることを決定した。アグト中将は、ウクライナの軍事指導部とより直接協力し、米国が提供する助言を改善することになると、米政府関係者は述べた。ホワイトハウスは、キエフに米軍事顧問団を常駐させないよう選択しているが、アグト将軍がキエフに頻繁に出入りすれば、その制限をなくすことにつながるだろう。

我々はベトナムでの失敗から何も学んでいない。前線に「顧問」を派遣しても、何も解決しなかった。米軍の現役将官で、他国との連合軍による戦争を実戦経験した者は一人もいない。アグト氏は一人で行くわけではない。少なくとも中隊規模の参謀将校が同行するだろう。ロシアがウクライナの計画部隊を攻撃することになれば、ウクライナの現場で米軍に大きな犠牲者が出る可能性がある。これは狂気の沙汰だ。

少なくとも今のところ、ロシアは武器を使わずにいる。しかし、ウクライナが米国の支援と後押しを受けてクリミア半島でテロ作戦を開始すれば、それも変わるかもしれない。ロシアは自国の市民が西側の兵器によって虐殺されるのを黙って見過ごすつもりはない。アグト氏にはそのことを理解してほしい。そうでなければ、同氏はウクライナでの任務を死体袋に入れられて終えることになるかもしれないし、米国は戦う準備ができていない戦争に巻き込まれることになるだろう。平和を祈る。

Why is US Intelligence Lying About the War in Ukraine? - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【訳者コメント】日本の保守派や一部のリバタリアンは、CIAをはじめとする米国の情報機関(インテリジェンス)をやたらとありがたがる。しかし情報機関が政府の一部門である以上、どの官庁にもある欠点は免れない。たとえば、時の政治権力にへつらい、権力者に都合の悪いことは言わず、行わない。CIA出身のジョンソン氏が指摘する、「政治が情報よりも優先される」という現実だ。戦争に深く関与する情報機関がそのような行動をとった場合、市民の身体・財産の自由に及ぼす害悪は、普通の官庁をはるかに上回るだろう。

反シオニズムは反ユダヤ主義にあらず

アンチウォー・ドット・コム
(2023年11月28日)

決議案は412対1の賛成多数で可決され、現代イスラエル国家の「生存権」を否定することは反ユダヤ主義だとした

トーマス・マッシー米下院議員(共和党、ケンタッキー州)は、現代イスラエル国家への批判〔反シオニズム〕を反ユダヤ主義と同一視する決議案に反対票を投じた唯一の議員となった。

決議案は、ラシダ・タリーブ議員(民主党、ミシンガン州)が棄権したため、412対1対1で可決された。決議案は、下院が「イスラエル国家が存在する権利を有することを再確認する」とし、「イスラエルの存在権を否定することは反ユダヤ主義の一形態であることを認識する」と述べている。

マッシー議員はXへの投稿で反対理由をこう説明している。「『イスラエル国家の生存権を再確認する』というタイトルと文言の多くには賛成だが、反シオニズムと反ユダヤ主義を同一視しているため、この決議案に反対票を投じる。反ユダヤ主義は嘆かわしいことだが、それをイスラエル批判にまで拡大することは役に立たない」

タリーブ議員は、決議案が「パレスチナの人々の存在を無視」し、「平和的共存に近づくことはない」という理由で賛成票を投じなかったと述べた。決議案では、ユダヤ人が「イスラエルの土地固有の民族」であるとしているが、近代国家が主に最近移住してきたユダヤ系ヨーロッパ人によって建国され、1948年に70万人以上のパレスチナ系アラブ人をこの土地から追い出したことには触れていない。

マッシー議員は、ガザ地区での戦争を支援するためイスラエルに143億ドルの軍事援助を追加する法案を含む、他のイスラエル関連法案にも反対票を投じている。その立場から、マッシー議員はイスラエル・ロビーの標的にされてきた。

「なぜイスラエルは歴史的に他のどの国よりも多くの対外援助を受けているのか。最も積極的なロビイストがいるからだ。私は143億ドルを新たに海外に送ることに反対票を投じた。だから今、連中はラジオ、テレビ、フェイスブックで広告を流している」。マッシー議員は16日、Xにこう書き込んだ

Rep. Massie Casts Lone No Vote Against Bill Equating Anti-Zionism With Antisemitism - News From Antiwar.com [LINK]

【訳者コメント】反シオニズムが反ユダヤ主義と異なることは、誰でも理解できる道理だ。それが政治上の都合から、議会で圧倒的多数に無視されてしまう恐ろしさ。唯一反対票を投じたリバタリアン、マッシー議員の勇気に拍手を送りたい。

ガザにおける死と破壊

シカゴ大学教授、ジョン・ミアシャイマー
(2023年12月13日)

パレスチナ自治区ガザで起きていることについて私が何を言っても、イスラエルや米国の紛争政策に影響を与えるとは思わない。しかし、歴史家がこの道徳的災難を振り返ったときに、一部の米国人が歴史の正しい側にいたことがわかるよう、記録しておきたい。
イスラエルがガザでパレスチナ市民に行なっていることは、バイデン政権の支持のもとで行なわれているが、人道に対する犯罪であり、軍事的な目的には何の意味もない。イスラエル・ロビーの重要な組織であるJストリートが言うように、「展開する人道災害と民間人の死傷者の範囲は、ほとんど計り知れない」。

詳しく説明しよう。

第1に、イスラエルは意図的に膨大な数の民間人を虐殺し、そのおよそ70%は子供と女性である。イスラエルが民間人の犠牲を最小限に抑えるために多大な努力を払っているという主張は、イスラエル高官の発言によって否定されている。たとえば、イスラエル国防軍の報道官は2023年10月10日、「正確さではなく被害を重視している」と述べた。同日、ガラント国防相はこう発表した。「私はすべての歯止めを外した。我々は戦う相手全員を殺す。あらゆる手段を用いる」

さらに、イスラエルが民間人を無差別に殺害していることは、空爆作戦の結果から明らかだ。イスラエル国内の出版社に掲載された、イスラエル国防軍の空爆作戦に関する2つの詳細な研究は、イスラエルがいかに大量の民間人を殺害しているかを詳細に説明している。この2つの論文のタイトルは引用する価値がある。

「『大量暗殺工場』――イスラエルの計算されたガザ爆撃の内幕」

「イスラエル軍はガザで自制心を捨て、データは前例のない殺戮を示す」

同様に、ニューヨーク・タイムズ紙は2023年11月下旬、「ガザ市民、イスラエルの弾幕の下、歴史的なペースで殺される」と題する記事を掲載した。したがって、グテレス国連事務総長が、2017年1月の就任以来、「いかなる紛争においても類を見ない、前例のない民間人の殺害を目の当たりにしている」と述べたことは、驚くにはあたらない。

第2に、イスラエルは、ガザに持ち込める食料、燃料、調理用ガス、医薬品、水の量を大幅に制限することで、絶望的な状況にあるパレスチナ住民を意図的に飢えさせている。さらに、現在約5万人の負傷した市民を含む住民にとって、医療を受けることは極めて困難である。イスラエルは、病院が機能するために必要なガザへの燃料供給を大幅に制限しているだけでなく、病院、救急車、救護所を標的にしている。

10月9日のガラント国防相のコメントは、イスラエルの政策をよく表している。「私はガザ地区の完全包囲を命じた。電気も食料も燃料もなく、すべてが閉鎖される。我々は人間動物と戦っているのだ」。イスラエルは、ガザへの最小限の物資の供給を許可せざるをえないが、その量はあまりにも少なく、国連高官の報告によれば、「ガザの人口の半分が飢えている」という。さらにこの高官は「ある地域では10世帯のうち9世帯が、一昼夜まったく食べ物なしで過ごしている」と報告している。

第3に、イスラエルの指導者たちは、パレスチナ人について、またガザで何をしたいのかについて、驚くべき言葉で語っている。特に、これらの指導者の何人かが、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の恐怖についても絶え間なく語っていることを考えれば、なおさらである。実際、イスラエル出身の著名なホロコースト研究者であるオマール・バートフ氏は、指導者らの表現によって、イスラエルには「大量殺戮の意図」があると結論付けている。ホロコーストやジェノサイド(民族大量虐殺)研究の他の学者たちも同様の警告を発している。

より具体的に言えば、イスラエルの指導者たちがパレスチナ人を「人間動物」「人間の獣」「恐ろしい非人間的な動物」と呼ぶのは日常茶飯事である。そして、イスラエルのヘルツォグ大統領が明言しているように、これら指導者が指しているのはイスラム組織ハマスだけでなく、すべてのパレスチナ人だ。同大統領の言葉を借りれば、「責任があるのは国全体である」ということだ。驚くことではないが、ニューヨーク・タイムズ紙が報じているように、ガザを「平らにする」「消し去る」「破壊する」よう求めるのは、通常のイスラエル人の言説の一部なのだ。ある国防軍退役将兵は、「ガザは人間が存在できない場所になる」と宣言し、「ガザ地区の南部で深刻な伝染病が発生すれば、勝利が近づく」とも主張している。さらに進んで、イスラエル政府のある大臣は、ガザに核兵器を投下することを示唆した。これらの発言は、孤立した過激派によるものではなく、イスラエル政府の幹部によるものだ。

もちろん、ガザ(とヨルダン川西岸)を民族浄化し、事実上、(イスラエル建国で多数のパレスチナ人が難民になった)「ナクバ(大惨事)」を再びもたらすという話も多い。イスラエルの農相の言葉を借りれば、「我々は今、ガザのナクバを起こそうとしている」のだ。おそらくイスラエル社会が沈んだ深淵を示す最も衝撃的な証拠は、イスラエルのガザ破壊を祝う血も凍るような歌を歌う幼い子どもたちのビデオだろう。「1年以内に我々は皆を全滅させ、そして畑を耕すために戻ってくる」

第4に、イスラエルは膨大な数のパレスチナ人を殺傷し、飢えさせるだけでなく、モスク、学校、遺跡、図書館、主要な政府機関、病院などの重要なインフラだけでなく、彼らの家も組織的に破壊している。2023年12月1日現在、イスラエル国防軍は、瓦礫と化した地区全体を含め、ほぼ10万棟の建物を損壊または破壊している。その結果、ガザに住む230万人のパレスチナ人のうち、実に90%が家を追われた。さらにイスラエルは、ガザの文化遺産を破壊するための努力を惜しまない。NPRの報道によれば、「100以上のガザの文化遺産が、イスラエルの攻撃によって損傷または破壊されている」。

第5に、イスラエルはパレスチナ人を恐怖に陥れ、殺害しているだけでなく、日常的な捜索でイスラエル国防軍に検挙された多くのパレスチナ人を公然と辱める。イスラエル兵は彼らを下着まで剥ぎ取り、目隠しをさせ、近隣の公共の場で見世物にする(道の真ん中に大勢で座らせたり、通りをパレードさせたりする)。その後、トラックで収容所に連行される。ほとんどの場合、拘束された者はハマスの戦闘員ではないため釈放される。

第6に、イスラエルは虐殺を行っているが、バイデン米政権の支援なしにはできなかった。米国は、ガザでの即時停戦を要求する最近の国連安保理決議に反対票を投じた唯一の国であるだけでなく、この大虐殺に必要な武器をイスラエルに提供してきた。イスラエルのある将軍(イツハク・ブリック氏)が最近明らかにしたようにだ。「ミサイルも、弾薬も、精密誘導爆弾も、飛行機も爆弾も、すべて米国からのものだ。米国なしでは戦えないことは誰もが理解している。それだけだ」。驚くべきことに、バイデン政権は、武器輸出管理法の通常の手続きをすっ飛ばして、イスラエルに追加の弾薬を急いで送ろうとしている。

第7に、現在はガザに焦点が当てられているが、ヨルダン川西岸で同時に起こっていることを見逃してはならない。イスラエル人入植者たちは、イスラエル国防軍と密接に協力しながら、罪のないパレスチナ人を殺し、その土地を盗み続けている。ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス誌に掲載された、こうした恐怖を描写した優れた記事の中で、デビッド・シュルマン氏はある入植者と交わした会話について述べている。「私たちがこの人たちにしていることは、実は非人間的なことなのです」とその入植者は率直にそう言った。「しかし、よく考えてみれば、神がこの土地をユダヤ人にだけ約束したのだから、必然的にそうなるのだ」。ガザへの攻撃とともに、イスラエル政府はヨルダン川西岸での恣意的な逮捕の数を著しく増やしている。アムネスティ・インターナショナルによれば、これらの囚人たちが拷問を受け、劣悪な扱いを受けている証拠がかなりあるという。

パレスチナ人にとってのこの大惨事が繰り広げられるのを見ながら、私はイスラエルの指導者たち、彼らを擁護する米国人たち、そしてバイデン政権にひとつの単純な質問を投げかけたい。あなたたちには良識がないのか。

Death and Destruction in Gaza - Antiwar.com [LINK]

【訳者コメント】国際関係論で現実主義(リアリズム)を代表する論者の一人であるミアシャイマー教授は、ウクライナ戦争について西側による北大西洋条約機構(NATO)拡大の責任を早くから指摘し、「ウクライナは善、ロシアは悪」の単純な図式を批判してきたことで知られる。この記事でもガザ紛争について、大手メディアでは及び腰でしか語られないイスラエルと米国側の非道と責任を的確に指弾している。

2023-12-21

アルゼンチン新大統領、米覇権の勝利

ロン・ポール研究所 上級研究員、アダム・ディック
(2023年11月24日)

日曜日(11月19日)にアルゼンチン大統領選を制したハビエル・ミレイ氏〔12月10日に大統領に就任〕は、大統領就任を待つことなく、米政府への支持と、米国が資金、情報、武器の大量供給で支援してきたウクライナとイスラエルの戦争を熱心に進めようとしている。
大統領就任前に、ミレイ氏は米国とイスラエルを訪問する予定だ。イスラエルはミレイ氏が称賛を惜しまない国であり、米国の政治指導者たちと同様に、ミレイ氏もその新たな戦争を支持している。米国とイスラエルは、ミレイ氏がアルゼンチンとの関係強化を望む国の中心的存在であり、その一方で、米国が敵対国として宣言し制裁を加えている国々との関係は制限しようとしている。

対ロシア戦争でウクライナの熱烈な支持者であるミレイ氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領との選挙後の電話会談で、ウクライナ政府とラテンアメリカ諸国政府との首脳会談を主催することも提案した。アルゼンチンの軍事的・財政的地位が比較的小さいため、ミレイ氏の外交政策の立場はあまり重要ではないと主張する人もいるが、この首脳会談の提案は、ミレイ氏が新たな国々を戦争支援に参加させ、他国の貢献度を高めることで、自身の影響力を増幅させるつもりであることを示唆している。少なくともミレイ氏は、ウクライナ政府とその戦争努力を擁護する、知名度の高い新たな政府指導者としての地位を確立しようとしている。

これらの事実は、何人かの専門家が予測したように、ウクライナの戦時下において米国に有利な戦争努力を自動的かつ熱心に支援することを避けていた、アルゼンチン政府のこれまでの外交政策を、ミレイ氏が大きく変えようとしていることを示している。米国の覇権主義の勝利である。

Argentina President-Elect Javier Milei, a Win for US Hegemony - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【訳者コメント】リバタリアニズムの理念の一つは諸国との友好だ。アルゼンチンが新大統領の下で米国の覇権主義に追随し、国々を敵と味方に色分けして自由な経済交流を制限すれば、グローバル経済の恩恵は小さくなり、国内の経済改革はうまく進まないだろう。

2023-12-20

ウクライナ戦争の本当の歴史

コロンビア大学教授、ジェフリー・サックス
(2023年9月20日)

米国民は、ウクライナ戦争の本当の歴史と現在の見通しを緊急に知る必要がある。残念ながら、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、MSNBC、CNNといった主要メディアは、バイデン米大統領の嘘を繰り返し、国民から歴史を隠す、政府の単なる代弁者になっている。
バイデン氏は昨年、「神に誓って、あの男(プーチン露大統領)は権力の座に留まることはできない」と宣言した後、今回もまた同大統領を非難し、「土地と権力に対する卑屈な欲望」と非難している。 しかしバイデン氏は、ウクライナへの北大西洋条約機構(NATO)拡大を推し進め続けることで、ウクライナを未解決の戦争に陥れている張本人である。バイデン氏は米国民とウクライナ国民に真実を伝えることを恐れ、外交を拒否し、代わりに永久戦争を選んでいる。

バイデン氏が長年推進してきたウクライナへのNATO拡大は、米国の破綻した策略である。 バイデン氏を含むネオコン(新保守主義者)たちは、1990年代後半から、ロシアが声高に長年反対しているにもかかわらず、米国はNATOをウクライナ(とグルジア〔ジョージア〕)に拡大できると考えていた。 プーチン氏がNATOの拡大をめぐって実際に戦争を起こすとは考えていなかった。

しかしロシアにとっては、ウクライナ(とグルジア)へのNATO拡大は、ロシアの国家安全保障に対する存亡の危機とみなされている。特に、ロシアはウクライナと2000kmの国境を接しており、グルジアは黒海の東端に位置する戦略的な立場にある。 米国の外交官たちは何十年もの間、この基本的な現実を米国の政治家や将軍たちに説明してきたが、政治家や将軍たちはそれにもかかわらず、傲慢かつ粗野にNATO拡大を推し進めてきた。

この時点でバイデン氏は、ウクライナへのNATO拡大が第三次世界大戦の引き金になることを熟知している。 だからこそ、バイデン氏は(リトアニアの首都)ビルニュスで開いたNATOサミットで、NATO拡大のギアを低速に入れたのだ。 しかし、バイデン氏はウクライナがNATOの一員になることはないという真実を認めるどころか、ウクライナの最終的な加盟を約束することで前言を翻している。 実際には、バイデン氏は米国の国内政治、とりわけ政敵に弱く見られることを恐れている以外の理由はなく、ウクライナに血を流し続けさせることを約束しているのだ(半世紀前、ジョンソン、ニクソン両米大統領は、〔内部告発者〕故ダニエル・エルズバーグ氏が見事に説明したように、本質的に同じ哀れな理由で、同じ嘘をついてベトナム戦争を継続した)。

ウクライナは勝てない。 ロシアが戦場で勝つ可能性の方が高い。しかし、たとえウクライナが通常戦力とNATO兵器で突破したとしても、ロシアはウクライナでのNATOを阻止するために必要ならば核戦争に踏み切るだろう。

バイデン氏はそのキャリア全体を通じて軍産複合体に仕えてきた。同氏はNATOの拡大を執拗に推進し、アフガニスタン、セルビア、イラク、シリア、リビア、そして現在のウクライナで、米国を深く不安定化させる戦争を支持してきた。バイデン氏は、さらなる戦争とさらなる「増派」を望み、騙されやすい国民を味方につけるために、目前に迫った勝利を予言する将軍たちに従う。

さらに、バイデン氏とそのチーム(ブリンケン国務長官、サリバン大統領補佐官、ヌーランド国務次官)は、西側の制裁がロシア経済を締め上げる一方で、高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)のような奇跡の兵器がロシアを打ち負かすという自分たちのプロパガンダを信じているようだ。 そしてその間ずっと、米国人に対し、ロシアの6000発の核兵器には注意を払うなと言ってきた。

ウクライナの指導者たちは、理解しがたい理由からアメリカの欺瞞に付き合ってきた。おそらく彼らは米国を信じているか、恐れているか、自国の過激派を恐れているか、あるいは単なる過激派で、ウクライナが核超大国を打ち負かすことができるというナイーブな信念のもとに、何十万人ものウクライナ人を死傷させる覚悟があるのだろう。あるいは、ウクライナの指導者の中には、数百億ドルにのぼる西側の援助や武器からかすめ取ることで財を成している者もいるかもしれない。

ウクライナを救う唯一の方法は、交渉による和平だ。交渉による解決では、米国はNATOがウクライナに拡大しないことに同意し、ロシアは軍隊の撤退に同意するだろう。 クリミア半島、ドンバス地方、米国と欧州の制裁、欧州の安全保障体制の将来といった残された問題は、終わりのない戦争ではなく、政治によって処理されるだろう。

ロシアはこれまで何度も交渉を試みてきた。NATOの東方拡大を阻止しようとしたり、米国や欧州との間で適切な安全保障上の取り決めを見つけようとしたり、2014年以降のウクライナの民族間問題を解決しようとしたり(ミンスク合意1と同2)、対弾道ミサイルの制限を維持しようとしたり、ウクライナとの直接交渉を通じて2022年にウクライナ戦争を終結させようとしたりしてきた。いずれの場合も、米政府はこれらの試みを軽視、無視、あるいは妨害し、しばしば「米国ではなくロシアが交渉を拒否している」という大嘘をついた。ケネディ米大統領(当時)は1961年、まさに正しいことを言っている。「恐怖から交渉することはないが、交渉することを恐れることはない」。バイデン氏がケネディ氏の不朽の名言に耳を傾けさえすればと思う。

バイデンや主流メディアの単純化された物語を超えるために、現在進行中の戦争につながるいくつかの重要な出来事の簡単な年表を提供する。

2023-12-19

ケイトー研、イスラエル・ガザ紛争にあやふやな態度

元ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年10月25日)

中東で起きている憂慮すべき事態は悪化の一途をたどっており、米国を再び対外戦争に巻き込む可能性が少なからずある。イスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザからイスラエルに仕掛けた奇襲攻撃は、ネタニヤフ・イスラエル首相の政府を明らかにあざむいた。しかしイスラエルは現在、圧倒的な武力で対応している。過去数十年にわたる小規模な攻撃に対してそうしてきたようにだ。ガザの民間人居住区への爆撃は、領土の北部に住む100万人を1日以内に避難させるというまったく非現実的な命令とともに、ハマス軍が与えた苦しみを大きく上回る脅威となっている。
さらに悪いことに、バイデン米政権はすでに、より広範な地域戦争を引き起こしかねない動きを見せている。米国はイスラエルとの連帯を示すため、空母戦闘団を地中海東部に派遣した。米国のタカ派の常連たちは、イランが首謀者であるという証拠はないとイスラエル政府自身が認めているにもかかわらず、イランがハマスを使ってイスラエルを攻撃していると非難している。このような不都合な点があっても、熱心なタカ派はイランに対する米国の軍事攻撃を主張することを止めない。現イラン政権が続く限り、イスラエルとパレスチナ人の戦いは止まらないと主張する者さえいる。

最大のリバタリアン系シンクタンクであるケイトー研究所は、中東における新たな流血沙汰の深い原因を検証する論説や政策声明を数多く発表していると思うかもしれない。また、リバタリアンのアナリストが、現在進行中の悲劇に対するイスラエルとハマスの責任の度合いをバランスよく評価するのは当然の前提である。特に、同研究所の外交政策専門家たちは露骨なタカ派に対抗し、米国がイランを攻撃するのを阻止するための知的努力の先頭に立つと期待される。

しかし、この危機に関するケイトー研の専門家たちの成果は、せいぜいあやふやなものでしかない。最初の重要な声明は、戦争が始まって丸1週間が経った10月14日、「ケイトー・アット・リバティ」のウェブサイトに投稿されたブログであった。著者は、同研究所の国防・外交政策研究ディレクター、ジャスティン・ローガン氏である。最も驚き、失望させられたのは、どの既存メディアでも見られるような、偏った親イスラエルの神話の多くを再掲していたことだ。

残念なことに、このような視点は複数の外交政策問題においてケイトー研で力を増しているようだ。主任研究員のトム・パーマー氏を筆頭に、何人かのアナリストは、ウクライナとロシアとの戦争中、ウクライナ寄りの立場を貫いてきた。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に関するローガン氏の最初のコメントは、ロシアの侵攻を全面的に非難しただけでなく、明らかな例外を除いてロシアに対する経済制裁を支持するものだった。このような姿勢は問題だった。数十年にわたる研究により、制裁は効果がなく残酷なものであることが明らかになっているからだ。経済制裁は通常、対象国の一般市民の生活に壊滅的な打撃を与える。同時に、制裁は米政府の政策要求に屈服するよう相手国の政権を強制する効果がないことでも知られる。

ローガン氏の10月14日のブログ記事は、冒頭から露骨なイスラエルびいきである。同氏は10月7日の午前5時に目を覚まし、「胃が痛くなるような映像を次から次へと見た。テロリズム、そして民間人、特に子供を標的にした行為は正当化できない。世界中の文明人が恐怖におののいた」と述べ、「イスラエルには自国を防衛する権利があり、個人的な意見だが、イスラエルが激怒する権利もある」と付け加えた。

ガザで1000人以上(おそらく3000人以上)の市民を殺害したイスラエルの軍事行動に対するローガン氏のその後の見解は、はるかにあいまいで両論併記だった。実際、同氏は暗に、ガザでの民間人犠牲者の責任の大部分を、空爆やその他の攻撃を行っていたイスラエル軍ではなく、ハマスに押し付けていた。「すべての文明人は、ハマスのテロリストがイスラエルの男性、女性、子供を標的にしたことに恐怖を感じた。ハマスが始めた戦争の結果、苦しんでいるガザの罪のない人々を心配するのと同じように」(強調は引用者)

ローガン氏の最もそれらしいイスラエル批判は、2つのあいまいなコメントである。ひとつは、イスラエルがすでにガザに投下した爆弾の数は、米国とその同盟国がISIS(過激派組織「イスラム国」)との戦争で投下した爆弾の数よりも多いという見解だ。もうひとつは「イスラエルのためにも、ガザの罪のない市民のためにも、そして米国人として、米国の関与を危うくするような紛争激化を防ぐためにも、9・11(米同時テロ)後の怒りに燃えた我々米国人よりも良い決断をすることを望む」というものだ。

特に目立ったのは、イスラエルが長年にわたってパレスチナ人を虐待してきたことについての言及がなかったことだ。尊敬を集める人権団体がガザを「世界最大の野外監獄」と表現するに至った、ガザにおける組織的な人権侵害については一言も触れられていない。人権団体アムネスティ・インターナショナルがアパルトヘイト(人種隔離)の一形態として非難している、イスラエル政府と入植者たちが数十年にわたりヨルダン川西岸でパレスチナ人の土地を公然と盗んできたことについても、一言も触れられなかった。.

このような偏見と怠慢は非常に問題である。ハマスの行為、特に一般市民の人質を捕らえ、虐待し、公然と殺害したことを糾弾するのは、ほとんど勇気のいることではない。このような残虐行為については、政策通やジャーナリストたちがすでに正当な批判の津波を巻き起こしている。しかしケイトー研の学者であれば、もっとバランスの取れた価値ある分析をしてくれるだろうと期待する人もいるだろう。

ケイトー研はかつて、外交問題に関して不人気な真実を語るという、正当な評価を得ていた。ペルシャ湾戦争、バルカン戦争、米国主導の不当なイラク侵攻、リビアの指導者カダフィを追放するための北大西洋条約機構(NATO)の悲惨な空戦、アサド政権に敵対するシリアの聖戦士に対する米政府の恥ずべき支援などに関して、同研究所の専門家が取った立場はすべて適切な例であった。イスラエルとパレスチナの紛争に対する行動は、その遺産からの悲しい逸脱である。

The Cato Institute’s Belated, Squishy Stance on the Latest Middle East Crisis | Mises Wire [LINK]

【訳者コメント】米国のリバタリアン系シンクタンクは、一枚岩ではない。実業家のチャールズ・コーク氏が出資し、首都ワシントンに本拠を置くケイトー研究所は、外交政策について米政府寄りの介入主義的な主張を強めている。記事の筆者カーペンター氏はそのあおりで辞職に追いやられた。同研究所の創立メンバーの一人で、筋金入りの非介入主義者だったマレー・ロスバード氏は、天国で嘆いているに違いない。

2023-12-18

アルゼンチン新大統領はリバタリアンの希望ではない

ロン・ポール研究所 上級研究員、アダム・ディック
(2023年11月19日)

米リバタリアン党は、本日行われるアルゼンチン大統領選の決選投票で、2人の候補者のうちの1人であるハビエル・ミレイ氏を祝う投稿をツイッターにした。ツイートはまず、ミレイ氏を「この世代で最も成功したリバタリアンの政治家候補」であり、「今日の世界に衝撃を与えるチャンスがある」と紹介した。そして、「幸運を」と祈り、「米国でも起こりうることの手本を示してほしい」と願った。
ふむ。この大絶賛は妥当なのだろうか。

ロン・ポール研究所のダニエル・マカダムス事務局長は8月、このアルゼンチンの政治家について議論するツイッター・スペースで、ミレイ氏の政治見解のいくつかを検証し、警告のサインを示した。

批評の序盤で、マカダムス氏はミレイ氏の外交政策について次のように述べた。

いくつかの見出しでこう書かれているのを見た。「ミレイ氏は新しいロン・ポール氏〔リバタリアンとして有名な元米下院議員〕か。これはロン・ポール革命か」。答えは断固として「ノー」だ。彼の取る立場は、ロン・ポール氏の立場とはまったく正反対だ。特にその外交政策を見ると、興味深いことに、民主党を選ぼうが共和党を選ぼうがワシントンを牛耳る米外交政策エリートとまったく変わらない。

ウクライナとロシアに関して、彼は完全に自分のメッセージに忠実だ。中国に関しても、自分のメッセージに忠実だ。彼は中国を暗殺者と呼んでいる。キューバ、ベネズエラ、北朝鮮、ニカラグア、中国とは決して関係を促進しないと言っている。そして、その他にもいろいろある。だから、これらの分野に関しては、彼はロン・ポール氏ではない。ロン・ポール氏はこんなことは決して言わない。

マカダムス氏が、ミレイ氏はリバタリアンの希望の星だという意見に冷や水を浴びせるのは、ツイッター・スペースの36分39秒からだ。

(訳注)ミレイ氏は決選投票に勝利し、12月10日に大統領に就任した。

­Argentina Presidential Candidate Javier Milei Is Not the Great Libertarian Hope - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【訳者コメント】ミレイ氏の大胆な行政改革には注目したいが、米国追随の外交政策は残念でしかない。リバタリアンの外交方針の基本はあらゆる国との友好だということを、ミレイ氏は理解していないようだ。

2023-12-15

ケネディ氏、イスラエル支持で支持者失う

ロン・ポール研究所 上級研究員、アダム・ディック
(2023年11月11日)

2022年12月当時、ロバート・F・ケネディ・ジュニア(RFKジュニア)氏が2024年の米大統領選に出馬する可能性など、事実上誰も考えていなかった。この可能性を考えていた数少ない人物の一人が、政治評論家でトレンド予測家のジェラルド・セレンティ氏だ。司会者デビッド・ナイト氏との対談で、セレンティ氏はその可能性に言及しただけでなく、ケネディ氏が元ニュージャージー州判事の法学者アンドリュー・ナポリターノ氏を副大統領候補の伴走者として出馬することを熱心に勧めた。


その4カ月後、ケネディ氏は反戦感情を強く打ち出した演説の中で、大統領選への出馬を表明した。自らのトレンド予測事務所があるニューヨーク州キングストンで平和集会を主催したこともある平和擁護者セレンティ氏にとって、この感情表現は魅力的だった。

しかし10月になると、ケネディ氏はイスラエルに関しては不干渉主義の大統領にはならないと明言した。それどころか、新たな戦争に突き進むイスラエル政府を全面的に支援するつもりだという。

これはケネディ氏が7月に〔ラビ=ユダヤ教指導者、米テレビ司会者〕シュムリー・ボタヤ氏とのインタビューで、自分がイスラエルを大いに支持していることを明らかにし、候補者として「民主党を伝統的なイスラエル支持に戻し、私の子供たちの世代にイスラエルの歴史的背景と道徳的根拠を説明する」ことを試みると宣言したことに続くものだ。

週明け、ケネディ氏はツイッターで次のように書いた。「大統領として、私はイスラエルを無条件で支持する」。この宣言を見て、ケネディ氏が全面的な和平要求を支持していると期待する人はいないだろう。しかし少なくとも、イスラエルは比較的平和な状態を保つだろうから、ケネディ氏のイスラエルに対する無条件の支持が戦争への支持として具体化することはないだろうという希望は、抱くことができた。その最後の望みは、10月のハマスによるイスラエル攻撃と、それに続くイスラエルによるガザ地区への大規模な軍事攻撃によって打ち砕かれた。

実際、ハマスの攻撃があった10月7日、ケネディ氏は即座にツイッターで、大統領としてイスラエル政府の新たな戦争努力を支援することを約束すると宣言し、こう述べた。

イスラエルに対するこの不名誉で、いわれのない、野蛮な攻撃には、世界からの非難と、ユダヤ国家の自衛権に対する明確な支持を示さなければならない。イスラエルが自衛するために必要なものは何でも提供しなければならない。今すぐだ。私は大統領として、イスラエルの敵がいかなる侵略であろうと試みる前にじっくりと考えるように、米国の政策をはっきりさせる。

バイデン〔大統領〕のホワイトハウスが、イスラエルが必要としているときに、強力な支援を表明したことに拍手を送りたい。しかし今回の攻撃の規模からして、イスラエルは市民を守るために持続的な軍事作戦を展開する必要がありそうだ。支援の表明は結構だが、揺るぎない、断固とした、実際的な行動でフォローしなければならない。米国は同盟国が主権的自衛権を行使するこの作戦の間、そしてその後も、同盟国に寄り添わなければならない。

ケネディ氏の出馬を早くから熱狂的に支持していたセレンティ氏は、水曜日〔11月8日〕にアンドリュー・ナポリターノ氏との週刊ビデオ討論で、ケネディが大統領になることはもう支持しないとコメントした。「ご存じのように、私はRFKジュニア氏の大支持者だった。彼が平和と反戦を支持していると信じていたからだ」。これに対し、ロン・ポール研究所の顧問であるナポリターノ氏は、「あなたと私が彼〔ケネディ氏〕と連絡を取っていた当時、彼は平和と反戦のリーダーだった。イスラエルへのハマスの攻撃の後、180度変わって、イスラエル軍がガザのパレスチナ人に行っている大量虐殺を支持するようになった」と答えた。

セレンティ氏とナポリターノ氏の対談はこちら。 ナポリターノ氏がケネディ氏との間で交わした同氏のイスラエル戦争の立場に関するメールのやりとりや、セレンティ氏がナポリターノ氏に大統領選への出馬を提案する場面も含まれている。

Gerald Celente, a Very Early Backer of a Kennedy Presidential Run, Withdraws Support due to Kennedy’s Israel War Position - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

2023-12-14

一極世界が終わるとき~新興国と先進国、経済の明暗くっきり

「正式なメンバーとなることを強く希望する」。南米アルゼンチンのフェルナンデス大統領は6月24日、中国、ロシアなど新興5カ国(BRICS)にその他の新興国を加えた「BRICSプラス」のオンライン会合で、BRICSへの加盟を要望した。

アルゼンチンなど相次ぎBRICS加盟表明


フェルナンデス大統領は、BRICS加盟国が「すでに世界人口の42%を占めている」として、グループに「貢献したい」と述べた。


また同じ会合で、イランのライシ大統領は「イランはBRICSを主要な世界市場につなげるための安定したパートナーになることができる」と述べ、BRICS加盟の意思を表明した。

アルゼンチン、イランの相次ぐBRICS加盟表明には、前触れがあった。会合を主催した中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は前日の演説で、BRICSについて「閉鎖的なクラブでも、排外的な小グループでもない。互いに助け合う家族であり、良き協力パートナーだ」と強調。「新たな血を取り入れることが活力をもたらし、影響力を向上させる。志を同じくするパートナーを早期に加盟させるべきだ」と語っていた

BRICSプラスの会合にはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国のほか、アルゼンチン、アルジェリア、エジプト、インドネシア、イラン、カンボジア、カザフスタン、マレーシア、セネガル、タイ、ウズベキスタン、フィジー、エチオピアの代表が参加した。アルゼンチンやイランなど他の新興国がBRICSに加われば、世界経済における新興諸国の存在感が一段と高まるのは間違いない。

それに対し、米欧など先進国側は地位低下が著しい。

米欧では大幅な物価高の影響で、景気後退リスクが高まっている。物価高をもたらした「犯人」は、以前の連載でも述べたように、ロシアではない。ロシアの軍事行動前から物価上昇は始まっていた。物価高を招いたのは先進各国の中央銀行による野放図な金融緩和であり、それに頼って予算をばら撒いてきた政府だ。

言い換えれば、ロシアのプーチン大統領がBRICSプラス会合で述べたように、「主要7カ国(G7)の無責任なマクロ経済政策」が招いた自業自得である。そこへロシアに対する経済制裁の副作用でエネルギーや資源が不足し、事態はさらに悪化している。

「新G8」の経済規模、G7を24%上回る


プーチン大統領の側近、ウォロジン下院議長は6月11日、通信アプリ「テレグラム」でロシアに対し友好的な国からなる「新G8」を提唱したとして、注目された。

同議長は「米国、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダ(G7)の経済は、対ロシア制裁の圧力で崩壊し続けている」と指摘。一方で「制裁戦争に参加しない8カ国(中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン)のグループは、1人あたり国内総生産(GDP)で旧グループ(G7)を24.4%上回っている」と分析し、これらの国々は「ロシアとの対話と互恵的な関係の発展を望んでいる」と述べた。

実際、国際通貨基金(IMF)のデータに照らして各国の実質GDP(2021年、購買力平価で修正した実質値)をみると、ウォロジン議長が挙げた新興8カ国(新G8)の合計値は約56兆ドルで、G7の約45兆ドルを24.4%上回っている。今後、先進国で物価高と景気後退が同時に進むスタグフレーションが現実となれば、経済規模の格差は一段と開きかねない。

新興諸国の存在感は、6月15〜18日にロシア政府などが北西部サンクトペテルブルクで開いた国際経済フォーラムでも鮮明だった。

日本の報道では、「欧米の参加ほとんどなく断絶鮮明に」などとおとしめる論調が目立った。たしかに参加国は127カ国と2021年の前回会合に比べ約1割減ったものの、ロシアが全世界から非難を浴びているような日頃のイメージからすれば、わずか1割の減少にとどまったのはむしろ驚きだろう。

ロシア政府系通信社スプートニクの記事によれば、フォーラムには1万4000人が参加し、5兆6000億ルーブル(970億ドル)相当の契約が結ばれた。サンクトペテルブルク市のベグロフ市長は「米国を含む西側諸国からの圧力」にもかかわらず、国際的なフォーラムが開催されたことを称賛した。

同17日に登壇したプーチン大統領は、ロシアと対立姿勢を深める米国を痛烈に批判する演説を行い、「一極世界の時代」の終わりを宣言した

同大統領は演説で「米国は冷戦に勝利したとき、自分たちは地上における神の代理人であり、何の責任も負わず国益のみを有する国民だと宣言した」と指摘。米国やその同盟国について「彼らは妄想にとらわれ、過去の中に自分たちだけで生きている。自分たちが勝ったのだから、あとは全て植民地、裏庭だと考えているのだ。そこに暮らす人々は二級市民だと」と批判した。

国民の血税でウクライナ支援続ける


プーチン氏の主張にどこまで同意するかはともかく、世界の中で米国の求心力が低下しているのは間違いない。米国の「裏庭」と呼ばれてきた中南米で、その傾向はとりわけ顕著だ。

6月8〜10日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで米主催で開いた米州首脳会議では、メキシコなど中南米8か国の首脳がボイコットした。ホスト国の米国が「独裁者は招待されるべきではない」としてキューバ、ベネズエラ、ニカラグアの3カ国を招待しなかったことに反発したためだ。

南米コロンビアで6月19日行われた大統領選の決選投票では、左派のグスタボ・ペトロ氏が勝利した。2021年7月のペルー、22年3月のチリなど中南米では左派政権の成立が相次いでいる。コロンビアの政権交代で、地域のGDP上位6カ国(ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ペルー)のうち、トップのブラジル以外はすべて左派政権となることが決まった

ブラジルのジャーナリスト、ペペ・エスコバル氏は「BRICS、とくにその拡大版であるBRICSプラスは、真に安定したサプライチェーン(供給網)の構築や、資源・原料貿易の決済メカニズムで協力を深めるだろう」と指摘。「そうなれば、(米欧による経済制裁の)武器と化している米ドルや国際銀行間通信協会(SWIFT)に代わり、信頼できるBRICS決済システムへの道が開かれる」と予測する

独南部エルマウで開いていた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は6月28日、首脳宣言を採択して閉幕した。ロシアへの制裁強化とウクライナへの支援拡大で合意し、途上国への食料の安定供給のため45億ドル(約6000億円)を追加拠出する。途上国・新興国への支援を打ち出すことで、ロシアへの経済制裁に理解を求めた形だ。

先進国の行動パターンは相変わらずだ。札束で頬を張るようなやり方で、途上国・新興国の信頼をどこまで得られるだろうか。ロシアとの戦争を終わらせようとするどころか、ウクライナに一方的に肩入れした支援で火に油を注ぎ続けている。

しかもそれら政策の原資は、インフレに苦しむ米欧日の国民の血税だ。このままだと、来年5月に広島で開く次回サミットのころには、先進国経済の衰えがさらにあらわになりかねない。=今回でシリーズを終わります。

*QUICK Money World(2022/7/1)に掲載。

2023-12-10

金高騰が告げる不換紙幣の終焉〜「現金はゴミ」と世界最大のヘッジファンド創業者

金の価格が高値圏で推移している。国際指標となるニューヨーク先物価格(取引の中心となっている8月物)は先週、一時1トロイオンス1870ドル程度と約1か月ぶりの高値まで上昇した。


NY金先物は2020年8月に2089ドルの史上最高値をつけた。21年は米長期金利の上昇を背景に一時1700ドルを割ったが、22年に入りロシアのウクライナ侵攻をきっかけに再び騰勢を強めた。3月には2000ドルを超え、史上最高値に迫った。

最近の値上がりは、経済指標の悪化を受けて米国の景気後退懸念が高まり、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ姿勢が揺らぎ始めたことが理由とされる。しかし根底には、現代の通貨制度が抱える根深い問題がある。

ダリオ氏「現金を手放しなさい」


「もちろん、現金は今もゴミです」。先々週、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に参加した世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏は、現地で米CNBCテレビのインタビューに対し、こう答えた

ダリオ氏が「今も」と言ったのは、同氏は2020年1月のダボス会議の際も、CNBCの取材に対し「現金はゴミ(cash is trash)」と発言しており、記者から今もその考えは変わらないかと尋ねられたからだ。

同氏は2年前のダボス会議の際、グローバルで分散されたポートフォリオを持つよう聴衆にアドバイスし、その一方で、現金に「飛びつく」ことを戒めた。そして「現金はゴミです。現金を手放しなさい。現金にはまだ多くの資金がとどまっている」と述べた。

ダリオ氏が「現金はゴミ」と切って捨てる最大の理由は、現金の価値である購買力(商品やサービスを購入することのできる能力)が失われることにある。今回のインタビューでも、記者に対し「(現金の)購買力が失われる速さをご存じですか」と問いかけた。

同氏は昨年11月に出版した著書『変化する世界秩序に対処する原則——国々はなぜ興亡するか(Principles for Dealing with the Changing World Order: Why Nations Succeed and Fail)』(未邦訳)で、通貨制度の歴史的な変遷を踏まえ、現金が価値を失う理由について説明している。

これまで数千年の間、通貨制度には三つの種類があった。第一は金貨や銀貨などの硬貨、第二は硬貨を裏付けとする兌換紙幣、第三は特に裏付けのない不換紙幣である。

硬貨は売り手と買い手が互いに知らない間柄や敵同士でも、取引に使えるという利点がある。一方で、大量に持ち歩くのが不便といった弱点があるため、硬貨を安全な場所に置き、それを裏付けとして紙幣を発行するようになる。これが兌換紙幣であり、発行主体はのちに銀行と呼ばれる。

兌換紙幣は当初、銀行に保管された硬貨に見合う量だけ発行されるが、やがてそれを上回る量が発行されるようになる。それによって銀行は貸し出しを増やし、金利収入を多く稼げるからだ。しかし紙幣の発行を増やしすぎると、銀行は人々が硬貨の引き出しを求めて殺到する「取り付け騒ぎ」に対応できず、破綻する。これが中央銀行であれば、破綻以外にもう一つの選択肢がある。硬貨の裏付けを断ち切ることだ。不換紙幣の誕生である。

不換紙幣によって硬貨の裏付けが不要になるから、中央銀行は取り付け騒ぎにおびえることなく、通貨(現金と貸し出し)を好きなだけ生み出せる。その結果、通貨の価値は低下する。つまり、購買力が失われる。ダリオ氏は「歴史が示すように、政府が私たちの財産を守ってくれると期待してはいけない」と指摘する。

主要通貨、約1世紀で97〜99%の価値失う


ダリオ氏は兌換紙幣から不換紙幣への移行が起こった最近の事例として、前回の記事でも触れた、ニクソン・ショックを挙げる。1971年8月15日、当時のニクソン米大統領が突然発表した、金とドルの交換停止だ。当時この発表を聴いたダリオ氏は、「米政府はデフォルト(債務不履行)を行い、それまで知られていたお金は存在しなくなった」と悟ったという。

ニクソン・ショックの後、1973年2月までに戦後の国際通貨体制であるブレトンウッズ体制はほぼ崩壊し、ドルは金の裏付けのない不換紙幣となった。1966年から1977年までの間だけで、世界の主要通貨は金に対して50〜80%程度、価値を失った(金価格が高騰した)。最近も金の値上がりと裏腹に、世界の通貨は価値が低下している。

長期では現金の価値毀損はもっと著しい。スイスの資産運用会社マッターホルン・アセットマネジメントの創業者エゴン・フォン・グリュイエール氏が最近の記事で示したグラフによれば、1900年から2020年までの1世紀余りで、世界の主要通貨は金に対してその価値を97〜99%失った。グラフには18世紀フランスの哲学者ボルテールが不換紙幣について述べた、「紙幣は最後には本来の価値、ゼロに戻る」という言葉が添えられている。ダリオ氏でなくても、「現金はゴミ」と言いたくなるだろう。

「ポートフォリオに一定量の金を」


現金が「ゴミ」だとすれば、財産を守るには何に投資すればいいのか。ダリオ氏の持論によれば、選択肢の一つは金だ。同氏は2019年7月、ソーシャルメディアのリンクトインで「お金の価値が低下し、国内外で紛争が激しくなるときにうまくいく、金のようなもの」が有望だと、まるで今日のウクライナ紛争を予見したような文章を書いている。2020年のダボス会議でも「ポートフォリオに一定量の金を持つ必要があると思う」と述べた。

今もその意見は変わっていない。先々週のダボス会議時のインタビューでは、金に直接言及はしなかったものの、暗号資産(仮想通貨)のビットコインを「デジタルゴールド」と呼んで高く評価し、金の代替品として分散投資の対象になりうるとの見方を示した。

一方、株式については「(現金よりも)もっとゴミ」と呼び、投資を避けるよう忠告した。

高値圏にある金は、投資対象として割高ではないのだろうか。必ずしもそうではないようだ。前出のグリュイエール氏の記事によれば、米国の通貨供給量で調整した金価格は現在、金価格の高騰が始まったニクソン・ショック当時の1971年とほぼ同じ低水準にあるという。

ダリオ氏が著書で述べた考えによれば、通貨制度は硬貨から兌換紙幣、不換紙幣へと変化した後、不換紙幣がハイパーインフレに見舞われ、再び硬貨に戻るという。もしその時期が近いとすれば、金は投資対象としてだけではなく、復権が見込まれる通貨としても需要が高まる可能性がある。

ブレトンウッズ体制の崩壊から約半世紀。金価格の高騰は、不換紙幣の終焉の兆しなのかもしれない。

*QUICK Money World(2022/6/9)に掲載。

2023-12-03

世界経済、ロシアを超える脅威が襲う日~巨額債務、西側先進国を蝕む

ロシアがウクライナで軍事行動に乗り出してから2カ月半。戦争に収束の兆しは見えない。むしろ米欧側の国内事情もあり、さらに長引く恐れがある。


バイデン米政権は6日、ウクライナに1億5000万ドル(約200億円)相当の追加の軍事支援を決めたと発表した。2月24日にロシアが侵攻して以来、米国が決めたウクライナへの軍事支援はこの発表分を含め38億ドルに達する。

同政権はさらに、2022会計年度(21年10月〜22年9月)に計330億ドルの追加予算を計上するよう議会に要請している。予算計上の時期からみて、少なくとも今秋まで戦争を続ける構えのようだ。

11月8日には米中間選挙を控える。政権支持率が40%台前半と過去最低水準に低迷し、投票に近いタイミングでそれなりの「戦果」を誇示したいという事情もある。

同じく対ロシアで強硬姿勢をとる英国も、ジョンソン首相が官邸でのパーティー開催問題や物価高騰で非難を浴びている。5日に投票が行われた統一地方選は、同首相率いる与党・保守党が敗北した。逆風が強まるなか、批判をそらすのに都合のいい戦争は、すぐに終わってほしくはないはずだ。

しかし米欧に日本などを加えた西側諸国が、ロシアの「弱体化」(オースティン米国防長官)という無理のある目標を掲げて戦争支援を続ければ、やがてロシアを上回る脅威に襲われるだろう。それは外敵ではない。各国を内側から蝕む巨額債務だ。

ロシア、「金本位制」復活の見方


ロシア大統領府は4月29日、通貨ルーブルと金やその他商品の交換比率を固定することを検討していると明らかにした。 ペスコフ大統領報道官が記者団との電話会見で「この問題をプーチン大統領と話し合っている」と表明した。ロイター通信が報じた

ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は記者会見で「いかなる形でも議論していない」と語っているものの、実現すれば、米国が1971年の「ニクソン・ショック」でドルと金の交換を停止して以来の金本位制復活となる。

金本位制とは、金を本来の通貨とする制度だ。中央銀行の発行する紙幣はいわば金との引換券で、一定量の金と交換(兌換)が約束されている。中央銀行は紙幣を大量に発行しすぎると、金との交換を次々に求められた場合、保有する金が底をついてしまう。米国が約半世紀前、金・ドルの交換停止に追い込まれたのは、まさにそれだった。

1960年代、米国は国内消費の増加に加え、東西冷戦を背景に新興独立国へ莫大な経済援助を行ったり、ベトナム戦争で軍事費が膨らんだりしたことなどから、国際収支が大幅な赤字となった。各国は獲得したドルを米中央銀行である連邦準備理事会(FRB)に提示し、金への兌換を請求したため、大量の金が海外に流出。ついに金の準備高が事実上底をつき、1971年8月、当時のニクソン米大統領が金・ドルの交換停止を緊急発表した。このニクソン・ショックで、金本位制は世界経済から姿を消した。

政府債務、「ニクソン・ショック」後に急膨張


金本位制の廃止によって、FRBは金の保有高に縛られず、ドルを自由に発行できるようになった。一見良いことのように思えるが、ひとつ問題があった。お金を自由に生み出せる「打ち出の小槌」を手にした人間は、節度のある使い方をすることが難しい。予算のばらまきが大好きな政治家なら、なおさらだ。ドルが大量に発行されるのと並行して、政府の借金が急膨張していく。

米連邦政府の総債務は1970年末に約4000億ドルだったが、今年1月末に初めて30兆ドル(約3450兆円)に達した。約半世紀で75倍に膨張している。約30兆ドルのうち、国債など連邦政府自身の債務が約23兆5000億ドル、社会保障基金などその他の公的機関の債務が約6兆5000億ドルとなっている。また、外国に対する債務は約7兆7000億ドルあり(2021年11月時点)、そのうち日本に対する債務が約1兆3000億ドルと最も多く、中国の約1兆1000億ドルが続く。

世界全体でも債務は膨らんでいる。とくにここ十数年は2008年のリーマン・ショックをきっかけとする世界金融危機、2020年からの新型コロナ感染症の流行に対し、各国政府が財政による対策に乗り出したため、公的債務の増大に弾みがついた。

国際通貨基金(IMF)によると、2020年に民間部門を含む世界の債務は第二次世界大戦以降、最大の年間増加額を記録し、債務残高は過去最高の226兆ドル(約2京5800兆円)に達した。対国内総生産(GDP)比は28ポイント上昇の256%となった。

債務増加額の約半分は政府が占め、残りは非金融企業と家計部門だ。公的債務は今や世界全体の40%を占め、ここ60年弱で最大となっている。世界の公的債務は対GDP比で過去最高の99%に跳ね上がった。

債務拡大はとくに先進国で顕著で、公的債務の対GDP比は2007年の約70%から、2020年には124%まで上昇した。中国を除き、新興国・途上国の割合は比較的小さい。

世界の債務は「危険水準」、IMFが警告


IMFは4月11日に公表した論評で、世界の債務負担が「危険な水準」に達したと警鐘を鳴らした。新型コロナ対策がいまだに多くの政府予算に重くのしかかるなか、ウクライナでの戦争を受けてリスクがさらに増したためだ。「負債の透明性を改善し、債務管理の政策および枠組みを強化するために、当局者による改革が急務」と呼びかけた。

しかし米欧は政府債務を削るどころか、ウクライナへの軍事支援に勢いづいている。日本は政府債務の対GDP比が235%と世界でも突出して高いにもかかわらず、2022年度予算は一般会計総額が約107兆円と10年連続で過去最大を更新した。さらに物価高騰対策として数兆円規模の国費を投じる予定だ。

これまで世界で巨額債務のリスクが金融危機やハイパーインフレなどの形で表面化しなかったのは、金利が低く抑えられていたからだ。しかし、その前提は崩れ始めている

ロシアの金本位制復帰が実現するかどうかはわからない。けれども半世紀前に金本位制を捨て、借金を野放図に積み上げてきた西側先進国が、遠からずそのツケを払わなければならないのは間違いない。

*QUICK Money World(2022/5/17)に掲載。

2023-11-19

物価高の犯人はロシアじゃない〜日米欧、マネー膨張で経済自壊の恐れ

西側先進国で物価が急上昇し、経済・社会に深刻な影響を及ぼしている。

米国では車社会に欠かせないガソリンの高騰が家計を脅かす。日本経済新聞によると、2022年に米国の家計が支払うガソリン代は前年に比べて1世帯あたり平均455ドル(約5万7000円)多い2945ドルになるという。


英国では4月から電気・ガス料金が平均5割上がったほか、食料品や衣類などあらゆる品目が値上がりして家計の購買力が目減りしている。所得が最低生活水準を下回る市民は数百万人増えるとの推計もある。

3月の消費者物価指数は、米国では伸び率が前年同月比8.5%となり、約40年ぶりの歴史的な高水準となった。英国でも同7.0%上昇し、30年ぶりの高い伸び率が続く。

日本は米欧ほど大幅ではないものの、生鮮食品を除く総合指数が前年同月を0.8%上回り、7か月連続で上昇した。総務省によると、通信料が携帯大手などの料金プランの値下げで大きく下落しており、この影響がなければ単純計算で2%を超える上昇になったという。今後、インフレが目に見える形で迫ってきそうだ。

インフレは「プーチン氏の責任」に疑問


インフレの「犯人」は誰なのか。米国のバイデン大統領によれば、それは今、世界一の悪者とされるあの人物しかいない。バイデン氏は12日、消費者物価が約40年ぶりの伸びになったことについて、「70%はプーチン(ロシア大統領)が引き起こしたガソリン価格上昇によるものだ」と述べた

ロシアのウクライナでの軍事行動が燃料などの価格を高騰させ、それが物価高を招いたという見方は、メディアでもよく見かける。しかし、この「ロシア犯人説」には疑問点がいくつかある。

まず、ロシア軍がウクライナに進駐する前から、物価は高騰していた。米国の消費者物価は3月まで7カ月連続で上昇している。ロシアが軍事行動を始めたのは2月24日だから、少なくともそれ以前の物価高の責任がプーチン氏にないのは明らかだ。

次に、軍事行動後も、ロシアが燃料の輸出を止めたのではなく、米欧側が経済制裁として輸入を止めたのである。バイデン大統領は3月8日、制裁の一環としてロシア産の原油、天然ガス、石炭の輸入を全面的に禁止する大統領令に署名している。

ロシアに対する経済制裁が、発動した側にも代償を強いることは、バイデン大統領自身、わかっている。同大統領は3月24日、ブリュッセルでの記者会見で、食糧不足が「現実化するだろう」と述べ、「制裁の代償はロシアだけに科されているわけではなく、欧州諸国や米国を含む極めて多くの国も科されている」と指摘した

最後に、燃料や食料の購入に使うお金が増えると、単純に考えれば、その分だけ他の商品・サービスが買われなくなって値下がりし、物価全体では変化がないはずだ。ところが実際には物価は全体で上昇している。

「真犯人」は中央銀行、貨幣数量説は生きていた


物価全体が上昇する場合、その原因は一つしかない。社会に出回る貨幣(お金)の量が増えることだ。そして現代の経済において、お金の量を増やせる主体は一つしかない。中央銀行だ。

米経済評論家ピーター・シフ氏は4月13日、米物価高の「真犯人」についてツイッターへの投稿でこう述べた。「プーチンとは関係ない。人々が食料とエネルギーに使うお金を増やせば、他の商品に使うお金は減り、それらの値段は下がるはずだ。Fed(米連邦準備理事会=FRB)がやったんだ!」

物価上昇の原因は貨幣量の増大であり、それ以外にはない。貨幣量の変動が物価水準の変化をもたらすというこの見解を「貨幣数量説」と呼び、その起源は18世紀英国の哲学者デビッド・ヒュームにまでさかのぼる。現代の理論家として有名なのはノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン氏で、「インフレはいつでもどこでも貨幣的な現象である」と喝破した。

2008年のリーマン・ショック後、先進国の中央銀行がお金の供給量を急激に増やしたにもかかわらず、消費者物価は比較的落ち着いていた。このため「貨幣数量説はもはや成り立たない」とも指摘された。しかし、そう決めつけるのは早計だ。

なぜならお金の量が増えても、生産される商品・サービスの量がそれ以上に増えれば、物価は上がらないからだ。近年、先進国では生産性の向上やグローバル化の恩恵によって商品・サービスが豊かに供給されてきた。これが物価の上昇を抑えてきたとみられる。

また、お金が流れ込み、値上がりしても、物価指数に反映されないものがある。不動産や株式などの資産価格だ。各国の金融緩和政策を背景に、資産価格は高騰してきた。それは物価指数の算出対象には含まれないため、物価指数は上昇せず、見せかけの「低インフレ」を演出する結果となった。

お金が資産よりも一般の商品・サービスに多く流れるようになれば、資産価格は下落に転じ、物価は上昇する。最近の株式相場の不安定な動きと消費者物価の高騰は、そうした大きな潮目の変化を示しているかもしれない。貨幣数量説は生きていた。

米欧日のインフレの犯人はロシアではなく、自国の中央銀行による金融緩和であり、それに頼る政府だ。そうだとすれば、インフレをなくすために必要なのは、ウクライナ紛争でロシア軍を倒すことではなく、マネーの膨張に歯止めをかけることのはずだ。しかし、実際にはどうだろう。

米国は金融緩和からの脱却にかじを切ろうとしている。パウエルFRB議長は21日の討論会で、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の2倍の0.5%の利上げを示唆し、その後も「速いペースで動くのが適切」と述べた。それでもリーマン・ショック以来膨張が続き、新型コロナウイルス感染症対策でさらに天文学的な規模に膨らんだお金の量は、まだまったく減っていない。

バイデン大統領は同日、ウクライナに対する8億ドル(約1030億円)の新たな軍事支援や5億ドルの財政支援を表明しており、米財政の肥大に歯止めがかかる気配はない。これではFRBも、国債利払いの増加につながる利上げを進めるには限度があるだろう。

インフレ抑制、立ち遅れる日本


英国やユーロ圏も金融緩和の終了に動いているものの、ウクライナ紛争が長引くなか、ガス調達が不安定になれば企業の生産活動が中断され、景気後退に陥る恐れを否定できない。利上げに待ったがかかる可能性もある。

日本はインフレ抑制で立ち遅れている。日米金利差の拡大を背景に円相場が1ドル=130円目前と20年ぶりの円安水準に下落しているにもかかわらず、金融緩和政策をかたくなに変えようとしない。

政府・与党も財政支出を減らすどころか、逆にさらに増やそうとしている。自民・公明両党は先週、物価高対策の補助金や給付金の財源確保へ補正予算案を編成し、今の国会に提出するよう政府に求めることで合意した。補助金や給付金でお金の量を増やせば、物価高に拍車をかけるばかりだ。

インフレの責任をロシアに押しつけ、自らの責任から目をそらし続ける限り、適切な対応をとることはできない。このままいけば、たとえ支援するウクライナがロシアに戦争で勝っても、米欧日は経済が自壊しかねない。

*QUICK Money World(2022/4/28)に掲載。

2023-11-14

日露戦争と重税国家

1904(明治37)年2月8日、日本海軍が中国・遼東半島のロシア租借地にある旅順軍港を奇襲攻撃し、日露戦争が始まった(宣戦布告は10日)。20世紀最初の帝国主義戦争となったこの戦争で、日本国民は10年前の日清戦争を大きく上回る犠牲をこうむる。


列強の中国侵略に反発して起こった民衆蜂起「義和団の乱」(1900年)の鎮圧後、中国・朝鮮の利権を巡って日露両国が対立を深めたことが、開戦の直接のきっかけだ。しかし日本が戦争に踏み切った根底には、明治維新以来の「ロシア脅威論」がある。

幕末以来、討幕勢力の中心となった薩摩・長州両藩や明治維新政府は、基本的に英国からの情報で世界を見ていた。明治政府が多数雇った「お雇い外国人」で一番多いのも英国人だった。

当時英国はバルカン半島、アフガニスタンなど世界でロシアと対立していた。極東でも、朝鮮半島と満州を巡って英露は牽制し合っていた。この英国の反ロシア戦略が、日本の政治家やジャーナリストの意識に影響を与えていく。実際には当時のロシアに、朝鮮半島まで急速に南下し、日本に押し寄せるだけの余力はなかった。ところが日本の為政者たちはロシアを実態以上に強大に見て、速やかに接近してくる最大の「脅威」だと思ってしまったのである(山田朗『これだけは知っておきたい日露戦争の真実』)。

日露戦争に向けた日本側の軍備拡張は、日清戦争直後から進められた。海軍力は英国の技術援助を受けながら、開戦前には戦艦6隻・装甲巡洋艦6隻を基幹とする強力な艦隊を保有するに至った。これらの軍艦は日清戦争の時とは異なり、世界最高水準の最新鋭艦ばかりだった。陸軍力も日清戦争終戦時の8個師団から日露開戦前には13個師団へと増設され、部隊の火力も大幅に強化された。

この急速な軍拡は国家予算を圧迫する。一般会計に占める軍事費の割合は、日清戦争前の10年間(1884〜93年)は平均27.2%だったが、日露戦争前の10年間(1894〜1903年)には平均39.0%に達した。政府は軍拡費用を捻出するために大増税を行う。

日清戦争の時期から、軍事費を確保するために各種の税が導入・強化された。それまでの地租(地税)に加え、1887年には所得税、1896年には営業収益税(営業税)、1899年から法人税が導入される。さらに、1872年に導入した酒税の税率を上げ、1888年以降は税収に占める酒税の割合は20%を超え、97年以降は30%を突破する。日露戦争とその後の軍備拡張は酒税によって支えられたといっても過言ではない。塩・たばこなど国家専売品の値上げも軍拡費用を支えた(大日方純夫ほか『日本近現代史を読む』)。

これらの負担は民衆の生活にのしかかった。日露戦争は日本を重税国家に変えたのである。当時導入された税は、日露戦争が終わった後はもちろん、21世紀の現代に至るまで基本的に残っており、一度導入された税をなくす難しさを物語っている。

しかも税金だけでは膨大な軍事費を賄えなかった。その穴を埋めたのは国債で、とくに海外で販売する外債に多くを頼った。日露戦争にかかった17億円の軍事費のうち、税金で賄えたのは3億2000万円弱だけで、約13億円を内外の国債(外債約7億円、内債約6億円)に依存した。内債は希望者が購入する建前だが、現実には事実上の強制だった。海外では主にロンドンとニューヨークで募集し、発行総額は内債を上回った。この外債発行交渉を担当したのが、当時日本銀行副総裁だった高橋是清(後の日銀総裁、蔵相、首相)である。

日露戦争をきっかけに、それまで外資にあまり頼らずにきた日本経済は、一転して巨額の外国債に依存することになった。しかも中国から賠償金を獲得した日清戦争と違い、日露戦争でロシアからの賠償金はまったくなかった。その結果、戦時中に募集した国債が戦後の借金として残ってしまった。

開戦前の1903年に5600万円だった内外の公債残高は、1907年は内債10億1000万円、外債12億6000万円と、合計22億7000万円にまで膨らんだ。これはこの年の名目国民総生産(GNP)の61%、一般会計歳出6億200万円の約3.8倍に相当する。対GNP比率は、第一次世界大戦の始まる直前の1914年までに50%を下回ることはなかった。外債の利払い負担は国民に重くのしかかった。利払い費は1907年に年5905万円に達すると、その後も増加し、1913年には8500万円にまで増加した(板谷敏彦『日露戦争、資金調達の戦い』)。

日露戦争が始まると、大規模な軍事動員が行われた。日清戦争の際に兵士として動員された総数は約24万人だったが、日露戦争では約109万人に達した。戦争中には、陸軍は南山・遼陽・旅順・黒溝台・奉天など地上戦闘で苦戦に苦戦を重ねたために、11万人以上の戦死者・重傷者が出た。その大多数が徴兵された一般国民の若者だった。

国内の民衆も戦費調達のための増税、献金や国債購入のほか、農村では軍馬供出などで負担を強いられた。約20万頭の馬が動員され、騎兵用の乗馬だけでなく、輸送用にも多くの馬が使用され、戦地で約3万8000頭が犠牲になったといわれる(前出『日本近現代史を読む』)。

日本が資金と武器弾薬の欠乏と兵力不足から戦争継続に苦しみだしたころ、ロシアも国内で革命運動が起こって戦争継続が困難になった。ついに1905年9月、セオドア・ルーズベルト米大統領の斡旋によって日本全権小村寿太郎とロシア全権ウィッテは講和条約(ポーツマス条約)に調印する。これにより、ロシアは朝鮮における日本の優越権を認めるとともに、旅順・大連など中国からの租借地と南満州での鉄道利権を日本に譲渡すること、北緯50度以南の樺太を日本に割譲することなどを約した。

国民は人的な損害と大幅な増税に耐えてこの戦争を支えたが、賠償金がまったく取れない講和条約に不満を爆発させ、講和条約調印の日に開かれた講和反対国民大会は暴徒化した。日比谷焼き討ち事件と呼ばれる。

作家・司馬遼太郎氏は日露戦争を題材とした長編小説『坂の上の雲』で、日本海海戦のさなか、作戦を立案した海軍参謀・秋山真之が戦闘のあまりの無惨さに深刻な衝撃を受けた様子を描いている。秋山は戦後、長男を僧侶にし、自らは新興宗教に入信した。

大国ロシアを破った快挙として称えられがちな日露戦争は、重い負の遺産を残したのである。

<参考文献>
  • 山田朗『これだけは知っておきたい日露戦争の真実―日本陸海軍の「成功」と「失敗」』(高文研) 
  • 大日方純夫ほか『日本近現代史を読む』(新日本出版社)
  • 板谷敏彦『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―』(新潮選書)
  • 原朗『日清・日露戦争をどう見るか 近代日本と朝鮮半島・中国』(NHK出版新書)

2023-11-10

企業増税は経済を滅ぼす

大企業が税負担を回避するため、資本金を1億円以下に減資する動きが広がっている。今年3月までの1年間に資本金1億円以下に減資した企業は1235社で前年の959社から3割近く増えた。特に売上高が100億円超の企業や黒字の企業が増えているという。
1億円以下に減資すると税法上、中小企業として扱われ、税負担が軽くなる。都道府県が課税する法人事業税の外形標準課税は、大企業は赤字でも資本金などに応じて課税されるが、中小企業になれば課税対象から外れるなどのメリットがある。

自民党の宮沢洋一税制調査会長は日本経済新聞のインタビューに答え、資本金を1億円以下に減らして税負担を軽くしようとする企業が相次いでいることについて、「たいへん問題がある」と指摘。外形標準課税の適用基準を拡大する意向を示した。

節税目的ではない企業まで負担増になりかねないとの懸念に対し、宮沢氏は「余波が来るのは避けたいという気持ちはわかる。節税したいがために大企業から中小企業に移ってきた企業だけを抽出できるような制度にできるかどうかが一番大事だ」と説明した。

日経も社説で「税の公平性を保つ観点から、もはや現状を放置すべきではない」と述べ、「政府・与党は中小企業化による税回避を防ぐ対策を、来年度税制改正でしっかり講じてほしい」と求める。

しかし、問題があるのは企業ではなく、むしろ税制のほうだ。

そもそも、企業がわざわざ減資してまで税負担を回避しようとするのは、税負担が重すぎるからである。そうした動きが広がっていることに対し、政府・自民はまず、企業に重い税負担を課していることを反省しなければならない。「たいへん問題がある」などと企業を悪者扱いするのは、とんだ心得違いだ。

東京財団政策研究所主席研究員の柯隆氏は日経の記事へのコメントで「課税されるほうが制度的に節税を図るのは当然である」と企業側を擁護している。まっとうな意見だ。

一般市民の間には、税逃れと聞くと、問答無用で「けしからん」と腹を立てる人が少なくない。けれども経済が繁栄するためには、税逃れはむしろプラスになる。

資本主義経済の発展にとって最も重要なのは、資本主義という言葉が示すように、「資本」である。資本とは、現在・将来の生活水準向上につながる道具、設備、資源の蓄積をいう。この資本に課税すれば、資本の蓄積を減少させ、新規の投資だけでなく設備や道具の買い替えを抑制し、経済の発展を妨げる。企業への課税強化は、企業が有する資本への課税強化にほかならないから、将来の社会を貧しくする。「金の卵を産むガチョウを殺す」ようなものだと米経済学者マレー・ロスバード氏は指摘する。

ところが政治家、とりわけ民主主義国の政治家は、次の選挙のことしか頭になく、長期の経済発展よりも、バラマキの原資となる税収の確保を優先する。だから企業の税逃れは「たいへん問題」ということになり、なんとか税逃れを防ごうとする。逃げる奴隷をつかまえようとする奴隷主と同じだ。

日経は「税の公平性」が大切だというけれども、税の公平性を保つ方法は、課税強化だけではない。大企業への課税を軽くし、中小企業にそろえるという道もある。そうすれば、わざわざ節税のために減資する企業はなくなる。むしろそのほうが企業全般の税負担が軽くなり、経済にはプラスだ。

宮沢自民税調会長は、節税目的の企業に限って外形標準課税の適用基準を拡大し、減資による税逃れを防ぎたいという。しかし、節税目的かどうか、どうやって判断するのだろう。尋ねられればどの企業も「我が社はやむにやまれぬ事情で減資するのであって、節税目的ではない」と主張するに違いない。

この点について、京都大学教授の諸富徹氏は記事へのコメントで「減資が節税目的であることを政府が証明しえた場合のみ課税できるのであれば、宮沢会長の方針は限りなく、骨抜きとなるでしょう」と指摘したうえで、「節税目的でない企業を除外するなら、新基準の下で原則課税としたうえで、減資企業の側に節税目的でないことを挙証する責任を課すべきではないでしょうか」と提案する。

これは乱暴すぎる。企業が財産を保有することは憲法でも保障された権利だ。財産を政府が課税によって徴収する際、取られる側に挙証責任を負わせるのは、徴税権の濫用であり、財産権に対してあまりにも無頓着な考えといわざるをえない。

政府が企業の重い税負担を反省せず、「税の公平性」を錦の御旗に押し立て、さらに課税を強化すれば、やがて金の卵を産むガチョウが死ぬように、日本経済は衰退するだろう。

<参考資料>
  • Man, Economy, and State with Power and Market | Mises Institute [LINK]

2023-11-07

揺らぐかドル支配〜ルーブル、「金本位制」で存在感増す

米欧日諸国がロシアに対し新たな経済制裁に乗り出した。バイデン米政権は6日、ロシアへの新たな経済制裁を発表した。ロシア最大手銀行やプーチン大統領の娘2人の資産を凍結する。欧州連合(EU)加盟国は7日、ロシア産石炭の輸入停止などを含む制裁案を承認した。日本の岸田文雄首相も8日、資産凍結の拡大やロシア産石炭の輸入の禁止、在日ロシア大使館の外交官らの国外追放を表明した。


追加制裁のきっかけは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で多くの市民が殺害されているのが見つかったことだ。米欧側はロシア軍による組織的な残虐行為だと強く非難した。ロシア側はねつ造だと反論し、公正な調査を求めたものの聞き入れられなかった。

米欧日の政府や大手メディアはロシア批判一色だ。しかし7日に国連総会の緊急特別会合で実施された、人権理事会におけるロシアのメンバー資格を停止する決議からは、違った風景が見えてくる。米欧が主導した決議案は93カ国の賛成で採択されたものの、一方で反対は24カ国、棄権は58カ国もあり、無投票が18カ国あった。

ロシアのウクライナ侵攻後、国連総会はロシア非難決議とウクライナ人道支援決議をそれぞれ141カ国、140カ国の賛成多数で採択。今回は採択に必要な投票国の3分の2以上の賛成を確保したものの票数は100を割った。東京新聞が報じるように日本や米欧などが賛成したが、ブラジルやメキシコなどは過去2回の賛成から棄権に回り、棄権数は人道決議の際の38から20増加した。反対は過去2回は5カ国だけだったが、中国やキューバなども加わり5倍近くになった。

前回指摘した、新興国に対する米欧日の相対的な地位の低下があらためて浮き彫りになった。政治面の変化と同時に、経済面でも見逃せない変化が起こっている。経済制裁をきっかけとした、通貨の地位をめぐる変化だ。

金はドルに代わる「理想の選択肢」


ロシア下院でエネルギー委員長を務めるパベル・ザバルヌイ氏は3月24日の記者会見で、米欧などの非友好国に天然ガスを販売する場合の代金支払い手段について、ロシアの通貨ルーブルか「ハードカレンシー(国際通貨)」を挙げた。同氏の言うハードカレンシーとは米ドルではない。「それは我々にとっては金(きん)だ」とザバルヌイ氏は述べた。一方、ロシアはドルに興味がないと言い、「この通貨(ドル)は我々にとってキャンディの包み紙になる」と語った

ロシアは経済制裁によって国外に持つドルやユーロの資産が凍結され、代金をドルで受け取っても自由にならない。プーチン大統領は3月31日、代金受け取りをルーブルに限定すると定めた大統領令に署名している。ザバルヌイ氏の発言で注目されるのは、金への言及だ。

じつは最近、ロシアは金を事実上の通貨として利用する環境を整えている。3月9日、プーチン大統領は貴金属に対する20%の付加価値税(VAT)を撤廃した。国がドルなどに代わる外貨準備として必要としている、貴金属への投資を人々に奨励するためだ。シルアノフ財務相は声明で「地政学的状況が不安定な中、金への投資はドルを買い上げる代わりに理想的な選択肢となる」と述べた。

ロシアは以前から金を積極的に購入してきたことで知られる。ロシア中央銀行は2015年3月以降、新型コロナウイルス感染症の流行で中断するまで毎月金を買っており、中央銀行としては金の最大の買い手だった。ワールド・ゴールド・カウンシルによれば、昨年末時点で保有する金は約2300トンで、世界第5位。今年3月に購入を再開し、3月28日には地元銀行から1グラムあたり5000ルーブル(約52ドル)の固定価格で買い付けた。事実上、ルーブルと金を一定の交換比率で結びつけた金本位制といえる。

ロシアは天然ガスの輸出代金をルーブルで受け取る方針だが、ルーブルは金と連動するから、ザバルヌイ氏が語ったように、代金を直接金で受け取るようになるかもしれない。天然ガスに限らず、石油など他の資源や商品でも同様のことが起こる可能性がある。

不換紙幣からの「パラダイムシフト」


「これは新たなパラダイムシフト(価値観の劇的変化)になる」と金融ブログ、ゼロヘッジは書く。1971年のニクソン・ショックで米国が金本位制を廃止して以来、世界の通貨は金など実物資産の裏付けのない不換紙幣の時代が続いてきた。

金が決済手段として利用されれば、金と結びついたルーブルも国際通貨として存在感を増すだろう。文字どおりのハードカレンシー(硬いお金)だ。

察知した米欧側は対応を急ぐ。先進7カ国(G7)と欧州連合(EU)は3月24日、ロシアへの経済制裁として、ロシア中央銀行が保有する金準備に関連した取引を禁止すると表明した。

しかし米欧によるロシアの金の封じ込めは、事実上不可能だろう。地金の身元、国籍、出所を追跡することはできないからだ。国際銀行間通信協会(SWIFT)やその他の銀行システムからも完全に独立している。ジャーナリストのブレット・アレンズ氏は経済情報サイト、マーケットウォッチでこう述べる。「米国のイーグル金貨や南アフリカのクルーガーランド金貨は、溶かして延べ棒にすることができる。これも金には変わりない。そして買い手は必ずいる」

アレンズ氏によれば、多くの国々は、米国が基軸通貨を独占して世界の金融システムを支配することを快く思っていない。中国やインドがロシアに金本位制で追随すれば、長く続いたドル支配に転機が訪れるかもしれない。

ドルに代わって存在感を強めるのはルーブルだけではない。サウジアラビアと中国は人民元建ての石油売買を交渉している。石油取引は米ドル建てが支配的で、実現すればドルの影響力が低下し、人民元の存在感が増す可能性がある。

国際通貨システム、多極化が加速へ


専門家からも同様の意見が聞かれる。国際通貨基金(IMF)の第一副専務理事であるギタ・ゴピナス氏は3月31日付フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに答え、ロシアに対する前例のない金融制裁はドルの支配力を徐々に弱め、国際通貨システムをより分断する恐れがあると警告した

また、3月28日付同紙は「ウクライナ戦争はドル支配のひそかな衰退を加速させる」と題する米経済学者バリー・アイケングリーン氏の寄稿を掲載した。それによると、世界の外貨準備に占めるドルの割合は20年前から低下傾向にあり、2000年末には70%強だったが、2021年第3四半期には59%にとどまっている。多くの中央銀行がドルからの分散を図ろうとしてきた結果だ。

しかも2016年にIFMの特別引き出し権(SDR)に加えられた人民元へのシフトは、わずか4分の1にすぎない。4分の3はカナダ、オーストラリア、スウェーデン、韓国、シンガポールといった経済規模の小さい国の通貨にシフトしている。電子取引プラットフォームや自動マーケットメイクといった新技術の発達で取引コストが低下した効果という。

こうした国際通貨システムの多極化は、ロシアへの経済制裁を機に加速しそうだとアイケングリーン氏は述べる。通貨を多様化しておけば、米欧からドルやユーロの資産を凍結されても保険として役立つからだ。

ドルの力を利用した強気な経済制裁の余波でドル支配そのものが揺らいでいるとしたら、米国や世界の経済への影響は無視できない。ウクライナ紛争が早期に停戦しなければ、そのツケは金融市場で表面化するだろう。

*QUICK Money World(2022/4/13)に掲載。

2023-11-03

ポンコツな資本主義批判

経済学者の岩井克人氏(東大名誉教授)が文化勲章を受章した。岩井氏はシェイクスピアの劇作品を材料に経済を論じたり、文明批評や現代思想についてのエッセイを手がけたりし、一般の読者にもよく知られる。
報道によれば、岩井氏の業績は「資本主義経済システムの本質を理論的に解明する研究に多大な貢献をした」ことだという。しかし失礼ながら、岩井氏が「資本主義経済システムの本質」を理解しているかは、はなはだ疑問だ。今年2月、朝日新聞デジタルに掲載されたインタビュー記事「文明崩壊から資本主義を救うには」を検証してみよう。

冒頭、「株主中心の資本主義への反発が強まっています」という聞き手(江渕崇朝日新聞経済部次長)の問いかけに対し、岩井氏は「米国型の株主資本主義が大きな問題を抱えていることはリーマン・ショックであらわになったが、その後も大きくは変わりませんでした」と答える。ここがまずおかしい。

リーマン・ショックとは、2008年9月15日に起きた米証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻をきっかけに起こった、世界的な金融危機だ。その原因として、米住宅バブルの崩壊、信用力の低い個人向けの住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付き、それらを束ねた証券化商品の値下がり、大量に保有していたリーマンの資金繰りの行き詰まり――などが取り沙汰される。だが、それらはいずれも表面上の現象にすぎない。

根本の原因は、そもそもバブルを生み出したお金の大量発行だ。そして現代の経済で、お金を発行する主体は事実上、政府の傘下にある中央銀行(米国では連邦準備理事会=FRB)しかない。つまり、リーマン・ショックをもたらしたのは政府である。もし岩井氏のいう「株主資本主義」が政府のコントロールの及ばない自由な市場経済だとすれば、リーマン・ショックを起こしたのは株主資本主義ではない。それとは正反対の、経済の血液とされるお金を政府ががっちりコントロールする、「国家資本主義」である。

続いて岩井氏は、「会社の唯一の社会的責任は株主のために利益を最大化すること」と説いた米経済学者ミルトン・フリードマンを批判し、フリードマンの主張は「理論的に完全な誤り」と断じる。なぜなら、「会社は『法人』だから」だという。

岩井氏によれば、会社という法人は2階建て構造をもつ。2階部分では株主がモノとしての会社を保有し、1階ではその会社が法律上のヒトとして不動産や設備、お金といった資産を持ち、借金契約や雇用契約などの主体となる。

そのうえで岩井氏はこう説く。「2階部分を強調すれば株主が重視されます。そういう会社があってもいい。たとえば米金融などです。ただ、1階を強調すれば従業員など様々なステークホルダー(利害関係者)への貢献が可能になります」。いわゆるステークホルダー資本主義だ。

「会社は利益を出さなくてもいいのでしょうか」と問う聞き手に対し、岩井氏は「もちろん、事業を続けるための利潤は必要です」としたうえで、「だが、それさえクリアすれば、利益の最大化は目指さなくてもいい」と答える。続けて、「時代の変化の中で会社という仕組みが生き延びてきたのは、法人としての〔略〕2階建て構造によって、多様な目的や形態を持てるからなのです」と強調する。

会社には多様な目的があっていい、という岩井氏の主張は、何となくもっともらしいが、よく考えてみればおかしい。利益以外の目的をめざすなら、非営利団体でいいはずだ。営利団体である会社に、わざわざ利潤追求以外の役割を担わせるのは無理があるだけでなく、混乱をもたらす。

たとえば、株主の利益という明確な基準がなくなれば、「株主の利益と他のステークホルダーの利益のどちらを優先するのか」「ステークホルダー間の対立をどう解決するのか」といった疑問に、答えることができなくなる。これは結局、経営者や一部のステークホルダーに過大な力を与え、その暴走を招きかねない。

聞き手が適切にも、「株主が厳しくチェックしないと、経営者のやりたい放題にはなりませんか」と問うのに対し、岩井氏の答えは答えになっていない。ともに厳しい経営状態に陥ったソニーグループと東芝を対比し、事業分割を求める「物言う株主」に対して自分らしさを守り抜いたソニーが復活を遂げたのに対し、理念を忘れ、物言う株主の言いなりになった東芝は「配当や自社株買いで資金を流出させ、事業を切り売りさせられました」という。

岩井氏お得意のシェイクスピアどころか、まるで物言う株主を悪役にする安っぽいテレビドラマだ。東芝の経営危機の一因となった米原発子会社の損失は、「原発立国」の旗を振る経済産業省の責任も指摘されるのに、それには触れない。東芝にとって経産省は、岩井氏の持ち上げる「ステークホルダー」にほかならないが、岩井氏は株主だけを非難する。ステークホルダー資本主義とは、ずいぶん政府や役人に都合のいい仕組みのようだ。

岩井氏は「社会主義に未来はありません」としつつ、「コミュニティーの理念に基づく共同体は、資本主義の補完としては非常に意味がある」と述べ、「ポンコツな資本主義をなんとか修理」するしかないと話す。自分は決して資本主義を否定する過激な社会主義者ではなく、あくまでも資本主義を肯定したうえで「補完」「修理」したいだけの改革派にすぎないというわけだ。

もちろんそうだろう。過激な社会主義者では、文化勲章はやりにくい。正装に身を包み、天皇からありがたく勲章を授かる栄誉に浴せなくなる。

しかし、会社の所有者である株主の権利を、明確な基準もなく制限するのは、財産権の侵害であり、財産権を根幹とする資本主義の否定に等しい。「ポンコツ」なのは資本主義ではない。財産権を安易に否定し、経済に混乱を招く岩井氏の資本主義批判こそポンコツだ。

<参考資料>
  • How to Bureaucratize the Corporate World | Mises Institute [LINK]