2023-12-14

一極世界が終わるとき~新興国と先進国、経済の明暗くっきり

「正式なメンバーとなることを強く希望する」。南米アルゼンチンのフェルナンデス大統領は6月24日、中国、ロシアなど新興5カ国(BRICS)にその他の新興国を加えた「BRICSプラス」のオンライン会合で、BRICSへの加盟を要望した。

アルゼンチンなど相次ぎBRICS加盟表明


フェルナンデス大統領は、BRICS加盟国が「すでに世界人口の42%を占めている」として、グループに「貢献したい」と述べた。


また同じ会合で、イランのライシ大統領は「イランはBRICSを主要な世界市場につなげるための安定したパートナーになることができる」と述べ、BRICS加盟の意思を表明した。

アルゼンチン、イランの相次ぐBRICS加盟表明には、前触れがあった。会合を主催した中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は前日の演説で、BRICSについて「閉鎖的なクラブでも、排外的な小グループでもない。互いに助け合う家族であり、良き協力パートナーだ」と強調。「新たな血を取り入れることが活力をもたらし、影響力を向上させる。志を同じくするパートナーを早期に加盟させるべきだ」と語っていた

BRICSプラスの会合にはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国のほか、アルゼンチン、アルジェリア、エジプト、インドネシア、イラン、カンボジア、カザフスタン、マレーシア、セネガル、タイ、ウズベキスタン、フィジー、エチオピアの代表が参加した。アルゼンチンやイランなど他の新興国がBRICSに加われば、世界経済における新興諸国の存在感が一段と高まるのは間違いない。

それに対し、米欧など先進国側は地位低下が著しい。

米欧では大幅な物価高の影響で、景気後退リスクが高まっている。物価高をもたらした「犯人」は、以前の連載でも述べたように、ロシアではない。ロシアの軍事行動前から物価上昇は始まっていた。物価高を招いたのは先進各国の中央銀行による野放図な金融緩和であり、それに頼って予算をばら撒いてきた政府だ。

言い換えれば、ロシアのプーチン大統領がBRICSプラス会合で述べたように、「主要7カ国(G7)の無責任なマクロ経済政策」が招いた自業自得である。そこへロシアに対する経済制裁の副作用でエネルギーや資源が不足し、事態はさらに悪化している。

「新G8」の経済規模、G7を24%上回る


プーチン大統領の側近、ウォロジン下院議長は6月11日、通信アプリ「テレグラム」でロシアに対し友好的な国からなる「新G8」を提唱したとして、注目された。

同議長は「米国、日本、ドイツ、英国、フランス、イタリア、カナダ(G7)の経済は、対ロシア制裁の圧力で崩壊し続けている」と指摘。一方で「制裁戦争に参加しない8カ国(中国、インド、ロシア、インドネシア、ブラジル、トルコ、メキシコ、イラン)のグループは、1人あたり国内総生産(GDP)で旧グループ(G7)を24.4%上回っている」と分析し、これらの国々は「ロシアとの対話と互恵的な関係の発展を望んでいる」と述べた。

実際、国際通貨基金(IMF)のデータに照らして各国の実質GDP(2021年、購買力平価で修正した実質値)をみると、ウォロジン議長が挙げた新興8カ国(新G8)の合計値は約56兆ドルで、G7の約45兆ドルを24.4%上回っている。今後、先進国で物価高と景気後退が同時に進むスタグフレーションが現実となれば、経済規模の格差は一段と開きかねない。

新興諸国の存在感は、6月15〜18日にロシア政府などが北西部サンクトペテルブルクで開いた国際経済フォーラムでも鮮明だった。

日本の報道では、「欧米の参加ほとんどなく断絶鮮明に」などとおとしめる論調が目立った。たしかに参加国は127カ国と2021年の前回会合に比べ約1割減ったものの、ロシアが全世界から非難を浴びているような日頃のイメージからすれば、わずか1割の減少にとどまったのはむしろ驚きだろう。

ロシア政府系通信社スプートニクの記事によれば、フォーラムには1万4000人が参加し、5兆6000億ルーブル(970億ドル)相当の契約が結ばれた。サンクトペテルブルク市のベグロフ市長は「米国を含む西側諸国からの圧力」にもかかわらず、国際的なフォーラムが開催されたことを称賛した。

同17日に登壇したプーチン大統領は、ロシアと対立姿勢を深める米国を痛烈に批判する演説を行い、「一極世界の時代」の終わりを宣言した

同大統領は演説で「米国は冷戦に勝利したとき、自分たちは地上における神の代理人であり、何の責任も負わず国益のみを有する国民だと宣言した」と指摘。米国やその同盟国について「彼らは妄想にとらわれ、過去の中に自分たちだけで生きている。自分たちが勝ったのだから、あとは全て植民地、裏庭だと考えているのだ。そこに暮らす人々は二級市民だと」と批判した。

国民の血税でウクライナ支援続ける


プーチン氏の主張にどこまで同意するかはともかく、世界の中で米国の求心力が低下しているのは間違いない。米国の「裏庭」と呼ばれてきた中南米で、その傾向はとりわけ顕著だ。

6月8〜10日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで米主催で開いた米州首脳会議では、メキシコなど中南米8か国の首脳がボイコットした。ホスト国の米国が「独裁者は招待されるべきではない」としてキューバ、ベネズエラ、ニカラグアの3カ国を招待しなかったことに反発したためだ。

南米コロンビアで6月19日行われた大統領選の決選投票では、左派のグスタボ・ペトロ氏が勝利した。2021年7月のペルー、22年3月のチリなど中南米では左派政権の成立が相次いでいる。コロンビアの政権交代で、地域のGDP上位6カ国(ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ペルー)のうち、トップのブラジル以外はすべて左派政権となることが決まった

ブラジルのジャーナリスト、ペペ・エスコバル氏は「BRICS、とくにその拡大版であるBRICSプラスは、真に安定したサプライチェーン(供給網)の構築や、資源・原料貿易の決済メカニズムで協力を深めるだろう」と指摘。「そうなれば、(米欧による経済制裁の)武器と化している米ドルや国際銀行間通信協会(SWIFT)に代わり、信頼できるBRICS決済システムへの道が開かれる」と予測する

独南部エルマウで開いていた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は6月28日、首脳宣言を採択して閉幕した。ロシアへの制裁強化とウクライナへの支援拡大で合意し、途上国への食料の安定供給のため45億ドル(約6000億円)を追加拠出する。途上国・新興国への支援を打ち出すことで、ロシアへの経済制裁に理解を求めた形だ。

先進国の行動パターンは相変わらずだ。札束で頬を張るようなやり方で、途上国・新興国の信頼をどこまで得られるだろうか。ロシアとの戦争を終わらせようとするどころか、ウクライナに一方的に肩入れした支援で火に油を注ぎ続けている。

しかもそれら政策の原資は、インフレに苦しむ米欧日の国民の血税だ。このままだと、来年5月に広島で開く次回サミットのころには、先進国経済の衰えがさらにあらわになりかねない。=今回でシリーズを終わります。

*QUICK Money World(2022/7/1)に掲載。

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