2023-12-19

ケイトー研、イスラエル・ガザ紛争にあやふやな態度

元ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年10月25日)

中東で起きている憂慮すべき事態は悪化の一途をたどっており、米国を再び対外戦争に巻き込む可能性が少なからずある。イスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザからイスラエルに仕掛けた奇襲攻撃は、ネタニヤフ・イスラエル首相の政府を明らかにあざむいた。しかしイスラエルは現在、圧倒的な武力で対応している。過去数十年にわたる小規模な攻撃に対してそうしてきたようにだ。ガザの民間人居住区への爆撃は、領土の北部に住む100万人を1日以内に避難させるというまったく非現実的な命令とともに、ハマス軍が与えた苦しみを大きく上回る脅威となっている。
さらに悪いことに、バイデン米政権はすでに、より広範な地域戦争を引き起こしかねない動きを見せている。米国はイスラエルとの連帯を示すため、空母戦闘団を地中海東部に派遣した。米国のタカ派の常連たちは、イランが首謀者であるという証拠はないとイスラエル政府自身が認めているにもかかわらず、イランがハマスを使ってイスラエルを攻撃していると非難している。このような不都合な点があっても、熱心なタカ派はイランに対する米国の軍事攻撃を主張することを止めない。現イラン政権が続く限り、イスラエルとパレスチナ人の戦いは止まらないと主張する者さえいる。

最大のリバタリアン系シンクタンクであるケイトー研究所は、中東における新たな流血沙汰の深い原因を検証する論説や政策声明を数多く発表していると思うかもしれない。また、リバタリアンのアナリストが、現在進行中の悲劇に対するイスラエルとハマスの責任の度合いをバランスよく評価するのは当然の前提である。特に、同研究所の外交政策専門家たちは露骨なタカ派に対抗し、米国がイランを攻撃するのを阻止するための知的努力の先頭に立つと期待される。

しかし、この危機に関するケイトー研の専門家たちの成果は、せいぜいあやふやなものでしかない。最初の重要な声明は、戦争が始まって丸1週間が経った10月14日、「ケイトー・アット・リバティ」のウェブサイトに投稿されたブログであった。著者は、同研究所の国防・外交政策研究ディレクター、ジャスティン・ローガン氏である。最も驚き、失望させられたのは、どの既存メディアでも見られるような、偏った親イスラエルの神話の多くを再掲していたことだ。

残念なことに、このような視点は複数の外交政策問題においてケイトー研で力を増しているようだ。主任研究員のトム・パーマー氏を筆頭に、何人かのアナリストは、ウクライナとロシアとの戦争中、ウクライナ寄りの立場を貫いてきた。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に関するローガン氏の最初のコメントは、ロシアの侵攻を全面的に非難しただけでなく、明らかな例外を除いてロシアに対する経済制裁を支持するものだった。このような姿勢は問題だった。数十年にわたる研究により、制裁は効果がなく残酷なものであることが明らかになっているからだ。経済制裁は通常、対象国の一般市民の生活に壊滅的な打撃を与える。同時に、制裁は米政府の政策要求に屈服するよう相手国の政権を強制する効果がないことでも知られる。

ローガン氏の10月14日のブログ記事は、冒頭から露骨なイスラエルびいきである。同氏は10月7日の午前5時に目を覚まし、「胃が痛くなるような映像を次から次へと見た。テロリズム、そして民間人、特に子供を標的にした行為は正当化できない。世界中の文明人が恐怖におののいた」と述べ、「イスラエルには自国を防衛する権利があり、個人的な意見だが、イスラエルが激怒する権利もある」と付け加えた。

ガザで1000人以上(おそらく3000人以上)の市民を殺害したイスラエルの軍事行動に対するローガン氏のその後の見解は、はるかにあいまいで両論併記だった。実際、同氏は暗に、ガザでの民間人犠牲者の責任の大部分を、空爆やその他の攻撃を行っていたイスラエル軍ではなく、ハマスに押し付けていた。「すべての文明人は、ハマスのテロリストがイスラエルの男性、女性、子供を標的にしたことに恐怖を感じた。ハマスが始めた戦争の結果、苦しんでいるガザの罪のない人々を心配するのと同じように」(強調は引用者)

ローガン氏の最もそれらしいイスラエル批判は、2つのあいまいなコメントである。ひとつは、イスラエルがすでにガザに投下した爆弾の数は、米国とその同盟国がISIS(過激派組織「イスラム国」)との戦争で投下した爆弾の数よりも多いという見解だ。もうひとつは「イスラエルのためにも、ガザの罪のない市民のためにも、そして米国人として、米国の関与を危うくするような紛争激化を防ぐためにも、9・11(米同時テロ)後の怒りに燃えた我々米国人よりも良い決断をすることを望む」というものだ。

特に目立ったのは、イスラエルが長年にわたってパレスチナ人を虐待してきたことについての言及がなかったことだ。尊敬を集める人権団体がガザを「世界最大の野外監獄」と表現するに至った、ガザにおける組織的な人権侵害については一言も触れられていない。人権団体アムネスティ・インターナショナルがアパルトヘイト(人種隔離)の一形態として非難している、イスラエル政府と入植者たちが数十年にわたりヨルダン川西岸でパレスチナ人の土地を公然と盗んできたことについても、一言も触れられなかった。.

このような偏見と怠慢は非常に問題である。ハマスの行為、特に一般市民の人質を捕らえ、虐待し、公然と殺害したことを糾弾するのは、ほとんど勇気のいることではない。このような残虐行為については、政策通やジャーナリストたちがすでに正当な批判の津波を巻き起こしている。しかしケイトー研の学者であれば、もっとバランスの取れた価値ある分析をしてくれるだろうと期待する人もいるだろう。

ケイトー研はかつて、外交問題に関して不人気な真実を語るという、正当な評価を得ていた。ペルシャ湾戦争、バルカン戦争、米国主導の不当なイラク侵攻、リビアの指導者カダフィを追放するための北大西洋条約機構(NATO)の悲惨な空戦、アサド政権に敵対するシリアの聖戦士に対する米政府の恥ずべき支援などに関して、同研究所の専門家が取った立場はすべて適切な例であった。イスラエルとパレスチナの紛争に対する行動は、その遺産からの悲しい逸脱である。

The Cato Institute’s Belated, Squishy Stance on the Latest Middle East Crisis | Mises Wire [LINK]

【訳者コメント】米国のリバタリアン系シンクタンクは、一枚岩ではない。実業家のチャールズ・コーク氏が出資し、首都ワシントンに本拠を置くケイトー研究所は、外交政策について米政府寄りの介入主義的な主張を強めている。記事の筆者カーペンター氏はそのあおりで辞職に追いやられた。同研究所の創立メンバーの一人で、筋金入りの非介入主義者だったマレー・ロスバード氏は、天国で嘆いているに違いない。

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