管理貿易の正体
環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る議論は混乱している。推進派は「自由貿易だから良い」と主張し、反対派は「自由貿易だから悪い」と批判する。どちらも正しくない。TPPは官民癒着の管理貿易で、だから国民の利益にならない。
本書も混乱している。せっかく経済学者スティグリッツの「TPPは自由貿易協定ではない……管理貿易協定だ」という的を射た発言を紹介しながら、あちこちで自由貿易そのものに対する反対論を繰り広げ、経済への無理解を露呈する。
5キロ1000円前後の安いベトナム産コシヒカリがスーパーで売られたら日本でコメを作る農家はなくなるとして、著者は輸入に反対する。高いコメを買わされる消費者の不利益には触れない。これで貧困層の生活苦を嘆くのはおかしい。
一方、TPPの問題点を正しく指摘する箇所もある。ジェネリック医薬品が特許権を侵害しないか確認できる新制度により、特許権が切れても安価なジェネリックの販売が長期間認められない恐れがある。米製薬大手の圧力が背景にある。
TPPでは著作権や商標の権利期間が50年から70年に延長され、法定賠償制度で侵害時に賠償額が巨額になる恐れもある。そのうえ非親告罪となり、被害者が訴えなくても警察が乗り出す。自由な創作や著作、報道が萎縮しかねない。
政府はTPP加盟国域内での貿易量が増えると強調するが、米タフツ大学の指摘によれば、域外との貿易減少のマイナス面が考慮されていないという。本書は自由貿易に対する誤った反対論が目立つものの、管理貿易の正体を知るうえで有益な情報も多く、一読の価値がある。
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