資本主義が嫌いな人のための経済学
恐慌の犯人は資本主義か
自由放任的な資本主義を批判する知識人はしばしば、それがうまく機能しない「証拠」として金融恐慌をあげ、恐慌を防ぐには政府の介入が必要だと論じる。その議論は正しくない。そもそも金融恐慌をもたらすのは政府の介入だからである。
本書もその誤りを犯す。著者は自由放任を唱えるリバタリアンを批判し、政府の介入が限られた19世紀の資本主義は「ろくに機能しなかった」(p.46)という。たとえば1870〜1900年に米国経済は景気循環を繰り返し、多数の銀行取り付けと5回の金融危機があったと述べる。
そのうえで著者は、米政府が「資本主義制度の大幅な改造」(同)に取り組んだとして、1914年の連邦準備制度創設、1933年の連邦預金保険公社設立を例にあげる。その結果「昔ながらの取り付け騒ぎはほぼなくなった」(同)と高く評価する。
しかしまず、景気循環の主因は政府自身にある。南北戦争(1861~65年)の戦費調達で米政府は1861年に金本位制を停止。バブル景気の反動で1873年恐慌をもたらす。それでも政府の介入が少ないおかげで、回復は早かった。
次に、著者が称える連邦準備制度は1920年代に過剰なマネーを供給し、史上最悪の大恐慌の端緒を開いた。同じく預金保険は銀行のモラルハザード(自己規律の喪失)を誘発し、放漫経営を助長した。その結果が1980~90年代の貯蓄金融機関(S&L)破綻である。救済のコストは納税者がかぶった。
左派の平等主義に対する批判など賛成できる主張はあるものの、上記のようにリバタリアンに対する批判は的外れなものである。著者は哲学者だそうだが、この程度の議論で「政府の介入は絶対に必要」(p.50)などと断言するのは、いささか不用意に思える。
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