苛政は虎よりも猛し
孔子が泰山の近くを通ると、墓の前で泣く女がいた。「舅と夫と子が虎に食い殺された」と言う。孔子が「なぜここを去らないのか」と尋ねると、女は答えて、「重税を課すむごい政治がないから」。本書を読んで、この故事を思い出した。
舞台は課税優遇地のシンガポール。日本から税逃れのため多くの資産家が移住する。一番の望みは子に財産を残すこと。1年の半分以上を現地で暮らし、それを5年間続ければ、海外資産の相続税は払わなくて済むようになるといわれる。
しかし移住した資産家たちは精神が満たされない。多くは一代で財を成した事業家。税逃れのためにただ時間をつぶすのは虚しい。英語ができないと現地で仕事は難しい。関西出身の資産家は酔って「南国の監獄の中にいるようや」と嘆く。
ある元病院長は、何をするにもがんじがらめで自由のない日本を見限り、終身旅行者の人生を選ぶ。問題は、犯罪の多い国では自分の身は自分で守らねばならないこと。彼は信頼していた銀行家の陰謀にかかり、あやうく殺されそうになる。
異国の地がどんなに味気なく、ときに危険を伴っても、資産家が「南国の監獄」を選ぶのは、日本の税がそれだけ苛酷だからだ。精力的な事業家を重税で虐げ、国外に追いやる日本。孔子が聞けば「苛政は虎よりも猛し」と憤るに違いない。
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