結婚を犯罪にする法理
ヒトラー率いるナチスによるユダヤ人差別やホロコースト(大量虐殺)と聞くと、ドイツという国の特異な現象だと思いがちだ。しかし実際は他国の思想や制度から影響を受けている。
本書は、ナチスの反ユダヤ立法(ニュルンベルク法)が米国の法制度にヒントを得ていたという、驚くべき事実を明らかにする。
米国といえば、自由と民主主義の国であり、第2次世界大戦ではナチスドイツと戦い、打ち負かした国だ。その米国の法律がナチスによる人種迫害・抑圧政策の手本になっていたという。
本書によれば、ナチスが反ユダヤ立法を設計する際、悩みの種が二つあった。一つは、欧州には互いの合意に基づく異人種間の結婚を犯罪とする法理が存在しなかったこと。もう一つは「ユダヤ人」の科学的な定義が存在しなかったことである。
ナチスはこの二つの難題に対する解決を米国に発見する。
米国では多くの州に人種法が存在した。たとえばメリーランド州では、白人と黒人との間、白人とマレー人との間、黒人とマレー人との間などの結婚を禁止し、無効とした。違反者は破廉恥罪を犯したものとされ、禁固刑に処された。
また、米国の州法では、日本からの移民を懸念するにもかかわらず、日本人ではなくモンゴル人という言葉を使うなど、科学的に正しい人種の定義がなくても、実効力ある法制度をやりくりしていた。
1934年、ナチスドイツのギュルトナー法相や官僚たちは、反ユダヤ立法の計画を練った会議で、こうした米国の法制度について入念に準備した報告書をもとに、詳細な議論を交わした。とりわけ熱心だったのは、最も過激なナチ党員たちだったという。
ヒトラーも著書『わが闘争』の中で、米国こそが健全な人種秩序の確立に向けて前進している「唯一の国家」だとほめそやしている。
ナチスがモデルとした米国の人種法。その背景に移民問題があったことを考えると、現代にも重い教訓となるだろう。
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