2019-01-21

ハンス・アーダムII世『三千年紀の国家』


君主による国家廃絶論

「国家が何をしてくれるかではなく、国家のために何ができるかを問おうではないか」というケネディ米大統領の有名な言葉は、今も政治記事などでよく引用される。しかし実際には正反対のことこそが正しいのではないか、と著者は述べる。つまり「国家が他のいかなる組織にも増して国民のためにできることは何か」を問わなければならないという。

ここでポイントは「他のいかなる組織にも増して」という部分だ。国家が一方的に押し付けてくるサービスは、たいてい高いばかりで質の悪い、ろくでもない代物だ。もっと質が良く安価なサービスを地域社会、国際組織、民間企業などが提供してくれる。これら競争相手に比べれば「伝統的な国家というのは非効率な独占企業であるだけでなく、永続すればするほど人類の害になる存在」だと著者は言い切る。

たとえば、現代の先進国で当然視されている福祉制度。平均寿命が大幅に伸びたことに伴い、ほとんどの先進国が財政問題を抱える。日本の年金記録問題もそうだが、管理上のミスも絶えない。「年金の管理を国に任せるべきではない」と著者は強調し、積立方式年金制度への移行や福祉制度の地域移管などを提言する。

著者はさらに、教育の民営化または地域移管、道路網の民営化、国債発行の禁止、ラジオやテレビ局、郵便、電話通信、美術館、劇場の民営化や地域移管を提案。今後の国家は「地域レベルでの直接または間接民主主義、自治の原則に基づき人々に資するサービス企業」に生まれ変わるべきだと述べる。

事実上の国家廃絶といえる大胆な提言を行う著者は、リヒテンシュタイン侯国の当主である。神聖ローマ帝国の時代から何世紀にもわたって君臨してきた君主が、国家の廃絶に賛成するわけがないと疑う読者に著者が明かすところによれば、リヒテンシュタイン侯爵は国家元首としての働きに納税者から1フランたりとも受け取っておらず、あらゆる費用を侯爵または侯爵家の私的財産で賄っているという。

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