2020-06-27

ダフ屋の合法化と隆盛は、音楽文化を必ず活性化させる…ファンに多大な恩恵

コンサートのチケットを、インターネットを通じて定価より高値で転売する個人や業者が増えるなか、日本音楽制作者連盟(音制連)などの業界団体が中心となって8月、高額転売に反対する共同声明を出し、議論を呼んでいる。

この声明に対しては、すでに経済学者やエコノミストが的確に批判している。たとえば大阪大学教授の大竹文雄氏は、業界側が「チケット転売のために、本当にチケットが欲しいファンに行き渡らない」と主張するのに対し、転売はむしろ「本当にチケットが欲しいファン」にチケットが行き渡るのに役立つと指摘する。


大竹氏は説明する。抽選制度の場合だと、抽選に外れた熱烈なファンは転売業者に高い価格を払ってでも、コンサートチケットを手に入れることで便益を受け、抽選に当たったそれほど熱烈ではないファンは転売業者にチケットを売ることで、コンサートに行くよりも便益を受ける。転売業者は両者の願いを叶える。

「アーティストにとっても、大したファンでもないのに、偶然チケットの抽選に当たった人たちがコンサート会場に交ざっているよりも、熱烈なファンでコンサート会場が埋め尽くされている方がうれしいのではないだろうか」(大竹氏)

この指摘は正しい。これに対し、熱烈なファンではない人々がライブを見てファンになる機会をつくるためにも、チケット転売は規制されるべきとの反論もあるが、もし業界側がそのような意図を持っているのであれば、もっとスマートな方法を工夫すべきだろう。チケット転売を規制し、不便を強いることがファンを大切にする態度だとは思えない。

大竹氏は転売規制の代案として、コンサートチケットのうち一定枚数を主催者が直接ネットオークションで売るよう提案する。嘉悦大学教授の高橋洋一氏は、主催者みずから転売市場に乗り出すよう促す。
 
これらの案は悪くないが、ここではもっと大胆な改善策を提案したい。それは「ダフ屋」の合法化である。


取り締まりに合理的根拠なし


ダフ屋とは、チケット類を転売目的で入手し、売りさばく業者のこと。ダフ屋がチケット類を売りさばいたり、売りさばこうとする行為を、ダフ屋行為という。
 
現在、ダフ屋行為は大半の都道府県の迷惑防止条例で禁止されている。「転売目的でチケット類を公衆に対して発売する場所において購入する」「公衆の場で、チケット類を他者に転売する」のどちらかにでも当てはまれば刑事罰の対象となる。迷惑防止条例のない県では、物価統制令を根拠に取り締まっている。どちらについてもいえるのは、合理的な根拠に乏しい点だ。

物価統制令の公布・施行は1946年3月。終戦直後の食糧などの物価高騰を抑える狙いだった。生命・健康にかかわる物資の物価抑制ならいざ知らず、しょせんは遊びにすぎないコンサートのチケットを対象にするのは、どう見ても法令の趣旨に合わない。

迷惑防止条例が最初に東京都で施行された1962年当時は、後楽園球場周辺に百人前後のダフ屋がたむろし、観客につきまとって入場券の購入を強要したり、球場側の販売活動を妨害したりして問題になっていたという。

しかし、これは購入強要や販売妨害といった明らかな違法行為を摘発すれば済む話で、ダフ屋そのものを禁じるのは行き過ぎている。かつて後楽園球場を訪れた野球ファンにも、進んでダフ屋から入場券を購入し、観戦した人は少なくなかったはずだ。そうでなければ、それほど多くのダフ屋が待ち構えるはずはない。

また、ダフ屋は暴力団の資金源だから違法にするのは正しいという意見がある。これは原因と結果を取り違えている。違法だからまともな企業が扱えず、暴力団が資金源にするのだ。米国で禁酒法時代、ギャングが酒の密造・販売を一手に引き受け、資金源にしたのと同じである。

すでに述べたように、チケットの転売は熱烈なファン、それほど熱烈でないファンの両方を満足させる、経済的に有意義なサービスである。それならその一業態であるダフ屋も、違法として取り締まるのでなく、むしろ合法と認めるべきだろう。

ダフ屋解禁には別のメリット


ネットが普及した今、コンサート会場の近くをうろつくような古典的なダフ屋は少数派で、主流は「ネットダフ屋」である。インターネットオークションでチケットを転売目的で大量に購入し、逮捕される例が相次いでいる。このような摘発をやめない限り、事業者はチケット転売業に安心して参入できない。

前述のように、経済学者は、主催者自身がチケットのオークションや転売ビジネスに乗り出すよう呼びかける。しかし、市場に活力をもたらすためには、主催者以外のネットダフ屋も多く参入するのが望ましい。中古車ディーラー業界で、メーカー系と多数の独立系がしのぎを削るようにである。古い発想にとらわれないすぐれたビジネスアイデアは、独立系から生まれる場合が少なくない。

もちろんコンサート会場の近くで、古典的なダフ屋が正々堂々と商売してもいい。もっとおしゃれな呼び名ができるだろう。合法で競争は激しいから暴力団が手がけるうまみも薄れ、安心だ。当日券を買う感覚で会場に足を運ぶファンが増えるだろう。



ダフ屋解禁には別のメリットもある。ダフ屋として働き、収入を得るチャンスだ。代金をしっかり回収すれば、自己資金も少なくて済む。経済学者ウォルター・ブロックは「なんの資本もない貧しい人たちが商売をはじめるのに、ダフ屋ほど最適なものはない」と述べる(『不道徳な経済学』<橘玲訳/講談社>)。

刑罰という暴力は、愛と平和を歌うアーティストたちに似合わない。チケット転売の自由を寛大に認める逆転の発想こそ、ファンの裾野を広げ、音楽文化の未来を豊かにするだろう。

Business Journal 2016.09.11)*筈井利人名義で執筆

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