心理の法則は経済の法則ではない
最近脚光を浴びる行動経済学は、標準的経済学が前提とする、完全に合理的・自制的・利己的な「経済人」は非現実的だと批判する。それは正しい。だがもしそれだけなら、あえて新奇な学問に頼る必要はない。過去の経済学に学べばよい。
著者によれば行動経済学は、人間はすべて物質的私益追求型だという標準的経済学の前提を否定する。現実には利己的・利他的人間が共存し、同じ人間が場合や状況により利己的だったり利他的だったりもするという。それはそのとおりだ。
だがその批判は今の標準的経済学にしか当てはまらない。昔は違った。英経済学者ロビンズは1932年の著書で、経済主体は純粋な利己主義者、利他主義者、禁欲主義者、官能主義者、およびその混合体のどれにもなりうると述べている。
人が目的に向け行動するとき、曲げられない法則がある。それを探るのが経済学である。目的自体や動機は関心外にある。家計のためだろうと慈善のためだろうと、フリーマーケットで商品が売れなければ、値段を下げてみなければならない。
ところが行動経済学の関心は、心や動機にある。これでは心理の法則はわかっても、経済の法則はわからない。行動経済学は心理学の一部にすぎないとの見方を著者は否定するが、説得力はない。標準的経済学への根源的批判は、経済学自身の中にある。
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