政府のむきだしの暴力
政府の暴力性は日常ではあまり目立たない。だが財政破綻という非常事態に直面すると、それがむきだしになる。終戦直後の預金封鎖、通貨切り替え、財産税といった緊急措置がそれだ。しかも政府はぎりぎりまで財政は大丈夫と嘘をつく。
本書は一連の緊急措置を詳しく記す。ハイパーインフレに直面した政府は1946年、預金封鎖と通貨切り替えに着手。5円以上の旧銀行券をすべて銀行など民間金融機関に預けさせ、生活や事業に必要な額だけを新銀行券で引き出させた。
新たな税も導入する。柱の一つが財産税だ。国内に在住する個人を対象に、一定額を超える財産(預貯金、株式などの金融資産及び宅地、家屋などの不動産)に課税。最低税率25%で、1500万円超の財産には実に90%も課税された。
さいわい、「抜け道」はあった。預金封鎖を事前に察知して預貯金を大量に引き出して株券などに替えておき、新銀行券に切り替わって安定してから現金化した人々もいたらしい。財産税による資産没収も、貴金属なら隠せないことはない。
政府は開戦前夜の1941年に作成した小冊子で、「国債がこんなに激増して、財政が破綻する心配はないか」という問いに対し「全部国民が消化する限り、すこしも心配は無いのです」と答えている。著者が言うとおり、「強烈な嘘」だ。
著者は上記の歴史の教訓を踏まえ、現在の財政危機に警鐘を鳴らす。それはもっともだ。しかし、財政を健全化するため消費税増税が必要との主張には賛成できない。消費税を含むあらゆる税は、預金封鎖や財産税ほど衝撃的でないかもしれないが、暴力による財産権の侵害である点に変わりないからだ。
財政再建は歳出削減のみによらなければならない。それが無理なら潔く破綻するしかない。痛みは避けられまいが、先延ばしすれば将来の痛みはさらに大きくなるだろう。
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