NHKのテレビ放送で評判となったマイケル・サンデルの「ハーバード白熱授業」。番組サイトは「ソクラテス方式(講義ではなく、教員と学生との闊達な対話で進められる授業形式)の教育の最高の実例」とほめそやす。本当だろうか。
「白熱授業」を厳しく批判する本書は、そもそも対話とは「哲学的思考の方法としては、かなり劣った第二級の方法」(p.18)と指摘する。哲学的思考はゆっくり静かに考えることが必要だ。対話では、自分一人で静かに長時間思考する自由がない。
サンデルの授業の特徴は4点あるという。(1)口頭でのやりとりに限定(2)学生には質問させない(3)学生に考える時間を与えない(4)何を考え、何を考えないかの制約条件を一方的に決める――。これは尋問だと本書は断じる(p.55)。
サンデルは正義を考える授業で「路面電車のジレンマ」を話し、5人を殺すか、1人を殺して5人を助けるか二者択一を迫る。学生に質問させず、与えられた条件の中だけで考えさせる。具体状況が不明では、行為の正しさは判断できない。
あきれたことにサンデルは、路面電車の話について自分の選択を問われると、電車がひき殺そうとする人々は誰なのかと、与えられた以外の条件を知ろうとする(p.52)。これでは学生に問う資格はない。人気教授の化けの皮がはがれた瞬間である。
ハーバードの権威に目がくらみ、にぎやかなだけで底の浅い白熱教室をありがたがる日本人は、ぜひ本書を読み、思考とは何か、一人静かに考えてみるとよい。
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