それなりに興味深いリベラル批判が続くものの、最後に愕然とする。著者の提案する政策が、経済学的に無茶なリベラルそのもの、いやそれ以上の左翼的、国家主義的な内容だからだ。しかも「リアル」な提言のつもりなのだから笑えない。
著者は、リベラルが支持を獲得すべきサラリーマンにとって「急迫性のある真の問題」とは、原発や安全保障でなく、社会保障だと指摘する。不効率な国営福祉の解体・民営化なら歓迎だ。ところが著者に現状を変えるつもりはない。
それどころか、破綻に瀕する国営福祉を「世界に冠たる国民皆保険・皆年金」と称え、実現した岸信介元首相の「功績」をほめそやす。国民を戦争に動員する手段として生まれた国営福祉が、真のコストを隠した欠陥商品だと気づかない。
そのうえで著者は、岸信介の国家社会主義者のDNAを継ぐ安倍晋三首相を社会主義者として「覚醒」させ、社会保障の強化に利用せよと言う。社会主義的な再分配が生活水準を悪化させることを知らず、正面切って持ち上げるとは呆れる。
挙句の果てにゼネストの復活と累進課税の復活・強化を主張する。賃金の源泉は企業の収入だし、企業は富裕層の貯蓄を資本に使うから、どちらもサラリーマン自身の首を絞める。左翼の経済学しか知らずにリベラルの政策を批判するのは無理である。
著者は「封建主義者」を自称する。それが近代国家に対する批判的立場を意味するのであれば、本書における著者の国家主義的な提言は、その看板と完全に矛盾する。
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