世界には市場原理主義が吹き荒れ、とりわけ1990年代以降の日本ではその風潮が甚だしいと著者は憤る。経済を専門分野の一つとするはずの知識人がこのような俗説を広めるのは、困りものである。問題は市場原理主義ではないからだ。
デリバティブや証券化など金融市場のイノベーションは、リスクを低減するつもりでむしろ不確実性をもたらし、リーマン・ショックという金融危機を引き起こしたと著者は述べる。だが、それは表面的な議論にすぎない。
金融危機の根本の原因は、政府・中央銀行による過剰なマネー供給と、それがもたらしたバブル経済である。著者は投機の横行を批判するが、中央銀行がマネーを大量に供給しなければ、そもそも巨額の投機は不可能である。
著者はグリーンスパン元連邦準備理事会(FRB)議長にバブルの責任があると言及するものの、なぜかそこで思考停止し、市場原理主義批判を繰り返す。政府が通貨発行を独占し操作する体制は金融社会主義であり、少なくとも市場原理主義の名に値するほど自由な市場経済ではない。
著者はシカゴ学派の経済学を市場原理主義と非難する。だがシカゴ学派はこと金融に関する限り、通貨発行自由化を唱えたオーストリア学派と異なり、国家主義者である。著者はそれを忘れ、「シカゴ学派=市場原理」という的外れな批判を重ねる。
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