2023-02-01

中央銀行、金に逃げ込む

エコノミスト兼ファンドマネジャー、ダニエル・ラカール
(2023年1月23日)

2022年、中央銀行は近年で最大の量の金を購入することになる。ワールド・ゴールド・カウンシルによると、中央銀行による金の購入量は1967年以来の水準に達している。世界の中央銀行は1カ月で673トンを購入し、第3四半期には400トンに達した。2020年以降の中央銀行からの流れは、みごとに純売却であったので、これは興味深いことである。
なぜ世界の中央銀行は金を準備に追加しているのだろうか。さまざまな要因が考えられる。

ほとんどの中央銀行の準備金の最大の割合は米ドルであり、それは通常、米国債の形で提供されている。一部の中央銀行、特に中国がドルへの依存度を下げることを決定するのは理にかなっているといえるだろう。

中国の外貨準備高が大きいことは、中国人民銀行にとって重要な安定要因となっている。しかし2022年には米ドルの量(3.1兆ドル)の多さが重要な安定要因になっていたかもしれないが、今後10年間に過去にない通貨切り下げの波が押し寄せれば、ドルが多すぎることになる可能性もある。

中央銀行はデジタル通貨を発行する構想を打ち出しているが、これは現在のお金の仕組みを完全に変えることになる。中央銀行の国民の口座に直接デジタル通貨を発行すれば、金融機関は貯蓄者の情報にすべて接することができ、さらに重要なことは、インフレ率の上昇を阻む経路である銀行経路と信用需要の裏付けを排除して、金融政策の伝達機能を加速させることができる。インフレ率がこれ以上上がらないようにしているのは、金融政策の伝達の仕方が銀行システムの信用需要によってつねに減速されるからだ。これは明らかに金融資産の価格を大きく上昇させ、なおかつ通貨供給量の増加が政府支出や補助金の支払いに充てられたときに物価を高騰させる原因となった。

中央銀行がデジタル通貨を発行し始めれば、過去50年間に見られた通貨の購買力破壊の度合いは、中央銀行の野放図な統制によって起こりうることに比べれば、きわめて小さいものになるだろう。

そのような環境では、金の価値準備としての地位は比類ないものになるだろう。

中央銀行が金を購入する理由は他にもある。

中央銀行が金を必要とするのは、前例のない通貨価値の破壊に備えるためかもしれない。

フィナンシャル・タイムズ紙は、中央銀行がそのバランスシートで保有している債券の価値が下落した結果、すでに大きな損失を被っていると主張している。2022年第2四半期末までに、米連邦準備理事会(FRB)は7200億ドル、英イングランド銀行は2000億ポンドを失ったという。現在、欧州中央銀行(ECB)は財政の見直しを行っており、こちらも大きな損失を出すことが予測される。ロイターによると、欧州中銀、連邦準備理事会、イングランド銀、スイス国立銀行、オーストラリアの中央銀行はいずれも「かつて利益を生んだ債券が負債に変わるため、現在、全体で1兆ドルを超える損失のおそれに直面している」という。

中央銀行が損失を被った場合、過年度の準備金を使用するか、他の中央銀行に支援を要請することで、その穴を埋めることができる。商業銀行と同様、大きな困難に見舞われるかもしれない。それでも、中央銀行には最後の手段として政府に頼るという選択肢がある。その穴を埋めるのは納税者であり、コストは天文学的な数字になる。

世界的な負債の新記録、中央銀行の資産の莫大な損失、デジタル通貨の発行によって起こりうる通貨破壊の波は、価値の準備として何世紀も実績のある唯一の真の安全な避難所を見いだす。それは金だ。中央銀行は、政府が赤字支出を削減しないとわかっている。

この数字は、近年の量的緩和の乱用がもたらした巨大な問題を浮き彫りにしている。中央銀行は発行体の支払能力の実態を知らないため、低リスクの資産を魅力的な価格で購入することから、どんな価格の国債でも購入することに切り替えた。

なぜ中央銀行は、バランスシートに損失が発生すると同時に金の購入を増やすのだろうか。準備金を増やし、損失を減らし、新しく作られるデジタル通貨がインフレにどのように影響するか、予想がつくからだ。欧州や北米の国債を購入しても、インフレが高止まりした場合に損失が出るリスクを下げることはできないので、金を買い増すことが唯一の現実的な選択肢となる可能性が非常に高い。

先進国の中央銀行はインフレ対策としてバランスシートを縮小する努力をするが、その一方で保有する資産の価値が下がり続けていることに気付く。赤字になった中央銀行は、ただちにバランスシートを拡大したり、国債を買い増したりすることはできない。流動性の罠が仕掛けられている。量的緩和と低金利は資産価値上昇のために必要だが、さらなる流動性と金融抑制はインフレ圧力を長引かせ、資産価格への圧力を高める可能性がある。

お金を刷ってもインフレにならないという考え方が、貨幣の蜃気楼の土台となった。現在では、それに反する証拠が、中央銀行が深刻な問題に直面していることを示している。中央銀行は、多量な膨張と資産価格のインフレを維持すると同時に、消費者物価を下げ、政府の赤字支出に資金を供給することはできないのである。

では、なぜ中央銀行は金を買うのだろうか。長年の過剰緩和による経済・金融の惨状の結果、政策における新しい枠組みが否応なく出現し、私たちの実質収益も預金貯蓄もその恩恵を受けないからである。「健全な貨幣」と「金融抑圧(人為的な金利抑え込み)」の選択を迫られたとき、政府は中央銀行に「金融抑圧」を選ぶよう強要してきた。

中央銀行が金を買う唯一の理由は、自分たちの金融破壊政策からバランスシートを守るためであり、そうせざるをえないのである。

(次を全訳)
Central Banks Turn to Gold as Losses Mount | Mises Wire [LINK]

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