ハイパーインフレは経済事象の中で最悪のものの一つとされる。たしかに悪夢のような事態だが、誰もが異常だとわかる。ところが年数%の「穏やかな」インフレは、お金の価値が奪われる点は同じなのに、気づかれにくい。むしろ悪質だ。
日本の財政については「純債務は大きくないから大丈夫」「換金可能な金融資産の割合が大きい」という楽観論がある。これに対し著者は、金融資産でも短期に現金化できるものは少なく、資金繰り倒産のリスクが大きいと正しく反論する。
そのうえで著者は、財務省・日銀は十年間、5~7%の穏やかなインフレを起こして財政再建をめざすつもりとみて、「建設的」な案だと評価する。しかし実際には制御できずにハイパーインフレに陥り、「国民は地獄を見る」と警告する。
だがハイパーインフレなら「地獄」で、マイルドインフレなら「建設的」という考えは正しくない。穏やかなインフレを十年続けると実質国債残高は半減すると著者はいうが、これは国債保有者にとって財産が実質半減することを意味する。
ハイパーインフレは明らかに悪だから、歯止めがかかりやすい。しかし穏やかなインフレはむしろ善という迷信が政府や経済学者、評論家によって流布され、国民の財産を長期にわたり奪い取る。ある意味でハイパーインフレより怖ろしい。
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