法の支配を知らないか
日本国憲法第84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と定める。租税法律主義だ。税金に関する論議がかまびすしい中、この条文はほとんど見向きもされない。
本書の議論はその典型だ。対談者の頭には、行政の恣意的な課税から国民を守ろうという意識のかけらもない。パナマ文書で明らかになったある節税について、池上は「『合法的』に納税額を減らす仕組み」と「合法的」にカッコを付ける。
カッコ付きの「合法的」は言外に、「合法な形式をとりつくろっているが実質違法」という意味を匂わせる。この論法は租税法律主義を有名無実にする。法律で定めた課税要件に当たらなくても財産が保護されないなら、定める意味がない。
佐藤も負けていない。「国家の庇護を受けているエリートが、正当に税金を払わないのは、本来、許されるべきではありません」とのたまう。脱税ならともかく、合法な節税が許されない根拠は、一体何なのか。少なくとも法ではあるまい。
リーダーに法の支配は欠かせない知識のはずだけれども、本書では学べそうにない。佐藤は反ユダヤ主義の台頭を懸念してみせるが、かつてその根底に裕福なユダヤ人への嫉妬や憎悪、法の支配の無視があったことを知らないはずはなかろう。
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