ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)
目をそむけた本質
政治の本質は暴力である。民主主義は政治の一形態である。ゆえに民主主義の本質は暴力である。この単純な事実を、民主主義を擁護する論者は認めようとしない。レトリックでごまかそうとする。しかし、それでは正しい議論はできない。
著者は、ウォール街占拠運動のデモは、暴力から「限りなく離れることを目指しているように見える」という。たしかにデモ参加者の暴力沙汰はないかもしれない。だが彼らが求める格差社会の是正は、課税という暴力なしに実現できない。
著者は、真摯な討議を重視する「熟議民主主義」の考えに共感する。真摯な討議は良い。しかし時間には限りがあるし、民主主義の原則が多数決である以上、結局は多数の意見が少数に強制される。この問題から著者は目をそむけている。
民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、意見を聞いてくれた多数派に「ありがとう」といえるシステムだと著者はいう。しかし意見を聞いてくれたことに対する感謝と、承服できない決定を強制される理不尽や怒りとは別問題だろう。
著者は、民主主義とは「たくさんの、異なった意見や感覚や習慣を持った人たちが、一つの場所で一緒にやっていくためのシステム」とも述べる。だがその理想は、民主主義であれ何であれ、政治では実現できない。真の答えは政治の外にある。
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