2017年2月11日土曜日

杉山正明『モンゴル帝国と長いその後』


戦わない軍隊

歴史上、モンゴルといえば野蛮な騎馬軍団という負のイメージが強い。しかし、それは近代欧州で創作された虚構だと著者は指摘する。実際のモンゴルは情報戦・組織戦を重視してなるべく実戦せず、流血を避ける「戦わない軍隊」だった。

モンゴル騎馬軍団といっても「破壊力など、実はたかが知れている」と著者は言う。「機関銃も鉄砲もない。〔略〕未曾有の強大な暴力集団であるかのようにいうのは、まちがっている」。モンゴル軍の特徴は周到すぎるほどの計画性にあった。

たいてい二年をかけ、敵方について徹底した調査と調略工作を行った。「できれば、戦う前に、敵が崩れるか、自然のうちになびいてくれるように仕向けた」。軍はほとんどの場合、おおむねことが済んだあとを、ただ行進すればよかった。

13世紀のバグダード攻略の際も調査・下工作に加え、交渉と駆け引き、調略・切り崩しを重ねた。敵政権は内部分裂を起こし、無血開城する。約750年後のイラク戦争で、米軍は力に物を言わせバグダードを制圧したが、泥沼にはまる。

著者によれば、元寇におけるモンゴルの力は冷静な分析なしに過大評価されている。一方で、モンゴル時代に中国や韓半島から新たな文化・学術が伝わり、日本文化の基層を築いたたことは忘れられがちだ。不幸な偏見と言わざるをえない。

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