権威は商売になる
本の売りはマルクスの権威なのだから、その主張の正しさは二の次だ。むしろところどころ批判したほうがもっともらしい。ただし全否定すると肝心の権威まで崩壊してしまうから、それはやらない。事実上全否定でもそうは書かない。
本書はそうした勘所を押さえたマルクス本である。著者はまえがきで論語からハイデガーに至る古典を列挙し、マルクスの『資本論』はこれら同様、「危機の時代を読み解き、その解決策を見出すために、とても役に立つ」と持ち上げる。
ところが本文に入ると、経済学者・宇野弘蔵の見解に基づき、マルクスの肝心の主張を否定する。いわく、賃金は景気次第で上がりも下がりもするから、労働者が窮乏化するとは限らない。恐慌は技術革新によって乗り越えていける――。
しまいに著者は「資本主義の暴発をできるだけ抑え、このシステムと上手につき合っていく必要がある」と言う。資本主義の延命に反対したマルクスが聞けば激怒するだろう。しかし死人に口なし。著者はマルクスの権威だけを利用できる。
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