2017年1月6日金曜日

森谷公俊『アレクサンドロスの征服と神話』



英雄の正体

アウグスティヌス『神の国』の逸話によれば、捕らえられた海賊にアレクサンドロス大王が「海を荒らすとはどういうつもりか」と詰問すると、海賊は「陛下が全世界を荒らすのと同じこと」と答えたという。この言葉は英雄の正体を暴く。

本書でも引用されるこの逸話で、海賊はこう続ける。「私は小さな舟でする〔=荒らす〕ので海賊と呼ばれ、陛下は大艦隊でなさるので皇帝とよばれるだけ」。アウグスティヌスは「この答えはまったく適切で真実を衝いている」と評した。

実際、アレクサンドロスの侵略と殺戮の規模は海賊など足元にも及ばない。アムダリア川付近では山にこもった現地住民3万人のうち2万2000人が殺され、ポリュティメトス川流域では砦に逃げ込んだ住民が片端から殺害されたという。

アレクサンドロスは伝説の英雄たちに憧れ、異常なまでに名誉を求めた。先人に対抗しようとインドからの帰途、ゲドロシア砂漠の横断を敢行し、二カ月にわたり死の行進を繰り広げる。付き合わされる兵士たちはたまったものではない。

近代以降、知識人はアレクサンドロスを東西文明融合の旗手や人類同胞観念の先駆者と美化した。著者は個々の資質や性格は魅力的としながらも、「途方もないエゴイスト」と断じ、アレクサンドロス型の権力は「有害」と正しく批判する。

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