2017年1月22日日曜日

西田正規『人類史のなかの定住革命』


道具がもたらす繁栄

機械の急速な発達で人間が仕事を奪われ、社会が荒廃する――。こんな悲観論が世間をにぎわす。だがそれは誤りである。過去、道具や機械の利用は人間社会に繁栄をもたらしてきた。それは本書が描く先史時代からすでに始まっていた。

人類はおよそ一万年前、それまで数百万年にわたり続けてきた移動生活をやめ、定住生活を始めた。著者は「定住革命」と呼ぶ。きっかけとして有力なのはウケ(筌)やヤナ(梁)、魚網といった定置漁具を使った漁業を始めたことである。

定置漁具は携帯が不便だったり不可能だったりするが、その代わり漁獲量の増加が期待できる。製作には繊維や木材を加工する高度な技術が必要で、多くの時間と労力を必要とするが、そのコストに十分見合うリターンを得ることができた。

定置漁具の利用は、集団内の分業にも変化をもたらす。狩や刺突漁に比べると労力がかからず、単純作業の反復であるため、女性や子供、老人でもできる。男性は年間を通じた狩猟活動から解放され、その労力を他の仕事に向けられる。

三方湖近くの鳥浜貝塚(福井県)からは、大型魚やサザエなど海の魚貝類の骨や殻が出土する。縄文時代の男たちが10キロほど離れた海で漁に興じ、戻って家族らと美味を楽しんだ名残りとみられる。道具の利用が生活を豊かにしたのだ。

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