2017年1月20日金曜日

小林登志子『シュメル』


文字は商業が生んだ

知識人はよく商業を軽蔑する。アリストテレスは利潤目的の商業と高利貸しを非難に値する職業と述べたし、荻生徂徠は商人を「骨折らずして、坐して利を儲る者」と批判した。ところが文明に欠かせない文字は、商業が生んだものである。

最古の文字はシュメルで生まれた。本書によれば、その起源として有力なのは、交易活動である。「なにをどこからどれだけ持って来たか」「誰となにを交換したか」といった記憶を目に見える形にする工夫から、文字が生まれたという。

多様な生産物を記録する必要から、羊、牝牛、犬、パン、油などの形をした「トークン」と呼ばれる小さな粘土製品が作られた。これを粘土板に押し付けたのが文字の祖形という。当初は絵文字だったが、後によく知られる楔形文字となる。

一方、現在まで伝わるアルファベットはフェニキア商人によって考案された。交易活動が盛んな地中海に面した古代世界では、フェニキア文字と楔形文字という二つの系統の文字が使われており、それはいずれも商業が生んだものだった。

シュメル人は「都市に住む文明人」を自負した。法律では「やられたら、やりかえせ」式の「同害復讐法」ではなく、傷害事件はお金で賠償できるという進歩的な考え方を採用する。不毛な死刑論議が続く現代日本でも参考になるだろう。

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