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2023-03-27

【コラム】「戦争犯罪」糾弾の欺瞞

木村 貴

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)が「戦争犯罪」の容疑でロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した。昨年2月の侵攻以降、ロシアが占領したウクライナの地域から子供を含む住民をロシアに連行した行為に責任があるとしている。

逮捕状は、ロシア政府で子供の権利などを担当するマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表にも出された。ICCは、日本を含む123の国と地域が参加しているものの、ロシアや米国、中国などは管轄権を認めていない。
ニュースを受け、メディアでおなじみの専門家が一斉に、ICCの応援団よろしく、ロシアの「戦争犯罪」を糾弾している。その多くは、首を傾げたくなるものばかりだ。

立命館大学の越智萌准教授(国際刑事司法)は3月18日の朝日新聞のインタビュー記事で、こう答える。

子どもの強制移送はジェノサイド(集団殺害)にあたりうるものです。子どもは集団の次世代を担い、子どもがいなくなることは、集団全体がいなくなることを意味します。ウクライナのアイデンティティーに対する攻撃であるという点をすくいあげるような犯罪の類型だと考えられます。

ウクライナ戦争について「ジェノサイド」という言葉を使うとき、テレビしか見ない一般人ならともかく、いやしくも専門家なら、ウクライナ政府によるロシア系住民の虐殺が脳裏に浮かぶはずだ。ウクライナ戦争は2022年に始まったのではなく、2014年に民族主義の政府と東部・南部のロシア系住民の内戦として始まったのであり、2021年末までに約1万4000人が死亡している。

この間、政府軍の無差別攻撃を受け、多くの子供やその家族が死亡した。たとえば、「ゴロフカの聖母」と呼ばれるようになったクリスティナ・ジュクさんと生後10カ月の娘キラちゃんは2014年7月27日、ウクライナ軍がドネツク州(ドネツク人民共和国)ゴロフカの町を砲撃した際に殺された。クリスティナさんは町の広場の芝生の上で、娘を抱きかかえたまま死んでいたという。この日の攻撃で、キラちゃんを含め4人の子供たちが命を奪われた
ロシア側によれば、子供を含む市民を「強制移送」したわけではなく、「保護」したのだという。ウクライナ政府による市民虐殺の恐ろしい現実を踏まえれば、別に無理のある主張ではない。ウクライナに親戚も多いロシア国民の声を考えれば、当然だとすら思える。

国連はロシアの訴えにもかかわらず、ウクライナ政府によるロシア系住民の迫害をジェノサイドとは認定していない(そもそも国連が認定し、ウクライナ政府にその責任を問うていれば、ロシアが軍事行動による自力救済に踏み切る必要もなかっただろう)。しかし市民への攻撃があったのは多く記者ら報告からも明らかだ。このような事実を無視し、ロシアの行為を「保護」ではなく「強制移送」だと決めつけるのは、乱暴すぎるだろう。

かりにロシアの行為が「強制移送」だとしよう。それでも、現にロシア系民間人の命を奪っているウクライナ政府の行為を不問にし、ロシアだけにジェノサイドのレッテルを貼り、指弾するのは、どうみてもバランスを失している。グロテスクとさえ言えるだろう。

朝日のインタビューに答えた越智氏は、たとえロシア系の子供たちがウクライナ政府によってむごたらしく殺されても、それよりもロシアによる「強制移送」のほうが、恐ろしいジェノサイドにあたりうるものとして糾弾するべきだと、本気で考えているのだろうか。砲撃で命を落としたドンバスの子供や母親たちのことは、頭にかすめもしないのだろうか。そのような偏った判断で、越智氏の専門である刑事司法の目指す正義の実現ができるとは、とても思えない。これはもちろん、ICCの政治的な判断そのものに言える問題だ。

ICCの問題点は、これだけではない。2003年の活動開始以来、捜査・訴追の対象がアフリカで起こった事件に集中し、一部のアフリカ諸国から批判されている(尾﨑久仁子『国際刑事裁判所』)。さらに大きな問題は、ベトナム、旧ユーゴスラビア、アフガニスタン、イラクなどに対し侵略戦争を行った米国の指導者の罪を裁いていない点だ。

アフガンの場合、ICCは2017年、米兵や情報機関員が戦争中に拷問などの戦争犯罪に関与した疑いがあるとして、正式捜査を申請した。米トランプ政権はこれに強く反発し、2020年にはICCのベンソーダ主任検察官らに資産凍結の制裁を科した。その後、捜査は事実上ストップしたままだ。圧力に屈したと思われても仕方あるまい。アフガン以外の戦争については、ジェノサイドなど重大な戦争犯罪に時効はないにもかかわらず、捜査に着手さえしていない。

米国はICCに加盟していないが、それはロシアも同じだ。プーチン大統領に逮捕状を出せるのなら、米国のブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンの歴代大統領にも出せるはずだ。そうしないなら、ダブルスタンダード(二重基準)だと批判されても当然だろう。

前出の越智氏は記事の出た翌日、ツイッターの個人アカウントでアフガンの一件に触れ、「米国が国際刑事裁判所ICCを支持することには、自国の過去を棚上げしている感は間違いなくあります。(略)ダブルスタンダードの批判とどう向き合っていくかは重要課題です」と正しく述べている。ところが専門家仲間には、このまっとうな意見が気に食わない人もいる。
東京外語大学教授の篠田英朗氏(国際政治)は、越智氏のツイートを引用し、こうコメントした。

「感」というのは、何でしょうね。アフガニスタンの捜査を不許可した理由は、捜査の不可能性。実際、その後許可になった後も、アフガニスタンでは捜査できていない。少なくとも論理的には、相当な捜査の後に逮捕状発行に至った今回のウクライナとは、状況が全然違う。(改行略)

米国には「自国の過去を棚上げしている感」があるという越智氏の発言にカチンときたようだ。篠田氏によれば、ロシアと米国は「状況が全然違う」。なぜなら、アフガンでは捜査ができなかったのに対し、ウクライナでは「相当な捜査」ができたからだという。

なんだか奇妙な議論だ。アフガンの捜査ができなかった大きな理由は、米政府自身が制裁までして圧力をかけたことである。それにICCは火のないところに煙を立てたわけではなく、報道から拷問などの情報を得ていたから、捜査しようとしたのだ。その点、子供の「強制移送」が事前に報じられていたロシアと共通している。いくら「少なくとも論理的には」と断ったからといって、「全然違う」とは米国びいきが過ぎるだろう。

一方、ロシアに対し「相当な捜査」が行われたというのも疑問が残る。

2023-03-26

イラク侵攻という犯罪

コラムニスト、ベン・バーギス
(2023年3月20日)

20年前の今日、米国と連合軍の地上部隊がイラクに侵攻した。前日から「衝撃と畏怖」の爆撃作戦が始まっていた。

2003年3月20日に起こったことは、「ミス」ではなかった。良かれと思ってやったことではなく、「賢明でない」ことだった。大規模に行われた計算された計画的な犯罪であった。何千人もの米国の人々と何十万人ものイラク人が、明らかに無意味な嘘を前提とした戦争で死んだのである。

人的被害


ジョージ・W・ブッシュ大統領がイラク侵攻を命じたとき、私は数カ月間、反戦デモに参加し、教会の地下室で開かれた組織化会議に出席していた。2003年2月15日、「イラク戦争に反対する大ランシング・ネットワーク」は、故郷の通りに4000人の人々を集め、ミシガン州立大学の組合ビルからランシングの州議事堂の階段まで行進させた。これは人類史上最大の組織的抗議行動のほんの一部だった。600万人から1000万人の人々が、戦争計画者に「ノー」を突きつけるために、世界中の600の都市に集まったのである。

しかし連中は聞く耳を持たなかった。そして数カ月間、4000人以上の米国人が国旗のついた棺桶に入って帰還した。その棺のひとつに、高校時代の同級生の遺体が入っていた。彼は17歳の時に陸軍に入隊した。イーストランシングの金曜と土曜の夜、州立大の学生でごった返すバーに行くには、4歳若すぎる。レンタカーを借りるには8歳若すぎる。そして、その人生を投げ出すことを決めた政治家の誰にも、残酷で愚かな「選挙戦争」で投票する資格がないほど若すぎた。

共通の友人はいたが、つるんではいなかったので、どんな動機で入隊したのかはわからない。しかし採用担当者が、米国軍がいかに「自由を守る」ために存在するかについて、ありふれた話をしたと想像せざるをえない。その代わり、同級生は地球の反対側で、大多数のイラク人が激しく憤る占領を押しつける過程で死んだ。

一般のイラク人が受けた影響は、「連合軍」の犠牲者を凌ぐものであった。ブラウン大学のワトソン研究所が今月発表した推計によると、侵攻以来、55万人から58万人がイラクで、さらに混乱が拡大したシリアで死亡し、「予防可能な病気など間接的な原因で、その数倍が死亡した可能性がある」。さらに700万人以上がこの二つの国から逃れ、800万人が「国内難民」となった。

歴史を書き換えるフラム氏


ブッシュ大統領は侵攻の前年の演説で、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」として非難している。サダム・フセイン(大統領)のイラクと、1980年代まで長く血なまぐさい戦争を続けたイラン・イスラム共和国が「枢軸」の一部であるという考えは、北朝鮮を入れる前にすでに奇妙なものだった。しかし、これは9・11後の米国のジンゴイズム(排外的愛国主義)熱の頂点であり、ブッシュ氏の美辞麗句が理にかなっていなくても、国民の大部分がうなずいたのである。

この演説の著者であるデビッド・フラム氏は、ブッシュ氏の中東戦争がもたらす破滅的な結果が明らかになった後、恥を忍んで公の場から身を引いたかもしれない----恥を知る能力があったなら。その代わり、フラム氏は先週、アトランティック誌で「イラク戦争再考」という衝撃的な見出しの記事を発表した。

その中でフラム氏は、戦争がうまくいかなかったことを認め、現実的には「賢明でなかった」かもしれないと認めている。しかし米国が「いわれのない侵略」をしたわけではないと主張し、フセインに力を持たせておくほうが悪かったかもしれないと主張し、イラクとロシアのウクライナ侵攻との比較には歯切れが悪くなる。そして何よりも、イラクでの大失敗が、他の場所での新たな戦争に対する国民の熱意を削いでしまったことを残念に思っているようだ。

米国が世界のために力を発揮できるという信念は、悲しいことに、そして間違ったことに、薄れてしまった。イラクの記憶は、民主主義を脇に追いやり、世界を独裁者に委ねようとする過激派や権威主義者にとって、強力な情報源となった。

フラム氏によれば、1990〜91年の第一次湾岸戦争は、イラクのクウェート侵攻を考えれば「明らかに合法」であり、イラクは停戦の条件に従わなかったから、イラク侵攻は「無謀な侵略」ではなかったという。しかし、もしフラム氏がこの議論に真剣に取り組んでいるならば、たとえば米国がグレナダに侵攻した後やパナマに侵攻した後に、他の国が米国の都市を爆撃したとしても、それは「明らかに合法」であり、その後の停戦に対する米国の違反は、その国全体のクラスター爆撃、侵略、長期占領の理由になると主張しなければならないだろう。

フラム氏は本当にそう考えているのだろうか。誰もがそう思っているのだろうか。

不条理な嘘に基づく戦争


当時、ブッシュ氏とその取り巻きは、「12年前に終わった戦争で停戦違反があったからイラクに侵攻する、それだけで正当化できる」とは言わなかった。そのような根拠は誰も認めないことを知っていたからだ。その代わりに彼らは、(a)サダム・フセインが「大量破壊兵器」を持っていて、(b)長い間地元のイスラム教徒を残酷に弾圧してきたイラクの独裁者が、魔法のようにこの「大量破壊兵器」を宿敵アルカイダと共有しようと決意する----と主張した。ブッシュ政権幹部は、大量破壊兵器がアルカイダの手に渡るという理論的な可能性は、あまりにも恐ろしくて、誰も本当の証拠を待つ気にならないと主張した。ディック・チェイニー副大統領の悪名高い言葉によれば、「決定的な証拠」は、米国の都市上空の「きのこ雲」になるかもしれないという。

ウラジーミル・プーチン(露大統領)がウクライナに侵攻したのは「非武装化、非ナチス化」のためだと主張するのと同じように、これらすべてはナンセンスである。かりに(a)を信じる理由があったとしても、(b)の不条理がそれを無意味なものにしてしまった。

フラム氏は、イラクに大量破壊兵器がなかったことに衝撃を受けたと主張している。そして、ブッシュ政権が大量破壊兵器について語ったことの多くが、意図的な歪曲に基づいていたことが後に判明したのは事実である。しかし当時でさえ、国民に提示された証拠は不十分だった。

2002年、政治学の授業で教授とこのことについて議論したのを覚えている。その教授(かなりリベラルな民主党議員)は、イラクは化学・生物兵器を保有しており、少なくとも核兵器の開発に取り組んでいると話していたのだ。どうしてそんなことがわかるのか、と私が尋ねると、教授は大統領の自信に満ちた数々の発言に言及した。たしかに、これらの主張はすべて、ブッシュ大統領が情報機関から得た情報に基づいている。

しかし私はそうは思わなかった。たとえば、ジョン・F・ケネディ政権が1962年、キューバにあるソ連のミサイル基地の監視写真を全世界に公開したように、決定的な証拠があるのなら、なぜそれを共有しないのだろうか。

米国では、パウエル国務長官が炭疽菌の入った小瓶を振り回しながら、イラクの脅威を喧伝していた。大学の反戦学生たちと一緒にパウエル氏の演説を見たが、ある場面で彼が傍受したイラクの通信に「トラック」という曖昧な表現があり、パウエル氏はあたかもそのトラックとは移動式の化学兵器研究所というのが唯一の解釈であるかのように主張したことを覚えている。こんなことを真に受けている人がいることに驚いた。

決して忘れてはいけない


その懐疑的な態度は、私だけのものではなかった。あの2月には、600万人から1000万人の人々が反戦デモに参加した。世界の反戦運動はまったく正しかった。そして2003年に間違った側にいた人は誰も、それを忘れることを許されない。デビッド・フラム氏のような恥知らずの異常者も、弱く見られるのを恐れて戦争に賛成した両党の政治家も、ブログやニューヨーク・タイムズ紙の論説でブッシュ政権をかばった、いかにも賢そうな中道派の識者の誰も、忘れてはならない。

これらの人々は誰一人として、罪のない間違いを犯してはいない。かろうじて首尾一貫したナンセンスに基づく戦争で、地球の反対側にある社会を破壊し、その過程で最低でも数十万人を殺害しようと公然と計画している陰謀家たちと一緒になって、断固として支持したのだ。(兵器メーカーの)ハリバートン社やレイセオン社、ロッキード・マーチン社の株主にとっては非常に良い戦争であり、他のほとんどすべての人々にとっては悪い戦争だった。

これは「失敗に学ぶ」状況ではない。

イラクへの侵攻は「ミス 」ではなかった。

犯罪だったのだ。

そして許しがたいことだ。

The Invasion of Iraq Wasn’t a “Mistake.” It Was a Crime. [LINK]

2023-03-25

犯罪者の大統領

コラムニスト、ソフラブ・アフマリ
(2023年3月21日)

20年前、米国主導の連合軍は、サダム・フセインの大量破壊兵器を廃棄し、アルカイダへの支援を停止し、イラク国民を解放することを公式目標として、イラクに侵攻した。本誌(アメリカン・コンサーバティブ誌)が当時、(ギリシャ神話の預言者)カサンドラのように警告したとおり、この戦争は歴史的な失敗となった。だから当然、戦争責任者であるジョージ・W・ブッシュは今、「責任ある」賢者としてメディアの輝きに浴しているし、反戦派のドナルド・トランプは刑事告発に直面している。
ブッシュの戦争がもたらした結果を簡単に振り返ってみよう。数千人の米軍兵士が死亡し、イラク人の犠牲者は数十万人にのぼった。戦争は米国の納税者に3兆ドル、国民一人当たり約9000ドルの負担を強いた。大量破壊兵器は発見されなかった。サダムとアルカイダの関係は、ディック・チェイニー(元米副大統領)とその妻リンがウィークリー・スタンダード誌に書いたところによると、「深く、長く、広範囲に及ぶ」ものだったが、フェイクニュースであることが判明した。

ブッシュ政権は、侵攻直後の計画を立てず、イラクの貴重な考古学的遺産を破壊する略奪の乱痴気騒ぎを引き起こす条件を整えた。2003年4月、36時間にわたる略奪で、国立博物館から約1万5000点が持ち去られ、その半分以上がいまだに回収されていない。当時の国防長官ドナルド・ラムズフェルドは、「国中にそんなにたくさんの壺があっただろうか」と冗談を言った。

同じように指導と監督に失敗した結果、イラク郊外のアブグレイブにある米国経営の刑務所で起こったサディズムが綿密に記録されることになった。ニューヨーク・タイムズ紙が10年以上経ってから社説でまとめたように、そこでは、「米国人の管理下にあった被収容者は、レイプされ、殴られ、ショックを受け、裸にされ、食事と睡眠を与えられず、手首を吊られ、死の恐怖にさらされた」。ジェーン・メイヤーが(ニューヨーカー誌で)みごとに報告したあるケースでは、被拘禁者が殺害された。

もう一つの大失敗は、ブッシュ政権がサダム政権時代の党員を公務員から排除するために組織的に進めた「脱バース化」であった。その結果、重要な局面で統治能力を欠くイラク政府が誕生することは予想できた。さらに危険だったのは、将来の「イスラム国](IS)を形成することになる数十万人のスンニ派イラク人の没落と、恨みの増大である。

結局、イラクとシリアにおける「イスラム国」の台頭は、ブッシュ政権の足元から始まったと言わざるをえない。ブッシュ政権は、すでに繊細な民族や宗派の断層によって引き裂かれていた地域を揺るがし、その跡に統治されず、統治できない空間を残した。その結果、ヤジディ教徒がほぼ集団虐殺され、世界で最も古い歴史を持つイラクのキリスト教社会は言うまでもなく壊滅し、その人口は戦前の150万人から25万人にまで減少してしまった。イラクと政権交代の標的となったシリアの不安定な状況は、100万人の移民を欧州に送り込み、欧州大陸で10年間にわたる政治的混乱が続く舞台を整えた。

米国の傷痍軍人たちは、ブッシュ政権の手によって、ほとんど良い結果を得ることができなかった。ウォルター・リード陸軍医療センターでは退役軍人が長い待ち時間だけでなく、ゴキブリ、ネズミ、腐敗したカビに悩まされていることが、ワシントン・ポスト紙の暴露記事で明らかになった。ポスト紙が発見したように、この制度全体が、最も治療を必要としている人たち、つまり、記録がないためにイラク(およびアフガニスタン)での従軍を証明できないままになっている人たちの治療を拒否するように設計されているように思われたのである。

より大きな戦略的影響は、あまりにも身近なものである。地域的な対抗軸を取り除くことで、米国は結局イランに力を与えることになった。今日、テヘランはイラクの主要な外部勢力として機能している。文明の影響圏を信じるなら、これはそれほどひどいことではないのかもしれない。しかし米国人タカ派の論理に従えば、この結果は大失敗である。結局のところ、イランは「テロとの戦い」の勝者の一人になるはずはなかった。しかし、結果的にそうなってしまった。

このような事態を引き起こした大統領は、現在、有名なメディア関係者である。彼は絵を描き、その芸術的な取り組みを本にして出版し、広く賞賛を浴びている。ブッシュはプーチンの「残忍なイラク侵略」(ウクライナのことを指していた)と思わず本音を漏らし、他の人々とともに笑い、平然と前に進んでいる。一方、後継者のトランプは、久々に新たな戦争を起こさない大統領となった。

ニューヨーク州マンハッタンで刑事訴追を受けているのはブッシュではなくトランプであり、ブッシュやチェイニーを称賛するのと同じ体制派が着手した、トランプの行動に関する数十の捜査のうちの一つである。ポルノ女優に口止め料を払ったことで、トランプは刑事責任を問われるべきなのだろうか。私にはわからないし、気にもしない。なぜなら、トランプの犯罪がどのようなものであれ、それはジョージ・W・ブッシュの「合法的」犯罪に比べれば取るに足らないものだからだ。

A Criminal President - The American Conservative [LINK]

2023-03-24

米国はロシアと和平交渉を

クインシー研究所理事、ジョージ・ビーブ
(2023年3月20日)

ウクライナ戦争の見通しを形成する3つの大きな要因が動いている。それぞれが他の要素に影響を与え、潜在的に補強し合っている。これらが相まって、米バイデン政権が望む結果へと舵を切る能力を大きく制約するようなダイナミズムが、まもなく生まれるかもしれない。
第一は、戦況の変化である。昨秋にプーチン(露大統領)が命じた動員により、ロシア軍は(東部ドネツク州の要衝)バフムトの包囲に近づきつつあり、ウクライナ軍は昨夏以来の大きな後退の危機に瀕しているように見える。この戦いは、ロシアには時間とコストがかかるが、ウクライナは莫大な犠牲を払っている。 

ワシントン・ポスト紙によると、ウクライナの防衛は、弾薬と経験豊富な兵士の深刻な不足に悩まされているという。米国や北大西洋条約機構(NATO)の軍隊を派遣すれば、ロシア軍と直接衝突し、核紛争に発展する可能性がある。西側諸国の戦争用の砲弾やミサイルの備蓄は減少しており、それは米国の他の地域での軍事態勢にも影響を与える。そして米国とその同盟国は、ウクライナの緊急のニーズに応えるには、国防製造を迅速に増強できないことが明らかになりつつある。 

ロシアがバフムトを占領したことが、ウクライナの領土をより多く征服するために極めて重要な意味を持つかどうかは議論の余地がある。しかし戦争は地図上のポイントを押さえれば勝てるというものではなく、相手の戦力や補給能力を疲弊させることも同様に有効である。消耗戦の場合、ロシアはウクライナよりもはるかに多くの人員と軍需産業の基盤を持っている。かりにバフムトへのロシアの攻撃を食い止めることに成功したとしても、ウクライナのゼレンスキー大統領が限られた資源をバフムトの防衛に全面投入すれば、ウクライナが他の場所で有効な反撃を行い、クリミア半島を含むロシア占領地を取り返すという公約を達成する能力を失わせることになりかねない。 

もう一つは、少なくとも同様に重要な米国の国内政治である。数カ月間、戦争に対する米国人の世論は二極化しており、共和党は米国の戦争目的やウクライナに対する米国の支援の程度を疑問視するようになっている。1年前、米国がウクライナに「過剰な支援」をしていると考える共和党員は10%未満だったが、最近のキニピアックの世論調査によれば、その数は50%近くになっている。一方、民主党の62%は、米国の支援は「ほぼ適切」と考えている。 

戦場からの悲痛な報告が米国人の楽観主義を削ぎ、2024年の大統領選挙に向けた運動が過熱するにつれ、この党派間の溝は深まるだろう。フロリダ州のロン・デサンティス知事とドナルド・トランプ前大統領は、共和党の有権者の4分の3以上の支持を得ているが、ウクライナの「平和」を明確に訴え、米国の関与拡大に反対しており、バイデン大統領の「白紙委任」による、目的が定まらない、達成不可能な資金提供とは対照的な姿勢である。バイデン氏のウクライナ政策は、過去1年間は超党派の圧倒的な支持を得ていたが、今後は政治的な反発が強まる可能性がある。 

米国内でウクライナをめぐる議論が活発化するなか、この戦争における最大のワイルドカードである中国が活発化し始めている。米国は非公開の情報をもとに、中国がロシアへの軍事援助を検討していると主張し、中国に対して公式に警告している。一方、中国の習近平国家主席は今週、モスクワでロシアのプーチン大統領と会い、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と電話で会談する準備を進めているが、バイデン大統領やその高官らは、中国が最近発表したウクライナ和平案を拒否し、中国のロシアびいきは調停役として失格だと主張している。

米国の懸念とは裏腹に、中国がロシアに軍事的な支援をすることはないだろう。そのような支援は、経済の不確実性が高まるなか、中国にとって最も重要な貿易相手国である欧州に対する立場を大きく損なうことになる。習主席はロシアが戦争に負ける危険があると思えば、こうした関係を危険にさらすことをいとわないかもしれないが、そのような結果が迫っていると考えている兆候はない。   

しかし中国がピースメーカーになるチャンスは、米国の多くの人々が考えているよりも大きい。プーチン氏のウクライナでの不手際により、ロシアは経済的にも地政学的にも中国に圧倒的に依存するようになり、中国はロシアに対して大きな影響力を持っている。欧米を疎外したプーチン氏は、最も重要な国際的パートナーである中国が協議に応じると主張すれば、それを阻止する余裕はないだろう。逆にウクライナは、中国がロシアへの軍事支援を検討することが、戦争の帰趨を左右しかねないと認識しているに違いない。ウクライナ側が、米国は戦場で勝利をもたらす気もなければ、ロシアを納得のいく決着に導くこともできないと認識すれば、中国の仲介役としての役割は、ウクライナにとって魅力的なものとなる。 

これらの要因が組み合わさると、どのようなことが起こるだろうか。バイデン政権はこれまで、ウクライナの交渉姿勢は時間とともに強化されるし、交渉の決断は米国ではなくウクライナで行うべきで、ロシアは現在占領している領土を大幅に失うまでは交渉のテーブルに着くことはできない、と主張してきた。しかし夏にはウクライナの戦況が悪化し、米国人の支持に対する信頼が失われ、交渉力が低下する可能性がある。ウクライナとロシアはそれぞれ異なる理由から、中国を潜在的な仲介者としてしだいに魅力的に感じるようになるかもしれない。そのような魅力を感じない米国は、ウクライナに対してかなりの影響力を保持しているため、中国が主催する和平プロセスを台無しにする可能性もある。しかしバイデン氏は、和解に反対するように見えることで、国内外に影響を及ぼすリスクを冒したいのだろうか。 

バイデン政権は、ロシアとの交渉にアクセルを踏み込むことで、この潜在的な罠から抜け出す方法を見出すことができる。例えば、ウクライナのNATO加盟という難問について、プーチン氏が戦争の核心とみなしながら、バイデン氏が今のところ議論を拒否している問題について、米国が議論する用意があると控えめにロシアに合図すれば、こうした力学を変え、ロシアの和解への態度を再構築する助けになるかもしれない。

しかし、米国の外交のチャンスは狭まりつつあるといっても過言ではない。

Biden's looming trap in Ukraine - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-23

イラク戦争、勝者は中国

国際政治学者、アンドリュー・ベイセヴィッチ
(2023年3月20日)

ジョージ・W・ブッシュ大統領が米軍にイラク侵攻を命じてから20年、私たちは今、あの紛争がもたらした結果についてやっと気づき始めたところである。誰が勝ったのか。米国でないことは確かである。
イラク戦争への直接的な関与を避けた中華人民共和国が、勝利の栄冠を手にしたように見える。中国はイラク戦争に直接関与することを慎重に避けたのである。中国が選択したのは、当たって砕ける戦争ではなく、外交であった。その努力は今、報われる兆しを見せている。

ブッシュとその部下が作り出したプロパガンダの霧を抜けると、「イラクの自由作戦」はイラク人の解放とはほとんど関係がなかった。実際の目的は、ペルシャ湾で誰が主導権を握っているかという疑念を打ち砕くことであった。米国は9・11の屈辱(19人のハイジャック犯による残忍な攻撃を防げなかった)を味わったことで、地域的優位性が疑われるようになった。(イラク大統領)サダム・フセインに素早く決定的な勝利を収めれば、米国に牙をむく国家や集団に教訓を与えることができる。

しかしこの戦争はブッシュ政権の脚本どおりにはいかなかった。米国が被った具体的な犠牲、すなわち何千人もの米軍兵士の死、負傷、身体切断、そして何兆ドルもの出費について、改めて説明することは差し控えたいが、何も利益をもたらさなかった。米国のイラク侵攻は、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻、1990年のサダム・フセインによるクウェート併合と並ぶ、現代の自業自得のランキングに名を連ねていることは言うまでもない。

戦争の副次的影響を正確に測定することはさらに難しい。しかし少なくとも、中東を不安定化し、米国政治に悪影響を及ぼしたことは事実である。簡単に言えば、この無謀な戦争に乗り出した米国の無謀さが、過激派組織「イスラム国(ISIS)」の出現とドナルド・トランプ氏の国政進出に大きく貢献したのである。

中国は慎重にも、米国の愚行への道を邪魔しないことを選択し、今や米国の犠牲の上に利益を得る立場にあることに気づいた。中国がサウジアラビアとイランの国交回復を仲介したことは、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、「誰にも予想できなかった、大混乱の展開」の一つである。

あるいは、ペルシャ湾での軍事的覇権を追求する米国の強引なやり方が生み出した混乱を、中国が自らに有利になるように利用する、最も賢明な方法の一つかもしれない。

この中国主導の平和構想が、果たして平和に近いものをもたらすかどうかは、まだわからない。しかしそれでも、心理的な影響は大きい。タイムズ紙は、米国は「重大な変化の瞬間に傍観者であることに気づいた」とし、中国は「突然、新たなパワープレーヤーに変身した」と報じている。

ここにはかなりの誇張表現がある。傍観者だろうか。そんなことはない。実際、国防総省は中東全域に基地を置いているが、中国はほとんど置いていない。とはいえ、米国にとってきわめて重要な世界の一部で、米国人以外の人間が主導権を行使することは、米国の権力者にとって心外なことである。

それでもなお、この問いには価値がある。中国の不意打ちの反撃は、米国に検討する価値のある機会を提供するのではないか。米国が、米国の利益にかない、米国の価値観を反映した地域秩序の確立を期待してイラク戦争に踏み切ってから20年、そろそろ次の段階に進むべきときなのかもしれない。自国の安全と繁栄にとって、ペルシャ湾の重要性を見直すべき時なのだろう。

中国の習近平国家主席は、この地域を取り巻く古くからの敵対関係を整理する責任を負いたいと考えているのだろうか。それなら、やらせてみたらどうだろう。ペルシャ湾の石油は、中国のほうが米国よりはるかに必要としているのだから。

米軍がイラクに進駐してから20年という節目は、「我々は失敗した」という事実を認識する絶好の機会かもしれない。米国が撤退し、中国がどんな代償を払い、どんな重荷を背負うことになるのか、試してみることにしよう。それは興味深いものになるはずだ。

And the Winner Is... - The American Conservative [LINK]

2023-03-22

戦争の白紙委任状

米上院議員、ランド・ポール
(2023年3月16日)

先日、上院外交委員会で、2002年のイラク戦争のための軍事力行使権限承認(AUMF)の撤廃を議論した。イラク戦争はとっくに終わっている。すでに終わった戦争を終わらせることは、全会一致で合意されていると思うだろう。   

しかしイラク戦争権限承認の廃止だけで終わってしまっては、何も変わらないのではと恐れる。
アフガニスタン戦争の権限承認も廃止するという追加のステップを踏む必要がある。9・11のテロリストを裁くための2001年の承認は正当なものだったが、イラク戦争と同様、アフガン戦争もとっくに終わっている。にもかかわらず、承認は残ったままだ。

いつどこで戦争をするのかを決めるのは議会の仕事である。大統領は戦争を遂行する権限を持つが、戦争を開始する権限はない。(建国の父の一人)ジェームズ・マディソンは、行政府は最も戦争をしやすいので、憲法はその権限を立法府に委ねたと書いた。

マディソンの言葉には、知恵がある。両党の大統領は9・11の権限を濫用し、イラク、シリア、イエメン、ソマリア、リビア、ニジェールなどで戦争に踏み切った。

イラク戦争承認の廃止は、正しい方向への一歩である。しかし忘れてはならないが、バイデン政権が廃止に反対しないのは、米国の現在の軍事活動が承認に依存していないからではない。言い換えれば、政権はそれを必要としていないのだ。2002年のイラク戦争承認だけを撤廃しても、何も変わらない。いつどこで戦争をするかという決定は、依然として行政官の気まぐれだけに左右されることになる。

最近の大統領はみな、合衆国憲法第2条に基づき無制限の戦争権限を誤って主張し、少なくとも19カ国での戦争を正当化するために2001年9月11日の承認を利用している。

しかし9・11の権限承認は、「2001年9月11日に発生したテロ攻撃を計画、許可、実行、援助した者、またはそのような組織や人物をかくまった者」に対してのみ武力を認めている。

9・11テロとの関係で狭く定義されたこれらの組織に対する武力行使を認めているのである。世界的な対テロ戦争やイスラム過激派に対する承認は与えられていない。

何年もかけて、この権限承認の対象となる集団の定義が広がっていった。つまり大統領は、9・11への関与との関係がいかに希薄であっても、あらゆる集団に対して戦争を仕掛ける権限を主張できるのである。

2001年の議会では、少なくとも19カ国で行われる数十年にわたる戦争に賛成しているとは、誰も思っていなかった。

議会の仕事は、単に戦争に議会のお墨付きを与えることではない。その重要な仕事は、私たちの息子や娘をいつどこの戦場に送るかを決めることである。

最近、私は委員会の仲間に尋ねた。この中に、現状を承認することに投票する人はいるだろうか。ほぼ20カ国の軍事作戦を承認することに票を投じるか。いつどこで戦争をするかという問題について、議会は議論すべきだと思わないか。

2001年9月11日の権限承認を廃止すれば、米国民を危険にさらすことになると主張する人もいる。

それなら、その議論をしようではないか。私が提出した修正案は、これらの作戦を継続すべきかどうかについては言及していない。2001年9月11日の権限承認を半年後に無効化するものだ。その間に、どこでどのように武力行使を許可するか、きちんと議論すればよいのだ。

戦争は時に必要だが、戦争に踏み切るかどうかは、一人の人間(大統領)の判断で決められるべきものではない。イラク戦争とアフガン戦争に対する議会の承認を終了させることで、戦争の権限を米国民とその代表者に戻すことができる。

Time to rip up the president's blank check for war - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-21

対話の外交、脅しの外交

作家、グラハム・フラー
(2023年3月13日)

米国のニュースメディアでは、ささやかな記事にしかならない。しかし中国は、イランとサウジアラビアという強力だが敵対関係にある両国間の外交的和解を促し、パラダイムシフトを成し遂げたばかりである。時間が経てばわかることだが、この出来事は中東の力関係を変化させるだけでなく、中国の外交的役割の増大における新たな段階を示すものでもある。
とくに米国が外交を軽視し、軍事力や懲罰的制裁による影響力の行使を優先し、米国の野心や「ルールに基づく国際秩序」という概念に対して他の国家を「埒外」とする構えを見せる現在、米国の戦略思考における紛争の「必然性」や「永続性」について新たな考えを呼び起こすことが期待できるかもしれない。

このことは、歴史上最も古い問いの一つである「なぜ、国々は実際に戦うのか」という問いを実際に提起している。学者たちはさまざまな答えを提示している。権力拡大や支配への欲求、資源をめぐる争い、不安や恐怖、あるいはイデオロギーや信仰、世界観の対立。あるいは、狂信的な指導者の危険な野望を実現するために、各国は戦争を起こすのかもしれない。むさぼり、競争し、争い、破壊し、殺すという、人間のDNAに刻まれたものなのかもしれない。

もちろん紛争の起源に関するこうした「深い」解釈は、危険でもある。戦争を許容することにもなりかねない。紛争や戦争に宿命的なもの、定められたものがあることはまずない。人間にはつねに選択肢があり、指導者には主体性がある。

戦争は必然なのか。かつてイギリスとフランスが不倶戴天の敵同士であり、13世紀から19世紀にかけて23回もの戦争を繰り返していたことは「よく知られて」いた。しかしある日突然、両者は戦争をしなくなった。そして両国は16世紀から第二次世界大戦の終わりまで、地政学的に険悪な敵同士であったことも「よく知られて」いた。現在では、両国は緊密な協力関係にある。

「歴史の教訓」は、ロシアと中国が東シベリアの権力と影響力をめぐって避けられない競争をしている、つまり「天敵」であるということだ。しかし時代は変わり、突然今日、ロシアと中国が緊密で戦略的な協力関係にあることがわかった。

つまり、これらの対立に「必然性」はないのである。時代は変わりうるし、実際に変わる。指導者も変わる。和解の機会は生まれるし、生み出すこともできる。中国がイランやサウジに対して行ってきたことは、その一部である。

では政府や指導者は、長期にわたる敵対関係をどうしたらたやすく変えることができるのだろうか。興味深いのは、2000年から2016年にかけてのトルコの外交政策の劇的な変化である。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領のかつての理論家であり外相であったアフメト・ダウトオール氏の知的指導のもと、トルコは外交政策の転換点を宣言した。地域諸国との関係が悪かった約50年間の後、ダウトオール氏は「敵ゼロ」という新たな外交ビジョンを宣言した。ほぼ一夜にして、トルコはほぼすべての近隣諸国との長年の摩擦に対処し始めたのである。これは政策的な選択であった。もちろん万能薬にはなりえない。そして残念ながら、トルコはシリア内戦でこうした政策の一部を放棄してしまった。

人間が「もう戦争はしない」と決めれば戦争が終わると考えるのは、ナイーブである。個人、国家、国際のあらゆる人間関係には、ある程度の摩擦や競争がつきものである。問題は、摩擦に対してどのように行動するかということだ。いつ、誰にとって、戦争が望ましいものになるのか。

当然のことながら、米国の政策立案者は、ダウトオール氏の外交政策ビジョンに不満を抱いていた。米国が主導する北大西洋条約機構(NATO)のゲームプランに従い、他のすべての国に米国の敵国認識を認めさせ、支持させることを望んでいたのである。

しかし今、中国は、相互利益の得られるすべての国とビジネスを行うことを宣言している(台湾は現在進行形の難問だ)。米国とは対照的に、中国は戦争状態にあるあらゆる国々と取引することができると考えている。イランやイスラエル、パレスチナの指導者たち、戦争中のサウジやイエメンとも対話する。

これとは対照的に、米国が真剣に関われない国の数はますます増えている。キューバとも、イランとも、パレスチナの重要政党ハマスとも対話しないし、ベネズエラやシリアの政府にも関わらない。これは米国自身の外交的な機動力を事実上制限する、自業自得のようなものである。ロシアや中国との関係が危機に瀕するのに、国務長官はどちらの国の担当者とも長期にわたり、ほとんど個人的な接触を保つことはない。幹部外交官らは、外交の意味や目的を理解していないようだ。他国との対話を拒否したり、他国を脅したりすることが強さにつながると信じているのかもしれない。しかし、それは米国から影響力を奪うことでもある。

中国は、米国が世界を見ているイデオロギー的な色眼鏡なしに行動する能力によって、信頼を得ることができる。イランとサウジアラビアの国交回復を監督することで、それを実現しようとしている。しかし米国は、この危険な地域紛争からの脱却を歓迎するどころか、和解に狼狽しているように見える(中国が次にアフリカで何をするのか注目したい)。

中国は米国の弱点を皮肉に利用しようとしているだけで、米国が主張する人権や民主主義の価値には何の関心もない、と言う人もいるかもしれない。その同じ米国は、民主主義と人権を都合によって支持し、これらの価値を友人への贈り物ではなく、敵に対する武器として利用することで悪名高いと、別の人は言うだろう。

もし米国が突然、過去10年間のトルコのような政策を採用し、安全保障の不可分性、つまり、地域のすべてのプレーヤーが安全だと感じない限り、真の地域の安全保障はありえないという考えを盛り込んだらどうなるだろうか(ウクライナを考えてみてほしい)。あるいは、今日の中国の現実的な政策を採用するとしたら。自分たちが気に入らない相手、さらには海外で制裁を実施しない友好国に対して、効果のない制裁を延々と繰り返すのではなく、もっと大きな柔軟性を得ることができるのではないだろうか。

トルコや中国の外交政策が理想的だと言っているわけではない。たとえば、南シナ海における中国の強引な政策には、批判すべき根拠が多々ある。しかし全体として、中国は経済発展と紛争減少を最優先課題としており、このメッセージは南半球で非常に効果的に響くものである。

これはかつて米国が理想としたものだったが、ソ連が崩壊し、米国は「世界唯一の超大国」という考えに酔ってしまった。それ以来、世界が変化しても、その地位を維持するためにできる限りのことをすることに執着してきた。こうして米国はきわめて不健全としか言いようのない地政学的ビジョンを採用している。すなわち、中国やロシアが世界に及ぼす影響を阻止するのに必要なことを行い、自分たちがまだ主導権を握っていることを証明しようと必死になっているのである。これに対して中国は、欠点はあるにせよ、より現実的で、観念的でないグローバルな外交官として活躍できる土壌を見いだしつつあるようだ。

これは米国に深い再考を促すべきものではないだろうか。

In great power diplomacy, is China beating US at its own game? - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-20

平和は異常、戦争は正常?

ジャーナリスト、ケイトリン・ジョンストン
(2023年3月12日)

オーストラリアの主要メディアにおける対中国戦争プロパガンダの激化という驚くべき事態について、今週ずっとわめき散らしていたのだが、この汚物を国民の意識に押し込んでいる最低の変人たちに対する罵詈雑言が尽きることなく、もう数カ月間叫び続けることができるような気がしている。原子時代の世界大戦への道を公然と開こうとする人々に対しては、本当にいくら言っても言い足りない。少しでもまともな世界であれば、このような怪物は人間の文明から追い出され、血の渇きだけを頼りに荒野で冷たく孤独に死んでいくことだろう。
この最新のプロパガンダの推進中に語られた最も不愉快なことの一つは、シドニー・モーニング・ヘラルド紙とエイジ紙が、公式っぽい記者会見でいんちきなタカ派意見を共有するために採用した5人の「専門家」(帝国が資金提供した対中タカ派という意味)による共同声明にある。この文章を初めて読んだときから、頭の中でこの段落がグルグルと回っている。

オーストラリアは覚悟を決めなければならない。最も重要なのは、心理的な変化である。自己満足に代わって、緊急性が必要だ。ここ数十年の平穏は、人類にとって当たり前のものではなく、異常なものだった。オーストラリアが歴史から逃れるための休暇は終わったのだ。オーストラリア国民は恐怖を感じるのではなく、我々が直面する脅威、我々が下すべき厳しい決断に注意深くなり、自分には権限があることを知るべきである。このような考え方の動員は、中国との対決を成功させるための不可欠な前提条件である。

連中が何をやっているか、おわかりだろうか。このプロの対中タカ派は、平和を奇妙で「異常なもの」とし、戦争を通常の状態であると明確に位置づけようとしているのである。オーストラリア人に必要なのは、平和が正常で健全だという考え方から、戦争が正常で健全だという考え方への「心理的な変化」と「考え方の動員」だと言っているのだ。

もちろん、それは大間違いであり、正気の沙汰とは思えない。正常で健康な人は誰しも、平和を当然のことと考え、暴力は可能な限り避けなければならない、めったにない憂慮すべき異常事態だと考える。

このことは、私たち自身の私生活における通常の人間としての経験からも明らかだ。たとえば、私たちの誰もが、大半の時間を殴り合いの喧嘩に費やしているわけではない。起きている間の大半を身体的暴行に費やしている人は、おそらくとっくの昔に刑務所に収容されているだろう。もし殴り合いの喧嘩をしたことがあるなら、それはめったにない憂慮すべき出来事として経験し、体中のすべてが、これは異常で不自然なことであり、できるだけ早く終わらせなければならないとずっと叫んでいたことを思い出すだろう。健康な人の場合、暴力は異常なものとして、暴力の不在は正常なものとして経験される。

この正常で基本となる態度から、帝国は情報操作で時間をかけてすべての人を「心理的に変化」させ、代わりに絶え間ない紛争と危険を当たり前のものとして受け入れるようプロパガンダする。このような変化は、帝国、戦争利権者、プロの戦争宣伝家にとって有益であり、他のすべての人にとって完全に有害なものである。私たちは自分の利益に直接害を及ぼす物質的条件を受け入れるようになり、文明として狂気と神経症に陥る。

しかし、それはいつでも目にすることだ。たとえば、何年も駐留している中東のある地域から帝国軍を撤退させようとする動きが出たり、今年の軍事予算の引き上げを見送ろうというわずかな議論が起こったり、暴力で荒廃した海外地域への武器投入が賢明で有益だという考えに対する疑念が生じたりしたときなどだ。

絶え間ない戦争挑発と軍国主義の道から離れようとするほんのわずかな動きが始まると、評論家や政治家は「孤立主義」「宥和主義」といった言葉を乱発し、デスカレーション(紛争激化の緩和)、非軍事化、外交、デタント(緊張緩和)といった呼びかけを、核兵器の破滅に向かって全速力で疾走するという正常で責任ある現状と対照的に、異様で異常なものに見せようとする。

連中の仕事は、平和を異常化し、戦争を正常化することである。つまり、健全な人間である私たちの仕事は、その正反対のことをすることだ。戦争の恐ろしさと、無謀な瀬戸際外交によって解き放たれる底知れぬ悪夢をすべての人に理解してもらい、平和こそが健全であることを理解してもらい、それが当たり前のものとなる未来を想像してもらわなければならない。

あいにく私たちが逆らっているのは、世界中に広がる帝国の力を背景とした情報操作装置である。しかしさいわい、私たちのビジョンは真実に基づいており、誰もが心の奥底でそれを感じ取っている。平和が正常であり、戦争が異常であると人々が考えるようになるために必要なことは、人々がすでに心の中で知っていることを思い出させることである。

Imperial Narrative Managers Always Try To Make Peace Seem Unnatural – Caitlin Johnstone [LINK]

2023-03-19

【コラム】政府の戦争プロパガンダ

木村 貴

もし財政問題を取り上げるテレビの報道番組で、財務省の研究所の研究員が「専門家」として出演し、「財政再建には増税が絶対に必要」と主張したら、そのまま信じるだろうか。農業問題を扱う番組で、農水省の研究所の研究員が「農業の持続的発展には補助金が不可欠」と論じたら、信じるだろうか。産業問題がテーマの番組で、経産省の研究所の研究員が「どんなに失敗しても官民ファンドの活用は重要」と訴えたら、信じるだろうか。
政府の職員は、たとえ研究員であれ、テレビ番組で政府に都合の悪いことは言わないものだという常識とメディアリテラシーがあれば、素直に信じたりはしないだろう。むしろテレビ局に「政府のプロパガンダ(政治宣伝)はやめろ」と抗議するかもしれない。テレビ局もそれがわかっているから、そもそも政府の研究員を「専門家」として出演させることはあまりない。

ところが不思議なことに、ある問題に限っては、政府の研究員が報道番組に頻繁に招かれ、政府見解に沿った主張を巧みに展開する。そして多くの視聴者が「さすがは専門家だ」と感心し、賛同する。それは軍事問題だ。

1年余り前にウクライナでロシアの軍事行動が始まって以来、防衛省の研究機関である防衛研究所の研究員がテレビをはじめとするメディアに連日登場するようになった。とりわけ登場回数が多く、視聴者らの人気も高いのが、防衛政策研究室長の高橋杉雄氏だ。

高橋氏はなかなかのイケメンで、語り口もソフト。サッカーやフィギュアスケートのファンでスイーツ好きというキャラクターも人気の理由のようだ。個人としては「いい人」なのかもしれない。しかし、そういう人であっても、いやそういう人だからこそ、発言には注意しなければならない。

高橋氏の発言をいくつか見ていこう。まずはウクライナ戦争が始まってまもない昨年3月18日に放送された、「報道ステーション」(テレビ朝日)だ。戦火を避けてウクライナからポーランドに逃れ、サッカー選手になる夢を奪われた少年らへの取材映像に続き、黄色のシャツにブルーのネクタイというウクライナカラーに身を包んだ高橋氏は、声を詰まらせながら、次のように切々と訴えた。

人間として、専門家であるとかジャーナリストであるとか、そういうことではなくて、この時代に生きた人間として、我々は今ウクライナで起こっていることから目を背けてはいけないし、見届けなければいけない。そしてそれを忘れてもいけない。忘れずにいて、この惨劇を引き起こしたウラジーミル・プーチン(露大統領)という人間を、歴史の法廷に立たせ続けなければいけない。僕たちにできることは何もないですけれども、それぐらいのことはできる。そう思いますね。

視聴者の反響は大きかった。この発言部分をシェアした報道ステーションのツイッター公式アカウントには、「全く同感です。私もこの時代に生きる一人の人間として訴えたい、いかなる理由があろうとも主権国家であるウクライナに侵攻するなど決してあってはならないこと」「とても心に刺さりました。専門家の方が専門家としての意見ではなく、憤りを抑えながらひとりの人間として本心からでた言葉だと思いました!」「心に訴える言葉とはこういう言葉だなと感じました。歴史の法廷に立たせ続けるそれくらいのことは出来る、考える夜にしよう」などと絶賛するコメントが付いている。

いつもは冷静な高橋氏が珍しく感情をあらわにしたことで、視聴者の心を強くとらえたようだ。しかしよく考えると、腑に落ちないことがある。

高橋氏は「歴史の法廷」を重視する。それならばまず、今回の戦争の歴史について、正しく踏まえたうえで発言しなければならないはずだ。

ウクライナ戦争は、テレビ視聴者の多くが信じているのとは違い、昨年2月に始まったのではない。9年前の2014年に始まったのだ。これは怪しい陰謀論などではなく、やはりメディアで引っ張りだこの国際政治学者・東野篤子氏や、ロシアの「侵略」を非難する北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も認める事実である。

ただし、その具体的な内容が語られることは少ない。現在主流メディアを支配する「ウクライナは善、ロシアは悪」という一方的でわかりやすい図式にとって、都合が悪いからだ。

ウクライナでは2014年2月、米国の支援するクーデターで親露派政権が崩壊し、国粋的な親米派政府がロシア語を公用語から外すなど差別政策を打ち出した。このためロシア系住民の多い東部・南部で抗議デモが広がり、ウクライナ政府は武力でこれを弾圧。内戦となり、2021年末までに民間人3400人を含む1万4000人が死亡した。今でも大手メディアの過去記事を探せば、この経緯を伝える当時の報道が残っている。

民間人死者の大半は2014〜2015年に集中し、2016〜2021年は減少したものの、ウクライナ軍によるロシア系住民、つまり自国民への攻撃は断続的に続いた。ウクライナ政府に対しては、オバマ、トランプ、バイデンの米歴代政権が多額の軍事支援を行ってきた。その支援によって東部のドンバス地方などに砲撃が加えられ、女性や子供を含む人々の命を奪った。

「プーチンという人間を、歴史の法廷に立たせ続けなければいけない」と高橋氏は言う。しかし、なぜ「歴史の法廷」に立つのはプーチン氏だけなのか。なぜ2014年からの戦争でロシア系住民の命を直接・間接に奪ったウクライナや米国の歴代首脳は、除かれているのか。国外避難でサッカーの夢を奪われた少年には強く同情し、プーチン氏には怒りを燃やすのに、なぜドンバスの子供たちの命を奪ったウクライナや米国の政治家は、「歴史の法廷」に立たせようとしないのか。

2023-03-18

嵐の到来

米陸軍退役大佐、ダグラス・マクレガー
(2023年3月14日)

米国の国力の危機が始まっている。経済が傾き、欧米の金融市場が静かにパニックに陥っている。金利が上昇し、住宅ローン担保証券や米国債の価値が低下している。市場の「波動」、つまり感情、信念、心理的な嗜好が、米経済の暗転を示唆しているのである。
米国の国力は、経済的な可能性や成果と同様に、軍事力によって測られる。米国や欧州の軍需産業がウクライナの弾薬や装備の需要に追いつけないという認識が広がっていることは、米政府が、ウクライナの代理人が勝っていると主張する代理戦争中に送る不吉な信号である。

ウクライナ南部におけるロシアの戦力節約作戦は、ロシアの生命と資源の支出を最小限に抑えながら、攻撃してくるウクライナ軍を追い詰めることに成功したようだ。ロシアの消耗戦は見事に成功したが、ロシアは予備兵力と装備を動員して、1年前より数段大きく、殺傷能力の高い軍隊を編成した。

ロシアはロケット、ミサイル、ドローンを含む大規模な砲撃装備で、上空の監視装置と連動し、ドンバス地方の北端を守るために戦うウクライナ兵を、飛び出す標的にしてしまった。ウクライナ兵の死者数は不明だが、最近のある推定では、開戦以来15万~20万人のウクライナ人が戦死したとされ、別の推定では約25万人だという。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国の地上軍、航空軍、防空軍の弱さは目に余るものがあり、ロシアとの不要な戦争は、NATOの東の辺境であるポーランド国境に数十万人のロシア軍を容易に送り込むことになる。これは米国が欧州の同盟国に約束した結果ではないが、今や現実的な可能性である。

ソ連がイデオロギーに振り回されながら外交政策を立案・実行していたのとは対照的に、現代のロシアは中南米、アフリカ、中東、南アジアで自国の目的に対する支持を巧みに培ってきた。欧米の経済制裁が米欧経済にダメージを与え、ロシアルーブルを国際社会で最も強い通貨のひとつに変えたことは、米国の世界的地位を向上させるものではあるまい。

NATOを無理やりロシアの国境に押しやるバイデンの政策は、ロシアと中国の間に安全上の利益と貿易上の関心という強い共通性を生み出し、インドのような南アジアの戦略的パートナーや、中南米のブラジルのようなパートナーを引き寄せている。新興のロシア中国軸と上海協力機構(SCO)の約39億人のために計画された産業革命がもたらす、世界経済への影響は甚大である。

要するに、ロシアの弱体化、孤立化、破壊を目指す米国の軍事戦略は大失敗であり、この失敗によって米国のロシアとの代理戦争は本当に危険な道を歩むことになった。ウクライナが忘却の彼方への転落に直面しても、めげずに邁進することは、三つの拡大する脅威を無視することになる。①経済の弱さを示す持続的な高インフレと金利の上昇(2020年以降初の米銀の破綻は、米国の金融の脆弱性を思い起こさせる)②望まれない難民・移民の数波にすでに動揺している欧州社会内部の安定と繁栄への脅威③広範な欧州戦争の脅威――。

大統領府の内部では、つねに特定の行動をとるよう大統領に求める派閥が対立している。しかしバイデン政権には、ウクライナへの関与から脱却しようとする人々がいる。ロシアとの代理戦争を熱烈に支持するアントニー・ブリンケン国務長官でさえ、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がクリミア奪還への協力を西側に求めることは、プーチンにとってレッドライン(越えてはならない一線)であり、ロシアからの劇的な攻撃拡大につながるかもしれないと認めている。

和平交渉の前にロシアがウクライナ東部から屈辱的な撤退をするという、バイデン政権の悪意ある愚かな要求を撤回することは、米政府が拒否しているステップである。しかし、それは実行されなければならない。関心が高まれば高まるほど、そして米国がウクライナでの戦争を遂行するために国内外で支出を増やせば増やすほど、米国社会は政治と社会の内部混乱に近づいていく。これはどの国にとっても危険な状態である。

この2年間のすべての混乱と破壊から、一つの否定できない真実が浮かび上がってきた。米国人の多くが米政府に対して不信感を抱き、不満を抱くのは当然であるということだ。バイデン大統領は、政権内のイデオロギー的狂信者、つまり行政権とは政治的な反対勢力を封じ、連邦政府を永久に支配し続けるための手段だと考える人々の代弁者であり、厚紙の切り抜きであるように思える。

米国民は馬鹿ではない。議会議員が内部情報をもとに株取引を行い、ほとんどの国民が刑務所行きになるような利益相反行為を堂々と行っていることを知っている。また1965年以来、政府が一連の軍事介入に失敗し、米国の政治、経済、軍事力を著しく弱体化させてきたことも知っている。

あまりにも多くの米国人が、2021年1月21日以降、自分たちには真の国家指導者がいないと信じている。バイデン政権は、ロシアに対するウクライナの代理戦争から米政府を脱出させるために設計された降車路を見つけるべき時が来ている。しかしそれは容易なことではないだろう。リベラルな国際主義、あるいはその現代的な装いである「道徳化するグローバリズム」は、慎重な外交を困難なものにしているが、今こそその時なのだ。東欧では、春の雨がロシアとウクライナの地上軍に泥の海をもたらし、移動に大きな支障をきたしている。しかしロシア軍最高司令部は、地面が乾いてロシア軍地上部隊が攻撃するとき、明確な決定を下し、米国とその協力国がウクライナの瀕死の政権を救う見込みがないことを明らかにするために、準備しているのである。それ以降、交渉は不可能ではないにせよ、極めて困難なものとなるだろう。

The Gathering Storm - The American Conservative [LINK]

2023-03-17

代理戦争の過酷なコスト

ジャーナリスト、スティーブン・キンザー
(2023年3月9日)

戦争をするのは危険だから、誰かが代わりにやってくれると助かる。それが代理戦争である。敵同士が直接戦うのを嫌がる場合、代理人、つまり自分たちの関心に応え、敵を弱体化させる現地の勢力を利用する。安上がりの戦争なのだ。
代理戦争は大昔から行われてきた。今日もいくつかの戦争が繰り広げられている。最も激しいのはウクライナでの戦いである。欧米の指導者たちがウクライナに兵器を投入しているのは、ウクライナが地政学上の仇敵であるロシアを傷つけていることが主な理由だ。共通の敵に直面した私たちは、過酷な取引を行う。米欧は資金と武器を提供し、ウクライナは戦い、死ぬ兵士を提供する。この取引はあらゆる代理戦争の一部である。

マーク・ワーナー上院議員は最近、「ロシア軍はウクライナ軍に食い荒らされている」と指摘した。「我々は今まさに、ウクライナにそれをやらせている。--ある意味、我々のために」

もう一つの代理戦争はイエメンを荒廃させている。サウジアラビアは7年間、米国から提供された武器でイエメンを空爆している。しかしどちらの国もイエメンのことはあまり気にしていない。イランが支援する一派と戦争しているのだ。米国とサウジは、イランとの全面的な衝突を避け、代わりにイランの同盟国を空爆している。

世界で最も複雑な代理戦争がシリアで繰り広げられている。シリア政府はイランやロシアと同盟を結んでいる。そのため米国の代理戦争の標的として、格好の存在となっている。シリアを攻撃し、弱体化させることで、米国の主要な敵対国2カ国に対して間接的に打撃を与えることができる。米国がクルド人民兵を含む代理勢力を使ってシリアの3分の1を占領しているのはそのためだ。さらに問題を複雑にしているのは、隣国のトルコもシリアの一部を占領し、地元の代理人を通じて支配していることだ。シリア人が苦しみ、死んでいく一方で、よそ者は自分たちの土地で優位に立とうと競い合っている。

冷戦時代は代理戦争の黄金時代だった。米国とソ連の両超大国は、直接対決すれば核兵器による大虐殺につながることを認識していた。その代わりに、世界各地で戦争に参加させ、そこに住む人々に銃を送って戦わせ、死なせた。

最も激しかったのは、アンゴラでの出来事だ。ソ連とキューバが一方を支援し、米国と南アフリカが他方を支援した。戦闘が始まったのは1975年。四半世紀後に終結したときには、50万人以上のアンゴラ人が死んでいた。

1980年代には、ニカラグアの代理戦争も取材した。米国の冷戦時代の宿敵であるキューバとソ連が、サンディニスタ政権を武装させたのである。この侵略を容認できない米国は、反政府勢力「コントラ」を武装させた。内戦は6年間続き、数万人の命を奪った。終結後、驚くべきことに、両者は和解した。コントラの最大指導者であるアドルフォ・カレロは、かつて没収された家に戻り、議員になった。

ニカラグアの戦争は外部の権力者によって煽られたものであり、その権力者が和平を結ぶと、それを中止させたのだと、私が現地に赴いたときにカレロは言った。

「サンディニスタは時代の旗印を掲げた。それがマルクス主義だった」とカレロは言った。

「西側と同盟を組んだ。彼らはソ連から、我々は米国から資金と銃を手に入れた。しかし今、我々を分断していたものは消滅してしまった。……何が起こったかのか。冷戦が終わったのだ」

ウクライナは、代理戦争の魅力、そして恐ろしさのすべてを体現している。

ロシアと戦いたい国は、自国の兵士を送ることなく戦うことができるので、世間からの反発も少ない。ウクライナ人の死への意欲には拍手を送るが、それを共有したいとは思わない。代理戦争のもう一つの大きな危険は、それを終わらせるのが難しいということだ。代理戦争は「凍りついた紛争」、あるいはさらに悪いことに「永遠の戦争」になりかねない。

アフガニスタンは何十年もの間、そのような代理戦争の場であった。米国もソ連も、この国にはさほど関心を持っていなかった。しかし地政学上有利になるように、アフガンを荒廃させた。よそ者がようやく去ったとき、廃墟となった国と何百万人もの苦しむ戦争犠牲者が残された。ニカラグアやアンゴラでも同じようなことが起こった。今日のシリアやイエメンでの戦争は終わりがなく、一日一日、国を破壊しているように見える。ウクライナの運命もまた、そうかもしれない。

ウクライナの泥沼の戦いを表現するために、すでに「肉挽き機」という言葉を使う人もいる。ひどい言葉だが、まさにそのとおりである。第一次世界大戦のように数カ月間、陣地に潜り込んだまま、数百ヤードも進まず戻らず、戦線はゆっくりしか変化しない。どちらの側にも決定的な打開策があるとは誰も思っていない。

バイデン米大統領は就任早々、アフガンから米軍を撤退させ、長い代理戦争に終止符を打った。現在シリア、イエメン、ウクライナを襲っている代理戦争は多くの点で異なるが、アフガン戦争と同様に、大国が疲弊するまで続くだろう。その間、これらの国々の土壌は血に染まり、息子や娘たちが死に続けるだろう。

The incalculable moral cost of proxy wars - The Boston Globe [LINK]

2023-03-16

サウジで体制転換が起こる日

社会活動家、ギャビン・オライリー
(2023年3月11日)

イランとサウジアラビアが7年ぶりに二国間関係を回復したという金曜日(3月10日)の発表は、ペルシャ湾における地政学的な大きな進展となった。

この地域の二大勢力として、イランとサウジは過去10年間、シリアイエメンの紛争で反対する立場をとっており、その結果、サウジによるイスラム教シーア派聖職者ニムル師の処刑を受けて、2016年1月に外交関係を解消するほどの緊張状態にあった。サウジとイランは、イスラム世界におけるスンニ派、シーア派それぞれの支配者と考えられている。
このため両国の国交回復により、過去20年間紛争が絶えなかったこの地域の安定が期待さ れる。

また、西アジアにとどまらず、中国が仲介することで、新たに多極化した世界秩序が確立されることを意味する。サウジは米国にとって重要な同盟国であり、この地域の貿易パートナーでもある。サウジが中国の勢力圏に入りつつあると感じた米国が、西アジアでの覇権を維持するためにサウジの体制転換を狙う可能性を示しているかもしれない。

実際、このような事態には歴史的な前例がある。

1979年7月、当時の米カーター政権は、米中央情報局(CIA)の極秘作戦であるサイクロン作戦を開始する。この作戦では、ムジャヒディン(イスラム聖戦士)と呼ばれるワッハーブ派の過激派に武装、資金提供、訓練を行い、1978年の四月革命後にソ連の影響下に入った、それまで西側と友好関係にあったアフガニスタンの社会主義政府に戦争をしかけようとするものであった。

サイクロン作戦が開始される5カ月前には、米国と英国が支援するパーレビ国王を倒したイスラム革命により、同じく欧米の同盟国であったイランがホメイニ師の指導下に置かれる。米国の覇権を脅かすイラン革命は、ホワイトハウスがアフガンのムジャヒディンを武装させ、西アジアにおける米国の影響力の低下を防ぐとともに、ソ連を高くつく誤った軍事行動に巻き込むことを決定した重要な要因である。

米国が、サウジが自国の勢力圏から中国の勢力圏に入りつつあると感じ、体制転換に踏み切った場合、その第一歩として、サウジの隣国イエメンに対する残虐な戦争に関する企業メディアの報道を大きく見直す可能性がある。

2015年3月、イエメンの首都サナアをアンサール・アラー(シーア派武装勢力フーシ)が占拠した後、サウジはハディ政権を復活させるために空爆を開始する。

米国と英国が供給する爆弾を使用し、両国の軍事顧問が標的の選定を支援するなか、サウジは過去8年間にわたりイエメンの農業、医療、水のインフラを破壊し、アラビア半島で最も貧しい国であるイエメンに、広範囲な飢餓と史上最悪のコレラ発生をもたらした。サウジの封鎖によって食料や医療品の入国ができなくなり、状況はさらに悪化した。

サウジの作戦は残虐であるにもかかわらず、過去8年間、企業メディアはほとんど報道してこなかった。サウジと欧米の間で有利な武器取引が行われていることや、サウジがこの地域のイランに対する防波堤として利用されており、テヘランがフーシに軍事援助を行っていると長年非難されていることが理由である。

しかし中国が仲介したサウジとイランのデタント(緊張緩和)が、米国とサウジの間に緊張をもたらし、特に湾岸諸国が米国ではなく中国から武器を購入することになった場合、西側メディアの間にイエメン情勢に対する新たな懸念が生まれるかもしれない。そこで始まる報道は、昨年2月にロシアが介入したウクライナ紛争を、それまで8年間、ほとんど報じていなかったにもかかわらず、突然報道したのと同じようなものだ。

イエメンにおけるサウジの戦争犯罪を報道することで、米国寄りの指導者を政権に就かせることを意図した、サウジにおけるカラー革命の試みに道を開くことになるかもしれない。

実際、このような試みは現在イランで行われており、米国は傀儡政権を樹立するために「イランの野党」に武器を供給している。米国の同盟国イスラエルの政府はすでにイランとサウジの協定に反対を表明しており、ペルシャ湾の反対側で同様のことが起こるのは時間の問題だろう。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : Will Regime-Change Now Come to Riyadh? [LINK]

2023-03-15

ウクライナ戦争、米国の愚行

ジャレド・ピーターソン
(2023年3月10日)

ウクライナ戦争の状態についていろいろ読もうとしても、プロパガンダや明らかな嘘の霧を切り裂くのは至難の業である。しかし少しずつ、断固たる、じっくりとした、すり減るような、痛みを伴うロシアの勝利という図式が浮かび上がってくる。ウクライナ人の死傷者はほぼ間違いなく、耐えられず維持できない水準に達している。最も近い推測では25万人の死傷者が出ており、膨大な人口からなるロシアよりもケタ違いに多い。ウクライナは男性の若者世代を失いつつあり、すべては衰退する米国の世界覇権の支えとなっている。
米国の政策を動かしている、悪質で混乱した犯罪的なほど無謀な新米どもは、この破壊的で非常に危険で勝ち目のない紛争を意図的に長引かせているが、ウクライナの破滅と若者の大量死には無関心であり、国務省やペンタゴン(国防総省)の廊下を歩く者にとっては単なる大砲の餌に過ぎない。この戦争の最終問題となるかもしれない、想像を絶する結果〔核戦争〕にも無関心である。

もしキッシンジャー(元米国務長官)や他の多くの人々が提案した、中立で北大西洋条約機構(NATO)に加盟しないウクライナが、ロシアの合理的な要求どおり2021年に米国に受け入れられていたら、そしてウクライナが米国の指示により、ドンバス地方のロシア語話者とロシア民族に対する8年間の米主導の戦争をやめ、ミンスク2を履行していたら、この戦争は起こることはなかっただろう。

ウクライナが中立を守り、ウクライナの国境内に米国の兵器設備はなく、キエフによるドンバスの住民への無慈悲な迫害は終わり……そして結果はこうだ。戦争は起きない。

しかし米国の軍産複合体は戦争を望み、それを実現した。その目的はベトナム戦争のような泥沼でロシアを疲弊させ、弱体化させることだ。こうして、米国ネオコン(新保守主義者)インテリの妄想に従えば、米国にノーと言える二つの国〔ロシアと中国〕のうちの一つが、ネオコンの夢である米国の地球上の単独支配を妨げる国の候補から外れることになる。

米国が引き起こしたこの戦争の結果は、米国のネオコンが夢見るようなものとは大きく異なるかもしれない。ロシアは天然ガスやその他の重要な資源を求める新たな顧客がアジアに現れ、通貨ルーブルは依然として強く、国民の80%が自国政府を支持している。欧州、とくにドイツの経済は、米国の液化天然ガスのコストが、悪魔のようなロシアのパイプラインガスのコストを大幅に上回っているために自由落下しており、新興諸国BRICSはアジアや南半球で新しい貿易ルートや支払い方法を開発し、世界の基軸通貨としてのドルを脅かす。

米国の軍産複合体が30年にわたり行ってきた、自国に対する不必要な攻撃的行動によって脅威を感じているロシアとの核戦争の危険性である。

ロシアが実際に脅威を感じてきた、米国の軍産複合体による30年にわたる不必要な攻撃的な行動には、以下のものがある。

  • NATOの執拗な東方拡大。これはロシアがドイツ統一を受け入れ、東欧から軍隊を撤退させ、ワルシャワ条約を解消すれば、東方拡大は決して起こらないという1990年に西側諸国の指導者が行った明確な約束に反している。
  • 2008年のウクライナとグルジア(ジョージア)へのNATO加盟の誘い。これは当時から、ロシアにとってまったく受け入れがたいものであることがよく知られていた。1962年にソ連がキューバを同じように自陣に引き入れようとしたことが米国にとってそうであったように。
  • ウクライナの民主的な選挙で選ばれた親ロシア派の大統領を退陣させた2014年のクーデターに、米国が深く関与していた。
  • 米国がポーランド、バルト三国、ルーマニアを含む新NATO加盟国に高度な兵器設備を設置した。
  • バイデン政権の2021年、ウクライナを事実上のNATO加盟国として扱った。

ロシアが2022年2月24日に19万人の軍隊をウクライナに送り込んだ動機は、前述の脅威の認識と、腐敗したキエフ政権によるドンバスの住民に対する8年間の戦争だった。ロシアのウクライナへの進出は欲望に満ちた欧州征服の第一歩だとする主張は、滑稽で見え透いた嘘である。それを口にする人は、少しも信じていないし、1991年12月のソ連崩壊以降、ロシアが欧州に攻撃的な脅威をもたらすと信じていた国際関係学の学識ある研究者は一人もいない。ウクライナでロシアが世界征服を企んでいるという主張は、もしそのようなプロパガンダが西側メディアによって至るところで流布され、その結果、不注意でほとんど意識のない国民に丸呑みされていなければ、笑い話になるはずだ。

紛争の動機とされるものについてのメディアの嘘と、その嘘を暴くことになる適切な歴史についての理解しがたい完全な沈黙は、戦争自体の進行と政府に関する報道にも反映されている。

主流の報道から判断すると、ロシアはつねに負け続け、血を流して死に、敗北は大きく、勝利はごくわずかで、軍備と弾薬はほぼ使い果たし、敵よりも大量の犠牲者を出し、戦争の結果にかかわらず、軍事力として大きく弱体化しているのである。ある日、バハムートは軍事的に「無意味」だと言われ、次の日には、バハムートが陥落すれば西方へのロシアのさらなる征服への道が開かれるため、最後の一人になるまで死守されると言われる。ウラジーミル・プーチン(露大統領)は、がん、パーキンソン病、認知症で死にかかっている。プーチンは不人気で、殺されるか退陣させられそうで、敵に囲まれている、などなど。

このすべては、西側エリートとその御用メディアによる必死のプロパガンダである。連中は、自分たちが引き起こしたウクライナ戦争が大惨事になりつつあることに、徐々に気づき始めている。

戦争が続いている間、米政府がノルドストリーム・パイプラインを爆破したという現実的な可能性が浮上し、西側の重要な指導者たちの額に玉のような汗が浮かび始めている——これは歴史上最も巨大なテロ行為の一つとなるだろう。そして、忘れてはならないのは、このテロ行為は単にロシアに対してだけでなく、米国の同盟国であり、パイプラインが産業競争力と国民の幸福の鍵であったドイツに対しても行われたことである。もしこの驚くべき行為がバイデン大統領のホワイトハウスで行われたとしたら、NATO、米欧関係、米政府、世界における米国のイメージにどのような影響を与えるだろうか。

西側諸国はウクライナで方針を転換する必要がある、しかも迅速に。勝てない戦争を長引かせ、過去の失策に執着し、ロシアにわざと孤立感と脅威を与え続ければ、悲劇的に消耗し破壊されたウクライナ人の代わりにNATO軍を直接投入することでしか戦争を継続できない状況に近いことに気づくだろう。

その方法(NATO軍の投入)には、文明滅亡の深刻な可能性がある。なぜなら、通常の戦場で何が起ころうとも、ロシアはウクライナが米国の広大な軍事基地としてその玄関口に置かれることを許さないからである。

The US’s March of Folly in Ukraine - American Thinker [LINK]

2023-03-14

アメリカ神話の死

アメリカ思想研究所理事、ジョージ・オニール
(2023年3月9日)

さまざまな主流派の物語、とくにウクライナにおける米国・北大西洋条約機構(NATO)の対ロシア戦争をめぐる物語が崩壊するのを目の当たりにして、米国民はその国家指導者に対する理解を見直す必要がある。米国民の多くは、政府が海外で行っていることと、政府の広報担当者から聞く話との間に大きな隔たりがあることを認識していない。その結果、知らず知らずのうちに、実際に何が起こっているのかほとんど理解しないまま、あらゆる種類の海外活動を支援している。長年にわたり、米国民は絶え間ないプロパガンダ活動に惑わされてきたが、それが今ようやく崩れ始めている。
私たちは、米国が世界の大部分を支配する一極支配の断末魔を経験しているのだ。米政策の欺瞞の大きさを市民が理解し始めるまでは、米国の世界的地位の変化を理解し、世界中の多くの人々が抱く米国に対する負のイメージの拡大に適応することはますます難しくなる。

第二次世界大戦後、とくにソ連崩壊後、米国は圧倒的で比類のない世界的な大国となった。しかし米国は、平和を守り誠実な「世界の警察官」である代わりに、不安定な「いじめっ子」になりつつある。世界の多くの指導者は処罰を恐れ、米国の外交政策の破壊的な性質について発言することをためらってきた。しかし米国の地位と力が低下するにつれ、世界の多くの地域が米国の捕食から自らを守る取り決めを求めている。

ほとんどの米国人は、こうした再編成がなぜ起こっているかを理解していない。なぜなら、米国は「最も寛大な国」であり、「例外的な国」であり、「世界の利益のために自国の関心を脇に置く国」であり、「ルールに基づく秩序の守り手」として世界中の「善の重要な源」であり、国際体制と弱い国々を悪者から守る重い責任をつねに負っているというプロパガンダが、延々と続いたせいだ。多くの情報源によれば、米国が引き起こした戦争は第二次世界大戦後、1000万人以上の死者を出した直接の原因となっているという。新保守主義者(ネオコン)たちは、これらの事実とその情報源をあざ笑うだろうが、世界の大半の人々は、これが真実だと信じている。

米国人の多くは、これらの事実を受け入れることができない。なぜなら、これらの事実は、いたるところに存在する政府のプロパガンダ装置によってもたらされた物語と矛盾しているからである。米国人の海外での悪行が増え続けるなか、国内では何年もほとんど反論されることがなかったが、世界の多くの人々にとっては日々明白になってきている。米国人は注意を払うべきだ。たとえば中国外務省は、米国の不品行とみなすものの概要を発表したばかりである。米国の体制派や善意の愛国者たちは、中国の見解を否定するかもしれないが、新保守主義者のプロパガンダの泡の外に住む多くの人々には真実味がある。

体制派の神話に反して、米国は約束を破り、条約を破り、合意を放棄することで有名である。1990年に米国が約束した、NATOを旧ワルシャワ条約加盟国に東進させないという約束、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)、中距離核戦力(INF)、領空開放(オープンスカイ)、戦略兵器削減条約(START)の破棄、イラン核合意、リビアとの協定等々、枚挙に暇がない。また米国は、自らの覇権に屈しない国々を侵略し、国際法を無視することを繰り返してきた。

非政府組織(NGO)の選挙妨害活動に秘密裏に資金を提供する米国の機関は数多く存在する。冷戦時代の全米民主主義基金(NED)が、世界各国の選挙に影響を及ぼすために作られ、多くの選挙に介入してきたことを米国人の多くは知らない(全米民主主義基金はロシアから追放するまで、同国で資金を費やしていた)。さらに、米国のさまざまな機関が後援する有名な「カラー革命」もある。米国が干渉している国は50カ国にものぼると推定する人もいる。

この破壊的な行動を見て見ぬふりをする時代は終わろうとしている。多くの国の国民が、米国の覇権主義に従うことは自国の利益に反すると判断する時代に突入しているのである。米国の影響力の及ばないところで、代わりの同盟関係を結ぶ国も増えている。上海協力機構(SCO)、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)プラス、石油輸出国機構(OPEC)プラスなど、米国に属さない同盟のほうが、自国の利益が守られると考える国々が加盟し、加盟国が増加している。

悲劇的で不必要なウクライナ戦争の影響で、他の協力的な同盟を求める動きが加速している。米国の欧州における同盟国が学んでいるように、米国と提携することは政治的、経済的に大きなコストがかかる可能性がある。欧州の人々は、自滅的な10回にわたるロシアへの制裁のために、自国の経済が苦しめられ、エネルギーのために大金を払うのを見てきた。

「ルールに基づく秩序」の提唱者と保護者は、ドイツは安価なロシアの天然ガスを輸入すべきではないと判断した。米国の大統領と政府高官は、ロシアが米政府の意向に従わなければ、ロシアの天然ガスを供給するパイプラインを切断すると脅した。偶然にも、ノルドストリーム・ガスパイプラインは、それから間もなく爆破された。米国務長官はこの破壊工作を「チャンス」だと言い、国務次官も満足そうだった。米国の同盟国に対するこのテロ行為に称賛を浴びせる新保守主義者たちは、米国に責任がなかったことにすれば米国と欧州を安心させることができると考えているかもしれないが、世界の他の国々はそう考えてはいない。

多くの人は、ノルドストリーム・パイプラインの破壊に米国が関与した場合の結果を無視したり、軽視したりするだろう。しかし米国が行ったと海外で信じられている無慈悲な行為のリストに、さらにこの行為が加わることは、米国が「寛大な国」「自由世界のリーダー」「ルールに基づく秩序の守り手」であるという物語を台無しにすることになる。長年にわたり、こうした矛盾は、欺瞞に満ちた報道機関や、欺瞞から利益を得る共犯的な機関によって巧みにごまかされ、無視されてきた。しかし米国の力が弱まるにつれ、世界の他の国々はそれに気づき始め、他の保護的な友好関係を求めるようになりつつある。

二年足らず前、「人類史上最も強力な軍隊」が、小銃で武装し、ロバ、自転車、スクーターに乗った有象無象の武装集団によってアフガニスタンから追い出された。タリバンは今、私たちの指導者が置き忘れた800億ドル相当の米軍装備を手にしている。言い訳は米政府のエリートたちには説得力があったかもしれないし、政権に忠実なメディアによって強力に売り込まれたかもしれない。しかし、世界の他の国々はよく知っている。ベトナム崩壊後によく言われた、「本当に戦うことさえ許されていれば勝てたはずだ」という主張は、20年の歳月と何十万人もの死者やホームレス、数兆ドルもの費用が費やされたあの惨事の後では空しく響く。

「地獄の制裁」の衝撃と畏怖でロシアは崩壊するだろうという多くの主張に反して、バイデン大統領の予測と違って通貨ルーブルは瓦礫と化してはいない。米国とそのNATOの同盟国は、その命令で白骨と化すウクライナに送る弾薬と武器が不足している。ロシアは着実にウクライナ軍をすり減らしていくようだ。このようなことは、第一次世界大戦を思い起こさせる。当時の新保守主義者たちは、あの戦争を1914年のクリスマスまでには終わる、迅速な交戦だと売り込んだ。4年後、2000万人が死亡し、さらに多くの負傷者や避難民が出た。その後、欧州のキリスト教君主国のほとんどが崩壊し、ロシアは共産主義の70年の悪夢に陥り、世界を「民主主義のための安全な場所」にするための「すべての戦争を終わらせる戦争」が、さらに恐ろしい第二次世界大戦の舞台となった。

それから1世紀後、私たちは夢遊病のように第三次世界大戦に突入している。米国人は、政府主導のプロパガンダ(第一次世界大戦に至るまでと不気味なほど似ている)を無視し、目を覚まし、自分たちの指導者が何をもたらしたかを見つめ、大戦のような大混乱やそれ以上の事態に直面する前に、この残酷な戦争への支援を終わらせるために、できる限りのことをするべきだ。

Death of a Myth - The American Conservative [LINK]

2023-03-13

戦争と税金で潤う兵器メーカー

クインシー研究所上級顧問、イーライ・クリフトン
(2023年2月24日)

米兵器メーカー、レイセオン社の最高経営責任者(CEO)グレッグ・ヘイズ氏は昨年1月、不安定な世界が同社に収益機会をもたらすと投資家に語った。「国際的な販売チャンスだとみられます」とヘイズ氏は言い、他の世界的事象とともに「東欧の緊張」を挙げた。そして「これらが東欧の国防費に圧力をかけています。ですからその恩恵があると大いに期待しています」と付け加えた。
ロシアの大規模なウクライナ侵攻は、エネルギー価格の高騰、インフレ率の上昇、食料供給網の寸断など、世界中に金融・人道上の圧力をもたらした。

しかしヘイズ氏は正しかった。レイセオンをはじめとする兵器メーカーは、多くの投資家が損失を被るなか、莫大な利益を得ている。

ロシアの侵攻以来、大手兵器メーカー5社の株価は目覚ましい上昇を見せ、主要な株価指数を劇的に上回った。ロッキード・マーチン、レイセオン、ボーイング、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスの株価は、昨年2月24日のロシア侵攻の前日から木曜日(2月23日)の金融市場終了までの1年間で平均12.78%上昇した。

この上昇は、主要指数のパフォーマンスと比較するとさらに印象的だ。主要兵器銘柄は平均して、S&P500種株価指数を17.82%、ナスダック総合株価指数を23.88%、ダウ工業株30種平均を12.71%上回った。

3つの指数のうち、S&P500とナスダックの2つは、その1年間で下落を記録した。

別の言い方をすれば、侵攻の前日に上位5社の兵器企業に1万ドルを投資すれば、今日は1万1277ドルの価値がある。S&P500に1万ドル投資した場合、9495ドルの価値しかない。

米兵器産業の収益の多くは、納税者が支払う米政府との契約に由来する。たとえば、世界最大の兵器メーカーであるロッキード・マーチンは、営利目的の上場企業かもしれないが、同社の2021年の年次報告書には「670億ドルの純売上高のうち71%が米政府からのものである」と記されている。

政府から得る兵器産業の収益は、国内の生産施設や雇用に再投資されるだけではない。その多くは株主に還元されている。ロッキード社のCEOであるジェームズ・テイクレット氏は、2022年に自社株買いや配当金支払いによって110億ドルを株主に提供し、「株主にとって大きな価値」を生み出したと自慢している。つまり、一部税金で賄われた株主への配当である。

インデックスファンド(S&P500やダウ平均など株価指数の構成銘柄に連動する投資信託や上場投資信託)への投資を好む人が増えている個人投資家の多くは、ロッキードの自社株買いや、ロシアのウクライナ侵攻から1年間で主要指数をすべて上回った兵器メーカーの株価上昇からすっかり取り残されているだろう。

実際、戦争がどのように終結するのか、ウクライナの勝利はどのようなものなのか、ウクライナの再建はいつ、どのように始められるのか、プーチンの侵攻が北大西洋条約機構(NATO)や欧州安全保障体制に与える長期の影響など、重要な問題が残っている。ウクライナのインフラ再建にかかる費用は、すでに1兆ドル以上と見積もられ、さらに膨らんでいる。

戦争の帰趨は依然不透明だが、一つ確かなことは、欧州で大規模な戦争が勃発すれば、今後数年間、米国と欧州の兵器購入に拍車がかかるということである。

膨れ上がる国防予算と米国の国家債務、エネルギーコストの高騰と世界的な食糧不足は、ほとんどの米国人に悪影響を与えるだろう。しかし兵器株の投資家は、世界経済の混乱のなかで、他の産業ではほとんど達成されていない利益を得ている。

レイセオンのヘイズCEOは、先月の決算説明会で「当社の製品と技術は、ウクライナの人々の自衛に役立っています」と主張した。レイセオンの最高執行責任者(COO)であるクリス・カリオ氏はこの電話会議の後、「周囲の脅威が強まり、複雑さを増すことから、当社の受注残高は今後も増加する見込みです」と述べている。

言い換えれば、世界にとっての人道的、地政学的、経済的な災厄は、少なくとも一つの希望の光、すなわち兵器メーカーの利益をもたらしているのだ。

Ukraine War is great for the portfolio, as defense stocks enjoy a banner year - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-12

【コラム】米欧のダブルスタンダード

木村 貴

ロイター通信は3月6日、ユーチューブにニュース動画をアップした。タイトルは「ウクライナ侵攻、ロシアは『戦争を仕掛けられた』 外相発言に聴衆失笑」である。次のような短い文章が添えてある。
ロシアのラブロフ外相はインドのニューデリーで3月3日、20カ国・地域(G20)外相会合後に講演を行った。ウクライナ侵攻について「ウクライナ人を利用して、われわれは戦争を仕掛けられた」と発言すると、聴衆からはあざけるような笑い声が聞こえた。

ロイターの動画はヤフーニュースでも公開されていて、コメント欄にはここぞとばかりにあざける読者の声が並ぶ。「『仕掛けられた』とは笑うしかありません」「ロシア軍が一方的に侵攻したのに、仕掛けららた戦争と、被害者意識を装っている」「『しかけられた』という言葉から見えてくるのは彼らの思考回路は私たちと全く逆だということ」などなど。

動画を見てみると、たしかにラブロフ氏が「われわれは戦争を仕掛けられた」と話すところで、客席から笑い声がして、ラブロフ氏は話を一瞬中断している。もっとも、「あざけるような笑い声」かどうかは、これだけではわからない。そうかもしれないが、違うかもしれない。たとえば、「そんな本当のこと、言っちゃっていいの?」という冷やかしの笑いかもしれない。

そう思うのは、聴衆の他の反応からだ。まず、ロイターの動画の後半で、ラブロフ氏は「パイプラインを爆破するようなことはもう決して許さない。ところで、私たちは(爆破事件の)調査を要請したが、直ちに却下された。米国はナンセンスだと言った」と話した。このとき笑いは起こらず、聴衆は黙って聴いている。ロシアが戦争を仕掛けられたというのと同じかそれ以上に、あざけりの対象になっていいはずの話題なのに。

「パイプライン」とはもちろん、ロシアからドイツに海底経由で天然ガスを供給し、昨年9月、何者かによって爆破された「ノルドストリーム」のことだ。今年2月8日、米著名記者セイモア・ハーシュ氏が「爆破に米政府が関与」と詳細に報じたが、米ホワイトハウスは「まったくの虚偽」と否定した。

なおこの講演から数日後の3月7日、米ニューヨーク・タイムズが「米情報当局者」の見方として、爆破は「親ウクライナの勢力が実行した可能性がある」と報じ、あまりの不自然さに「親ウクライナ勢力とは米政府のことか」と、それこそあざけりの対象になっている。

次に、ロイターの動画では省かれているが、英ガーディアン紙によれば、ラブロフ氏は、西側諸国の軍事介入の「ダブルスタンダード(二重基準)」について問われた。これに対する同氏の答えは、ショートショート・ニュースがツイッターにアップした日本語字幕付き動画で確認できる。ラブロフ外相はメモなど一切見ず、次のように語り始める(以下、字幕を参考に翻訳)。
近年、イラクやアフガニスタンで何が起こっているかに興味を持って来ましたか。米国や北大西洋条約機構(NATO)に、自分たちのやっていることに間違いはないのかどうか、聞いてみたことはありますか。
聴衆はここで拍手している。ラブロフ氏の指摘が良いところを衝いたからだろう。

近年、米国がイラクで何をしたかといえば、2020年1月、同国を訪問中だったイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を空爆で殺害。イラクのアブドルマハディ首相(当時)から「イラクの主権を傲慢に侵害した」と非難された。2021年末に過激派組織「イスラム国」(IS)掃討が完了したにもかかわらず、イラク軍への助言や訓練を理由に米軍約2500人が残留。今月、オースティン国防長官が首都バグダッドを電撃訪問し、今月20日でイラク戦争開始から20年になるのを前に、引き続きイラクに米軍を駐留させる考えを表明した。いつまでいるつもりなのだろう。

2023-03-11

女性ネオコンを解雇せよ

コードピンク共同設立者、メディア・ベンジャミン
コードピンク・コングレス、マーシー・ウィノグラード
コードピンク、メリッサ・ギャリガ
(2023年3月7日)

バイデン米大統領がビクトリア・ヌーランド氏を国務次官に指名したとき、反戦団体「コードピンク」のフェミニストは、ヌーランド氏が母親や娘たちに戦争を煽り、痛みや心痛をもたらすことを懸念して、同氏の指名に反対した。同氏は外交を促進する代わりに、アフガニスタン、イラク、そして今ウクライナで戦争を煽り、干渉するあらゆる場所でマッチに火をつける。フェミニストが沈黙を守ったり、女性だからという理由でこのブッシュ時代のネオコン(新保守主義者)を支持したりすれば、ヌーランド氏は核の炎で世界を焼き尽くすかもしれない。
ヌーランド氏は、ウクライナでの停戦と和平交渉を推進する代わりに、米国がウクライナを武装させてクリミアを奪取すると約束し、戦争を激化させることを選んだ。クリミアは黒海のロシア海軍艦隊の所在地で、200年近くロシアの一部であり、ロシア連邦への加盟に賛成したロシア系住民の居住地である。

すでに無人偵察機がクリミア半島を攻撃し、米国の長距離ロケット弾が飛んでくる中、プーチン露大統領のレッドライン(越えてはならない一線)をまた一つ越えようとするヌーランド氏の動きは、ウクライナにおけるさらなる死と破壊、生態系破壊を確実にするだけだ。

ウクライナの女性たちにとって、ヌーランド氏が長年にわたる北大西洋条約機構(NATO)の拡大によって引き起こした違法なロシアの侵略は、性的人身売買の増加と性暴力の増加をもたらしている。国連や救援団体によると、これには戦争の武器としてのレイプだけでなく、「親密なパートナーからの暴力やセクハラ」も含まれている。ウクライナが戒厳令下にあり、18歳から60歳の男性が前線に追いやられる中、若い女性難民は、多くの場合、同伴者がいないため、国境越えで虐待を受ける可能性がある。

国際女性デー(3月8日)に、女性は女性に戦争をさせないようにしよう。その代わりに、私たちコードピンクのフェミニストは、バイデン大統領にヌーランド氏を解雇し、この戦争を今すぐ終わらせるための外交を採用する、人間中心のフェミニスト外交を追求するよう強く求める。

そもそもヌーランド氏がバイデン政権で外交官の仕事を与えられたという事実は、驚きを禁じえない。同氏の経歴はまるで戦争犯罪人の逮捕歴のようだからだ。

ヌーランド氏は2003年から2005年まで、ディック・チェイニー副大統領の国家安全保障副補佐官を務めた。違法なイラク侵攻と占領は、100万人以上のイラク人を殺害し、何千人もの米兵を遺体袋に入れた、米国の歴史における痛ましい一章である。

2005年、ヌーランド氏はNATO大使に就任し、米国の悲惨なアフガン占領に参加するよう欧州に働きかけた。米政府が戦争に勝つことができると他国政府を説得する中で、同氏は欧州全域に嘘を売り込み、アフガンを20年近く占領し、600万人の子供と大人を飢餓の危険にさらし、破産させた。

2013年5月、ヌーランド氏は欧州・ユーラシア問題担当の国務次官補に指名され、ロシア、ウクライナ、その他の旧ソ連諸国との関係で外交を行うことになっていた。

その代わりにヌーランドと米政府は、ウクライナに50億ドルの税金を投入し、民主的に選ばれた大統領を転覆させ、ウクライナを私物化しロシアとの戦争に備えるための移行政府を作り上げた。ヌーランド氏がマイダンのクーデター時に(街頭で)クッキーを配った後、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領が銃弾の雨に打たれて逃げ出す前にである。

ヌーランド氏は、電話のやり取りの流出によるスキャンダルに巻き込まれた。駐ウクライナ米大使ジェフリー・パイアット氏との電話で、米政府がウクライナの移行政府を運営する彼女の選択を欧州連合(EU)が承認しない場合、「EUのクソったれ」と発言したことが密かに記録されたのだ。欧米諸国は、ヌーランド氏が汚い言葉を使ったことに唖然とした。しかしもっとひどい汚い言葉は、ロシアを挑発するために他国の政局を操作しようとする同氏の主張である。

ヌーランド氏は、ロシアの核の近隣にある他の地域を不安定にしたいと繰り返し発言している。ベラルーシやカザフスタンである。なぜならロシアと親しすぎるからだ。評論家によれば、ヌーランド氏が本当に望んでいるのは、1億9300万人の人口と150の少数民族、6000発の核兵器を持つロシアの政権交代だという。

何が問題なのだろうか。

2014年のクーデターでロシアに併合されたクリミアを取り戻すためにウクライナ人の命を犠牲にするというヌーランド氏の使命は、他の欧州諸国を戦場に引きずり込み、第三次世界大戦を引き起こす恐れがある。

アジア・タイムズによると、ヌーランド氏のクリミアに対するタカ派的な立場をめぐって、政府・国防総省内の派閥は分裂しており、その主な理由は、ロシアが報復として西側の補給路を攻撃することを選ぶかもしれないという懸念にある。そうなれば、米国がロシアの反対を押し切って対弾道ミサイル基地を設置した、ポーランドやルーマニアをはじめとする東欧での戦争に発展するのは間違いない。

この国際女性デーに、バイデン大統領はヌーランド氏を解雇し、平和を中心とするフェミニスト外交を受け入れる外交官を雇うのが賢明だろう。

Women Don’t Let Women Drive War: Feminists Say Fire Nuland - CODEPINK - Women for Peace [LINK]

2023-03-10

ロシアがカナダに軍事支援したら?

米経済学者、ウォルター・ブロック
(2023年3月6日)

もし米国がカナダと戦争したらどうなるだろう。笑ってはいけない。アニメ「サウスパーク」では、1話まるまる使ってこのような紛争を描いている。いつもの鋭い洞察力でこのような事態を描くことができれば、実際に起こりうることだ。また、ロシアがカナダの味方をしたとする。ロシアは米国に宣戦布告はしなかったが、カナダを支援するために、それ以外のあらゆることを行った。戦車、戦闘機、弾薬をカナダに送り、米国からの不当な侵略と思われるものを撃退するために、カナダを支援したとする。
米国はどう反応するだろうか。はっきりさせるのは難しい。この種の歴史シミュレーションには困難がつきものだ。しかしこの難題に挑戦し、想像力を飛躍させてみよう。米国の指導者たちは、決して愉快な仲間たちではなかっただろうと推測するのである。米国は、完全に北米の問題だと考えることについて、ロシアが弱者を支援することを祝福するどころか、憤りを覚えるだろう。この純粋に地域的な問題は、ロシアの熊には関係ないことだと思うだろう。

さいわい、この結論を導くのに、想像力に頼る必要はない。キューバ・ミサイル危機という歴史的事実があるからだ。米国は、ロシアが自国の海岸から90マイル離れた場所にミサイルを設置することを、まったく好意的に見なかった。むしろ、その逆だ。米国はこの事態を非常に不愉快に思い、キューバ全体を海軍で封鎖した。少なくともいくつかの正規の辞書では、これは実際の戦争行為だとされる。

そう、相手の目を通して物事に向き合うことは難しい。そのようなことをするためには、特別な意志と、並外れた知力がいる。しかしロシアが、米国とその同盟国によるウクライナの武装支援などを、カナダとの仮想戦争におけるロシアのカナダ支援と同じようにとらえていることは明らかだ。

1991年にソ連が解体した際、ワルシャワ条約機構も解体された。冷戦の終結とともに、北大西洋条約機構(NATO)も解体されるはずだった。それが西側諸国による約束だった。しかし、そのようなこと起こらなかった。それどころか、NATOの東方への進撃はとどまるところを知らなかった。ウクライナは、米国にとってのキューバよりも、はるかにロシアに近い国である。米国が今やっていることは、実際の戦争行為にあまりにも近いと言わざるをえない。もし米国が誠実で、憲法に則って行動するならば、今頃はロシアに対して宣戦布告をしていることだろう。幸いなことに、米国はまったく誠実ではない。よかった。核戦争は、一日を台無しにしてしまうのだから。

米上院で一番の自由主義者であるランド・ポール議員は、米国側からロシアに対し宣戦布告を行うよう、議会に申し出るべきだ。もちろん神に誓って、そのような恐ろしい事態をもたらすためではない。むしろその可能性を小さくするためだ。なぜそうなるのか。そうすることで、米国の政策がまさに現在そうなっていることを、最も劇的な方法で指摘することができるからだ。もし戦争屋に信念を貫く勇気があれば(ないことを祈るが)、このような提案に賛成することだろう。そうすれば、米国人はこの人々の正体を見抜くことができるだろう。狂人だ。

Is America at War With Russia? - Antiwar.com Original [LINK]

2023-03-09

ウクライナ戦争、支持いつまで

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年3月6日)

米国のウクライナ政策に対する国内支持率に関する最近の世論調査は、明らかに複雑な様相を呈している。バイデン政権が財政・軍事援助や軍事情報共有を通じてウクライナの戦力を支援する取り組みについては、米国人の過半数が依然として支持している。
しかし、その水準は2022年末の世論調査と比べても低下しており、2022年2月のロシアの侵攻直後に存在したきわめて高い支持水準からは大幅に低下している。

米国民の世論は、第二次世界大戦以降の米国の過去の軍事行動に見られるような下降線をたどっているようだ。しかし今回は、米軍が直接戦闘に参加しておらず、ましてや死傷者が出ていないにもかかわらず、支持率の低下が起きている。ウクライナ紛争が始まって1年も経たないうちに、戦争疲れが強まっていることは、政府の政策に対する国民の支持が非常にもろいことを警告するシグナルとなるはずである。

2023年2月15日のAP通信・シカゴ大学NORC研究所の世論調査では、米国人の48%がウクライナへの米国製武器の供与に賛成していることが判明した。29% が反対し、22% が「賛成でも反対でもない」と答えた。戦争が始まって3カ月も経たない2022年5月には、ウクライナに武器を送ることに60%が賛成し、反対はわずか19%だった。

ウクライナへの資金援助に関する態度も、より緩やかではあるが、同様の低下パターンをたどっている。2月のAP世論調査では、援助賛成派の意見は、もはや過半数どころか、多数の支持すら得られないことがわかった。37%が援助の継続を支持し、38%が反対している。それ以前の5月の調査では、44%が援助に賛成し、32%が反対していた。

また、ロシアへの経済制裁を支持する声にも若干の変化が見られた。63%というかなり高い支持率を維持しているが、これは5月の71%から低下している。

政府のウクライナ政策のあらゆる側面で国民の支持が徐々に低下していることは、今後問題になりそうな展開である。

とはいえ米国の指導者たちは、ウクライナのために米国の関与を強化するよう決意しているようだ。米国はすでにウクライナに豊富な高性能兵器を提供しており、ロシアへの挑発が強すぎるという理由で除外される品目のリストは減り続けている。米国の援助は、小型武器と弾薬の供給から始まり、ジャベリン対戦車ミサイルなどの武器に発展した。そして今、米国はエイブラムス戦車を戦場に送り込んでいる。ウクライナ軍がロシアの標的を攻撃する際の指針となる軍事情報を共有する姿勢も、着実に強まっている。

ウクライナにF16戦闘機を供与する計画は「今のところない」と主張しているが、非常に挑発的な手段である同戦闘機の供与も決して否定はしていない。米政府首脳は、代理戦争を北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接戦争に発展させようと躍起になっている。

ウクライナの聖戦に対する国内の支持が徐々に低下していることは、米国の過去の戦争、とくに朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争のパターンを踏襲している。いずれの場合も、当初は政府の介入に対する国民の熱意は非常に高かった。しかしその熱意は急落し、明確な勝利が見えないまま作戦が長引いたため、激しい幻滅に終わった。ウクライナの戦いも、同じような結果になりそうだ。

1950年6月下旬、ハリー・トルーマン大統領が北朝鮮の猛攻から韓国を守るために米軍を派遣した際、米国人の78%がこの作戦を支持した。8月に行われたギャラップ社の調査では、「介入は間違いだった」とする回答はわずか20%だった。1950年末に共産中国が参戦してからは、世論は大きく変化した。1951年2月初旬に行われたギャラップ社の世論調査では、トルーマンの決断は誤りだったと考える人が49~41%と多数を占めたのである。その後、政府の立場への支持は緩やかに回復したが、介入支持の感情が50%を超えることはなかった。

ベトナムへの介入に関する世論は、さらに顕著な下降線をたどった。米国民は、1965年に南ベトナムに地上軍を派遣するというリンドン・ジョンソン大統領の決定を59%対25%と強く支持した。しかし1967年1月には、賛成は50%、反対は37%にまで落ち込んだ。1969年1月、リチャード・ニクソン大統領が着任した時点では、戦争に賛成する人は39%しかおらず、52%が反対していた。1973年1月、パリ和平協定が締結され、ベトナム戦争への米軍の直接関与が終わったときには、戦争賛成派は29%にまで落ち込んでいた。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラク政策に関して、さらに急速な支持率の急落に遭遇した。2003年3月24日のギャラップ/USAトゥデイ/CNNの世論調査では、3月19日に開始された米主導のイラク侵攻を支持する米国人は72%だった。反対はわずか25%だった。しかし2004年夏には、さまざまな調査ですでに半数以上が「米国の介入は誤りだった」と考えていた。

〔2001年〕9月11日のペンタゴン〔米国防総省〕と世界貿易センターへのテロ攻撃後、アフガンへの武力行使に対する当初の支持は、イラクへの軍事行動への支持よりもさらに偏ったものだった。2001年11月には90%を超える支持率だった。その後、イラクに対する国民の意識に比べれば明らかに緩やかだったものの、高みから容赦ない下落が始まっている。2004年、アフガン作戦への支持率はまだ72%であり、2014年になって初めて、対反乱・国家建設作戦に反対する米国人の数が賛成を上回った。

イラクとアフガンへの介入に対する好意的な感情は、長期的にみてもあまり良いものではなかった。2021年8月のAP/NORCの調査では、米国人の62%がアフガン戦争は戦う価値がなかったと考えており、イラク戦争については63%だった。

政府が選択した戦争について、繰り返し(時には急速に)戦争疲れが生じている事実は、バイデン政権への強い警告となるべきだろう。米国民は、結論の出ない、ましてや明らかな失敗をもたらす海外の聖戦に、あまり忍耐力を示さない。米国はロシアの侵略を退けるために「必要な限り」ウクライナを支援するというバイデン大統領の公約は、米国民が喜んで引き受けたがらない約束手形を発行しているのかもしれない。

Is weakening support for Ukraine war following a historical pattern? - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-08

戦争を終わらせるのは外交

平和外交研究所研究員、クリストファー・モット
(2023年3月3日)

米国とその同盟国がウクライナにどの程度関与すべきかという議論で、最大限の利益を得ることが当然視されるようになった。公式見解の多くでは、クリミア半島とドンバス地方の返還を含むウクライナの完全勝利が、戦争を終結させる唯一の方法だとされている。これは支持者が想定している以上に、歴史的命題として疑わしいものである。
外交の必要性は、しばしば第二次世界大戦との比較という信じられないような疑わしいもので片づけられてしまう。枢軸国の無条件降伏は、異常な出来事ではなく、外交の歴史を理解するうえで重要な教訓だという暗黙の前提がある。しかしほとんどの主要な紛争は、1945年のような終わり方をしていない。

さらに世界の多くの人々は、ウクライナ紛争を世界の魂をかけた宇宙的な戦いではなく、米露の大国間対立の一部である、欧州の局地的な戦争とみなしている。

欧州外交問題評議会によれば、北大西洋条約機構(NATO)諸国と日本のような少数の国による連合は、想定以上に例外的な存在である。世界のほとんどの国は、ウクライナ紛争に関与せず、大きな激化を避けるように努力することで、自国の利益を追求している。世界の世論(それが存在する限りにおいて)は、米国やその協力国の多くが考えているよりも、交渉による和平に疑いを抱いていない。

ウクライナ戦争に対する意見がどうであれ、つまみ食い的で近視眼的な歴史の読み方に基づき誇張された、〔一切妥協しない〕最大主義の主張によって、過去も現在も外交が実際に機能している現実を見失わないようにしなければならない。たしかに、交渉による解決が必ずしも内戦や紛争を終結させるとは限らないが、国際的な国家間の暴力に関しては、交渉の方がはるかに有効に機能しやすい。

最大主義者は第二次世界大戦を基準にしたがるが、戦後は紛争を終結させたり、軽減させたりする方法として、政府間交渉の傾向が強まっている。国の相互接続と核兵器の拡散は、競争相手国に完敗や無条件降伏を求めることの愚かさをさらに際立たせている。

現代に近づくにつれ、列強間の技術的・資源的格差が縮小しているため、相手を強烈な一撃で倒すことは、まれにしか起こらなくなった。イラクやリビアで行われた軍事作戦のように、欧米連合が比較的有利な条件で小国を圧倒し、その後、混乱、政府破綻、難民危機が発生するというような例外がほとんどで、うらやましいとは言いがたいものだった。

第二次世界大戦後、最初の大規模な通常戦は朝鮮戦争だった。この紛争は、北朝鮮のもとで朝鮮半島を統一するという最大限の目標で始まり、1950年に北朝鮮軍が南から追い出されると、米国と韓国は自分たちで半島を統一しようとする動きを見せた。戦争は1953年まで続き、双方ともはるかに多くの犠牲者を出したが、最終的には、戦前の国境線だった38度線とほとんど変わらない非武装地帯で終結した。今日まで続いている休戦は、平和条約ではなく停戦である。

冷戦の過程でさらに妥協的な和解が行われることになる。ザンジバルでは、新政府がアラブ人を排除し、共産主義諸国を指向する動きを見せたため、暴力的な騒動が起こり、国際危機の可能性があった。しかし1964年、交渉官たちはザンジバルの国内自治を国際的に承認し、タンガニーカと合邦してタンザニア連合共和国を誕生させることで、危機を回避することに成功する。

その後10年間、イスラエルと宿敵エジプトとの間にとうとう永続的な和平をもたらすことになったのは、軍事的な決着がつかなかった1973年のヨム・キプール戦争〔第四次中東戦争〕だった。それまで勝利していた近隣のアラブ諸国の反発は強かったが、外交官たちが協力して土地と〔イスラエルの〕承認を引き換えることで、米国が大きく後押しした結果、より長続きする和解に至った。

一方、戦火の絶えなかった東南アジアは、冷戦終結後、ベトナム、タイ、中国との間で行われた関係正常化によって、より大きな、そして今のところ持続的な国際平和の水準に到達した。

これは核の危険と超大国間競争の時代における必要な妥協と説明することもできるが、現在の多極化への転において、その重要性を増すばかりである。さらに、1990年代から2000年代にかけての米国主導の「一極集中の時代」においても、交渉による解決の傾向が弱まらなかったことは注目に値する。たとえば、ユーゴスラビア崩壊の際の戦いは、いずれも決定的な勝利を得たとは言いがたいものだった。

同じく、エチオピアとエリトリアはバドメ地方で国境をめぐる大規模な戦争を行い、当初は膠着状態に陥るかと思われたが、終結から20年以上が経過した現在でも、その勢いは衰えない。現在では、かつての敵同士がティグラヤの反乱軍に対して協力することもある。

インドとパキスタン、サウジアラビアとイラン、ウクライナとロシアなど、地域間の厄介な紛争を見るにつけ、一方が完全に崩壊し、他方が勝利するという解決方法はありえないように思える。また、タカ派の元国務長官〔ヒラリー・クリントン氏〕が唱えるような、交戦国の権力層の内部分裂も、確実な結末として想定することはできない。このような事態は最近の歴史でも起こってはいるが、それは異常事態であり、最も可能性の高いシナリオとして計画されるべきものではない。

特定の大義名分の是非にかかわらず、ほとんどの国は、国際紛争の最も現実的な結果として、交渉による解決を期待しているはずである。世界の国家間戦争の大半は、最終的に外交官が交渉の場で厳しい譲歩を強いることに帰結するという現実を、偏った例外によって見えなくしてしまうのは賢明ではないだろう。

この結果を必然として理解するほど、冷静で現実的な国家運営を阻むものは少なくなるはずである。

Tell me how this ends: If recent history is a guide, not with a knockout blow - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-07

分離独立か内戦か

ミーゼス研究所編集主任、ライアン・マクメイケン
(2023年2月28日)

政治において「一度もない」というのは、とてもとても長い時間だ。しかし分離独立やいわゆる国民離婚の話題が出るたびに、「分離独立は絶対に起きない」という言葉をよく耳にする。この「絶対」という言葉が果たして本心なのかどうか、見極めるのは難しい。「この先10年、20年はない」という意味であれば、もっともな話である。しかしもし本当に「100年(あるいはそれ以上)以内には起こらない」という意味であれば、それは根拠のない純粋な憶測であることは明らかだ。そのような発言は個人の夢や希望にすぎない。
経験上、ほとんどの国の政府の状態は、数十年の間に大きく変化することが多い。1900年のロシアと1920年のロシアを想像してみてほしい。あるいは、1930年の中国と1950年の中国を想像してみてほしい。1850年のオーストリア皇帝に、1919年までにあなたの帝国は完全に解体されると誰かが言ったとしたら、おそらく皇帝はそれを信じようとはしなかっただろう。1945年当時の英国の臣民で、1970年までに大英帝国がすべて消滅すると思っていた人はほとんどいなかった。1970年代には、ソビエト連邦が長期的に存続することが既成事実化されたように見えた。1900年と1950年の世界地図を比較すれば、そのことがよくわかる。人間の一生に満たない時間の中で、世界の政治地図はしばしば見分けがつかないほど変化する。

しかし現状に安住し、いつまでも現状が続くと自分に言い聞かせている人たちがつねに存在する。多くの人は、自分の好きな国家体制が千年王国となり、「進歩」というバラ色の未来に向かって無限に生き続けるという希望に安らぎを見出している。政治的不死の主張は、政府を支持する叫びとして重要視されることも多い。フランスのマルクス主義哲学者レジス・ドゥブレ氏が指摘したように、「フランスは永遠である」という考えは経験上、真実ではないかもしれないが、それでもこの感情は、フランスの兵士やフランスの民族主義者に体制維持の動機を与えるものである。

一方、それとは反対の衝動、つまり体制の死滅を認識することは、多くの人にとって、国家の政治的偶像に対する一種の異端とみなされる。明らかに真実かもしれないが、それを口に出して言うことは「反逆」である。もちろん、「裏切り者」という叫びは、体制に感情的な愛着を持つ人々にとって、長らく常套手段であった。これまでの多くの異端がそうであったように、この異端も罰せられないわけにはいかない。かくして、「裏切り者」はフランス共和主義者の叫びとなり、〔革命政府に反抗して民衆蜂起が起こった〕ヴァンデ地方で女性や子供を虐殺するほうが、その地方の独立を許すよりましだと考えられたのである。アルメニア人分離主義者に対して大量虐殺を行ったトルコの帝国主義者の叫びでもある。

現実には、どのような政権も、現在の形は多くの人が望む以上に脆弱である。問題は、米国の体制がその規模や性質を根本的に変えるかどうかではない。いつ、どのような形で変わるかである。国家内部の対立が爆発して暴力や革命に発展するのではなく、地方分権を通じて平和的に政府権力を徐々に縮小していく可能性を検討しようとする人々は、ワンパターンな統一主義者よりも、はるかに政治史に通じているのである。

分離独立に反対する人々の感情的な性質は、反対派がこの議論に中間の立場を認めないという事実にも表れている。許される選択肢は、現状維持か戦争かだけである。

「中道」の選択肢としては、かつてのオランダ共和国のような合意モデルに基づく連邦がある。昔のスイス連邦のような非常に緩やかな連邦のモデルもある。欧州連合(EU)のような任意加入の関税同盟という選択肢もある。多くの防衛同盟に見られるような、独立した国家間の相互防衛協定という選択肢もある。いずれの選択肢も、今日の巨大な行政国家のような、全国的な規制と税を課す政府を必要としない。

しかし分離独立に反対する人々の多くは、これらの選択肢のすべてに反対している。「分離独立は行き過ぎだから、もっと分権的なモデルに移行しよう」とは言わない。なぜ中央集権派からこのような歩み寄りがなされないのか。なぜなら分離独立に反対する人々は、現状を維持することに重きを置いているからだ。国の支配階級の価値観を反映した形で、全国的な政策を押し付ける国政を望んでいる。植民地主義的な考え方の再来だ。「選挙や妊娠中絶、貿易のルールを、X州の人々に決めさせるわけにはいかない。あの人たちは、地方自治を許されるにはあまりにも無教養で、人種差別主義者で、愚かだからだ」

このような強引さは、潜在的な分離主義者に対して暴力を行使するという考えを、反対派がしばしば喜んでいる点にも見出すことができる。たとえばエリック・スウォルウェル下院議員は、米政府が国内の分離主義者に対して核兵器を使用するよう提案した。血で血を洗う第2次内戦(南北戦争)の考えを軽く見る人々もいる。実際、21世紀の分権化を19世紀半ば(160年前)の戦争に結びつけるという主張は、当時の反脱退派〔連邦から南部の脱退を許さない北部勢力〕の「解決策」が現在も同じ解決策を正当化することを暗に示している。なお、強調されるのはつねに米国の内戦であり、平和的な分離独立運動の多くの例には触れられない。デンマークからアイスランド、スウェーデンからノルウェー、マレーシアからシンガポール、大英帝国からマルタ、ソ連からバルト3国(ほんの一例だ)。その代わりに、米国の普通の分離独立反対派は、どうやら自分の隣人に対して戦争を仕掛けることに執着しているようだ。

もちろんそのようなことは、現代の米国人が「連合を維持する」という名目で、死や殺戮をいとわない、あるいは自分の子供たちに死や殺戮をさせることをいとわない場合にのみ、実行されることである。果たしてどれだけの人がそれを望んでいるのだろうか。そうでないことを祈るばかりである。そのような人は、狂信者としか言いようがない。

このような暴力的な反分離独立派の存在は、政治的統合が依然として危険であることを思い起こさせる。統合を支持する人々は、単なる脱統合の議論を、国民に対する連邦政府の支配を強化する必要性の表れと解釈するかもしれない。これはまた、政府が好む戦略でもある。この戦略は試行錯誤の末に完成したものだ。3世紀に崩壊が確実視されたローマ帝国は、そうして150年間も維持されたのである。皇帝は帝国を軍事独裁国家に変えたのだ。統一を押し付ける同じ方法は、数え切れないほど多くの国家で採用され、人権や自決に大きな犠牲を強いてきた。しかしディオクレティアヌス帝の独裁でも、最終的に帝国の西側地域の分離独立を防ぐことはできなかった(ユスティニアヌス帝のイタリア統一も失敗に終わり、莫大な死と破壊をもたらしただけだった)。大きな多民族国家にとって、分離と崩壊はつねに避けられないものだった。ローマ人も無関係ではなかった。米国人も無関係ではいられない。

その答えは、際限のない暴力や暴力の脅威によって維持される、政治的統一を強化することにあるのではない。むしろ自己決定の拡大、地域自治、連邦、合意による平和的分離にこそ、答えがある。今直面しているのは、政治的統一を「永遠に」維持しようとする後ろ向きの試みと、避けられない現実に直面することとの間の選択だ。一方には、現状維持に固執し、植民地主義的な考え方を持つ統一主義者がいる。もう一方は、中央政府の力を抑え、地域の自己決定を追求する人々である。中央集権派は間違った側にいて、結局は敗れる側にいるだろう。

Secession Is Inevitable. War to Prevent It Is Optional. | Mises Wire [LINK]

2023-03-06

戦争を拒んだ大統領

ロン・ポール研究所上級研究員、アダム・ディック
(2023年2月22日)

ニュース解説「ロン・ポール・リバティ・リポート」の火曜日(2月21日)のエピソードで、ホストのロン・ポール氏〔元米下院議員〕は視聴者から寄せられた質問に答えた。その中でポール氏は、以前同氏が称賛したグローバー・クリーブランド大統領が、米国が戦争に参加するよう求める議会の圧力に立ち向かった事例があることに言及した。
ポール氏はその事例について詳しく言及しなかったが、クリーブランドが行ったのは、キューバの反乱を助けるという名目でスペインと戦争することを拒否することだった。

歴史家のヘンリー・グラフ氏は、クリーブランドの外交政策に関するミラー研究所の記事で、この問題に簡単に触れている。グラフ氏はこう書く。

キューバ問題では、クリーブランドは中立を保ち、スペインの支配に対する暴動を支援することを拒否し、代わりにスペインが徐々に〔キューバを〕独立に導くような改革を採用するよう促したいと考えた。この問題では、キューバ反乱軍の交戦権を認めるようクリーブランドに求める決議を採択した上院と対立することになった。議会はキューバの独立を認めると脅し、大統領に逆らおうとした。これに対してクリーブランドは、そのような決議は大統領の権限を簒奪するものであると、きっぱりと言い放った。この問題は、2期目終了後も解決されないままであった。

アイヴァン・エランド氏は『ラシュモア山の大統領像を彫り直す』という洞察に満ちた本の中で、クリーブランドを米国人の歴代大統領の中で2番目に優れた人物に位置づけている。平和、繁栄、自由をテーマにした歴代大統領のランキングだ。エランド氏は著書の中で、次のような補足説明をしている。

1896年、クリーブランドは、後継者のウィリアム・マッキンリーとは異なり、スペイン帝国に対するキューバの反乱をめぐってスペインとの戦争を回避し、介入主義を求める議会や世論の圧力に抵抗した。クリーブランドは、このような戦争によって政治的に利益を得ることができたかもしれない。なぜなら、1890年代の経済不況から米国人の意識を遠ざけることができたからである。しかし、代わりに正しいことをする多大なコストを背負った。

エランド氏が示唆するように、1897年にマッキンリーがクリーブランドに続いてホワイトハウスに着任した後、状況は大きく変わった。1898年、マッキンリーは米国を米西戦争に引きずり込み、米国が帝国に移行した時期をはっきり示した。

エール大学のウィリアム・グラハム・サムナー教授は、米西戦争終結直後に行った演説「スペインによる米国の征服」の中で、米国とその政府のあり方を変えた米西戦争の重要性をよくとらえている。サムナーは、介入主義的な外交政策の本質を理解するうえで今日でも重要なこの演説の冒頭で、米西戦争に勝利した米国が帝国主義的な道を歩み、米国の「破滅」を招くという主張を展開している。

この一年間、国民はスペインの描写やスペインのやり方に慣れ親しみ、スペインの名前はある種の明確な概念や政策の象徴となった。一方、米国の名前は、私たちにとってつねに、ある状態、一連の考え方や伝統、社会的・政治的問題についての見解の象徴であった。

スペインは、近代帝国主義国家の中で最初の、そして長い間最も偉大な国であった。米国は、その歴史的起源、伝統、原則によって、そのような国家に対する反乱と反動の代表的存在である。私は、現在提案されている、拡張と帝国主義と呼ぶ行動の仕掛けたものによって、我々が米国の象徴の最も重要な要素のいくつかを捨て、スペインの象徴の最も重要な要素のいくつかを取り入れていることを示すつもりである。

我々は軍事的な衝突ではスペインに勝ったが、思想と政策の分野ではスペインによる征服に屈しているのである。膨張主義と帝国主義は、スペインを現在の位置に導いた、古い国家繁栄の哲学にほかならない。これらの哲学は、国民の虚栄心、国民の愚かさに訴えるものである。それらは、とくに最初に見たとき、そして最も表面的な判断において、魅惑的であり、したがって、大衆の与える効果が非常に強いものであることを否定することはできない。しかしそれらは妄想であり、それに抵抗できるほど頑健でない限り、我々を破滅へと導くだろう。いずれにせよ、1898年という年は米国の歴史上、大きな画期の年である。

米西戦争から125年、マッキンリーがとった帝国主義の道は、クリーブランドの自制心とは対照的に、米国の大統領たちによってさらに何度も選ばれてきたのである。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : When President Grover Cleveland Rejected Congressional Pressure for War against Spain [LINK]

2023-03-05

【コラム】「自由民主主義諸国」の偽善

木村 貴

ラーム・エマニュエル駐日米国大使は、ロシアのウクライナ「侵攻」から1年となる2月24日、ツイッターにこう投稿した。「プーチン〔露大統領〕は大間違いをしている。NATO〔北大西洋条約機構〕が東方に拡大したのではない。実のところ、NATOの新加盟国は自らの意志で西側に加わったのだ。西側には強みがある。それは自主であり、自由、そして個人の尊重だ」
投稿の前半について、少し背景を説明しよう。NATOには冷戦終結後、1999年のポーランド、ハンガリー、チェコを皮切りに、ブルガリア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニアなど東・北欧諸国が相次いで加盟してきた。ロシアのプーチン大統領はこの「東方拡大」が自国の安全保障を脅かすと非難しており、ウクライナに対し軍事行動を始めた理由の一つにも挙げている

これに対し、剛腕で知られ、アクション映画にちなんだ「ランボー」の異名をもつエマニュエル大使は「NATOが東方に拡大したのではない」と真っ向から否定したわけだ。そうではなくて、新加盟国が「自らの意志で西側に加わったのだ」という。ツイートに添えられた、日本外国特派員協会での会見(昨年2月のものとみられる)の動画では「ポーランド、ハンガリー、チェコが西方に拡大したのだ」と熱弁をふるっている。

なんとも斬新な見解だ。まあ、そういう考えもあるかもしれない。しかし問題は、そんなことを言われても、ロシアとしてはなんの気休めにもならないことだ。たとえるなら、宮城の露西亜組の親分は、もし隣の福島や山形の組が東京の巨大組織の傘下に入ったら、それが福島や山形の「自らの意志」であろうとなかろうと、気が気でないだろう。ましてや、東京の組長から「いや、これはウチの東北進出じゃなくて、福島さんや山形さんの関東進出なんですわ、ワハハハ」などと煙に巻かれたら、さらに不安が募るに違いない。

もう少しまじめなたとえをしよう。米政府は、もしロシアが旧共産圏の軍事同盟だったワルシャワ条約機構を復活させ、そこに隣のカナダが「自らの意志」で入ったら、平気でいられるだろうか。「あれはロシアの北米進出じゃなくて、カナダのユーラシア進出だから」などと涼しい顔でいるだろうか。そんなはずはない。米国がこれまで、近隣はおろか、たとえ地球の裏側であろうと、自らの覇権をわずかでも脅かすと考えた政権に対し、戦争やクーデターという暴力に訴えてでも、排除に動いてきたのは周知の事実だ。

この事実ともかかわるのが、エマニュエル大使の投稿の「西側には強みがある。それは自主であり、自由、そして個人の尊重だ」という後半部分である。たしかに米欧の市民の間では、これらの価値観は一般に尊重されているといっていいだろう。しかし西側諸国の政府がその政策において、「自由」や「個人」を大切にしているとは言いにくい。

冷戦終結後に限っても、セルビア、アフガニスタン、イラク、シリア、リビアなどに対し軍事介入や経済制裁を行い、多くの市民の生命・健康を奪い、財産を破壊してきた。1990年代、米クリントン政権がイラクに対し実施した経済制裁は、50万人ものイラクの子供たちの命を奪った。この血の凍るような事実について、同政権の国連大使だったマデリン・オルブライト氏が、「それだけの価値がある」と発言したのは有名だ。

今年2月3日に大型のトルコ・シリア地震が発生し、米国による長年の制裁と戦乱で疲弊したシリアの人々に追い打ちをかけた。地震発生後、米国はなおもシリアに対する制裁の解除を拒み、救援隊や物資の到着を阻んだ。同月9日になってようやく、一部制裁を一時解除すると発表したが、この時すでに災害後の生死を分けるタイムリミットである72時間を過ぎていた。また米軍はシリア国土の3分の1を占領し、「食糧や援助を購入する重要な収入源である石油を盗んでいる」(ジャーナリスト、マックス・ブルメンタール氏)と指摘される。

中国外務省が2月20日に公表した報告書「米国の覇権とその危うさ」によれば、2001年以来、米国がテロとの戦いの名の下に始めた戦争と軍事作戦は、90万人以上の命を奪い、そのうち約33万5000人は民間人であり、数百万人が負傷し、数千万人が避難した。

米国の軍事介入の多くは国際法違反の批判を浴びてもいる。中国やロシア(ソ連)の政府も過去には毛沢東やスターリンといった独裁者の下で多数の国民を犠牲にしているが、だからといって現在の米政府が「自由と個人の価値が強み」などと、世界に向かって胸を張れた立場ではあるまい。

こうした事実はもちろん日本人の多くにも知られていて、エマニュエル大使のツイートへの返信には、「シリアにはなんのために駐留してるの? 石油を盗むためね」「これこそ西側の論理。詭弁」「尊重の価値観ある人が、海底管路を爆発しちゃうんだ」と辛辣なツッコミが並んでいる(最後の「海底管路」とは、昨秋何者かによって爆破され、西側メディアがロシアに罪をなすりつけようとしたものの、最近になって真犯人は米政府だと暴露報道された、ガスパイプライン「ノルドストリーム」のことだろう。なお米政府は否定)。

2023-03-04

藩政改革の苦闘

18世紀の半ば頃から江戸幕府・諸藩の国家財政は赤字を重ね、信用を失墜させて商人らからの資金調達も難しくなる事態が現れ始める。17世紀のような開発・成長を前提とした政治が限界を迎えたのである。

江戸のCFO 藩政改革に学ぶ経営再建のマネジメント

苦境から脱するため、諸藩は財政再建を柱とする藩政改革を行った。その推進役となったのは、藩主自身や藩内から抜擢した優秀な人材、さらには藩外から招聘した財政家たちである。しかしその道のりは厳しく、険しいものだった。

恩田木工(1717〜1762年)は信濃国(長野県)松代藩家老。家老中最年少の39歳のとき、勝手掛(財政担当)の大役を命じられ、専制政治や放漫経営によって混乱した藩政の改革に取り組む。

恩田は勝手掛に就任すると、「自分は決して嘘をつかない」ということを、藩主、藩上層部、藩士たちのみならず、領民に対しても宣言した。

そのうえで恩田は領内に触れを出し、松代城内大広間で大会議を催す。 当日参集したのは、藩の諸役人をはじめ、町民、農民であり、なかでも最も多かったのは農民だった。身分制度の厳しい当時、これは破天荒のことだった。

この会議で恩田は、改革の具体策を公開した。そのなかで注目すべきは、「年貢月割金納制」という新たな税制である。年貢の上納に際し、食用とする御飯米などのための現物納入分以外は金納(貨幣による上納)とし、月割で納めることを許したのである。

これは米以外に櫨、栗、青苧、紅花、生糸などの商品作物が多く生産され、換金できた松代藩の特色を生かした妙案だった。

興味深いことに、この新税制は三カ年の時限立法という形で導入された。これは、恩田が「領民の心底からの同意に基づいて新税制を運営していくという契約的な立場を貫いている」ことの表れだと歴史学者の笠谷和比古氏は指摘する。この次元立法は更新を繰り返すという形で、廃藩時まで継続する。

とはいえ、税制改革の効果はすぐには出なかった。藩財政がようやく改善に向かったのは恩田の死から数年後、後継者たちによる努力が実ってからだった。

上杉鷹山(1751〜1822年)は出羽国(秋田県の一部と山形県)米沢藩主。日向国(宮崎県)高鍋藩主秋月種美の次男として生まれる。米沢藩主上杉重定の養子に迎えられ、1767年(明和3)に16歳の若さで米沢藩主となる。

鷹山は江戸時代屈指の名君として名高いが、有能な家臣が補佐したことを忘れてはならない。とりわけ大名貸と呼ばれる藩への貸し付けを行う大商人との関係改善に力を尽くしたのが、江戸家老の竹俣当綱だ。

江戸の両替商である三谷家は、長く米沢藩と関係を取り結び、藩領の特産品である漆蠟(ロウソクの原料)の蔵元に指定された有力な商家である。ところが藩主の側近・森平右衛門が藩政を取り仕切った時代に、米沢藩の不義理によって信頼関係が崩れると、資金融通の依頼に一切応じなくなった。

竹俣当綱は平右衛門を粛清し、鷹山の家督相続を機に、三谷家との関係改善に乗り出す。苦心の調整の結果、三谷家の手代、喜左衛門の米沢訪問が実現することになった。

入念に準備を進めて喜左衛門を米沢の地に迎えた竹俣らは、城下周辺の漆木の実蔵や漆蠟加工場、蠟打ち、桑畑開作場、青苧蔵などを案内して回った。豪商の経営幹部に対して「現地でプレゼンを行い、米沢藩の産業の現状、改革の成果と可能性のアピールに全力を尽くしたのである」と歴史学者の小関悠一郎氏は述べる。

領内視察日程の最後に、竹俣は自ら著した殖産計画書を喜左衛門に手渡した。詳細な計画書に三谷家の当主、三九郎は甚だ感心し、千五百両を用立てた。

海保青陵(1755〜1817年)は経営コンサルタントの先駆けとも評される、異色の儒学者である。丹後国(京都府)宮津藩家老の長男として江戸藩邸で生まれたが、家督を弟に譲り、30代半ばには江戸を離れて京へ向かう。その後は各地で経済上のさまざまな相談に乗り、家計や経営の立て直しに手腕を振るった。

江戸時代の武士や儒者の間では、金銭や商売について論じることは精神の堕落という考えが根強かった。青陵はそうしたタブーに真っ向から挑戦し、極言すれば、一切の世のからくりを商品とみなし、売買関係からとらえようとした。

青陵は「君臣は市道なり」という過激な思想を提唱する。「(君は)臣へ知行をやりて働かす。臣はちからを君へ売りて米を取る。君は臣を買ひ、臣は君へ売りて、売り買ひなり」。忠義を媒介として武家社会で神聖視されてきた士道を市道としてとらえ直し、商人の知恵に学ぶべきだというのである。

藩政改革の具体策の一つとして、「産物廻しの法」を提唱する。一藩経済主義から脱し、国産の物品を広く諸藩に移出する道を講じなければならないという主張だ。藩境を越えた自由貿易の勧めといえる。

青陵は他藩との自由な交易を「平和の戦争」だとみなした。「平和の戦争」である産物廻しを公正に行えば、単に一藩を利するだけでなく、交易相手の藩にも経済的メリットをもたらすと指摘している。

青陵が藩政改革の指南番として実際に助言にあたった例としては、加賀国(石川県)金沢藩のケースが知られる。金沢藩は「加賀百万石」といわれるように国内随一の大藩であり、発足当初は随分裕福だった。しかし貨幣経済・商品経済の発展に伴い、しだいに財政悪化の道をたどり始めた。

そんなとき諮問を受けた青陵は、産物廻しの法を主体とした再建策を具申した。それによって、それまで一藩経済にとじこもりがちだった金沢藩は他藩との交易に乗り出し、難局を乗り切ることができたと伝えられる。

山田方谷(1805〜1877年)は備中岡山藩(岡山県)家老。農商の長男に生まれるが、学問の才能を評価されて士分に取り立てられ、藩財政改革を託された。

方谷は葉タバコ「松山刻」など地場商品のブランド化で知られるが、それと並んで注目すべきは、藩札の信用回復である。

藩札とは、各藩が独自に発行する紙幣だ。本来は幕府が発行する貨幣(金貨や銀貨)との交換を前提とする兌換紙幣である。財政難に苦しむ藩は、赤字を補填するために藩札を発行するようになる。貨幣の準備高を大幅に超える不換紙幣が出回るようになったのである。

備中松山藩では天保年間(1830〜44年)に大量の藩札を発行しているが、すでにその頃には貨幣の準備高が払底していたらしい。乱発によって藩札の価値が暴落したうえ、偽札まで出回っていた。

方谷は三年間と言う期限を切って藩札を貨幣と額面で交換する旨を触れ、藩札の回収に努めた。回収された藩札は、偽札も含めると約八千両に及んだ。回収の費用には産業振興のために用意していた資金の一部をあてたが足りず、新たに借金をしてまかなったという。

方谷は財政再建への強い意志を印象づけるため、大胆なデモンストレーションを行う。河原に積み上げた大量の藩札を燃やしたのである。見物に訪れた多くの人々は持参した弁当で空腹を満たしながら、紙幣が燃やされるだけのパフォーマンスを楽しんだという。

方谷はその後、産業振興で獲得した貨幣を準備金として「永銭」という新たな藩札を発行する。永銭には「永銭百文」「永銭十文」「永銭五文」の三種類があって、それぞれ十枚、百枚、二百枚をもって金一両に引き替えるという明文が裏に記載されていた。

一連の通貨政策は経済安定に貢献し、「方谷の財政再建を成功へ導く重大な転換点となった」と経済学者の大矢野栄次氏は指摘する。

<参考文献>
  • 大矢野栄次『江戸のCFO―藩政改革に学ぶ経営再建のマネジメント』日本実業出版社
  • 百瀬明治『名君と賢臣―江戸の政治改革』講談社現代新書
  • 笠谷和比古『『日暮硯』と改革の時代―恩田杢にみる名臣の条件』PHP新書
  • 小関悠一郎『上杉鷹山―「富国安民」の政治』岩波新書
  • 徳盛誠『海保青陵―江戸の自由を生きた儒者』朝日新聞出版
  • 山田方谷に学ぶ会『入門 山田方谷』明徳出版社

2023-03-03

よみがえる反戦運動

元米下院議員、ロン・ポール
(2023年2月27日)

2月19日、ワシントンのナショナル・モールで、この20年間で最大の反戦集会が開かれた。講演者には〔自分を含め〕4人の元米大統領候補が名を連ね、左派・右派の枠を超え、幅広く多様な反戦活動家が顔をそろえた。
「戦争機構への怒り」と名付けられたこの集会には数千人の参加者が集まったが、多くの戦争擁護派は、20年前のイラク戦争に反対する大規模な集会の規模には及ばないと熱心に指摘した。

それに対して私は、「どうでもいいじゃないか」と言いたい。米国の主流メディアは、フォックスニュースのタッカー・カールソン氏を除いて、ノンストップで戦争プロパガンダに従事している。だから、戦争マシンの中心地であるワシントンまで行って声を上げる勇気のある人がいたことは、奇跡だと思う。 反撃に多数派は必要ない。教育を受け、献身的な少数派がいれば十分だ。この集会で私たちはそのことを確信した。

私はスピーチをするために控室で座っていたが、元民主党大統領候補のトゥルシー・ギャバード、デニス・クシニッチ両氏、元緑の党大統領候補のジル・スタイン氏と会う機会があった。政治評論家のジミー・ドーア氏やクリス・ヘッジズ氏も来ていたし、多くの著名な自由主義者たちもいた。舞台裏では誰もが同じメッセージを伝えていた。「この戦争に反対する新たな幅広い連合を築くために、互いの意見の相違を脇に置かなければならない」

反戦運動は、国内でも海外でも火がつき始めているのだと思う。ワシントンの集会に続いて、パリ、ベルリン、ロンドンなどでも大規模な反戦集会が開かれた。

ピュー・リサーチ・センターやAP通信など最近のいくつかの世論調査によると、米国人のウクライナへの支持率は低下している。欧州連合(EU)でも、新たな世論調査で、国民が自国政府の戦争支持に強く反発していることが示されている。最近のイプソスの世論調査によると、ドイツ人の半数以下しか、ウクライナに武器を送り続けることを支持していない。変化が起きているのだ。

ワシントンの集会は、どのようにして米政府がノルドストリーム・パイプラインを爆破し、主流メディアがそれを必死に隠蔽しようとしたかを示す、セイモア・ハーシュ氏の驚くべき調査報道を背景として行われた。真実は明らかになりつつあり、それは想像以上に醜悪なものだ。

米国の主流メディアは、自分たちの支配する物語が消えつつあることに、明らかに神経質になっている。なぜメディアが神経質になっているとわかるのか。反戦集会や反戦論に対する嘘や中傷の度合いを強めているからだ。

〔米MSNBCの〕レイチェル・マドー氏は、過去6年ほど「ロシアゲート」の嘘を米国に流し続けたが、「戦争機構に対する怒り」の集会について青筋を立てて誹謗中傷した。集会後のマドー氏の発言は文字どおり、すべてが客観的に虚偽であり、狡猾にも集会参加者を「変人」と誤って描いた。マドー氏は、集会が「白人至上主義者」「〔極右団体〕プラウドボーイズ」「反ワクチン陰謀論者」でいっぱいだったと嘘をついた。

集会にいた人は誰も、マドー氏の発言の意味がわからなかっただろう。しかし同氏の仕事は集会を説明することではなく、その名誉を傷つけることだった。集会についてのマドー氏のヒステリーは何を示しているのだろうか。神経質になっているのだ。主流メディアが、ほぼ完全な権力を握っているにもかかわらず、恐れていることを示している。自分たちの物語が台無しになることを恐れているのだ。よろしい。いよいよだ。もっと多くの米国人が怒り始めることを期待しよう。戦争機構への怒りだ。

The Ron Paul Institute for Peace and Prosperity : The Antiwar Movement Roars Back to Life [LINK]

2023-03-02

戦争と合衆国憲法

元米ニュージャージー州判事、アンドリュー・ナポリターノ
(2023年2月23日)

大統領は好きな戦争をすることができるのか。議会はどのような戦争にも資金を提供することができるのか。戦争が始まる前に、まず満たさなければならない憲法上および法律上の要件があるか。米国は合法的に同盟国を攻撃することができるのか。
これらの疑問は、米国のウクライナへの関与をめぐる議論において、正面かつ中心をなすものであるべきだ。しかし悲しいかな、これといった議論は行われていない。メディアは米中央情報局(CIA)の言うことを鵜呑みにし、政府の無謀で非道徳的、違法かつ違憲な戦争に異議を唱えるウェブサイトやポッドキャストは、私のサイトやユーチューブの「自由を裁く」などごくわずかでしかない。

米連邦政府のすべての権力は、合衆国憲法に由来するものであり、それ以外のものではありえない。しかし議会は国内では憲法の枠を超えて、規制できない分野で金を使い、賄賂によって州から法令遵守を買い取ることで、なんとかその範囲を広げているのである。

たとえば、飲酒運転撲滅のための血中アルコール濃度の数値規制や、最高速度規制などである。いずれの場合も、議会は両数値を下げることを条件に高速道路の舗装費を各州に提供し、資金繰りに困った各州は議会のひも付きでその資金を受け入れた。これらは賄賂だが、議会は自らの刑事責任を免除している。

同じことが外交政策でも行われている。軍事的な根拠がないため、議会は合法的にロシアに宣戦布告することができない。ロシアは米国の国家安全保障や米国人、財産に対して脅威を与えていないからだ。さらに米国はウクライナとの間で、米国の軍事防衛を発動させるような条約を結んでいない。しかし議会はそれにもかかわらず、戦争に金を費やしている。

憲法のもとでは、議会だけが国家や集団に対して宣戦布告できる。議会が最後に宣戦布告したのは、第二次世界大戦に米国人が参戦するためだった。しかし議会は大統領に限定的な権限を与え、宣言されていない戦争を行うことを許可してきた。その例として、ジョージ・W・ブッシュ大統領によるアフガニスタンとイラクへの悲惨で犯罪的な侵略、そして1973年の「戦争権限に関する両院合同決議」が挙げられる。

議会はロシアに宣戦布告していないだけでなく、ロシアに対する米軍の使用も認めていない。しかし議会はジョー・バイデン大統領に1000億ドルの白紙委任状を渡し、ウクライナの軍備に好きなように使うことを許可したのである。

バイデン大統領は、ウクライナに必要なものは何でも「必要な限り」与え続けると約束した。何をするために必要なのか。バイデン氏は答えられない。明確な軍事目標がないからだ。ウクライナとクリミアからロシア軍を排除することや、ロシアのプーチン大統領を失脚させることは、現実に達成可能な軍事目標ではない。

議会が許可したのは武器と現金をウクライナに送ることだけだが、バイデン大統領は軍隊も送っている。ベトナムへの米国の関与も同じように始まった。宣戦布告もなく、軍事力行使の許可もなく、しかし顧問や指導者として徐々に米軍を増強した。そして議会が支持する戦争で50万人の米軍兵士が配置され、そのうち10%は遺体袋で帰還した。

ウクライナに何人の米国人兵士がいるのか、私たちは知らない。バイデン大統領が送り込んだ兵器には、運用や維持に米国人のノウハウが必要なものが多いため、敵対行為に関与していることはわかっている。そしていくつかの兵器は、米国人が実際にロシア軍を標的にして引き金を引いている。

米軍兵士がロシア軍兵士を殺しているのか。そうだ。議会は承認していないが、その費用を借金で賄っている。

さて、憲法の話に戻ろう。戦争権限に関する両院合同決議とは、米軍の武力行使について大統領から議会への通告を義務づけるもので、違憲である。議会がその中核機能である宣戦布告を放棄しているからだ。最高裁は、中核機能の委譲は三権分立に反すると位置づけている。

それにもかかわらず、バイデン大統領は米軍を暴力的に使用する意図を議会に伝えていない。しかしバイデン氏は海軍とCIAを使ってドイツ〔のノルドストリーム・パイプライン〕を攻撃した。これは戦争犯罪であり、北大西洋条約違反である。そしてバイデン氏はウクライナに軍服を着ていない兵士を送り込み、軍が現地にいないかのようなごまかしを永続させようとしている。

バイデン氏が「ギャング・オブ・エイト(8人組)」にこっそり戦争権限の通達を出しても驚かないことだ。8人組とは議会の中の議会である。上下両院の情報委員会の委員長と有力メンバー、共和・民主両党の院内総務で構成され、大統領が合法に機密を共有する。

議会が戦争遂行権限を大統領に委譲できないのと同じく、8人組に委譲することもできない。8人組の概念は民主主義の価値観に反する。大統領がどんな暴挙に出ようと、それを8人組に知らせることは秘密保持の宣誓のもとに行われる。秘密裏に活動し、殺人を犯す民主主義などありえない。

米国が締結している各種の条約は、戦争行為を防衛的、比例的、合理的なものに限定している。つまり、外国勢力が攻撃しようとしている場合、たとえば〔2001年〕9月11日のように政府が眠っている間に、大統領は米国を守るために先制攻撃できる。差し迫った攻撃を超えて、戦争の根拠は現実でなければならず、敵の反米軍事行動は重大でなければならず、戦争の目的は明確で達成可能でなければならず、手段は脅威と釣り合いが取れていなければならない。

ロシアは米国を脅したのか。脅していない。ロシア軍が米国に対して行った重大な行為とは何か。何もない。バイデン大統領の目的は何か。大統領は言わない。

議会は憲法を守っているか。大統領はどうか。答えは明白だ。私たちは、憲法を無視する人々の手に憲法を預けている。その結果は、死と借金、個人の自由の喪失である。

War and the Constitution - LewRockwell [LINK]

2023-03-01

戦争機構への怒り

ジャーナリスト、クリス・ヘッジズ
(2023年2月19日、ワシントンで開いた反戦集会「戦争機構への怒り」でのスピーチ)

偶像崇拝は、他のすべての罪が派生する原罪である。偶像は私たちを神になるように誘惑する。偶像は、富や名声、権力を求める狂気の沙汰の中で、他者を犠牲にすることを要求する。しかし偶像はつねに自己犠牲を要求し、他人のために建てた、血塗られた祭壇の上で私たちを滅亡に追いやることで終わる。
帝国は殺されるのではなく、恍惚とさせられた偶像の足元で自殺するのだから。

私たちは今日、選挙で選ばれたわけでもなく、責任もとらない帝国の大祭司を非難するためにここにいる。彼らは何百万人もの犠牲者の死体と何兆もの国富を、カナン人の偶像であるモロク〔魔王〕の地下に流し込んでいる。

政治家、メディア、娯楽産業、金融業者、そして宗教団体までもが、イスラム教徒やロシア人、中国人、あるいは偶像が生きるに値しないと悪魔化した人物の血を求めて、狼のように群がる。イラク、アフガニスタン、シリア、リビア、ソマリアでの戦争には、合理的な目的がなかった。ウクライナでもそうだ。永遠の戦争と大量殺戮は、彼ら自身を正当化するものだ。ロッキード・マーチン、レイセオン、ジェネラル・ダイナミクス、ボーイング、ノースロップ・グラマンが何十億ドルもの利益を得ている。米国防総省が要求する莫大な支出は神聖なものである。戦争屋の識者、外交官、技術者は、自分たちが指揮する数々の軍事的災害の責任を気取った様子でかわしながら、政治の潮流に合わせて巧みに変化し、共和党から民主党に移り、また戻って、冷たい戦士からネオコン、リベラルな介入主義者に変身していく。〔仏哲学者〕ジュリアン・バンダ氏は、こうした権力の廷臣を「たたき上げのインテリ野蛮人」と呼んだ。

このような戦争のポン引きたちは、犠牲者の死体を見ようとはしない。私は見た。子供も含めて。グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、パレスチナ、イラク、スーダン、イエメン、ボスニア、コソボで記者として立ち会ったあらゆる死体は、毎月毎年、戦争屋の道徳的破産、知的不誠実、血への病んだ渇望、妄想のすべてを露呈していた。戦争屋は、国家の中の国家である国防総省と、そのシンクタンク(アメリカ新世紀プロジェクト、外交政策イニシアチブ、アメリカン・エンタープライズ研究所、新アメリカ安全保障センター、戦争研究所、大西洋評議会、ブルッキングス研究所など)に潤沢な資金を提供する兵器製造会社の操り人形なのである。抗生物質耐性のあるバクテリアの突然変異種のように、連中を打ち負かすことはできない。連中がどれだけ間違っているか、どれだけ馬鹿げた世界支配の理論を持っているか、どれだけ嘘をつき、他の文化や社会を未開として誹謗中傷し、どれだけ多くの人を死に追いやったとしても、それは関係ない。連中は不動の小道具であり、あらゆる帝国の死期に吐き出された寄生虫であり、連中が新たなヒトラーだと決めた人物に対する次の高潔な戦争を私たちにいつでも売り込める。地図は変わっても、ゲームは同じだ。

荒涼たる風景をさまよい、暗闇の中で叫び続ける預言者に憐れみを。ロンドンの厳重警備の刑務所で緩やかに処刑される、ジュリアン・アサンジ氏に憐れみを。アサンジ氏は帝国の大罪を犯したのである。帝国の犯罪、死のからくり、道徳的堕落を暴露したのだ。

真実を語ることを禁じた社会は、正義に生きる力を奪う。

今日ここにいる人たちは、自分たちを急進派、あるいは革命家だと考えたがっているかもしれない。しかし私たちが政治的な観点から求めているのは、実は保守的なことだ。法の支配を回復することだ。それはシンプルで基本的なことである。機能している共和国においては、扇動的であってはならないはずだ。しかし、政治哲学者シェルドン・ウォリン氏が「逆全体主義」と呼んだ専制的な体制の中で真実に生きれば、身を滅ぼすことになる。

帝国主義の建築者、戦争の支配者、企業に支配された立法府、司法府、行政府、メディアや学界の従順な口利きたちは、違法な存在である。この単純な真実を言えば、私たちの多くがそうであったように、あなたも辺境に追いやられる。アサンジ氏がしたように、この真実を証明すれば、あなたは磔にされる。

「赤いローザも消えた……」。〔独劇作家〕ベルトルト・ブレヒトは殺害された社会主義者ローザ・ルクセンブルクについて書いた。「彼女は貧乏人に人生とはどうあるべきかを説き、金持ちは彼女をこきおろした」

私たちは企業のクーデターを受け、貧困層や働く男女の半数は緊急の出費をまかなう400ドルもなく、慢性的に不安定な状態に陥っている。失業と食糧不安は風土病のようなものだ。地域社会や都市は荒れ果てている。戦争、金融投機、絶え間ない監視、占領軍として機能する軍国主義の警察だけが、政府の真の関心事なのだ。人身保護法さえも、もはや存在しない。私たち市民は、企業の権力機構にとって商品であり、利用され、捨てられる。私がニュージャージー州の刑務所で教える生徒たちが痛感しているように、私たちが海外で戦う終わりのない戦争は、国内で戦う戦争を生み出したのである。すべての帝国は、同じように自己犠牲の行為で滅びる。〔古代ギリシャの歴史家〕トゥキディデスが『戦史』で記したように、アテネ帝国が他国に課した専制政治は、最後は自分自身にも課された。

反撃すること。弱い者、虐げられた者、苦しんでいる者に手を差し伸べ助けること。地球を生態の破壊から救うこと。支配階級の国内外の犯罪を非難すること。正義を求めること。真実に生きること。彫像を打ち砕くこと。それはカインの刻印〔罪人の印〕を受けることなのだ。

権力者は私たちの怒りを感じなければならない。それは非暴力の市民的不服従、社会的・政治的破壊の絶え間ない行動を意味する。下からの組織的な力こそが、私たちを救うことができる唯一の力なのだ。政治は恐怖のゲームである。権力者を非常に、非常に恐れさせることが、私たちの義務である。

寡頭政治の支配は、私たちを死の淵に閉じ込めている。改革することはできない。それは真実を覆い隠し、改竄する。連中はその猥雑な富と抑制のきかない権力を増大させるために、狂気の探求を続けている。その偽りの神々の前にひざまずくよう強要する。だからハートの女王〔『不思議の国のアリス』の登場人物〕の言葉を引用して比喩的に言えば、もちろん私は言う、「奴らの首をはねろ!」と。

Chris Hedges: Rage Against The War Machine Speech - scheerpost.com [LINK]

2023-02-28

ゼレンスキー氏は民主主義の英雄か

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年2月6日)

米政府の対ウクライナ政策を支持する米国人はしばしば、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を、すでに受けている以上の米軍支援に値する、民主主義の高貴な擁護者として描く。2022年12月下旬の米議会本会議でのゼレンスキー氏の演説に伴う政治とメディアの熱狂は、そうした英雄崇拝の最近の一例である。

ウォロディミル・ゼレンスキー氏 誤った恋愛関係?


〔米政府系メディア〕ボイス・オブ・アメリカは、ゼレンスキー氏の登場を1941年12月のウィンストン・チャーチル英首相の議会演説と比較する記事を掲載した。〔保守派評論家〕デビッド・フラム氏はアトランティック誌に寄稿し、ゼレンスキー氏は米国民自身と民主主義の価値観を思い起こさせると主張した。さらにフラム氏は、ウクライナの大統領が「ウクライナを支援している米国人に感謝するために米国に来た。感謝すべきは米国人だ」とも述べている。ブレット・ステファンズ氏はニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、「米国人がゼレンスキー氏を賞賛するのは、同氏が自由世界の理念を本来の位置に回復させたからだ」と主張した。

このような賛美は、ゼレンスキー氏が市民の自由と民主主義の規範を著しく侵害している証拠が山ほどあることを無視している。米国人の盲目的な態度は、かつて偽りの民主主義の擁護者であったアンゴラの反乱軍リーダー、ジョナス・サビンビ氏に与えられた公平な扱いを彷彿とさせるものだ。1970年代半ばから1990年代初頭にかけて(特にロナルド・レーガン政権時代)、米国の多くの政治家やメディア関係者は、サビンビ氏率いるアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)とそのアンゴラ左派政府に対する反政府活動への支援を強化するよう働きかけたのである。そして、「民主的」な得意先の大きな欠点を見過ごすことも厭わなかった。

特に、米国の「保守派」のサビンビ氏に対する熱狂ぶりは顕著であった。ヘリテージ財団、フリーダムハウス、米国保守連合、ヤング・アメリカンズ・フォー・フリーダム、米国安全保障会議などの団体が、サビンビ氏への支持を表明した。また、ヒューマン・イベント、ナショナル・レビュー、アメリカン・スペクテイター、ウォールストリート・ジャーナルなどの出版物がサビンビ氏支援の主張を展開した。サビンビ氏の後援者は1979年、同氏の大規模な講演ツアーを手配し、1981、1986、1989年にはワシントンでの議会指導者や政府高官との会談を実現させた。

アンゴラ全面独立民族同盟の独裁的で粗暴な体質が指摘された時期もあったが、サビンビ氏への称賛の声は絶えなかった。ジョンズ・ホプキンス大学のピエロ・グレイジェス教授は、このように不快な内実にもかかわらず、サビンビ氏の米国の支援者は「自分たちこそは正しいと、米国の利害と道徳の両面から主張した」と述べている。現在行われている、ゼレンスキー氏への支援強化キャンペーンも同じようなものである。

米国保守連合とヤング・アメリカンズ・フォー・フリーダムからサビンビ氏に賞を贈ったジーン・カークパトリック国連大使は、サザンビ氏は「現代における数少ない本物のヒーローの一人」と称賛を浴びせた。カークパトリック氏がサビンビ氏に抱いた理想像は、米国右派の典型的な見方であった。レーガン大統領も同じ考えで、日記の中でサビンビ氏を「善人」と簡潔に表現している。

オーリン・ハッチ上院議員(当時)は、「私はサビンビ氏に会う機会に恵まれ、その正直さ、誠実さ、宗教的献身に非常に感銘を受けた」と述べている。アンゴラでの紛争は内戦ではないと、このユタ州選出の上院議員は主張した。「これはイデオロギーをめぐる戦いだ。ソ連の全体主義と、自由・自決・民主主義との戦いだ」。サビンビ氏への援助は「共産主義の覇権に抵抗する自由の戦士を助けるという、強いシグナルを世界に送ることになる」。もし「権威主義」を「ソ連の全体主義」に、「ロシアの侵略」を「共産主義の覇権」に置き換えれば、ゼレンスキー氏とその大義を支援しなければならないという、今の主流で徹底して単純化されたメッセージと、事実上同じものになる。

アンゴラ全面独立民族同盟とその指導者サビンビ氏に対する熱狂は、次第に激しく、無批判になった。振り返ってみると、サビンビ氏を称えるキャンペーンで最も恥ずべきエピソードは、1986年にウォールストリート・ジャーナル紙に掲載された、同氏の署名入りでゴーストライターが書いたとみられる論説であった。その内容は、資本主義と民主主義の美徳を称え、米国がルアンダ(アンゴラの首都)の親共産主義政府を追放するために自分の同盟を支援すれば、アンゴラを資本主義と民主主義の両方の価値のモデルとするよう約束するものだった。1989年のヘリテージ財団での講演でも、サビンビ氏は同じようなメッセージを売り込んだ。

サビンビ氏の論説とそれに続く講演は、米国の民主主義支持者(特に保守派)が聞きたかったことをそのまま伝えている。アンゴラ全面独立民族同盟の究極の目的は、親共産主義政権とその後ろ盾であるキューバ軍を打倒するだけでなく、再び民主的な国を建設することだと同氏は主張したのである。それだけではない。「宗教的寛容と言論の自由を備えた民主的な多党制のアンゴラを目指すという同同盟の公約に加えて、経済的自由の重要性を認識することが肝要だ」とサビンビ氏は主張した。ナショナル・レビュー誌は、同氏の「驚くべき自由の擁護」を称賛している。

親サビンビ陣営のプロパガンダの成果がどんなに目覚ましかったかといえば、アンゴラ全面独立民族同盟が支配していたアンゴラの一部では、こうした政治的、経済的原則を何一つ実践していなかったのである。民主主義や多党制の形跡はまったくなかった。同同盟は冷酷なまでに権力を独占し、市民に対する戦争犯罪や、政敵や指導者候補を組織的に投獄・殺害するなどの虐待を行った。その対象には、チト・チングンジ氏やウィルソン・ドス・サントス氏など、サビンビ氏と最も親しい仲間も含まれていた。サビンビ氏の米国人支持者でさえ、アンゴラ全面独立民族同盟が拷問や強制的な「再教育」に頼っていたことを不承不承認めざるをえなかった。

ゼレンスキー氏はウクライナの民主主義を損なう


同様に、ウクライナ政府の弾圧もますます露骨になり、警戒を強めている。ロシアの侵攻以来、ゼレンスキー氏は戦争を正当化するために、11の野党を非合法化した。また戒厳令を発動して、全国ネットのテレビ局を1つに統合する大統領令を発布した。2022年12月29日、ゼレンスキー氏は自分の党が国会で推し進めた新法に署名した。この措置は独立した報道をさらに制限するものだった。他の大統領令では、ロシア正教会の禁止を図り、その高位聖職者に厳しい制裁を課している。正当な手続きなしに投獄される人々の数は増え続けている。

ゼレンスキー氏とその側近たちは、国内外を問わず、最も平和的な敵対者に対しても容赦がない。2022年の夏、ウクライナ政府の偽情報対策センターは、多数の著名な米国人を含むウクライナ批判者のブラックリストを公表した。このリストが事実上の脅迫であることは、9月下旬に同センターが上位35人の標的の修正名簿(住所を含む)を発表し、これらの個人を「情報操作テロリスト」や「戦争犯罪人」と中傷したことでさらに明白になった。

サビンビ氏とゼレンスキー氏への誤った支援で、重要な違いの一つは、サビンビ氏支援に党派的な性格が強かったことである。保守派はアンゴラの詐欺師を支持する傾向が強かったが、リベラル派は控えめな支持からあからさまな敵対までさまざまだった。残念ながら、ゼレンスキー氏が民主主義と自由の擁護者だという見方は党派を問わない。これにはうんざりする。米国人のゼレンスキー支持者は、お得意先の思想的、行動的な欠点を認めようとしない。将来振り返えれば、その忠誠心は、サビンビ氏擁護派が最後はそうだったように、ゼレンスキー氏のファンにとっても恥ずかしいものだったとわかるかもしれない。

Volodymyr Zelensky: Not Exactly a Champion of Democracy - 19FortyFive [LINK]