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2026-05-14

代理戦争で報復

Payback: Russia Uses Iran as a Proxy Against the United States - The Ron Paul Institute for Peace & Prosperity [LINK]

【海外記事より】米国の国際政治学者テッド・ガレン・カーペンター氏は、ウクライナを代理人として利用しロシアを消耗させてきた米国に対し、ロシアが今度はイランを代理人とすることで報復に転じていると指摘しています。第二次世界大戦後、米露両国は世界各地で対立する勢力を支援し、互いに相手の弱みを突く「代理戦争」を繰り返してきました。かつてベトナム戦争ではソ連が、アフガニスタン紛争では米国が、相手側の軍事介入を逆手に取って最小限のリスクで多大な打撃を与えた歴史があります。そして現在、この構図がイランを舞台に再現されようとしています。

カーペンター氏によれば、ロシアはイランでの戦争勃発を受け、ワシントンを翻弄する絶好の機会を得たと考えています。ロシアは即座に食料供給などの経済的結びつきを深め、苦境に立たされるイランの生命線を確保しました。さらに深刻なのは軍事面での支援です。2026年3月の報道では、ロシアが米軍の移動に関する重要なインテリジェンスを提供し、中東の米軍基地を標的にするためのデータまでイラン側に渡しているという証拠が浮上しています。また、高度な軍事用ドローンの供与も進んでおり、ロシアとイランの技術提携は新たな段階に入っています。

こうしたロシアの動きは、米国やNATOがウクライナに対して行ってきた広範な軍事支援に対する鏡像のような報復と言えます。ロシアにとっては、イランを支援することで中東における米国の作戦行動を困難にするだけでなく、NATOの資源を枯渇させるという二重のメリットがあります。イランが米国の攻撃に抵抗する能力を高めれば、米国の武器在庫はさらに消費され、結果としてウクライナへ供給される武器の余力が削られることになるからです。これにより、代理戦争の連鎖はさらに複雑な段階へと突入しています。

カーペンター氏は、こうした過去数十年におよぶ代理戦争の歴史を振り返り、大国同士が互いの無謀な軍事行動を巧みに利用し合ってきたと分析しています。ベトナムでの米国の失策や、アフガニスタンでのソ連の誤算は、いずれも相手側に最小限のコストで戦略的勝利をもたらしました。現在のウクライナとイランを巡る状況もまた、どちらの側にも地政学的な勝利のチャンスがある一方で、壊滅的な失敗を招くリスクを孕んでいます。

同氏は、米国とロシアの両国が、新たな代理戦争に明け暮れるのではなく、互いに利益となる和解を目指すべきであると説いています。しかし、現在のワシントンとモスクワの双方において、そのような賢明な一歩を踏み出すために必要な自制心や知恵が欠如していることを深く懸念しています。終わりなき代理戦争のサイクルは、かつてのベトナムやアフガニスタンの教訓を上書きするかのように、今再び世界を危険な対立へと引きずり込んでいます。

2026-05-02

自由世界の新たなリーダー?

No, Zelensky Is Not ‘The Leader of the Free World’ - Antiwar.com [LINK]

【海外記事より】ウクライナのゼレンスキー大統領を「自由世界の新たなリーダー」と称賛する言説が一部の欧米メディアで見られますが、政治アナリストのテッド・ガレン・カーペンター氏は、こうした見方は現実から著しく乖離していると批判しています。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるデビッド・フレンチ氏は4月、ウクライナ軍を「西洋で最も戦闘経験が豊富な地上軍」であり「ドローン戦争における世界のリーダー」であると絶賛しました。しかし、こうしたプロパガンダに近い賞賛は、かつての湾岸戦争前にイラクを過大評価して恐怖を煽った手法の裏返しであり、実際にはロシアとの消耗戦で劣勢に立たされているウクライナの窮状を隠蔽するものに過ぎません。

実際の戦況に目を向ければ、ロシアは依然として着実に領土を拡大しており、人口や軍事予備力の差から、長期的な消耗戦においてはロシアが有利な立場にあります。欧米の当局やメディアは、ロシアが勝利しつつあるという基本的な現実を覆い隠そうとしていますが、ウクライナ側の死傷者数の推定値を公表することを頑なに拒んでいる姿勢そのものが、現場の状況が芳しくないことを示唆しています。また、ウクライナの軍事的成果は自力によるものではなく、米国や欧州が数百億ドルにのぼる資金と高度な兵器、さらには軍事情報まで提供し続けている結果です。大規模な支援がなければ、ウクライナが第三勢力に抗う力を持っていないことは明白であり、実態はNATOの対露代理人に過ぎません。

政治的側面においても、ゼレンスキー氏を「自由民主主義の気高き擁護者」とする神話は崩れつつあります。2025年にゼレンスキー政権が汚職対策機関の独立性を抑制する決定を下したことで、国内では大規模な反政府デモが発生し、国民の間でも政権に対する冷ややかな見方が広がっています。かつては熱狂的に支持していた欧州の主要メディアでさえ、2025年末頃からゼレンスキー氏の非民主的な手法を批判的に報じるようになりました。汚職が蔓延し、権威主義的な傾向を強める政権を、自由世界の道徳的な中心地と呼ぶのは無理があると言わざるを得ません。

フレンチ氏は、米国が落とした自由のトーチをキエフが引き継いだと主張していますが、これは現実の世界とは別の宇宙の話のようです。現実のウクライナは、米国にとって戦略的、経済的、あるいは道徳的な関連性が薄い汚職国家であり、色あせつつあるNATOを活性化させたり、欧米の民主主義を救ったりするような存在ではありません。カーペンター氏は、このような根拠のない英雄崇拝を捨て、ウクライナという国家の実像を冷静に見極めるべきだと説いています。過度な偶像化は、事態の本質を見誤らせ、米国をさらなる外交的な迷走へと導く危険性があるからです。

2026-04-25

核を持つ動機膨らむ

Has Iran Learned the North Korea Lesson: Nukes Are Essential To Deter the US? - Antiwar.com [LINK]

【海外記事より】軍備管理の専門家たちは、イランの核開発を阻止するという名目でアメリカが強行している攻撃が、核不拡散体制そのものを壊滅させる恐れがあると警鐘を鳴らしています。イランは現在、核不拡散条約(NPT)からの脱退を示唆しており、これが実現すれば国際社会による監視の目は完全に失われることになります。かつて朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が2003年に同様の歩みを辿り、核兵器保有へと突き進んだ歴史が繰り返されようとしています。

外交の専門家が注目しているのは、北朝鮮とイランに対するアメリカの対応の驚くべき乖離です。すでに核を保有している北朝鮮に対して、アメリカは極めて抑制的な姿勢を保っています。公式には非核化を求めてはいるものの、実質的には北朝鮮が構築した約50発の核弾頭と弾道ミサイルの存在を前に、軍事行動を控える「慎重な対応」を余儀なくされています。一方で、核兵器を保有していないイランに対しては、アメリカとイスラエルは容赦のない大規模な空爆を続けています。この対照的な現実は、イランの指導者層に対して「自衛のために核抑止力は不可欠である」という強烈な教訓を与えてしまいました。

かつてオバマ政権下で結ばれたイラン核合意(JCPOA)は、厳しい査察を受け入れることで平和的な核利用を担保していましたが、トランプ氏が2018年にこれを「最悪の合意」として一方的に破棄したことが、現在の混乱の起点となりました。イランが核兵器製造に近づいているという確実な証拠がないまま、イスラエルとアメリカの支持者による警告だけが一人歩きし、現在の戦争へと突き進んだのです。こうした状況下で、北朝鮮の金正恩氏が「わが国の核保有という戦略的選択は正しかった」と、イランの窮状を引き合いに出して語ったことは象徴的です。

現在、北朝鮮がイランに対して核開発の支援や、実戦配備可能な兵器の提供を申し出ているという報道もあります。アメリカとイスラエルがイランの核保有を断固として阻止しようとする姿勢は、皮肉にもイランにとって「核を持つ動機」を最大化させてしまいました。経済的、軍事的なリスクを冒してでも核抑止力を構築した北朝鮮の決断が、今やイランや他の対米対立国にとって「賢明な選択」に見えてしまっています。アメリカによる強硬で稚拙な外交手法が、かえって世界に新たな火種を撒き散らし、国民に不必要な危険をもたらしていると、テッド・ガレン・カーペンター博士は分析しています。

2026-04-19

欧州の危うい二面外交

NATO Allies Adopt Evasive Policies on US War in Iran - Antiwar.com [LINK]

【海外記事より】トランプ政権がイランとの戦争を進める中で、長年の同盟国であるNATO諸国の多くが、米国の政策に対して回避的、あるいは公然と反対する姿勢を強めているとテッド・ガレン・カーペンター氏が報告しています。4月12日、トランプ大統領はイランによるホルムズ海峡の封鎖に対抗し、イランの港を封鎖するためにNATO各国の海軍力の結集を呼びかけました。しかし、この提案に対して英国のスターマー首相は、イランとの戦争に「引きずり込まれる」ことはないと述べ、参加を明確に拒否しました。フランスのマクロン大統領もこれに同調し、軍事封鎖ではなく国際会議による外交的な解決を求めています。

こうした同盟国の拒絶は、トランプ大統領の世界情勢へのアプローチに対する欧州諸国の深い不満を反映しています。ニューヨーク・タイムズ紙のセルジュ・シュメマン氏は、欧州がもはやトランプ氏を「自由世界のリーダー」とは見なしていない現状を指摘しています。これに対し、トランプ氏は協力を拒む同盟国を「臆病者」と激しく非難し、ルビオ国務長官も「米国の危機に際して基地の使用も認めないなら、なぜNATOに巨額の資金を投じる必要があるのか」と、同盟の価値そのものに疑問を呈しています。トランプ政権の閣僚内では、非協力的なパートナーへの報復措置も検討されていると伝えられています。

しかし、実態はより複雑な様相を呈しています。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、スペインのように公然と反旗を翻す国がある一方で、英国、フランス、イタリアなどは、政治的には戦争に反対しつつも、運用面では水面下で米軍の活動を支援し続けています。欧州の指導者たちは、イラン攻撃を非難することで自国民や国際社会の支持を得つつ、同時にイランの影響力拡大を懸念する中東諸国や米国への配慮も欠かさないという、極めて繊細な二面外交を展開しているのです。

この「両立を図る」という綱渡りのような政策が今後も通用するかは不透明です。米国の外交・軍事・情報コミュニティ内には欧州の懸念に理解を示す層もいますが、強硬派は大統領の優先事項に従わない同盟国に対して不快感を募らせています。何よりも、自身の政策を裏切りと見なして激怒するトランプ氏の姿勢は、大西洋を挟んだ同盟関係に決定的な亀裂を生じさせかねません。イランとの戦争が早期に終結しない限り、この緊張は劇的に悪化し、NATOそのものの存続を脅かす重大な局面を迎えることが懸念されています。

2026-02-18

一触即発の核の影

Senator Tom Cotton’s Ode to US Nuclear Weapons - Antiwar.com [LINK]

【海外記事紹介】最後の大規模な核軍縮条約であった「新START(新戦略兵器削減条約)」が失効したことを受け、保守強硬派として知られるトム・コットン上院議員がウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論考が波紋を呼んでいます。コットン氏は、条約の失効を外交の失敗ではなく、ロシアと中国という「二大核ライバル」に対してアメリカを脆弱なまま放置してきた「戦略的誤りの是正」であると歓迎し、アメリカ独自の核抑止力再構築を呼びかけました。

コットン氏が特に強い警戒感を示しているのは、2025年半ばまでに運用可能な核弾頭が600発を超え、2030年までに1,000発に達すると予測される中国の急速な軍拡です。同氏は、これまでのアメリカの「一方的な自制」が敵対国の増長を許したと主張し、以下の6項目からなる核近代化計画を提唱しました。

  • 多弾頭化の復活: 条約制限のために一発に制限していた陸上配備型ICBM(ミニットマンIIIおよび次世代型センチネル)を、本来の多弾頭搭載能力まで戻すこと。
  • 戦域核能力の増強: 核搭載型海洋発射巡航ミサイル計画の完遂。
  • 前方展開: 欧州および太平洋地域への戦術核兵器の追加配備。
  • 極超音速兵器の開発: ロシアや中国に対抗し得る極超音速核伝達システムの加速。
  • 核実験のタブー打破: 1992年以来の「爆発を伴う核実験」のモラトリアムを終わらせ、エネルギー省に対し実験再開への準備を求めること。

これに対し、軍縮の専門家であるテッド・ガレン・カーペンター氏は、コットン氏の主張を「独善的で無謀な傲慢さ」であると痛烈に批判しています。カーペンター氏は、INF(中距離核戦力全廃条約)や領空開放条約(オープンスカイ条約)から先に離脱し、軍備管理の枠組みを壊してきたのはアメリカ側であると指摘。2025年10月にトランプ大統領が表明した核実験再開の意向は、世界を管理不能な核軍拡競争へと引き戻す危険性があるとして警鐘を鳴らしました。

コットン氏は「核戦争を抑止することは、実際に戦うよりも遥かに安上がりだ」と述べ、軍拡こそが平和への道であると説きますが、歴史が証明するように、軍拡競争は往々にして破滅的な結末を招きます。条約という「足かせ」が外れた今、世界は再び、一触即発の核の影が支配する不透明な時代へと足を踏み入れようとしています。

2023-12-19

ケイトー研、イスラエル・ガザ紛争にあやふやな態度

元ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年10月25日)

中東で起きている憂慮すべき事態は悪化の一途をたどっており、米国を再び対外戦争に巻き込む可能性が少なからずある。イスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザからイスラエルに仕掛けた奇襲攻撃は、ネタニヤフ・イスラエル首相の政府を明らかにあざむいた。しかしイスラエルは現在、圧倒的な武力で対応している。過去数十年にわたる小規模な攻撃に対してそうしてきたようにだ。ガザの民間人居住区への爆撃は、領土の北部に住む100万人を1日以内に避難させるというまったく非現実的な命令とともに、ハマス軍が与えた苦しみを大きく上回る脅威となっている。
さらに悪いことに、バイデン米政権はすでに、より広範な地域戦争を引き起こしかねない動きを見せている。米国はイスラエルとの連帯を示すため、空母戦闘団を地中海東部に派遣した。米国のタカ派の常連たちは、イランが首謀者であるという証拠はないとイスラエル政府自身が認めているにもかかわらず、イランがハマスを使ってイスラエルを攻撃していると非難している。このような不都合な点があっても、熱心なタカ派はイランに対する米国の軍事攻撃を主張することを止めない。現イラン政権が続く限り、イスラエルとパレスチナ人の戦いは止まらないと主張する者さえいる。

最大のリバタリアン系シンクタンクであるケイトー研究所は、中東における新たな流血沙汰の深い原因を検証する論説や政策声明を数多く発表していると思うかもしれない。また、リバタリアンのアナリストが、現在進行中の悲劇に対するイスラエルとハマスの責任の度合いをバランスよく評価するのは当然の前提である。特に、同研究所の外交政策専門家たちは露骨なタカ派に対抗し、米国がイランを攻撃するのを阻止するための知的努力の先頭に立つと期待される。

しかし、この危機に関するケイトー研の専門家たちの成果は、せいぜいあやふやなものでしかない。最初の重要な声明は、戦争が始まって丸1週間が経った10月14日、「ケイトー・アット・リバティ」のウェブサイトに投稿されたブログであった。著者は、同研究所の国防・外交政策研究ディレクター、ジャスティン・ローガン氏である。最も驚き、失望させられたのは、どの既存メディアでも見られるような、偏った親イスラエルの神話の多くを再掲していたことだ。

残念なことに、このような視点は複数の外交政策問題においてケイトー研で力を増しているようだ。主任研究員のトム・パーマー氏を筆頭に、何人かのアナリストは、ウクライナとロシアとの戦争中、ウクライナ寄りの立場を貫いてきた。2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に関するローガン氏の最初のコメントは、ロシアの侵攻を全面的に非難しただけでなく、明らかな例外を除いてロシアに対する経済制裁を支持するものだった。このような姿勢は問題だった。数十年にわたる研究により、制裁は効果がなく残酷なものであることが明らかになっているからだ。経済制裁は通常、対象国の一般市民の生活に壊滅的な打撃を与える。同時に、制裁は米政府の政策要求に屈服するよう相手国の政権を強制する効果がないことでも知られる。

ローガン氏の10月14日のブログ記事は、冒頭から露骨なイスラエルびいきである。同氏は10月7日の午前5時に目を覚まし、「胃が痛くなるような映像を次から次へと見た。テロリズム、そして民間人、特に子供を標的にした行為は正当化できない。世界中の文明人が恐怖におののいた」と述べ、「イスラエルには自国を防衛する権利があり、個人的な意見だが、イスラエルが激怒する権利もある」と付け加えた。

ガザで1000人以上(おそらく3000人以上)の市民を殺害したイスラエルの軍事行動に対するローガン氏のその後の見解は、はるかにあいまいで両論併記だった。実際、同氏は暗に、ガザでの民間人犠牲者の責任の大部分を、空爆やその他の攻撃を行っていたイスラエル軍ではなく、ハマスに押し付けていた。「すべての文明人は、ハマスのテロリストがイスラエルの男性、女性、子供を標的にしたことに恐怖を感じた。ハマスが始めた戦争の結果、苦しんでいるガザの罪のない人々を心配するのと同じように」(強調は引用者)

ローガン氏の最もそれらしいイスラエル批判は、2つのあいまいなコメントである。ひとつは、イスラエルがすでにガザに投下した爆弾の数は、米国とその同盟国がISIS(過激派組織「イスラム国」)との戦争で投下した爆弾の数よりも多いという見解だ。もうひとつは「イスラエルのためにも、ガザの罪のない市民のためにも、そして米国人として、米国の関与を危うくするような紛争激化を防ぐためにも、9・11(米同時テロ)後の怒りに燃えた我々米国人よりも良い決断をすることを望む」というものだ。

特に目立ったのは、イスラエルが長年にわたってパレスチナ人を虐待してきたことについての言及がなかったことだ。尊敬を集める人権団体がガザを「世界最大の野外監獄」と表現するに至った、ガザにおける組織的な人権侵害については一言も触れられていない。人権団体アムネスティ・インターナショナルがアパルトヘイト(人種隔離)の一形態として非難している、イスラエル政府と入植者たちが数十年にわたりヨルダン川西岸でパレスチナ人の土地を公然と盗んできたことについても、一言も触れられなかった。.

このような偏見と怠慢は非常に問題である。ハマスの行為、特に一般市民の人質を捕らえ、虐待し、公然と殺害したことを糾弾するのは、ほとんど勇気のいることではない。このような残虐行為については、政策通やジャーナリストたちがすでに正当な批判の津波を巻き起こしている。しかしケイトー研の学者であれば、もっとバランスの取れた価値ある分析をしてくれるだろうと期待する人もいるだろう。

ケイトー研はかつて、外交問題に関して不人気な真実を語るという、正当な評価を得ていた。ペルシャ湾戦争、バルカン戦争、米国主導の不当なイラク侵攻、リビアの指導者カダフィを追放するための北大西洋条約機構(NATO)の悲惨な空戦、アサド政権に敵対するシリアの聖戦士に対する米政府の恥ずべき支援などに関して、同研究所の専門家が取った立場はすべて適切な例であった。イスラエルとパレスチナの紛争に対する行動は、その遺産からの悲しい逸脱である。

The Cato Institute’s Belated, Squishy Stance on the Latest Middle East Crisis | Mises Wire [LINK]

【訳者コメント】米国のリバタリアン系シンクタンクは、一枚岩ではない。実業家のチャールズ・コーク氏が出資し、首都ワシントンに本拠を置くケイトー研究所は、外交政策について米政府寄りの介入主義的な主張を強めている。記事の筆者カーペンター氏はそのあおりで辞職に追いやられた。同研究所の創立メンバーの一人で、筋金入りの非介入主義者だったマレー・ロスバード氏は、天国で嘆いているに違いない。

2023-07-09

ケイトー研究所に何が起こったか?

軍需産業の出資を受けていないシンクタンクでも、戦争は影を落とす。

4月下旬、ウクライナ戦争をめぐる論戦をウォッチしているリバタリアン(自由主義者)にとって、ショッキングな「事件」があった。米シンクタンク、ケイトー研究所のテッド・ガレン・カーペンター主任研究員の辞職である。
カーペンター氏といえばケイトー研究所で長年、外交問題の専門家として論陣を張ってきた人物だ。米国の海外軍事介入に対する厳しい批判で知られ、今回のウクライナ戦争でも、バイデン政権に戦争への関与をやめるよう求めるとともに、支援を受けるウクライナのゼレンスキー政権についても「偽りの民主主義」だと公然と批判してきた。

今回の辞任について、カーペンター氏から公式の説明はないようだが、ネット上には、同氏のものとされる「37年間を経て、ケイトー研究所における研究者としての私の役割は終わりを迎えた。ウクライナ政府やそれに対する米国の支援を批判することが、キャリアにとって致命的となる可能性があるという厳しい現実を知った」というコメントが出回っている。

少なくとも、ケイトー研究所の上層部とカーペンター氏の間に主張をめぐる対立があったことは、想像に難くない。同研究所は1974年、リバタリアン思想家で反戦平和を強く説いた故マレー・ロスバード氏らによって設立されたが、近年は反戦に距離を置く。今でもリバタリアンのシンクタンクという色彩は強いものの、こと外交政策に関しては、ベテランであるカーペンター氏、ダグ・バンドウ氏の2人を除いては、戦争を推進する政府側の立場に近づいていた。

20年前のイラク戦争時には、戦争に反対したチャールズ・ペナ、アイバン・エランド両研究員が辞職している。戦争支持派である幹部のトム・パーマー、ブリンク・リンゼイ両氏との対立の結果だとみられている(リンゼイ氏は現在ニスカネン・センターに移籍)。

トム・パーマー氏は、自由主義について優れた著作はあるものの、昨年、日本人中心のオンライン会議で同氏のウクライナ戦争に関する講演を聴いたところ、ウクライナ政府と米国の軍事支援を納得のいく根拠もなしに支持しており、あきれた記憶がある。あれがリバタリアン本来の見解だと誤解されたら、天国のロスバード氏はさぞ無念だろう。

幸いカーペンター氏はケイトー研を辞職後、ロスバード氏の流れをくむ反戦派シンクタンクであるランドルフ・ボーン研究所(アンチウォー・ドット・コムの運営団体)、リバタリアン研究所それぞれの主任研究員になり、変わらず健筆を振るっている。

戦争は政治の延長だというクラウゼヴィッツの指摘を人々が忘れ、一切の妥協を許さず、平和よりも勝利を求める熱狂が世論を支配する昨今、それに反する主張を行うのは、カーペンター氏が職を失ったように、様々な困難が伴う。しかしこんなときだからこそ、戦争という最大の自由侵害に勇気あるノーを突きつける、反戦派リバタリアン・シンクタンクの活躍に期待したい。

2023-06-15

第2次世界大戦は「善対悪」の戦いか?

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年6月8日)

〔経済学者〕ポール・クルーグマン氏は、6月6日のノルマンディー上陸作戦79周年を記念する米紙ニューヨーク・タイムズのコラムで、第2次世界大戦に関する欧米の利己的な決まり文句をほぼすべて首尾よく再掲した。クルーグマン氏によれば、「第2次世界大戦は、悪に対する善の戦いであることが明らかな数少ない戦争の一つだった」。大多数の米国人が同氏に同意すると考えて差し支えないが、その説明はひどく不正確である。
連合国を聖人扱いする一部のアナリストとは異なり、クルーグマン氏は少なくとも「善人も決して完全な善ではなかった。米国人はまだ基本的な権利を否定され、時には肌の色を理由に虐殺された。英国はまだ広大な植民地帝国を支配し、時には残酷に支配していた」と認めている。しかし不思議なことに同氏は、第2次大戦の大同盟の第3のメンバーであるスターリンのソ連の存在によって、大戦が善と悪との存亡を賭けた清き戦いだったという考えを台無しにするという重要な点を無視している。ケイトー研究所の研究者ジーン・ヒーリー氏は、スターリンは20世紀の大量殺戮オリンピックの銀メダリストに値すると正確に指摘する。

スターリンが「良い側」のメンバーである場合、クルーグマン氏や他の物書きは自分の論説を考え直す必要がある。クルーグマン氏は記事の後半で、1930年代にスターリンがウクライナで行った残虐行為に言及しているが、それは大戦中にナチス・ドイツの侵攻を支持したウクライナ人と、ナチスのシンボルや価値観を受け入れることに浮かれている現在のウクライナ人を免責するだけだ。クルーグマン氏は、大戦におけるスターリンの重要な役割が、大戦に関する単純化された「善と悪」の物語を損なうものであることを認めない。

あの恐ろしい世界的な大虐殺をより正確に表現するならば、それは悪と大きな悪との対立であった。クルーグマン氏は明らかに、大戦中に行われた連合国の戦争犯罪を一切取り上げていない。だが都市人口集中地区への集中爆撃作戦を承認した英米首脳らの行動を弁解することは不可能である。推定8万〜13万人が死亡した東京大空襲、戦争末期のドレスデン大空襲、広島・長崎への原爆投下を命じた首脳らは、「善人」ではなかった。これら攻撃の犠牲者の大半は軍人ではなく、罪のない民間人だった。このような行為は今日紛れもなく戦争犯罪であり、当時もそうだったはずである。

しかし米国をはじめとする西側の識者は、泥沼の武力闘争を善対悪の戦い以外のものとして描くのは大いに困るようだ。ベトナム戦争、米主導の2度の対イラク戦争、リビアやシリアの内戦に対する米国の干渉政策も、同じように単純化された物語がメディアの扱いと世論を支配した。

第2次世界大戦を善対悪の戦いとして描くことは、クルーグマン氏の真の政策課題への道を開く。同氏は、ウクライナの軍事攻撃は「ノルマンディー作戦に相当する道徳的なもの」だと主張し、ウクライナ政府を「不完全だが本物の民主主義国家であり、大きな民主主義共同体に加わることを望んでいる」と表現する。逆に「プーチン〔大統領〕のロシアは悪意ある厄介者であり、世界中の自由の友はその完敗を望まなければならない」と述べる。ウクライナとロシアの間に「道徳的な対等性」はありえないと確信を込めて主張する。

現実には、ウクライナは単なる「不完全な民主主義国家」にはほど遠い。ゼレンスキー大統領は、腐敗し権威主義を強める政権を仕切っている。人権侵害はまったく当たり前のことになっている。米首脳とそのそのお抱え報道機関がベトナム、セルビア、イラク、リビア、シリアとの対決を悪に対する聖なる十字軍として描いたように、同じ脚本がロシア・ウクライナ戦争に関しても使われている。クルーグマン氏は同じ目的のために、北大西洋条約機構(NATO、ウクライナを代理人として使用)とロシアの間の権力闘争を、欺瞞に満ち理想化された第2次大戦の道徳的枠組みに露骨にはめ込もうとしている。

第2次世界大戦をもっと冷静かつ現実的に検証すれば、こうした世論操作の試みに対して米国民(および他の西側の人々)が免疫をつけるのに役立つだろう。第2次大戦は、自由と民主主義を守る諸国が、絶対的な悪の勢力に対して行った崇高な十字軍ではなかった。ファシスト勢力の描写は正確だが、連合国を美化するのは現実をグロテスクに歪曲している。

Paul Krugman's World War II is a Propagandistic Fairy Tale | The Libertarian Institute [LINK]

2023-06-14

帝国主義リバタリアンという矛盾

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月31日)

「リバタリアン(自由主義者)の原則や立場に賛成だ。外交政策を除いては」と言われて困ったことが何度もある。その態度はたいてい、冷戦時代やソ連崩壊後の世界情勢に対する米政府の軍国主義的な取り組みを、忠実に支持することを意味する。外交政策を例外とするリバタリアンは、冷戦時代の北大西洋条約機構(NATO)を支持するだけでなく、1990年代後半からの東欧へのNATO拡大を擁護するのが普通である。
タカ派リバタリアンはまた、「テロとの戦い」を声高に支持したが、それはサダム・フセイン打倒のためにイラクへの軍事行動を求めたブッシュ政権の宣伝キャンペーンを含む。当時ケイトー研究所の副所長であり、現在は名ばかりのリバタリアン系シンクタンクであるニスカネン・センターで同様の役職にあるブリンク・リンゼー氏は、タカ派が採用した論理を典型的に示している。リンゼー氏の警告によれば、「全体主義的なイスラム主義の野蛮人こそ、明確な現在の危険である。彼らとの戦いを遂行するには、多くの戦線で前進しなければならない。まず最も明白なのは、テロ組織そのものを追及することだ。大量破壊兵器をテロリストの手に渡さないよう、あらゆる努力を払わなければならない。今、イラク、イラン、北朝鮮のようなならず者国家との対決に注目が集まるのは当然だ。そのような国家は武装解除されなければならない。つべこべ言わずにだ」。米主導のイラク侵攻の3カ月以上前に書いた文章で、リンゼー氏はこう断言した。「アフガニスタンやイラクのように、紛争が避けられない場合、その政策は米国の武力に頼ることになる」

別の記事でリンゼー氏はさらに率直に、イラクに対する武力聖戦を望んでいる。「9・11テロが起こらず、アルカイダという存在がなかったとしても、イラクに対する軍事行動を支持するだろう。結局、1991年の湾岸戦争を支持したのは、サダム・フセイン政権が核の野望を果たす前に打倒するためだった」

さらに最近では、自称リバタリアンの何人かが、ロシアと対立するウクライナを熱心に支持している。〔国際学生団体〕スチューデンツ・フォー・リバティの〔ウェブサイト「自由を学ぶ」で、米リバタリアン党古典的自由派会長の〕ジョナサン・ケーシー氏は、ロシアの行動は全くいわれのないものだというバイデン政権の立場に共鳴した。ケーシー氏が率直に述べるには、「侵略がNATOによって引き起こされたという考えは完全に否定されなければならない」し、それどころか「NATOはロシアにとって想像上の脅威でしかなかった。NATOへの非難は、ロシアの侵略を弁解する都合の良い方法にすぎない」。

ケーシー氏は少なくとも、ウクライナへの米国の軍事介入をストレートに主張することからは距離を置いた。しかし他の「リバタリアン」はもっとずけずけと、ロシアとウクライナの戦争に関し積極策を望んでいる。ケイトー研究所のカルチュラル・スタディーズ研究員であるキャシー・ヤング氏はこの選択肢を熱心に支持し、ロシアを米国にとって危険で手強い敵として悪者扱いするキャンペーンを展開している。ダーラム米特別検察官の待望の報告書で完全に否定された「ロシアゲート」陰謀説を擁護し、ウクライナをロシアに対する将棋の駒として利用する米・NATOの代理戦争を支持することにもためらいはない。軍事援助に関しても、米国は「ウクライナの勝利のために、十分な量を、迅速に提供する必要がある」と主張する。驚くことに同氏は、何千もの核兵器を持ち、ウクライナを重要な安全保障上の関心事と考える国〔=ロシア〕に対し代理戦争を仕掛けることによって米国が被る、様々な危険に気づいていないようだ。

「外交政策を除けば」と但し書きをする自称リバタリアンには、戸惑いと落胆を感じる。それは「ステーキやハンバーガーを食べる以外はベジタリアン」と言うのと同じだ。米国が世界中で秘密任務や明白な軍事介入を果てしなく行い、それでも自由な国に向かって前進できると考えるのは、良くいっておめでたい。世界中で介入を繰り広げる外交政策は、他のすべての意義ある政治的、経済的、社会的価値を台無しにする。

そのような外交政策には、巨大な軍隊と巨額の税金が必要だ。米国は世界帝国を安上がりに運営することはできないからだ。1945年以降、米国がグローバル安全保障の「義務」を担って以来、連邦政府の規模と費用が爆発的に増大したのは偶然ではない。今日、米国の軍事費は2位以下の10カ国を合わせたよりも多い。

介入主義外交政策の弊害は経済面にとどまらない。同盟国や傀儡国のために世界各地で迅速に介入するには、意思決定の一元化が必要である。その結果、危険なほど強大な権力を握る帝国大統領が誕生し、憲法に定める権力分立を崩壊させてしまった。特に議会の戦争権限と、議会が大統領の軍事的冒険主義に対して行使しうる抑制力が衰えた。また中央情報局(CIA)を筆頭に恐るべき監視機構が拡大し、主流の外交政策に異議を唱えるような米国人をスパイし、嫌がらせをするのも、その現れである。

タカ派リバタリアンは目を覚まさなければならない。自由主義を推進しながら、その目的を根本から損ないかねない国際問題への取り組みを支持することはできない。ウクライナに関する政策は、米政府を縮小し、規制を緩和するという目標にどれだけ真摯に取り組んでいるかを示す最新の試金石である。今回もまた、あまりにも多くのリバタリアンが、そのテストにみごとに落第している。

No, It Is Not Possible to be an Imperial Libertarian – The Future of Freedom Foundation [LINK]

2023-05-11

よみがえるドミノ理論

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月9日)

米国の外交政策史上、とくに大きなダメージを与えたのが、アイゼンハワー大統領によるドミノ理論(ある一国が共産主義化すればドミノ倒しのように隣接する国々も共産主義化するという理論)である。この理論を採用したことで、米国はベトナムへの軍事介入という大失敗にまっしぐらとなった。この単純な理論は、ベトナムの失敗の後、笑いものとなったが、その信奉者は存在し続けている。さらに悪いことに、ロシアと中国に対する米政府の現在の態度に関して、完全に復活したように見える。
アイゼンハワー大統領が初めてその主張を展開したのは、1954年4月7日の記者会見である。それによれば、崩壊しつつあるフランスのインドシナ植民地帝国において共産主義勢力が権力を握るのを防ぐことが、より広い範囲で重要である。同大統領は、後に有名になるイメージを引き合いに出した。「ドミノの列があり、最初の1個を倒すと、最後の1個は間違いなくあっという間に倒れてしまう。だから崩壊が始まれば、きわめて深刻な影響を及ぼす」

同大統領は悪夢のようなシナリオを紡ぎ出した。ベトナムで共産主義が成功すれば、「インドシナ半島、ビルマ、タイ、(マレー)半島、それに続いてインドネシアが失われる」。そして共産主義の脅威は「日本のいわゆる島嶼防衛網、台湾、フィリピン、そして南方へ進出し、オーストラリアとニュージーランドを脅かす」のである。日本でさえも、共産主義世界に目を向ける以外の選択肢はないだろう。その結果、「(ベトナムの)喪失がもたらすかもしれない結果は、自由世界にとって計り知れないものとなる」。

アイゼンハワー氏とその助言者らは、基本的な点を無視していた。国家はドミノではない。それぞれの国は、独自の伝統、価値観、利益、優先順位を持つユニークな社会である。ある国で政治的、イデオロギー的な結果が生じたからといって、同じ結果が近隣の国、ましてやもっと遠くの国で起こるとは限らない。

米外交のタカ派メンバーや欧州、東アジアの関係者は、ロシアと中国に関してこの現実を無視するようになっている。もしロシアがウクライナとの戦争に成功すれば、ロシアは欧州全域に悲惨な脅威をもたらすというのが、北大西洋条約機構(NATO)のお偉いさんたちの決まり文句になっている。それどころかロシアが勝てば、「ルールに基づく」国際体制全体の安定を脅かすという。

経済規模がスペインよりわずかに大きく、軍事予算が米国の10分の1以下である国がそのような脅威をもたらすという考えは、一見して不合理に思えるはずである。米国が関与しなくても、ロシア軍は欧州のNATO圏全体はもちろん、欧州の主要国1つですら征服することは困難だろう。

さらにこの考えは、ウクライナが文化上・安全保障上の理由からロシアにとって非常に重要だという広範な証拠を無視している。とくにロシアの指導者らは、米国がウクライナをNATOの対ロシア軍事資産にすることを許そうとはしなかったのである。だからといってロシアが同様の骨折りをし、リスクを冒してまで、欧州の他地域に対し地政学的な攻勢をかけると考える理由はまったくない。かりにウクライナがロシアの現在の軍事作戦に敗れたとしても、ポーランド、バルト3国、スロバキアが次の拡張の標的になると考える確かな理由はないだろう。ましてドイツ、フランス、イタリアといった大国は言うまでもない。

米国でも、とくに反中のタカ派が増え、対中政策について同様の単純な考えが浸透し始めている。その根底にあるのは、もし中国が力づくで台湾を支配することに成功すれば、中国は東アジア全域に拡張政策の脅威を及ぼし、世界の覇権を握る候補になるだろうという仮説である。ロシアについてドミノ理論を唱えるアナリストが、ロシアにとってのウクライナの重要性を無視するのと同様に、中国が台湾を獲得すれば拡張政策に走ることになると主張する人々は、中国の指導者と国民にとって台湾が特別な存在であることを無視している。多くの中国人にとって台湾は、1949年に共産党の勝利で終わった中国本土の内戦で、最後に解決されなかった領土問題である。また台湾は、中国の「長い屈辱の世紀」の間に外国(日本)が盗んだ領土とみなされている。

台湾を取り戻すことは、他のどんな領土的野心よりもはるかに大きな重要性を持っている。中国が世界をリードする大国となり、米国の覇権を弱めたいと考えているのは確かだが、その目標が自動的に不正な拡張政策につながるわけではない。さらに、ロシアが欧州の経済・軍事大国の存在によって力を制限されているのと同様に、中国も日本、インド、インドネシアなど、その野心を制限する動機を持つ近隣の主要国に直面することになるだろう。

1950年代にアイゼンハワー大統領が発表したドミノ理論は、単純でナンセンスなものだった。現在ゾンビのようによみがえった理論も同様に現実離れしている。元祖ドミノ理論のように米国を不必要で悲惨な紛争に巻き込むことのないよう、断固として否定する必要がある。

The Zombie Domino Theory Returns - Antiwar.com Original [LINK]

2023-05-04

ウクライナ戦争、米政府の3つの嘘

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年5月2日)

どの国の政府も、外交政策の側面から欺瞞に満ちたプロパガンダを行う。しかしジョー・バイデン米政権は、嘘の数とその大胆さの両方で、ある種の記録を作ろうとしているようだ。その中でも、大胆さの面で際立っているのが3つある。
嘘「世界はロシアに反対し、ウクライナを支援することで一致団結している」。この自慢は、ロシア・ウクライナ戦争が始まった当初から信憑性に乏しかったが、時間が経つにつれて、よりほころびが大きくなっている。米政府の主張は、2022年3月と2023年2月の2回の国連総会の議決に基づいている。これらの措置は、ウクライナに侵攻したロシアを批判するものではあったが、国連加盟国に何らかの行動を約束するものではなかったため、純粋に象徴的なものだった。それでも、強国である米国の怒りを買うとわかっていながら、総会の2割以上の国が反対票を投じたり棄権したりした。

内容のある政策としては、北大西洋条約機構(NATO)圏と米国の長年にわたる安全保障上の依存先である東アジア以外では、反露政策への支持はほとんどない。インドや中国などの大国がロシアへの制裁を拒否しているだけでなく、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの圧倒的多数の国々がその姿勢を維持している。ウクライナへの経済的(ましてや軍事的)援助という点では、支持者の層はさらに薄くなっている。バイデン政権関係者の独りよがりな主張とは裏腹に、このような問題では、欧米対その他の国々ということになる。

嘘「ロシアとウクライナの戦争は、民主主義と権威主義の存亡をかけた世界的な戦いの一部である」。政権幹部や欧米ニュースメディアの閉鎖空間にいるその支持者は、何度もそのような主張をしている。ウクライナが合理的な基準で民主主義国家ではないという現実もさることながら、いくつかの理由でそれは誤りである。2022年2月のロシアの侵攻後、ウォロディミル・ゼレンスキー政権がさらなる弾圧政策をとる以前から、ウクライナは蔓延する汚職を理由にトランスペアレンシー・インターナショナル(非政府組織)から悪い評価を受け、政治的自由に関してはフリーダムハウス(同)から平凡な評価を受けていた。

それ以来、ゼレンスキー大統領は野党やメディアを非合法化し、その他の報道機関には厳しい検閲を課し、ロシア正教会や「ロシアとのつながり」を持つその他の宗教団体を事実上禁止し、反逆罪の疑いで多数の個人(元上級顧問らを含む)を収監した。さらに、国内外の批判者を「情報操作テロリスト」や「戦争犯罪人」と非難する「ブラックリスト」まで作成された。

バイデン政権が、ロシア・ウクライナ戦争を民主主義と権威主義の重要な闘いとして描くのは不条理である。どちらの国も民主主義ではないからだ。フロリダ州のロン・デサンティス知事は、この紛争を米国の関与を必要としない平凡な「領土問題」と表現したが、これははるかに的を射ていた。しかし残念なことにデサンティス氏が後にこの正確な説明を撤回したのは、戦争に関する議論を支配する親ウクライナの物語に異を唱える者をウクライナ・ロビーがいかに効果的に威圧するかを示すものであった。

嘘「米国はロシアとウクライナの戦争に直接関与していない」。ロシアの侵攻が始まったとき、バイデン政権幹部はすぐに、米国とそのNATO同盟国はウクライナの防衛努力を支援するが、ウクライナに米国の「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(地上軍)」は存在しないと米国民に保証した。しかし2023年4月に流出した国防総省の文書によると、米国と他のNATO諸国がウクライナに数十人の特殊部隊を配置していることが確認された。その事実を皮肉ったコメントで、ある識者は「米軍はブーツの代わりにスリッパを履いているのではないか」と推測している。

地上部隊の駐留がなくても、米国は(他のNATO加盟国とともに)ロシアとウクライナの紛争に深く関与してきた。米政府が公式に唱える非交戦国としての地位は、茶番である。米国を中心とするNATOは、ロシアに対して本格的な代理戦争を仕掛けているのである。しかもその目的は、ウクライナがロシアの侵略を食い止めるのを助けるにとどまらない。ロイド・オースティン国防長官が率直にも「ロシアを弱体化」させ、ウクライナや他の国にとって安全保障上の脅威とならないようにすることが目的だと述べたことは、この点を端的に示している。米国はウラジーミル・プーチン露大統領を戦争犯罪で訴追するよう国際刑事裁判所(ICC)に働きかけている。バイデン大統領を含む政権幹部は、NATOの根本的な目標はロシアの政権交代だとほのめかしている。

西側諸国は長距離ミサイルや重戦車など、ますます強力な武器をウクライナに供給している。また米国はウクライナに標的データを含む戦場情報を提供してきたことも明らかになっている。そのおかげで、ウクライナ軍は数百人が乗ったロシア軍の輸送機を撃墜し、多数のロシア軍将兵を殺害し、ロシアの黒海艦隊の旗艦を沈めるなどの戦果を挙げている。このような関与は米国を交戦国にし、核武装したロシアとの信じられないほど危険な衝突を引き起こす危険性がある。

米国民は、自国の政府に騙される心配をする必要はないはずだ。しかしロシア・ウクライナ戦争に関して、バイデン政権とその同盟国は、いくつかの重要な問題について国民を組織的に欺いた。このような行動は、民主主義の根本規範をまったく軽んじていることを示している。

Washington's Egregious Deceptions About the Russia-Ukraine War - Antiwar.com Original [LINK]

2023-05-01

報道機関の失われた良心

ランドルフ・ボーン研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年4月24日)

米紙ニューヨーク・タイムズをはじめとする既成の報道機関が、ジャック・テシェイラ容疑者を追跡する当局に奴隷のように協力したことで、ジャーナリズムの良心は最悪の水準に陥った。同容疑者は、米国と北大西洋条約機構(NATO)の高官がウクライナ戦争などについて嘘をついていたことを明らかにしたリーク元だとみられている。残念ながらこの事件は、その数カ月前に始まり、現在も続いているジャーナリズムの重大な不正行為に関するもう一つの話題、ノルドストリーム・パイプライン爆破事件の欠陥報道をも凌駕してしてしまった。
しかしノルドストリーム事件に関する報道機関のひどいやり方を忘れてはならない。なぜなら欧米(とくに米国)のジャーナリストが外交政策や国家安全保障問題に関し、政府の薄っぺらい公式見解をいかに喜んでおうむ返しするかが浮き彫りになったからである。2022年9月に起こった爆弾テロであるノルドストリーム事件はロシアが引き起こした可能性が高いというバイデン米政権の主張には、それなりに独立した有能な報道機関であっても重大な疑問を呈するはずだった。しかし予想どおり、ニューヨーク・タイムズはすぐに政府の示した疑惑に同調した。他のエリート報道機関もこれに続き、ロシア政府の犯行だということに何の疑いも抱かないところもあった。

その疑惑に大きな疑念を抱く理由はいくつもあり、結局、政府幹部でさえ、ロシアが有罪だという「決定的な証拠」がないことを認めた。どんな犯罪でも、優秀な捜査官が最初に問うのは「cui bono(誰が得をするのか)」である。その点では、ロシアは容疑者リストのはるか下に位置していただろう。

ロシアの投資家は、ノルドストリーム1と完成したばかりのノルドストリーム2の建設に何十億ドルも注ぎ込んでいた。しかし今ではこれらのパイプラインは北海の底で無用の長物と化した。米国内のロシア嫌いのタカ派は、短期ではロシアの経済的利益が損なわれるものの、プーチン(露大統領)は欧州諸国への天然ガスの流れを断ち、ウクライナの戦争支援を続けるなら痛みを与えることができると示そうと、この措置をとったのだと主張した。しかしこの説を支持する当局者やアナリストは、パイプラインのバルブを閉めれば同じ結果が得られるのに、なぜロシアが自国の貴重なインフラを破壊するのかを説明しなかった。さらに悪いことに、当局者らにそのような質問をしたジャーナリストはほとんどおらず、ましてや首尾一貫した答えを求めることはできなかった。

「誰が得をするのか」の問いを投げかければ、ロシアが容疑者から外れることはなかったかもしれないが、他の関係者がもっと上位に来るはずだ。例えば、欧州大陸への天然ガスの供給元として、他の候補が挙げられていた。英国やノルウェーなどのNATO加盟国や米国がそれに該当する。またウクライナは、ロシアとの極めて破壊的な戦争に巻き込まれていたため、動機としてはもっともな容疑者であった。敵対するロシアを経済的、外交的に弱体化させることは、明らかにウクライナの利益になる。しかしウクライナにはこのような高度な攻撃を実行する能力がない、というのが主な反論であった。

ジャーナリズムの調査から浮かび上がる第一容疑者は、米国だったろう。実際、米国が単独で、あるいは少数のNATO同盟国と共同で行ったとする証拠の量は相当なものであった。それにもかかわらずニュースメディアの大半は、この説をロシアのプロパガンダにすぎないと手厳しく断じた。FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏は、この説に異を唱え、適切な質問をした数少ない著名ジャーナリストである。

欧州諸国へのロシアのエネルギーパイプラインの存在に断固として反対する米国の態度は、40年以上も前にさかのぼる。ロナルド・レーガン政権は、西ドイツがパイプラインの建設を承認したことに猛反発した。欧州の非共産圏の大部分が、地政学的に敵対する国からのエネルギー供給に依存を高めることになると考えたからである。キャスパー・ワインバーガー、ジョージ・シュルツ両元国務長官はそれぞれの回顧録で、欧州の同盟国を説得して方向転換させることができなかったことへの政権の苛立ちを語っている。ワインバーガー氏は実際、欧州のソ連へのエネルギー依存をやめさせたいと狂信的なまでに考えていた。

米政府の不満は、時間の経過とともに解消されることはなかった。ドナルド・トランプ政権は、最新かつ最大の天然ガスパイプラインであるノルドストリーム2の完成を阻止しようとし、バイデン政権も当初はそうしていた。ノルドストリーム2はロシアとドイツを直接結び、バルト三国や東欧の忠実な米従属国を迂回するため、とくに好ましくないものと考えられていた。なかでもウクライナの収入に壊滅的な影響を与えるものだ。

米国の長年の政策が一貫してノルドストリーム・パイプラインを敵視していただけでなく、爆発に至るまでの数カ月、バイデン政権の言葉遣いは容赦なく威嚇的だった。ロシアが2022年2月にウクライナへの侵攻を開始する前から、バイデン大統領は米国がノルドストリーム2に「終止符を打つ」と平然と述べている。決定権はドイツにあるのに、どうしてそんなに自信があるのかと記者が詰め寄ると、バイデン氏は、米国はその目的を達成するという明白な「約束」で応えた。

米国の著名な報道機関の多くは、その後の破壊工作の第一容疑者はロシアであるという政府の立場を支持したが、欧州をはじめとする世界各国の報道機関は、より懐疑的な見方を示した。2023年2月、著名な調査ジャーナリストであるセイモア・ハーシュ氏が、ノルウェーと組んだ米国の犯行であることを示す長大な記事を発表すると、その警戒感はさらに強くなった。ホワイトハウスは、ハーシュ氏の記事はまったくの虚偽だとただちに非難し、米エリートマスコミの多くが、ハーシュ氏の暴露を驚くほど小さく報道し、敬意を払わなかったことが印象的である。

しかしハーシュの記事は、欧米の一般大衆に十分な共感を与えたようで、米国はその公式見解を変更した。ウォロディミル・ゼレンスキー政権とはまったく関係のない悪質なウクライナ人がパイプラインを破壊したという説を展開したのである。このような話は最初から信憑性に欠ける。NATOの複数の国の情報機関に傍受されることなく、少数のフリーランスのアマチュアが自家用ヨットでこのような高度な作戦を実行できたという考えは、ほとんどお笑いぐさとなった。

しかしエリートメディアの主要メンバーは、米政府の発表に従順だった。その多くは、事実と関係なくロシアを非難することに固執するタカ派であった。

ノルドストリーム破壊工作の報道は、数十年前から続く長いシリーズの一つのエピソードだった。そこでは独立したジャーナリストであるはずの人々が、米政府公認の物語を伝えるだけの存在であることに満足しているように見える。その特徴は、米政府によるバルカン半島での人道的十字軍、イスラム世界での政権交代戦争、ロシアに対し激化する挑発行為(NATOの拡張など)の報道で、あまりにも顕著だ。知的な調査や精査の欠如は、今や本当に不名誉な水準に達している。

Bombing Journalistic Integrity - The American Conservative [LINK]

2023-04-12

ひそかに増大する米傭兵

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年3月31日)

海外のいわゆる紛争地帯に配置された米軍兵士に関する公式データが、実際の数を過小評価している可能性があることが次第に明らかになってきた。同様に、現役軍人の死傷者は、過去20年間の米国のさまざまな海外聖戦で被った米国人の死者のほんの一部にすぎない。
統計的なごまかしの主な原因は、先週シリア東部の連合軍基地で米軍を標的にしたドローン攻撃で死亡した1人のように、ペンタゴン(米国防総省)が「民間請負業者」の利用を増やしていることだ。1月の議会調査局(CRS)によると、2022年末時点で、中央軍の責任範囲全体で国防総省のために働く請負業者社員は約2万2000人で、イラクとシリアにいる社員は7908人だと報告されている。

この言葉が使われるのを聞くと、ほとんどの人は、関係者が軍に食料、輸送、その他のサービスを提供する支援要員であると考える。そのとおりである。しかし多くの場合、請負業者は武装した警備の代わりをしており、言ってみれば傭兵であり、米軍の正式な一員である部隊と同様の割合で犠牲者を出すことがある。

2017年、北大西洋条約機構(NATO)の「確固たる支援任務(RSM)」およびアフガニスタン米軍司令官(当時)のジョン・ニコルソン陸軍大将は、上院軍事委員会で、国防総省はアフガンで「兵力配置レベルを満たすために、契約者を兵士に代える」必要があると述べた。2018年10月現在、アフガンには2万5000人以上の請負業者がいた。そのうち、アフガンでの民間警備請負業者は4172人で、2397人が武装民間警備請負業者に分類される。

請負業者利用のピークはもちろんグローバルな対テロ戦争時で、イラクとアフガンの戦時契約に関する委員会は2011年の最終報告書で、国防総省、国務省、国際開発庁(USAID)による軍事請負業者への「不健康な過剰依存」があったと述べている。

近年の武装請負業者の正確な数を特定するのは難しい。公式には少ないようだ。2021年2月の報告では、2020年末にアフガンにいた2万7338人の請負業者のうち、武装した(非武装でない)警備請負業者は1413人、イラクとシリアの間の(非武装の)民間警備業者は96人と報告されている。

しかし2023年のCRSによれば、「イラクとシリアで国防総省のために働く警備請負人の数は、さまざまな要因によって、時間の経過とともに大きく変動している。2022年度第4四半期の時点で、国防総省はイラクとシリアで941人の警備請負業者を報告しているが、その中に武装警備請負業者と特定された者はいなかった」という。

しかし2022年4月、国防総省は、イラクとシリアにいる当時の軍事請負業者6670人のうち、596人が訓練と警備に指定されているという数字を発表した。

ペンタゴンの請負業者の多くは、直接戦闘を行わないことになっているが、現代のヘッセン兵(18世紀に欧州主要国が雇っていたドイツの傭兵)にすぎない。英国は、アメリカ植民地の独立を阻止するために、これらの傭兵を利用した。実際、ジョージ・ワシントン軍は、1776年のクリスマスの奇襲攻撃でトレントンとプリンストンを占領した際に、900人以上のヘッセン兵を捕獲している。

現代では、アフガンとイラクの戦争でブラックウォーター社が重要な請負業者として登場し、ペンタゴンの戦略における新たな重要な要素を浮き彫りにした。ブラックウォーターは、1996年12月下旬に元海軍特殊部隊のエリック・プリンス氏によって設立され、その後、何度か社名を変更し、最近ではコンステリスとなった。しかし基本的なビジネスモデルはそのままであり、そのモデルは模倣者を引きつけている。2020年に発表された同社関係者の証言は、同社関係者が米軍にのみ支援サービスを提供しているという幻想を打ち砕くものである。

戦闘状態にある請負業者には、そのような役割のリスクが高まっている。ブラウン大学ワトソン研究所の計算では、2021年9月1日現在、イラクで死亡した米兵は4898人である。請負業者の死者数は3650人とわずかな差だ。アフガンでは、2021年8月に米軍が撤退した時点で、米国の「民間」請負業者による死亡の怪しさがより鮮明になっていた。米政府は、20年にわたる介入期間中に、3846人の請負業者に対し、2448人の米軍兵士が死亡したことを認めた。ワトソン研究所の分析では、請負業者の死亡者数は3917人とされている。

2021年末、戦略国際問題研究所(CSIS)のアナリストは、9・11テロ以降のさまざまな紛争で、米軍兵士よりも多くの請負業者(約8000人)が死亡していると指摘した。請負業者が戦闘行為に何らかのレベルで深く関与していなければ、このような結果はありえない。

ペンタゴンのシリアでの戦略も、請負業者を可能な限り活用することに基づいているようだ。米国がシリアに派遣している部隊は、公式には約500人だが、最近の報道では900人以上とされている。しかし知る人ぞ知る、2017年のジェームズ・ジャラード元帥の不用意なコメントでは、シリアにいる米軍兵士の実際の数はつねに4000人に近いと示唆されている。ジャラード氏は、そのような告白が当時の国防総省の公式見解と矛盾していたにもかかわらず、ワシントンの請負業者の幹部もその合計に含めていたようだ。

国防総省に対し、現在シリアにいる武装した、あるいはそうでない軍事請負業者の数を確認するコメントを求めたが、回答はなかった。

3月23日のシリア東部の米軍標的への無人機攻撃は、米軍契約者1人を殺害し、もう1人(および5人の軍属)を負傷させたが、シリアにおける米国の招かれざる存在の実際の範囲(および危険性)を改めて垣間見ることができただろう。国防総省の請負業者の利用は、米国が不必要で血なまぐさい、道徳的に疑わしい武力紛争に巻き込まれる範囲を隠す便利な煙幕になっている。

私たちは今、ウクライナの対ロシア戦争に対する米国の支援に関して、その状況が現れているのを目の当たりにしているのかもしれない。元国家安全保障会議スタッフのアレクサンダー・ビンドマン氏は、ドナルド・トランプ前大統領に対する最初の弾劾手続きを担当したことで有名だが、破損した兵器システムを修理するウクライナの努力を支援するために軍事請負業者を派遣するよう、米政府を公然と後押ししている。CSISはすでに2022年5月に、米国の「戦場請負業者」を派遣する同様の動きを提案している。このような支援から、いわゆる請負業者による直接戦闘の役割に移行するのに、劇的な発展は必要ないだろう。

米国の指導者は、アフガン、イラク、シリアの問題に干渉したときよりもさらに危険なリスクをちらつかせている。ウクライナに米国の傭兵が存在すれば、ロシアと直接衝突することになりかねないからである。議会も米国民も、すべての戦闘地域における米政府のヘッセン兵の役割について、もっと透明性を高めるよう要求しなければならない。

Syria episode shows how contractors still used to fight America's wars - Responsible Statecraft [LINK]

2023-03-09

ウクライナ戦争、支持いつまで

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年3月6日)

米国のウクライナ政策に対する国内支持率に関する最近の世論調査は、明らかに複雑な様相を呈している。バイデン政権が財政・軍事援助や軍事情報共有を通じてウクライナの戦力を支援する取り組みについては、米国人の過半数が依然として支持している。
しかし、その水準は2022年末の世論調査と比べても低下しており、2022年2月のロシアの侵攻直後に存在したきわめて高い支持水準からは大幅に低下している。

米国民の世論は、第二次世界大戦以降の米国の過去の軍事行動に見られるような下降線をたどっているようだ。しかし今回は、米軍が直接戦闘に参加しておらず、ましてや死傷者が出ていないにもかかわらず、支持率の低下が起きている。ウクライナ紛争が始まって1年も経たないうちに、戦争疲れが強まっていることは、政府の政策に対する国民の支持が非常にもろいことを警告するシグナルとなるはずである。

2023年2月15日のAP通信・シカゴ大学NORC研究所の世論調査では、米国人の48%がウクライナへの米国製武器の供与に賛成していることが判明した。29% が反対し、22% が「賛成でも反対でもない」と答えた。戦争が始まって3カ月も経たない2022年5月には、ウクライナに武器を送ることに60%が賛成し、反対はわずか19%だった。

ウクライナへの資金援助に関する態度も、より緩やかではあるが、同様の低下パターンをたどっている。2月のAP世論調査では、援助賛成派の意見は、もはや過半数どころか、多数の支持すら得られないことがわかった。37%が援助の継続を支持し、38%が反対している。それ以前の5月の調査では、44%が援助に賛成し、32%が反対していた。

また、ロシアへの経済制裁を支持する声にも若干の変化が見られた。63%というかなり高い支持率を維持しているが、これは5月の71%から低下している。

政府のウクライナ政策のあらゆる側面で国民の支持が徐々に低下していることは、今後問題になりそうな展開である。

とはいえ米国の指導者たちは、ウクライナのために米国の関与を強化するよう決意しているようだ。米国はすでにウクライナに豊富な高性能兵器を提供しており、ロシアへの挑発が強すぎるという理由で除外される品目のリストは減り続けている。米国の援助は、小型武器と弾薬の供給から始まり、ジャベリン対戦車ミサイルなどの武器に発展した。そして今、米国はエイブラムス戦車を戦場に送り込んでいる。ウクライナ軍がロシアの標的を攻撃する際の指針となる軍事情報を共有する姿勢も、着実に強まっている。

ウクライナにF16戦闘機を供与する計画は「今のところない」と主張しているが、非常に挑発的な手段である同戦闘機の供与も決して否定はしていない。米政府首脳は、代理戦争を北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接戦争に発展させようと躍起になっている。

ウクライナの聖戦に対する国内の支持が徐々に低下していることは、米国の過去の戦争、とくに朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争のパターンを踏襲している。いずれの場合も、当初は政府の介入に対する国民の熱意は非常に高かった。しかしその熱意は急落し、明確な勝利が見えないまま作戦が長引いたため、激しい幻滅に終わった。ウクライナの戦いも、同じような結果になりそうだ。

1950年6月下旬、ハリー・トルーマン大統領が北朝鮮の猛攻から韓国を守るために米軍を派遣した際、米国人の78%がこの作戦を支持した。8月に行われたギャラップ社の調査では、「介入は間違いだった」とする回答はわずか20%だった。1950年末に共産中国が参戦してからは、世論は大きく変化した。1951年2月初旬に行われたギャラップ社の世論調査では、トルーマンの決断は誤りだったと考える人が49~41%と多数を占めたのである。その後、政府の立場への支持は緩やかに回復したが、介入支持の感情が50%を超えることはなかった。

ベトナムへの介入に関する世論は、さらに顕著な下降線をたどった。米国民は、1965年に南ベトナムに地上軍を派遣するというリンドン・ジョンソン大統領の決定を59%対25%と強く支持した。しかし1967年1月には、賛成は50%、反対は37%にまで落ち込んだ。1969年1月、リチャード・ニクソン大統領が着任した時点では、戦争に賛成する人は39%しかおらず、52%が反対していた。1973年1月、パリ和平協定が締結され、ベトナム戦争への米軍の直接関与が終わったときには、戦争賛成派は29%にまで落ち込んでいた。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラク政策に関して、さらに急速な支持率の急落に遭遇した。2003年3月24日のギャラップ/USAトゥデイ/CNNの世論調査では、3月19日に開始された米主導のイラク侵攻を支持する米国人は72%だった。反対はわずか25%だった。しかし2004年夏には、さまざまな調査ですでに半数以上が「米国の介入は誤りだった」と考えていた。

〔2001年〕9月11日のペンタゴン〔米国防総省〕と世界貿易センターへのテロ攻撃後、アフガンへの武力行使に対する当初の支持は、イラクへの軍事行動への支持よりもさらに偏ったものだった。2001年11月には90%を超える支持率だった。その後、イラクに対する国民の意識に比べれば明らかに緩やかだったものの、高みから容赦ない下落が始まっている。2004年、アフガン作戦への支持率はまだ72%であり、2014年になって初めて、対反乱・国家建設作戦に反対する米国人の数が賛成を上回った。

イラクとアフガンへの介入に対する好意的な感情は、長期的にみてもあまり良いものではなかった。2021年8月のAP/NORCの調査では、米国人の62%がアフガン戦争は戦う価値がなかったと考えており、イラク戦争については63%だった。

政府が選択した戦争について、繰り返し(時には急速に)戦争疲れが生じている事実は、バイデン政権への強い警告となるべきだろう。米国民は、結論の出ない、ましてや明らかな失敗をもたらす海外の聖戦に、あまり忍耐力を示さない。米国はロシアの侵略を退けるために「必要な限り」ウクライナを支援するというバイデン大統領の公約は、米国民が喜んで引き受けたがらない約束手形を発行しているのかもしれない。

Is weakening support for Ukraine war following a historical pattern? - Responsible Statecraft [LINK]

2023-02-28

ゼレンスキー氏は民主主義の英雄か

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年2月6日)

米政府の対ウクライナ政策を支持する米国人はしばしば、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を、すでに受けている以上の米軍支援に値する、民主主義の高貴な擁護者として描く。2022年12月下旬の米議会本会議でのゼレンスキー氏の演説に伴う政治とメディアの熱狂は、そうした英雄崇拝の最近の一例である。

ウォロディミル・ゼレンスキー氏 誤った恋愛関係?


〔米政府系メディア〕ボイス・オブ・アメリカは、ゼレンスキー氏の登場を1941年12月のウィンストン・チャーチル英首相の議会演説と比較する記事を掲載した。〔保守派評論家〕デビッド・フラム氏はアトランティック誌に寄稿し、ゼレンスキー氏は米国民自身と民主主義の価値観を思い起こさせると主張した。さらにフラム氏は、ウクライナの大統領が「ウクライナを支援している米国人に感謝するために米国に来た。感謝すべきは米国人だ」とも述べている。ブレット・ステファンズ氏はニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、「米国人がゼレンスキー氏を賞賛するのは、同氏が自由世界の理念を本来の位置に回復させたからだ」と主張した。

このような賛美は、ゼレンスキー氏が市民の自由と民主主義の規範を著しく侵害している証拠が山ほどあることを無視している。米国人の盲目的な態度は、かつて偽りの民主主義の擁護者であったアンゴラの反乱軍リーダー、ジョナス・サビンビ氏に与えられた公平な扱いを彷彿とさせるものだ。1970年代半ばから1990年代初頭にかけて(特にロナルド・レーガン政権時代)、米国の多くの政治家やメディア関係者は、サビンビ氏率いるアンゴラ全面独立民族同盟(UNITA)とそのアンゴラ左派政府に対する反政府活動への支援を強化するよう働きかけたのである。そして、「民主的」な得意先の大きな欠点を見過ごすことも厭わなかった。

特に、米国の「保守派」のサビンビ氏に対する熱狂ぶりは顕著であった。ヘリテージ財団、フリーダムハウス、米国保守連合、ヤング・アメリカンズ・フォー・フリーダム、米国安全保障会議などの団体が、サビンビ氏への支持を表明した。また、ヒューマン・イベント、ナショナル・レビュー、アメリカン・スペクテイター、ウォールストリート・ジャーナルなどの出版物がサビンビ氏支援の主張を展開した。サビンビ氏の後援者は1979年、同氏の大規模な講演ツアーを手配し、1981、1986、1989年にはワシントンでの議会指導者や政府高官との会談を実現させた。

アンゴラ全面独立民族同盟の独裁的で粗暴な体質が指摘された時期もあったが、サビンビ氏への称賛の声は絶えなかった。ジョンズ・ホプキンス大学のピエロ・グレイジェス教授は、このように不快な内実にもかかわらず、サビンビ氏の米国の支援者は「自分たちこそは正しいと、米国の利害と道徳の両面から主張した」と述べている。現在行われている、ゼレンスキー氏への支援強化キャンペーンも同じようなものである。

米国保守連合とヤング・アメリカンズ・フォー・フリーダムからサビンビ氏に賞を贈ったジーン・カークパトリック国連大使は、サザンビ氏は「現代における数少ない本物のヒーローの一人」と称賛を浴びせた。カークパトリック氏がサビンビ氏に抱いた理想像は、米国右派の典型的な見方であった。レーガン大統領も同じ考えで、日記の中でサビンビ氏を「善人」と簡潔に表現している。

オーリン・ハッチ上院議員(当時)は、「私はサビンビ氏に会う機会に恵まれ、その正直さ、誠実さ、宗教的献身に非常に感銘を受けた」と述べている。アンゴラでの紛争は内戦ではないと、このユタ州選出の上院議員は主張した。「これはイデオロギーをめぐる戦いだ。ソ連の全体主義と、自由・自決・民主主義との戦いだ」。サビンビ氏への援助は「共産主義の覇権に抵抗する自由の戦士を助けるという、強いシグナルを世界に送ることになる」。もし「権威主義」を「ソ連の全体主義」に、「ロシアの侵略」を「共産主義の覇権」に置き換えれば、ゼレンスキー氏とその大義を支援しなければならないという、今の主流で徹底して単純化されたメッセージと、事実上同じものになる。

アンゴラ全面独立民族同盟とその指導者サビンビ氏に対する熱狂は、次第に激しく、無批判になった。振り返ってみると、サビンビ氏を称えるキャンペーンで最も恥ずべきエピソードは、1986年にウォールストリート・ジャーナル紙に掲載された、同氏の署名入りでゴーストライターが書いたとみられる論説であった。その内容は、資本主義と民主主義の美徳を称え、米国がルアンダ(アンゴラの首都)の親共産主義政府を追放するために自分の同盟を支援すれば、アンゴラを資本主義と民主主義の両方の価値のモデルとするよう約束するものだった。1989年のヘリテージ財団での講演でも、サビンビ氏は同じようなメッセージを売り込んだ。

サビンビ氏の論説とそれに続く講演は、米国の民主主義支持者(特に保守派)が聞きたかったことをそのまま伝えている。アンゴラ全面独立民族同盟の究極の目的は、親共産主義政権とその後ろ盾であるキューバ軍を打倒するだけでなく、再び民主的な国を建設することだと同氏は主張したのである。それだけではない。「宗教的寛容と言論の自由を備えた民主的な多党制のアンゴラを目指すという同同盟の公約に加えて、経済的自由の重要性を認識することが肝要だ」とサビンビ氏は主張した。ナショナル・レビュー誌は、同氏の「驚くべき自由の擁護」を称賛している。

親サビンビ陣営のプロパガンダの成果がどんなに目覚ましかったかといえば、アンゴラ全面独立民族同盟が支配していたアンゴラの一部では、こうした政治的、経済的原則を何一つ実践していなかったのである。民主主義や多党制の形跡はまったくなかった。同同盟は冷酷なまでに権力を独占し、市民に対する戦争犯罪や、政敵や指導者候補を組織的に投獄・殺害するなどの虐待を行った。その対象には、チト・チングンジ氏やウィルソン・ドス・サントス氏など、サビンビ氏と最も親しい仲間も含まれていた。サビンビ氏の米国人支持者でさえ、アンゴラ全面独立民族同盟が拷問や強制的な「再教育」に頼っていたことを不承不承認めざるをえなかった。

ゼレンスキー氏はウクライナの民主主義を損なう


同様に、ウクライナ政府の弾圧もますます露骨になり、警戒を強めている。ロシアの侵攻以来、ゼレンスキー氏は戦争を正当化するために、11の野党を非合法化した。また戒厳令を発動して、全国ネットのテレビ局を1つに統合する大統領令を発布した。2022年12月29日、ゼレンスキー氏は自分の党が国会で推し進めた新法に署名した。この措置は独立した報道をさらに制限するものだった。他の大統領令では、ロシア正教会の禁止を図り、その高位聖職者に厳しい制裁を課している。正当な手続きなしに投獄される人々の数は増え続けている。

ゼレンスキー氏とその側近たちは、国内外を問わず、最も平和的な敵対者に対しても容赦がない。2022年の夏、ウクライナ政府の偽情報対策センターは、多数の著名な米国人を含むウクライナ批判者のブラックリストを公表した。このリストが事実上の脅迫であることは、9月下旬に同センターが上位35人の標的の修正名簿(住所を含む)を発表し、これらの個人を「情報操作テロリスト」や「戦争犯罪人」と中傷したことでさらに明白になった。

サビンビ氏とゼレンスキー氏への誤った支援で、重要な違いの一つは、サビンビ氏支援に党派的な性格が強かったことである。保守派はアンゴラの詐欺師を支持する傾向が強かったが、リベラル派は控えめな支持からあからさまな敵対までさまざまだった。残念ながら、ゼレンスキー氏が民主主義と自由の擁護者だという見方は党派を問わない。これにはうんざりする。米国人のゼレンスキー支持者は、お得意先の思想的、行動的な欠点を認めようとしない。将来振り返えれば、その忠誠心は、サビンビ氏擁護派が最後はそうだったように、ゼレンスキー氏のファンにとっても恥ずかしいものだったとわかるかもしれない。

Volodymyr Zelensky: Not Exactly a Champion of Democracy - 19FortyFive [LINK]

2023-01-18

ウクライナの偽りの民主主義

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2023年1月9日)

ウクライナの米欧応援団は、恥を知らないようだ。事実は異なるという証拠が次々と出てきているにもかかわらず、ウクライナを自由を愛する民主主義国として描き続けている。12月下旬、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領のワシントン公式訪問と議会での演説に伴う政治とメディアの熱狂は、その最新の例である。
ボイス・オブ・アメリカは、ゼレンスキー大統領の演説を、1941年12月に行われたウィンストン・チャーチル英首相の議会演説と比較して、その英雄的な調子と実質的な意義について論じる記事を掲載した。ニューヨーク・タイムズ紙は、ワシントンでゼレンスキー氏が「英雄として歓迎」されたことによって、ウクライナ国民の士気が大いに高まったと主張した。米安全保障関連シンクタンク「19fortyfive」のシニアエディター、マット・スキュ氏は、コロラド州のローレン・ボーバート議員とフロリダ州のマット・ゲーツ議員が「先週行われたゼレンスキー・ウクライナ大統領の議会演説で拍手とスタンディングオベーションに加わることを拒否した」と非難し、ロシアのメディアが彼らの反対意見を強調したと指摘した。評論家デビッド・フラム氏はアトランティック誌に寄稿し、ゼレンスキー氏は「我々を自分自身に立ち返らせ」、民主主義の価値を思い出させたと主張した。フラム氏は、ウクライナの大統領が「ウクライナを支援してくれている私たちに感謝するために米国に来た。感謝すべきは米国人だ」とほめちぎった。

ゼレンスキー氏の演説は、ウクライナはロシアの攻撃から自由の城壁を守る勇敢な民主主義国だという神話を永続させた。バイデン米大統領は、ロシア・ウクライナ戦争の初期に、この紛争は一方では自由と民主主義、他方では権威主義との間の世界的な闘争の一部だと主張し、その態度を象徴していた。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ジャーマン・ロペス氏は、「ウクライナに関する西側の永続的な結集は、将来の世界の出来事に影響を与えうる2022年の重要な傾向を例証している」と論じた。ジャナン・ガネッシュ氏がフィナンシャル・タイムズ紙に書いたように、「今年は自由民主主義が反撃した年だった」のである。

複雑な世界をこのように痛々しいほど単純化することは、たとえウクライナが本物の民主主義国であったとしても、十分に悪いことである。しかしウクライナはロシアの侵攻以前からその地位に値しなかったし、同国政府の組織的抑圧への傾斜は、この紛争の勃発以来、はるかに悪化している。今日のウクライナは腐敗し、権威主義的な国家である。最も寛大な定義に照らしても、民主主義国とは言えない。残念ながら、西側諸国のウクライナ支持者はゼレンスキー政権の抑圧的な行動を無視・軽視し、正当化し続けている。

真の民主主義国は、複数の野党を禁止したり、野党系メディアを閉鎖したりはしない。また、存続を許したメディアを厳しく検閲する(政府の厳しい管理下に置く)こともない。真の民主主義国は、政府が嫌う政策を主張する教会を非合法化することもない。政権に反対する者を投獄することもなく、ましてや意味のある正当な手続きなしに、政治犯の拷問を容認することもない。真の民主主義国は、国内外の批評家の「ブラックリスト」を公表し、それによって背中に標的を置くようなことはしない。しかしウクライナ政府はこれらの行為を一つや二つではなく、すべて行っている。

国内批判者の息の根を止める努力は、マイダン革命〔米国に支援された民族主義者が親露派政権を倒した2014年のクーデター〕のわずか数カ月後に明らかになり、この一年ほどで劇的に加速している。ウクライナ当局は早くから、政治的反体制者への嫌がらせ、検閲措置の採用、政府やその政策に対する批判者とみなした外国人ジャーナリストの出入りを禁止していた。こうした攻撃的な行為は、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、欧州安全保障協力機構などの独立した監視団体から批判を浴びた。

ロシアの侵攻が始まる前から、ゼレンスキー政権下の国内弾圧の度合いはひどくなっていた。今回の戦争以前の民主主義と市民的自由に関するウクライナ政府の実績は、立派だったとはいえない。フリーダムハウスの2022年の報告書では、ウクライナは100点満点中61点を獲得し、「部分的自由」のカテゴリーにリストアップされている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの2021年のウクライナに関する報告書も、政府軍による虐待を挙げ、「恣意的な拘束、拷問、虐待を含む」と、好ましいものとは程遠いものであった。ジャーナリストやメディア関係者は「報道に関連した嫌がらせや脅迫に直面」している。2021年2月、ウクライナ政府は、いくつかの野党系メディアをロシアのプロパガンダの道具であるという申し立てに基づき閉鎖した。

2022年秋にロシア系の正教会が直面したように、宗教機関さえも政府の嫌がらせや弾圧から安全なわけではない。12月2日、ゼレンスキー氏はロシアと関係のあるすべての宗教の禁止を目指すと発表し、この動きは「ウクライナに精神的独立を保証する」ために必要だと主張した。この禁止令は、特にロシア正教徒を自認する数百万人のウクライナ人に影響を与えるだろう。実際、ウクライナ政府はすぐに特定の正教会の宗教家に対して制裁を課した。西側諸国の典型的な態度は、あるゼレンスキー擁護者の「この問題は非常に複雑だ」という反応だった。信教の自由を守るための積極的な姿勢とは言いがたい。

政治・メディアによる抑圧の雰囲気はますます濃くなり、政権反対派に対する勝手な投獄や拷問さえも報告されている。しかしウクライナ支持者の中には、同国の政権がネオナチに媚びを売っていることを非難する気さえないように見える人もいる。特にひどいのは、ウクライナ防衛におけるアゾフ大隊(現アゾフ連隊)の役割についてである。アゾフ大隊はロシアの侵攻以前から、極端な民族主義者と完全なナチスの拠点として悪名高い存在だった。

そのため、アゾフ連隊がマリウポリ市の戦いで重要な役割を果たした際、米欧のウクライナ崇拝者にとっては問題となるはずだった。しかしほとんどの報道は、マリウポリの住民の苦しみ、ロシアの侵略者の冷酷な悪意、街の勇敢な守備隊の粘り強さに焦点を当てるだけだった。これらの記事は通常、防衛側にアゾフの戦闘員が目立つことを無視し、そのイデオロギー的な血統を明らかにすることができなかった。しかしアゾフ隊員との共謀は、ウクライナの政治エリートがネオナチ分子やその活動を長年にわたって全面的に許容してきたことの一つの表れでしかない。

おそらく民主主義の規範を軽んじていることが最もよく分かるのは、ゼレンスキー氏とその親しい同僚らが、国内外を問わず最も平和的な反対者たちに対してさえ寛容でないことだろう。外国の批判者を標的にし、威嚇しようとする意欲は2022年の夏、ウクライナ政府の情報対策センター(一部は米国の納税者が出資)がそうした反対者の「ブラックリスト」を公表した際、はっきりと明らかになった。そのリストには、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授、FOXニュースの司会者タッカー・カールソン氏、元下院議員トゥルシー・ギャバード氏、ケイトー研究所上級研究員で元レーガン大統領補佐官のダグ・バンドウ氏ら、多数の著名な米国人が名を連ねていた。

ブラックリストの脅威的な性質は、9月下旬に同センターが上位35人の標的の住所などを修正した名簿を発表した際にさらに明確になった。このブラックリストは、「情報操作テロリスト」「戦争犯罪人」と糾弾している。批判者をテロリストや戦争犯罪人と表現すれば、狂信者が危害を加えるために直接行動を起こすよう奨励することになる。ブラックリストは簡単に殺害リストとなり得るが、ウクライナ政府は自らが煽った危険に対してせいぜい無関心でしかない。

こうした警告のサインにもかかわらず、西側諸国のウクライナ熱烈擁護派はプロパガンダに固執している。その典型的な例が、ブレット・スティーブンス氏によるニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、米国人が「ゼレンスキー氏を賞賛するのは、自由世界の理念を本来の位置に回復させたからだ」と主張した。スティーブンス氏によれば、「自由世界の一員とは、国家権力は何よりもまず個人の権利を守るために存在するという考えに賛同する、すべての国である」。スティーブンス氏が言っているのはどの国のことなのだろうか。ウクライナはそのような表現には当てはまらない。

ウクライナを賞賛する西側諸国は、自分たちの大切な外国顧客に関する不愉快な現実に直面する必要がある。ウクライナは民主主義国ではないし、ゼレンスキー氏は民主主義的価値観の高貴で悩める擁護者でもない。ロシアとウクライナの戦争は、自由と権威主義の存亡をかけた戦いの一部ではない。腐敗した抑圧的な両政府間の醜い縄張り争いである。米国をはじめとする西側社会は、この戦いに利害関係を持たない。少なくとも持つべきではない。

(次を全訳)
False Democracy - The American Conservative [LINK]

2022-12-16

聖戦が悪夢になるとき

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2022年12月13日)

2022年秋にウクライナがロシア軍に対して驚くほど効果的な反攻を行ったことから、西側諸国の政府関係者やメディア関係者の間では、この戦争でウクライナが全面的に勝利した場合のロシアの対応について注目が高まっている。しかし米国と欧州の同盟国では、軍事的な運命が変わり、北大西洋条約機構(NATO)の代理人〔=ウクライナ〕が決定的な敗北に直面した場合、どのように対応するのかという議論はあまり行われていない。だが深刻な政策的失敗を避けるには、そうした議論が欠かせない。

欧米の外交専門家は、ウクライナでの軍事的事業が破綻した場合にロシアが取るだろう対応について、意見が分かれている。現実主義者たちは、プーチン大統領がロシアの取り組みを大幅に拡大させるのではないかと懸念している。その懸念は当然である。実際、2022年9月にプーチンが指示した部分的な国家総動員や、ウクライナの送電網などインフラへのミサイル攻撃の強化など、すでに拡大路線がとられている。心配するアナリストの中には、ロシアがウクライナで決定的な敗北を喫した場合、追い詰められたプーチンは屈辱的な破滅を避けるために戦術核兵器を使用する可能性さえあると警告する者もいる。バイデン大統領でさえ、その危険性の存在を指摘している。

しかし、よりタカ派的な人々は、プーチンはハッタリをかましていると主張し、ウクライナの反攻は輝かしい全面勝利の前哨戦にすぎないと称揚している。NATOの軍事力がロシアの戦力強化を阻むというのが、その暗黙の前提である。それどころか、ロシアという熊は、クリミアを含むウクライナの全占領地をウクライナの支配下に戻す外交解決を受け入れ、ずんぐりとした尻尾を巻いてはい出すだろうと考えているようだ。ジャーナリスト、アン・アップルバウムのようなタカ派は、最初からそのような性格の和解が唯一受け入れられる結果だと主張してきたのである。

ウクライナでロシアが敗北した場合に起こりうる結果についての外交政策エリートのバラ色のシナリオは心配である。しかし、ウクライナの将来の運命に関する過度の楽観論も同様に気がかりだ。現実には、プーチンがウクライナ軍の粘り強さ(およびNATOのウクライナへの軍事援助の程度と効果)を明らかに過小評価している一方で、ロシアは依然としてウクライナのインフラを荒廃させながら、ゆっくりと領土目標を達成しつつある。

ウクライナとその西側支援者にとってきわめて心配なのは、軍事的犠牲の度合いである。ミリー米統合参謀本部議長が2022年11月初めに発表した評価では、開戦以来、ロシア軍の死傷者は10万人以上に上ると結論づけている。米国の報道機関は、ミリーの報告書に関する見出しで、この数字を強調した。それよりも注目されなかったのは、ウクライナ軍も10万人以上の死傷者を出していると認めたことだ。ロシアの軍備はウクライナよりはるかに大きく、人口もウクライナの3倍以上あるため、この点は重要だった。つまり、ロシアはウクライナよりも容易に、そして長く、このような悲惨な損失を吸収することができる。戦争が長引き、人間の肉挽き器と化すと、ウクライナの運命は明るくなるどころか、しぼんでいく。

バイデン政権はこのような結果について皮肉るかもしれない。というのも、米政権がウクライナをロシアに対する軍事的代理人として利用する際の手本となったのは、1980年代にアフガニスタンのムジャヒディン(イスラム聖戦士)を使ってソ連の占領軍に血を流させたことだからである。この政策は、アフガンの人々にさまざまな点で大きな犠牲を払わせながらも、最終的には成功した。しかし他でも指摘したように、ロシアにとってウクライナは、アフガンよりもはるかに重要な利害関係国である。したがって、ロシアがウクライナからの屈辱的な撤退を受け入れる可能性はきわめて低い。

米政府幹部が「ウクライナを代理として使うのはその戦略が有効だと証明されたときだけ」と冷笑する現実主義者だとしても、ウクライナには外交政策エリートや報道機関の中に本物の崇拝者が大勢いる。ウクライナのゼレンスキー大統領をチャーチル元英首相のような高貴な人物として、ウクライナを悪質な侵略者に抵抗する勇敢な自由民主主義国家として描くインチキが広まっているため、たとえウクライナの運命が暗くなったとしても、米政府にとって代理人を見捨てるのは困難だ。米政府とその同盟国は繰り返し、ウクライナは民主主義と独裁主義の存亡をかけた世界的な戦いの最前線にあると主張してきたから、その姿勢を崩すことは難しいだろう。

もしロシアが差し迫った冬期攻撃、あるいはそれ以降の攻撃でウクライナ軍を追い詰めた場合、バイデン政権には、ウクライナに対する米国の支援を減らすのではなく、むしろ強化を求める大きな圧力がかかるという、非常に現実的なリスクが存在する。実際、この戦争にNATO軍が直接参加することを求める声は、ほぼ間違いなく高まるだろう。事態の拡大は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定する、あるいは同国に米軍を配備するという形をとるかもしれない。

このような劇的な動きに伴うリスクは明らかであり、恐ろしいことである。しかし、この戦争をロシアの侵略や独裁政治の世界的脅威に対する聖戦として受け入れてきた有力者たちは、そのような考えにはとらわれないかもしれない。米国の外交政策体制には、失敗した事業を喜んで放棄した良い実績がない。ベトナムにいる米政府の傀儡が勝てないと明らかになった後も、何年もベトナム戦争に執着した。最近では、アフガンにおける米国の政策の破綻を20年近くもかたくなに認めようとしなかった。

それと同じ精神構造の人々が、ウクライナを活力ある民主主義国家であり、重要な同盟国であるかのように見せるためにあらゆる努力を尽くした後に、同国を見捨てるとは想像しがたい。実際、下院の進歩的議員連盟が戦争を終わらせるために外交を重視するよう求めた控えめな呼びかけ(すぐに撤回された)に対し、そうした方面から敵意が津波となって押し寄せたことは、ウクライナに対する狂信的な支持の大きさを示している。米政府の関与を強化するよう求める声は、米国民に過大なリスクがあるにもかかわらず、外交政策エリートによって受け入れられる可能性が高い。自国がこれ以上ウクライナ紛争に巻き込まれるのを防ぎたい米国人は、そのような試みをはねつける覚悟を持たねばならない。

(次を全訳)
How Will the Blob React if Ukraine Faces Defeat? - Antiwar.com Original [LINK]

2022-11-27

米政府、闇の同盟の系譜

ウクライナにおける米国のネオナチの盟友は、米政府がロシアに対し利用してきた忌まわしい協力者の最新版


ユダヤ人襲撃犯からヒトラー崇拝者、イスラム過激派まで、米国は一世紀以上にわたって憎むべき相手と協力してきた


ジャーナリスト、トニー・コックス
(2022年11月13日)

ソ連の指導者ヨシフ・スターリンは、第二次世界大戦の同盟国であるはずの米国が、自分に隠れてドイツのナチスと交渉していたことを1945年3月に知り、激怒した。実際、米国のスパイで後に中央情報局(CIA)の長官となるアレン・ダレスが、ヒトラー政権の崩壊が迫るなか、親衛隊のカール・ウォルフ将軍と秘密会談を行い、冷戦を事実上開始したとする歴史家もいるほどである。

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スターリン、米大統領フランクリン・ルーズベルト、英首相ウィンストン・チャーチルは、ヒトラー政権の異常な犯罪を理由に、ナチスの無条件降伏しか認めないことで合意していた。ダレスとウォルフの会談が明るみに出た際、ルーズベルトはスターリンに「誰もドイツと交渉していない」と繰り返し、虚偽の報告をした。スターリンは納得せず、西側の同盟国である米国がソ連を封じ込め、ソ連軍が手に入れるかもしれない領土を占領するために策略を巡らせていると疑った。

ソ連が疑念を抱くのは当然である。ダレスを含む米政府は、ソ連を米国の長期的な最大の脅威とみなしていたのである。

ナチスを救う


半世紀以上経ってようやく機密解除された文書で確認されたように、米国の情報機関はまもなく1000人以上のナチスを冷戦時代のスパイとして雇うことになった。

その頃すでに米国は、ソ連に対抗するために、いかがわしい同盟国と共通の大義名分を見出した歴史があった。ソ連がよく覚えているように、米国は1918年にロシアに侵攻し、〔社会主義革命を起こした〕ボルシェビキ政権の打倒に失敗したのである。当時、米国は反革命派の白軍と同盟を結んでおり、その中にはポグロム(ユダヤ人襲撃)などの残虐な殺戮を好んでいた者もいた。

当時のウッドロウ・ウィルソン米大統領は、世界の指導者たちに民族自決と対外侵略の禁止について道徳を説いていたが、この原則は何世代も先の米国の自己利益に従ってのみ適用されるものであった。ウィルソンは、ドイツから中央アジア、現在のウクライナ危機と、今日まで続く前例を作ることになったのだ。それは米国を自由の擁護者として崇高に描く一方で、ロシアを傷つけたいという米政府の熱い思いを共有できる相手であれば、その行為や見解がいかに忌まわしいものであっても、誰とでも協力するというものであった。

1945年、ダレスはハインリヒ・ヒムラー〔ナチス親衛隊(SS)隊長〕の右腕だったウォルフと手を組んだ。ウォルフとSS将校のグループは「黒の騎士団」と呼ばれ、北イタリアを連合軍に降伏させることに同意した。この取引はドイツの全面降伏のわずか6日前に行われたため、米国にとってはあまり効果がなく、ソビエトや他の同盟国に不信の種をまいてしまった。

歴史家によれば、ウォルフはニュルンベルク検事団から不思議なことに主要戦犯リストから外され、加害者ではなくナチスの残虐行為の「目撃者」として扱われたので、絞首台は免れた。ダレスは、ウォルフの別荘がイタリアのパルチザンに包囲された際、救助隊を派遣してウォルフを救出したほどである。

米国の情報機関、国防総省、連邦捜査局(FBI)は、戦後採用したいナチスの記録を隠蔽することに手を貸した。悪名高い戦争犯罪者が米国の同盟国から隠されていたケースもある。そのような有用な悪党の一人がクラウス・バービーで、〔ナチスドイツに協力した〕ビシー政権下のフランスでゲシュタポ(秘密警察)の将校としてユダヤ人とレジスタンス戦士を拷問し、「リヨンの虐殺者」として知られた。バービーは占領下のドイツで米国のスパイとして働き、フランスが戦犯として引き渡しを要求した後、1951年に米国はバービーをボリビアに逃がした。

1983年に米国の調査によってようやく明らかになったように、米国はバービーの居場所について同盟国のフランスに嘘をついていた。米軍はバービーと他の反共産主義工作員を、ファシストのクロアチア人司祭クルノスラフ・ドラガノビッチが運営する「ネズミの回線」を通して欧州から避難させるために金を払っていた。米国調査官アラン・ライアンによれば、「米政府の役人は、フランス政府から犯罪容疑で指名手配されている人物を保護し、法から逃れるよう手配する直接の責任を負っていた」。

CIAは多くのナチスを直接雇用することに加え、かつてヒトラーの東部戦線情報主任であったラインハルト・ゲーレンが運営する大規模なスパイ網を利用するために数百万ドルを支払ったと伝えられる。このドイツ人将軍は、戦争犯罪容疑での訴追を免除され、逮捕を避けるためにナチスの仲間の何人かを欧州から逃亡させる手助けをした。

米政府がナチスを雇ったのは、単なるスパイ行為だけではなかった。科学者やエンジニアを含む1600人以上が、「ペーパークリップ作戦」の下、冷戦に勝つためにその技術力を買われ、米国に連れて来られたのである。例えば、国防総省はロケット科学者のウェルナー・フォン・ブラウンを新妻、両親、弟とともに米国に呼び寄せた。フォン・ブラウンは、ドイツでヒトラーのために奴隷労働を使ってV-2ロケットを作ったチームを率いた人物で、米国では宇宙開発計画の英雄となり、ディズニー映画やタイム誌のカバーストーリーの題材となった。

しかし、ナチスからの移植者のすべてが順調であったわけではない。航空医学の経験を買われてテキサス州の軍事基地に連れて来られたコンラッド・シェーファー博士は、米軍当局の印象が悪く、ドイツに送り返された。作家のエリック・リヒトブラウが2014年の著書『隣のナチス』(邦題『ナチスの楽園』)で書いているように、米国側はシェーファーが医療残虐行為に関係があるというニュルンベルク検察の主張を見逃したが、「科学的才覚」が欠けていることには我慢できなかったのだ。

米国対ユダヤ人


ナチスは戦後、第三帝国下でユダヤ人が虐殺されたのとまったく同じ収容所を運営する仕事にもありついた。米陸軍大将ジョージ・パットンは、ダッハウやベルゲン・ベルゼンなどの米占領地にあった避難民(DP)収容所の責任者となり、ユダヤ人生存者を「解放」後数週間から数カ月、強制収容していたのである。

ヒトラーの死の収容所を監督した看守や、残虐な医療行為を行ったナチスの医師が、DP施設のスタッフとして働いていたのである。収容所では、ユダヤ人は相変わらず縞模様の制服を着て、わずかな食料を与えられていた。より多くの食料を手に入れるため闇取引に走ると、シュトゥットガルトやランズベルグのDP施設にドイツ警察が派遣され、取り締まりを行うようになった。当時のトルーマン米大統領が派遣した調査官アール・ハリソンは、次のように書いている。

抹殺しないことを除けば、ナチスがユダヤ人を扱ったのと同じように扱っているように見える。

パットンはこの批判的な報告書に「激昂」したと、リヒトブラウは2014年11月のNPRのインタビューで語っている。「ハリソン一派は避難民を人間だと信じているが、それは違う」と、米国の戦争の英雄〔パットン〕は日記に書いている。「とりわけユダヤ人はそうだ。獣にも劣る」

ペーパークリップ作戦の科学者と同様に、CIAのナチス・スパイの多くは米国に移された。この新しく入り込んだ米国人の中には、ロシアのクラスノダール地方出身で北コーカサスの総統とあだ名されたチュチェリム・ソブゾコフや、アドルフ・アイヒマンの最側近でドイツの「ユダヤ人問題」への対処についてナチの方針を作り上げたオットー・フォン・ボルシュビングが含まれる。リヒトブラウはCIA将校の言葉を引用し、「我々はソビエトを倒すのに役立つ男なら、どんな男でも、ナチスの記録がどうであろうと雇い入れる」と書いている。

ウクライナのナチス協力者ニコライ・レベドは、戦時中のユダヤ人とポーランド人の大量殺戮に関係しているとされ、1949年に米国に連れて来られた。レベドの素性は謎に包まれてはいない。米陸軍はレベドを「有名なサディスト」と呼び、CIAは「悪魔」とコードネームで呼んだと伝えられている。しかしレベドは反ソ工作員として貴重な存在とみなされ、数年後、米移民管理当局が調査に乗り出すと、CIAは国外退去を阻止した。レベドは米国の保護下で生き続け、89歳でピッツバーグで亡くなった。

2022-10-26

米政策が招いた北朝鮮ミサイル実験

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2022年2月15日)

ここ数週間、北朝鮮は弾道ミサイルの能力向上を生々しく示している。1月には、1カ月で7回の発射実験を行い、新記録を樹立した。金正恩政権はその締めくくりとして旧正月に、米国領グアムに到達可能な中距離ミサイルの発射実験を行った。この「火星12」の発射は、米国内の目標に到達する能力を持つとみられる3発のミサイルを実験した2017年以来、北朝鮮として最長距離の発射となった。1月の他の少なくとも1回の発射では、低空飛行できわめて機動性の高い、極超音速ミサイルが使用された。

この新たな実験は米政府関係者を驚かせたようだが、バイデン政権が金正恩政権との関係正常化につながる新たな目立った取り組みを行わなかったことに対する、北朝鮮の反応は予想できた。1月下旬に韓国(文在寅政権)の(鄭義溶)外相が、朝鮮戦争の公式な終結を宣言する宣言文の草案に米韓が合意したと報告したことが、唯一の柔軟さの兆しだった。しかしそれも北朝鮮との交渉次第であり、その重要なステップは依然として不透明なままである。

現在の米朝関係の行き詰まりは、非常に歯がゆい。ホワイトハウスはトランプ大統領の任期中盤に柔軟な政策を示した後、手を引き、他の問題で有意義な交渉を行う前に核兵器計画の放棄に向けた措置を取るよう北朝鮮に要求するという、米政府の長年の外交戦略を再開した。バイデン氏の外交チームも同じ手法をとっている。

しかし、北朝鮮の核開発を「完全で検証可能・不可逆的」に終わらせるという米政府の要求は、20年以上もの間、不発に終わっている。北朝鮮の弾道ミサイル発射計画が年々大規模化し、高度化していることに関する同様の要求も、無益であることが証明されている。それどころか、米政府と「国際社会」がこれまで以上に厳しい経済制裁を要求しているにもかかわらず、北朝鮮は核兵器とミサイル発射システムをさらに製造し続けている。米国防情報局の2021年の報告書によれば、北朝鮮はすでに「核兵器の備蓄を保持している。外部の専門家は、北朝鮮が20~60個の核弾頭を製造するのに十分な量の核分裂性物質を生産していると見積もっている」。2021年のランド研究所の調査では、今の傾向からすると、その数は2027年までに151~242個に達すると結論づけている。さらに、北朝鮮はそれら核兵器を発射する多数の移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)を自由に使用できるようになる。

ただし、北朝鮮が2017年9月以降、核兵器実験を実施していないことは、トランプ政権が首脳会談を含む米朝の直接対話に意欲を示した時期と重なるので、注意が必要である。また、北朝鮮は短距離ミサイルの実験さえも自主的にモラトリアム(一時停止)を採用した。短距離ミサイルの発射が再開されたのは、米政府との関係打開の見通しが立たなくなったことが明らかになったからである。核実験のモラトリアムもICBM発射のモラトリアムも当面は有効だが、この自制がいつまで続くかはますます不透明になってきた。

トランプ氏がかつて約束した北朝鮮とのオープンな関係は、同氏自身の外交チーム内での妨害と、議会民主党とその盟友である既成ニュースメディアによる冷笑するような党派的批判との犠牲になった。前者のおもな原因は、トランプ大統領が見当違いにも超タカ派のジョン・ボルトンを国家安全保障担当の大統領補佐官に任命したことである。後者では、トランプ氏は金正恩総書記の友人であり代弁者だと、民主党が絶えず中傷した。これらの要因が相まって、実のある交渉の可能性を命取りにも妨げている。その交渉が米朝の正常な関係につながり、世界でもとりわけ危険な発火点に緊張緩和をもたらすかもしれないのに。

ジョー・バイデン氏がホワイトハウスに入る前から、新しい外交政策チームが北朝鮮問題について斬新な考えを示す気配はほとんどなかった。北朝鮮を孤立させようとする無益なゾンビ政策への肩入れは、2022年1月のミサイル発射実験後、バイデン政権が新たな制裁を課したことで確かになった。米政府が軌道修正しなければ、北朝鮮がICBMと核兵器の両方の実験を再開するのは時間の問題である。

その結果を回避する唯一の方法は、トランプ氏が一時選んだ路線を再開し、北朝鮮との正常な関係を確立するハイレベルな交渉を追求することだ。それが意味するのは、制裁を解除し、北朝鮮と正式な外交関係を結び、朝鮮戦争を正式に終わらせる条約に調印する、その意志を持つことである。また、北朝鮮を核以前の時代に戻すという奇想天外な要求を放棄することも意味する。好むと好まざるとにかかわらず、北朝鮮は世界の核兵器保有国の一員であり、今後もそうあり続けるだろうし、高性能なミサイル発射システムを急速に完成させつつある。そのような能力を持つ国とは、少なくとも米国は対話することが不可欠である。北朝鮮を孤立させ、威圧しようとする戦略は、長い間、無益な活動であった。今やそれはきわめて危険なものとなっている。

(次を全訳)
North Korea's Missile Tests a Response to a Zombie US Policy - Antiwar.com Original [LINK]

2022-05-06

ウクライナ問題でマスコミがまたもや失態

ウクライナ危機の報道は、過去の戦争と同様、偏向している

ケイトー研究所主任研究員、テッド・ガレン・カーペンター
(2022年5月2日)

ウクライナ戦争前の数カ月、米国の報道はペルシャ湾戦争、バルカン戦争、イラク戦争、リビアやシリアへの介入などにおける過ちをほぼすべて再現した。NATOの東方拡大など米国の行動を批判した一部の意見も、「民主的」なウクライナとの連帯を維持し、ロシアに妥協するなという津波に押し流された。

戦争が始まると、報道はさらに偏向した。米国は、ロシアの侵略に抵抗する「ウクライナとともに」立たなければならないというのが、メディアの重要なメッセージとなった。かつて一般に見られた、米国の利益はしばしば外国の利益とは異なるし、当然そうあるべきだという感覚が、著しく失われている。

米初代大統領ジョージ・ワシントンは退任挨拶で、「友好国に同情すれば、現実に共通の利益が存在しない場合に、架空の共通利益という幻想を助長し……十分な動機もなく、紛争や戦争に参加することになる」と述べた。メディアの報道にはこのような冷静さ、現実主義、慎重な態度が欠けている。

米国の報道からは、NATOの拡大、ウクライナをめぐる欧米とロシアの長年の動き、ウクライナ東部の分離独立戦争の意義など、紛争に至った様々な要因や事象がほとんど伝わってこない。その代わり、プーチンは悪人で、残忍な侵略者である。そうでないと示唆する者はロシアのプロパガンダの道具だという。

とりわけ浅薄なのはテレビ報道だ。米国の視聴者は、ロシア軍の砲弾が炸裂する映像、涙を流し必死で逃げる難民(ほとんどが女性と子供)、自国を守るために武装するウクライナ市民の決意などに目を奪われる。トラウマを抱えた難民の映像を大量に提供しても、紛争を理解することにはほとんどならない。

放映した資料の一部が捏造であったことは、マスコミの信用を失墜させた。ミス・ウクライナの女性が手にした武器は、エアソフトガンだった。ロシア軍艦に吹き飛ばされたというスネーク島の殉教者たちは、生きていた。ウクライナのパイロットとロシアの侵略者との空中戦の映像は、ビデオゲームだった。

報道で煽られた十字軍的な心理は、理性的な反対意見を委縮させた。批判者を「プーチン擁護派」「プーチン支持派」と断じる記事は、どこにでも見られるようになった。米国民の間に反露ヒステリーを煽ることで広がった不寛容な雰囲気は、第一次世界大戦中の米国の反ドイツ感情に似ている。

反対意見を封じ込め、民族的な憎悪の触媒となり、危険な軍事的十字軍を支援することは、米国民が責任ある報道機関に求めるものではない。残念なことに、手にしたものはまたしてもそれだ。

(次より抄訳)
The Press Fumbles Again on Ukraine - The American Conservative [LINK]