税金亡命
正義の味方の正体
表面上は、タックスヘイブンを利用して租税回避を図る会社社長が悪人、それを追求する国税調査官が正義の味方という、国税当局が喜びそうな物語に見える。そういう面は否定できないが、作者の意図はそれだけではないように思える。
作者はタックスヘイブンを批判しつつ、利点にも目配りする。税逃れに利用された法人に課税すれば税収増になるぞとたきつける主人公・高松(国税調査官)に、香港の調査官ケヴィンは「かえって失うものの方が大きい」と冷静に答える。
「大きな金というものは、ブラックとまではいかなくても、グレーなものが少なくない」と話すケヴィンに、高松は「それでも法治国家か」と怒る。しかし白や灰色を無理やり黒に仕立て上げようとする日本のほうが、よほど無法地帯だ。
国税局査察部(マルサ)について作者は書く。「〔深夜と早朝の取り調べで〕被害者の頭がまだ朦朧としているうちにいろいろ吐かせ、証拠を固める。言い方は悪いが、精神的に追い詰めていくのである」。これでも法治国家だろうか。
作者の隠された意図を一番感じるのは、結末である。国税当局の勝利を期待して読んだ読者は不満に思うだろう。しかしこれはハッピーエンドである。高松調査官が税理士に転じ、財産権という真の正義のために戦う続編を期待したい。
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