戦争とは、物理的暴力やそれによる威嚇で他国を屈服させる行為である。だから戦争について考えるにはまず、何が暴力で、何が暴力でないかを区別する必要がある。だが本書はそれらを混同している。
著者は「通常、実力という場合、暴力・武力を意味しています。が、金の力もあります」(p.118)という。しかし金の力だけでは人を物理的に傷つけない。だから憲法9条は政府に武力の放棄は求めても、金力の放棄は求めない。
また著者によれば、商取引は真に対等な関係ではない。貨幣をもつ者(資本家)はいつでも商品を買える強みがあるからだという(p.124)。だが現金はインフレで減価するし、過剰な現預金を抱える不効率な企業は買収の格好の標的となる。
一方、国家は暴力を背景に個人から税を奪うものの、それは公共事業・福祉政策などの形で再分配され戻ってくるから、一方的な収奪ではなく「交換」だという(p.122)。もしそうなら押し売りも立派な「交換」ということになる。
戦争の放棄はキリスト流の「純粋贈与」だという(p.128)。だが何かを贈与するには、それがまず自分のものでなければならない。つまり所有権の保護が必要であり、平和の鍵は所有権である。著者が気づいていないこの帰結だけは偶然正しい。
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