商人はしばしば不当に蔑まれる。「強欲」「私利をむさぼる」「骨を折らずに楽して儲ける」などと罵られる。古代地中海の商業民族、フェニキア人(カルタゴ人)の悪辣な商人というイメージも歪められたものであることが、本書でわかる。
カルタゴ人は未知の住民と「沈黙交易」を行った。商品を浜に並べるといったん船に戻り、住民は商品の価値に見合う黄金を置く。足りなければ追加を繰り返す。カルタゴ人は紳士的に振る舞い、上陸して虐殺・奴隷化するなどの暴挙に出なかった。
著者は、カルタゴ人が商品の値を釣り上げた可能性もあると指摘するが、かりにそうでも悪辣とまではいえない。カルタゴ人は遠隔地まで航海するリスクを冒したのだし、住民側もその値段なら払っても構わないと判断して買ったのだから。
先住民との交易は政治力でライバルを排除し独占したものではなく、ときには命がけの努力による。ある逸話によると、ローマ船の尾行に気づいたフェニキア人船長は交易先の島のありかを隠すため、わざと航路を外れて船を座礁させ、ローマ船を沈没させた。
フェニキア諸都市は一つ一つが独立した小国家で、一つの政治統合体としてまとまることはなかった。それにもかかわらず、いやそれゆえに、六百年以上、柔軟かつ強靭に生き抜く。現代人のヒントや指針になるという本書の見方に賛成だ。
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