政治的右派は、左派の憲法9条擁護を非現実的だと批判する。それには一理ある。しかし現実主義者を自称する右派の防衛論は、別の意味で非現実的である。年金や学校もまともに運営できない非効率な政府を信頼し、防衛を任せるからだ。
寓話で左派を揶揄した本作には重大な矛盾がある。楽園ナパージュに住むカエルは体に毒腺があるが、争う力を持つことを禁じる「三戒」に従い、子供のころに潰してしまう。無防備につけ込み、凶暴なウシガエルが襲う。そこまではいい。
問題はその後だ。ウシガエルは楽園のカエルを次々に食う。しかし毒腺をつぶしても、カエルの体内には毒があるはずだ。現実の世界でも、毒のあるヒキガエルを犬や猫が食うと、呼吸困難、麻痺、痙攣などを引き起こし、死ぬこともある。
楽園のカエルの毒は、巨大なワシの目をつぶすほど強烈という。ところが食ったウシガエルは何ともない。毒があるなら死ぬか弱るかして、残りは恐れをなして逃げ帰るはずだ。だがそれでは作者の意図に反し、楽園は無事守られてしまう。
ウシガエルの襲来を前に、カエルは反撃を巡り国会で激論を交わす。この描写は無意味だ。国会で決めようが決めまいが、体には反撃の毒があるのだから。作者は政府が防衛を独占する人間の現実に引きずられ、物語の設定を忘れたらしい。
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