ポピュリズム叩きの欺瞞
主流派のメディアや言論人はことあるごとに、民主主義を守れと叫ぶ。国民の意志を尊重するためという。ところが民主主義の手続きを踏んでいるにもかかわらず、結果が自分たちの価値観に合わないと、ポピュリズムと呼んでおとしめる。
本書でトッドは、そんな欺瞞を衝く。「〔米大統領選で〕トランプ氏は選ばれたのです。…大衆層が自分たちの声を聞かせようとして、ある候補を押し上げる。…ポピュリズムと言ってすませるわけにはいかない。それは民主主義なのです」
米大統領選の両候補で「真実を口にしていたのはトランプ氏のほう」とトッドは語る。「米国はうまくいっていない」「米国はもはや世界から尊敬されていない」というトランプの発言は真実だ。だから現状に不満を抱く大衆の支持を得た。
一方、クリントンは幻想の中にいた。米国は軍事的に相変わらず強いと信じ、ロシアとの対決に乗り出す構えだった。ウォール街の代表のようになり、トランプの倍以上の金を選挙戦につぎ込んだ。そして社会の現実が見えなくなっていた。
トッドは例によって、自由貿易は人々を貧しくすると信じるなど、経済への理解はお粗末だ。それでもトランプ勝利にポピュリズムと叩くだけのメディアと違い、既存政治エリートに対する大衆の反乱には理があると正しく認識している。
ところで佐藤優は、1950年代の「赤狩り」で名高い米政治家マッカーシーについて、「国務省内に共産主義者がうじゃうじゃいると大ボラを吹いた」と述べる。しかし近年公開されたベノナ文書により、マッカーシーの主張は正しかったことが裏付けられている。「インテリジェンスの第一人者」であるはずの佐藤が知らないのは、まずいのではなかろうか。
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