2018年5月18日金曜日

「テロとの戦い」の欺瞞

主要国政府は首脳会議(サミット)などの場で毎度のように、「テロとの戦い」に向け結束を訴える。しかしテロの撲滅にはつながりそうにない。政治家や官僚にとって「テロとの戦い」とは、他の大義名分と同じく、権力闘争や利権確保の口実にすぎないからである。

青山弘之『シリア情勢』(岩波新書)によれば、「今世紀最悪の人道危機」と言われ、多数の難民を生み出す中東のシリア内戦は、「内戦」と呼ぶのは必ずしも適切でない。米露をはじめとする諸外国が軍事干渉を繰り返し、シリアの人々に代わって同国の行方を決定する存在となってしまったからだ。干渉の名目として掲げられるのが「テロとの戦い」である。

米国が主導する有志連合は2014年8月から9月にかけて、イスラム過激派「イスラム国」を殲滅するとして、イラク、シリア領内で空爆を開始した。しかし欧米諸国は最初からイスラム国に対し厳しい姿勢で臨んだわけではない。イスラム国は前年からアサド政権に対抗し活発に活動していたが、同政権を退陣に追い込みたい欧米諸国はこれを黙認した。

欧米諸国がイスラム国への対処に本腰を入れたのは、イスラム国がシリアからイラクへと勢力を拡大し、2014年6月に北部の都市モスルを制圧して以降だった。欧米諸国への石油の主要な供給地の一つであるイラクをめぐる経済安全保障が脅かされるに至り、ようやく腰を上げたのである。

米国はイスラム過激派以外の武装集団を「穏健な反体制派」と呼び、イスラム国と戦うよう積極支援した。ところがこの「穏健な反体制派」は、戦う相手であるはずのイスラム過激派と共闘関係にあった。

たとえば、米中央情報局(CIA)はヨルダンやシリア国内での「穏健な反体制派」への軍事教練を極秘で敢行し、ハック旅団、第十三師団、山地の鷹旅団といった組織を支援した。しかしこれらの勢力はイスラム過激派と共闘関係にあった。

「穏健な反体制派」支援は、「テロとの戦い」を根拠として正当化されていた。だが米国が支援した勢力はイスラム過激派と表裏一体の関係をなしていた。米国の政策は「テロとの戦い」のためにテロ組織を支援するという「マッチポンプ」だったと、青山は批判する。

先頃、イスラム国は有志連合が支援するイラク軍にモスルを奪還され、最高指導者バグダディが死亡したと報じられた。しかしもしイスラム国が滅びても、テロの脅威は消えない。むしろ欧米が支援した「穏健な反体制派」から新たな脅威が生まれる恐れがある。かつてCIAがソ連に対抗するためアフガニスタンで育てたムジャヒディン(イスラム聖戦士)が、テロ組織アルカイダになったようにである。

(2017年9月、「時事評論石川」に「騎士」名義で寄稿) 

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