2018年5月22日火曜日

政府の嘘は国を滅ぼす

政治とは結果責任を問われる冷徹な行為であり、個人間の道徳を単純にあてはめることはできないという主張をよく目にする。しかしそれは浅はかな考えである。なぜなら政治も詰まるところ人間の営みであり、それゆえ人間普遍の道徳と無縁ではありえないからである。

米政治学者ジョン・ミアシャイマーの著書『なぜリーダーはウソをつくのか』(中公文庫)を読むと、そのことがよくわかる。

個人が嘘をつくことは不道徳な行為とされる。これに対し国際政治に関しては、政治指導者が嘘をつくのは賢いことであり、必要悪であり、状況によってはむしろ望ましいものであると考えられることが多い。

この場合の嘘とは、政治指導者が他国に対してつく嘘だと多くの人が想像することだろう。ところがミアシャイマーは意外な事実を明らかにする。筋金入りのリアリスト(現実主義者)を自認する彼は、最初は一般人と同じく、国際政治では国家間の嘘が日常的に見られるものだと信じていた。ところが調べてみたところ、「国家のリーダーや外交官たちは、思ったほど互いにウソはつかない」ことがわかったという。

その代わり、政治指導者は自国民に対しては嘘をつくことが多いとミアシャイマーは指摘する。たとえば米ブッシュ政権はイラク戦争の際、米国民に対し「イラクは大量破壊兵器を持っている」「サダム・フセインはオサマ・ビン・ラディンと密接な関係を持っている」といった嘘をついていた。

「中国や韓国は嘘を並べて世界に反日思想をまき散らしている」といった報道を読んで中韓けしからんと憤る人は、ミアシャイマーの指摘を噛み締めておくがよい。日本人に対して嘘をつく可能性が一番高いのは外国政府ではなく、日本政府なのである。

これに対し、政府が自国民に対してつく嘘は自国の「国益」のためだから構わないと擁護する向きもあろう。しかし、そこには二つの落とし穴がある。

第一に、嘘は国にとって利益になるのではなく、その反対に害を及ぼす危険もある。イラク戦争に際しブッシュ政権がついた嘘は、米国を泥沼の戦争という大災害に導いた。

第二に、嘘の使用が国内政治に飛び火し、重大なトラブルを起こす恐れがある。たとえば政治家やリーダーたちの行動について真実を知るのが不可能になってしまえば、有権者は彼らに説明責任を追求できなくなる。

中国の軍拡や北朝鮮の核ミサイル開発などについて日本政府は危機感を煽る。しかしそれがミアシャイマーのいう「恐怖の煽動」という嘘でないかどうか、冷静に見極めなければならない。国益を口実とした嘘の横行は道徳を腐敗させ、国を内側から滅ぼす。

(2018年2月、「時事評論石川」に「騎士」名義で寄稿。この号で連載終了)

0 件のコメント:

コメントを投稿